旧TOP : ホーム > 男女問題 > 男女付合・婚約・内縁 > | ![]() ![]() |
令和 7年 3月 8日(土):初稿 |
○妻子ある被告男性から妻と離婚して原告と婚姻するなどと言われ、被告と交際して妊娠し、交際終了を告げられて中絶に至り、最終的に交際を拒否され、うつ状態に陥り適応障害と診断された原告女性が、婚約不履行、貞操権、人格権、期待権侵害等の不法行為による損害賠償として、慰謝料等704万円の支払を求めました。 ○これに対し被告男性は妻子あることを告げた上での交際で婚約は成立せず、被告が原告の浅慮に乗じて原告を一方的に騙したといった事実はなく、交際期間は約1年5か月程度で期待権としての法的保護は不要で、被告の原告に対するメッセージは単なる恋愛関係持続のための会話の領域を越えず責任はないと答弁しました。 ○これに対し、既婚者との間に婚約は成立せず、実際には妻と離婚して原告と婚姻する意思がないのにあるように装った発現を繰り返し、原告を信じさせて約1年5か月間にわたって交際を継続し、原告が妊娠後、最終的に被告と別れてほしいと述べ、中絶を余儀なくさせたことは、原告の人格権を侵害する不法行為に当たるとして、慰謝料30万円と中絶費用等を損害として約48万円の支払を命じた令和5年9月13日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。 ○妻子あることを承知の上で交際を継続した原告の落ち度を考慮したと思われますが、この事案で、慰謝料わずか30万円は安すぎるような気もします。原告女性は被告妻に50万円の慰謝料を支払っており、正に踏んだり蹴ったりの結果です。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、48万7280円及びこれに対する令和3年3月14日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを50分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 (主位的請求) 被告は、原告に対し、704万5842円及びこれに対する令和3年3月14日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 (予備的請求) 被告は、原告に対し、539万7623円並びにうち402万4108円に対する令和3年3月14日から支払済みまで年3分の割合による金員及びうち137万3515円に対する令和4年8月10日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、既婚者である被告から、妻と離婚して原告と婚姻するなどと言われ、被告と交際して妊娠に至ったところ、 〔1〕被告から堕胎を強要され、 〔2〕婚約を解消されたこと又は 〔3〕被告が妻と離婚する意思もないのに離婚して原告と婚姻すると虚偽の事実を述べて原告を欺罔し原告との交際を継続したことが原告の貞操権等を侵害するとして、 主位的に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、治療費、慰謝料、マンション購入等費用及び弁護士費用の合計704万5842円及びこれに対する不法行為の日である令和3年3月14日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原告は、上記マンション購入等費用については、予備的に、同費用の半額相当分を被告のために立て替えたと主張して、損害合計539万7623円及びうち上記〔1〕ないし〔3〕の不法行為による損害分402万4108円及びこれに対する不法行為の日である令和3年3月14日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、うち立替分137万3515円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年8月10日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 1 前提事実(認定に用いた証拠は括弧内に示した。) (1)原告は、平成2年生まれの未婚女性である。 被告は、昭和56年生まれの男性であり、妻(以下「被告妻」ということがある。)との間に子を二人もうけている。 (2)原告は、令和元年11月頃、被告に妻子がいることを知りながら被告との交際を開始し、令和3年3月8日には被告の子を妊娠したことが判明したため被告にその旨を伝えた。 (3)被告は、令和3年3月14日、原告に対し、交際終了の申入れをし、原告は、同月18日、人工妊娠中絶手術(以下「本件手術」という。)をした。 2 争点及びこれに関する当事者の主張 (中略) 第3 判断 1 認定事実 前記前提事実に加え、証拠(認定に用いた証拠は括弧内に示した。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1)原告と被告の交際状況等 ア 被告と被告妻は、平成18年8月に婚姻し、二人の子をもうけた。