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配偶者慰謝料に不貞行為者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介3

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令和 7年 1月31日(金):初稿
○「配偶者慰謝料に不貞行為者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介2」の続きで、不貞行為をした一方配偶者が、不貞行為をされた他方配偶者に慰謝料を支払い、その支払慰謝料が、不貞行為第三者の他方配偶者に対する慰謝料に填補されて、他方配偶者の不貞行為第三者への請求が棄却された裁判例として令和5年10月31日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告が、被告が原告の元夫である訴外Cと不貞行為を行ったことにより離婚に至り、精神的苦痛を受けたと主張し、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料300万円と弁護士費用・遅延損害金の支払を求めました。離婚に当たり、原告と訴外Cが作成・締結した離婚合意書には、訴外Cが原告に対して、自らが不貞行為を働いたことを認めて謝罪し、これによる慰謝料として300万円の支払義務があることを認める旨が明記され、支払済みでした。

○判決は、訴外Cと被告の6ヵ月間に複数回の不貞行為について慰謝料200万円と認定し、離婚合意書に基づいて支払った300万円は被告との本件不貞行為により離婚に至ったことに対する慰謝料に係る損害賠償債務の弁済としてされたものと認められ、被告の原告に対する本件不貞行為を理由とする損害賠償債務(慰謝料支払義務)は、訴外Cの上記損害賠償債務と不真正連帯債務の関係に立つことから、訴外Cの300万円の弁済によって、被告の原告に対する本件不貞行為を理由とする損害賠償債務もまた消滅するので、原告の請求は理由がないとして棄却しました。

○「配偶者慰謝料に不貞行為者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介2」での判決は、2年以上の不貞行為期間があることに争いがないところ慰謝料は100万円を上回るものではないとしていましたが、本件判決では不貞期間6ヵ月複数回の認定で慰謝料200万円としています。慰謝料金額は裁判官によって相当差があります。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和元年9月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 原告は、被告が原告の元夫と不貞行為を行ったことにより精神的苦痛を受けたと主張し、被告に対し、不法行為に基づき、損害金330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円)及びこれに対する不法行為よりも後の日である令和元年9月1日から支払済みまでの民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を請求している。

2 前提事実

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 上記前提事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)訴外Cは、令和元年9月28日付けの「誓約書」と題する書面を作成して署名押印した。同書面には、訴外Cが、原告に対して、業務上どうしても避けられない場合を除き被告と面会しないこと及び手段の如何を問わず被告と連絡を取らないことを約束するとともに(以下「本件接触禁止条項」という。)、同誓約書記載の事項に違反した場合には原告に対して100万円(以下「本件違約金」という。)を支払うことを約束する旨が記載されている。(甲12)

(2)原告と訴外Cは、協議離婚の際に、以下の条項を含む令和3年12月14日付け離婚合意書を作成し、訴外C本人と原告の代理人弁護士(本訴の原告訴訟代理人弁護士)がそれぞれ署名押印又は記名押印をした(甲2。以下「本件離婚合意書」という。)。
ア 第2条(慰謝料)
第1項 甲(注:訴外Cを指す。以下同じ。)は、乙(注:原告を指す。以下同じ。)に対し、自らが不貞行為を働いたことを認めて謝罪し、これによる慰謝料として金300万円の支払義務があることを認める。
第2項 甲及び乙は、前項の金員のうち、200万円は支払済みであることを確認する。
第3項 甲は、乙に対し、第1項の金額から前項の金額を控除した残額100万円を、〔中略〕乙から甲に対して離婚届が送付された日から2週間以内に、〔中略。原告訴訟代理人弁護士名義の〕普通預金口座〔中略〕に振り込む方法により支払う。〔後略〕
イ 第3条(財産分与)
 甲及び乙は、本合意書の締結日における各自の名義の財産を各自が取得することとし、甲乙間においては他に財産分与を行わない。
ウ 第5条(清算条項)
第1項 甲及び乙は、本件離婚に関しては、以上をもって解決するものとし、本合意書に定めるもののほか、その他名目の如何を問わず、互いに何らの財産上の請求をしない。
第2項 甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。

(3)原告は、訴外Cから、「慰謝料」の名目で、合計300万円(上記(2)の離婚合意に先立ち200万円、同離婚合意時に100万円。以下「本件300万円」という。)を受領した。

(4)原告が令和4年8月に被告に対して慰謝料の支払を請求したところ、被告は一貫して、原告が訴外Cから慰謝料300万円を受領していることを理由に慰謝料の支払を拒否し、原告代理人弁護士が、被告に対し、同年12月18日付け書面で、謝罪文をもらえるのであれば、慰謝料の支払自体はしてもらいたいものの、金額については拘泥しない旨連絡したところ、被告は、被告代理人弁護士を通じて、本件不貞行為により原告に精神的苦痛を与えたこと自体を争う考えはなく、謝罪文の作成・送付には応じるが、訴外Cの弁済により消滅している慰謝料支払義務について支払うつもりはなく、謝罪文の送付を条件に清算条項を入れた和解ができないか検討をお願いしたい旨回答した(甲3ないし8、弁論の全趣旨)。

2 争点に対する判断
(1)本件不貞行為による原告の慰謝料額
ア 被告は妻帯者である訴外Cとの間で本件不貞行為に及んだものであり、倫理的にも法的にも非難を免れない。本件不貞行為を原因として原告と訴外Cは離婚にまで至っている上、本件不貞行為の発覚によって、原告は強い精神的打撃を受け、様々な心身の不調に苛まれるなど(甲16)、本件不貞行為が原告に及ぼした結果は重大である。

他方で、本件不貞行為の期間・回数は、原告の主張を前提としても、約6か月間に複数回性交渉を持ったというものであり、長期間・多数回にわたって行われたとまでは認め難いこと、原告と訴外Cが婚姻してから別居に至るまでの期間は約2年2か月であり、離婚までの期間(婚姻期間)も約3年5か月であること、原告と訴外Cとの間には子はいないことといった事情も認められる。

 これらの事情を含む本訴に現れた一切の事情を総合的に考慮して、本件不貞行為により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、200万円と認めるのが相当である。

イ これに対し、原告は、本件不貞行為発覚後の被告の対応が不誠実であると主張する。まず、被告が、訴外Cの弁済によって被告の