被告と被告妻は、婚姻後、被告が原告と交際していた期間中も二人の子とともに同居し、原告と被告との交際判明後も婚姻及び同居を続けている。(乙12、被告本人) イ 原告は、会社員として勤務し、コンサルタント等の業務に従事していたところ、令和元年頃、取引先の会社で自動車整備士として勤務していた被告と知り合った(甲14、乙12、原告本人、被告本人)。 原告と被告は、令和元年11月頃には男女関係を伴う交際を開始したが、原告は、交際当初から被告に妻子がいることを認識していた(前提事実)。 ウ 被告は、遅くとも令和2年3月頃以降、原告に対し、アプリを通じて、一緒に子育てをしようとか(令和2年3月1日)、原告との間で子ができた場合の子の名前をつけた上で、原告との子が欲しい、子に早く会いたいとか(同年4月27日、同年5月10日、同月12日)、原告との子がいつできるか楽しみであるといった趣旨のメッセージを繰り返し送信した(令和2年7月13日)。 また、被告は、原告に対し、アプリを通じて、一年経てば被告の子の中学受験も終わり、そこが自分の区切りである、一緒に家族を作ろうとか(同年4月13日)、最終的に離婚の説得がうまくいかなければ親とも家族とも別れて原告と一緒になる覚悟であるとか(同年6月13日)、全部を投げ捨てる覚悟で原告と付き合ってきたつもりであるとか(令和2年7月28日)、原告と真剣に付き合っている、原告と結婚して子ができたら被告の妻や子とも縁が切れる(同月29日)といった趣旨のメッセージを送信した。(甲6、7、14、原告本人) 被告は、原告との交際中、上記のような各メッセージを送信したものの、実際には、妻と離婚する意思はなかった(被告本人)。 エ 原告は、令和2年10月3日、被告に対し、翌日に部屋を見てくるとのメッセージを送信し、被告はよろしくお願いしますと返信した(甲6、7)。 原告は、同月7日、本件マンション購入に当たってのローンの事前審査が下りた旨の連絡を受けた(甲12)。 被告は、同月11日、原告に対し、原告のローンを早く一緒に返すようにするとのメッセージを送信したが、同月12日、原告に対し、住宅の購入を一度見送らないかと提案し、被告の家の問題もクリアになっていないし原告一人にローンを組んでもらうのもおかしいから、その時がきたら一緒にローンを組んで購入した方がよいのではないかとのメッセージを送信した。原告はこれに対し、結婚前に自分のローンで買うと決めたから買う、お金の心配はしないで、でも逃げないで一緒に戦ってほしいと返信した(甲6)。 原告は、令和2年12月15日、本件マンションの売買契約を締結したところ、同手続には被告も立ち会った(甲8、14、乙12、原告本人、被告本人)。 (2)原告の妊娠判明後の状況 ア 原告は、令和3年3月8日、被告に対し、妊娠したことを告げたところ、被告は、同日、原告に対し、3人で一緒に生きていこうとのメッセージを送信した。 原告は、同月10日、被告に対し、離婚に関して弁護士の無料相談を勧めたり財産分与に関する記事を紹介したりしたところ、被告は原告に対し、同日、妻に離婚のことを話してみるとか、離婚届けを翌日取りに行くとか、離婚して二人で暮らせるようにするなどのメッセージを送信した。(甲6,7) イ 被告は、令和3年3月14日、離婚届を用意して被告妻に離婚の話をすると原告に伝え、被告妻の元に向かったが、数時間後、原告を喫茶店に呼び出した。 原告は、同日、被告妻と原告の知人1名同席の下、喫茶店で被告と面談した。同面談において、被告は原告に対し、被告と別れてほしいと述べた。また、このとき、被告妻が原告に対し、できれば子はおろしてほしいと述べたところ、同席していた原告の上記知人が、子をどうするかは原告が決めることであると述べたことがあった。 原告と被告は、事前に、被告妻に対しては、被告が既婚者であることを原告が知らなかったことにしておくと申し合わせていたため,上記面談において、原告は被告妻に対し、被告が既婚者であることを知らずに交際していたと説明した。(甲14、乙12、原告本人、被告本人) ウ 被告は、同日夜、原告に電話を掛け、原告が被告を既婚者と知っていたことを被告妻に伝えたと説明した。被告の電話口には被告妻と被告母がいたところ、同人らは、原告に対し、電話で、被告が既婚者であることを知っていたのに嘘をついたとして原告を非難した。(甲14、乙12、原告本人、被告本人) (3) ア 原告は、D弁護士(以下「原告前代理人」という。)を代理人に選任し、令和3年3月15日付けで、被告妻に対し、受任通知書を送付した(乙1)。同通知書には、原告と被告の不貞行為について、原告が被告妻に対し賠償義務を負うことを認めた上で、原告が中絶手術を予定していることや、本件マンションのローンを負担していることなどを指摘し、損害賠償額として50万円を支払うことを提案することや、法律上、損害賠償額がこれより高額になるとしても、少なくともその半額については原告が被告に対して請求し得るところ、被告と被告妻の婚姻関係が継続されることを踏まえ、上記提案額をもって本件の清算とすることを了解してもらえる場合は、原告から被告への請求はしない旨記載されていた。 被告妻は、被告訴訟代理人弁護士を代理人に選任し、同月17日付けで、原告前代理人に対し、受任通知等を送付した(乙2)。 イ 原告は、令和3年3月18日に本件手術をし(前提事実)、別紙1のとおり、手術費用等として合計13万4450円を支出した(甲4(枝番を含む。以下同じ。)。 原告は、同月頃から抑うつ症状が出現していたところ、同月22日、適応障害と診断され、別紙1のとおり、治療費として合計1万2830円を支出した(甲2、5)。 ウ 原告と被告妻は、令和3年4月14日付けで、双方の代理人を通じて、原告が被告妻に対し、不貞慰謝料として50万円を支払い、原告が被告に対する求償権を行使しないことを約束すること、原告と被告の不貞関係に関する一切の事実関係を正当な理由なく第三者に口外しないことを約束すること、原告と被告妻との間で上記以外に債権債務がないことを確認することなどを定めた合意書(別件合意書)を取り交わした(乙9)。 エ 被告訴訟代理人弁護士は、被告妻の代理人として、令和3年4月22日付けで、原告前代理人に連絡文書を送付し、原告の代理人と称するCと名乗る人物が被告の勤務先を訪れ、被告に対し、電話で、原告と被告妻との間の問題は解決したが被告との問題は別であり、原告は別途被告に責任追及を行うつもりであるなどと述べたとして説明を求めたところ、原告前代理人は、同月26日付けで、被告妻の代理人に対し、上記Cと名乗る人物は原告が依頼した者ではないこと、原告としては、今回の一連の事項について口外する意図はもちろん、被告に今後何らかの請求を行う意図も、被告に接触する意図もないと回答した(乙10、11)。 2 不法行為の成否(争点(1))について 前記認定事実によれば、原告は、被告との子を妊娠した後、被告から交際解消の申入れを受けたことから、被告と婚姻して子を育てることができないと判断して本件手術を受けたものといえるが、被告が原告に対し、同手術を受けることを強要したことを認めるに足りる証拠はないから、堕胎の強要という原告の主張は採用することができない。 また、前記認定事実によれば、原告と被告との交際当時、被告は婚姻しており、原告と被告との間に婚姻予約が成立していたと認めるに足りる事情も認められないから、婚約不履行という原告の主張も採用することができない。 もっとも、前記認定事実によれば、被告は、原告との交際中、原告に対し、妻と離婚して原告と婚姻する意思があるとか、原告との子が生まれた場合の子の名前を付け、原告との子がほしいとか、早く子に会いたいなどの趣旨の発言を繰り返し行っていたものであり、原告は、被告の上記各発言が繰り返されたことを受けて、被告が妻と離婚して原告と婚姻し、原告との間で子をもうける具体的意思があると認識し、被告との交際を継続したものといえる。しかしながら、前記認定事実によれば、被告は、実際には妻と離婚して原告と婚姻する意思がないのに、原告との交際を継続する目的で上記のような発言を繰り返していたものといえ、被告が上記各発言をもって原告に上記誤信をさせ、約1年5か月間にわたって原告と交際を継続し、原告が妊娠に至ったにもかかわらず、最終的に被告と別れてほしいと述べ、中絶を余儀なくさせたことは、原告の人格権を侵害する不法行為に当たるといえる。 3 不法行為による損害の有無及び額(争点(2))について (1)原告と被告の交際期間やその態様、原告が被告の婚姻の事実を知っており、被告妻との関係では被告との共同不法行為者に当たることなど、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては、30万円が相当である。 (2)また、前記認定事実によれば、原告は、被告の離婚意思や原告との婚姻意思、原告と子を作る意思があるなどの発言を信じて被告との交際を続けた結果妊娠に至ったにもかかわらず、その後被告から交際を解消されて本件手術を受けたことにより抑うつ症状が出現し、適応障害にり患したものといえ、このような経過からすれば、上記2のとおりの被告の不法行為と、本件手術に係る費用及び精神障害の治療費合計14万7280円は、相当因果関係のある損害といえる。 (3)原告は、本件訴訟提起及び追行を弁護士に委任しているところ、弁護士費用として4万円を被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。 以上により、損害額は合計48万7280円となり、被告は原告に対し、同額及びこれに対する不法行為の日である令和3年3月14日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 (4)原告は、本件マンション等関係費用についても、被告の不法行為と相当因果関係のある損害であると主張する。 しかしながら、本件マンションや家具家電の購入については、その購入時期が、未だ被告が婚姻中で妻子との同居を継続している状況であったことなどからすれば、原告と被告との婚姻生活のための購入であると認めるに足りず、被告の不法行為と相当因果関係のある損害とはいえない。 4 本件マンション等関係費用に関する立替合意の有無(争点(3))について (中略) 第4 結論 以上によれば、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第44部 裁判官 小堀瑠生子 別紙1(省略) 以上:6,364文字
|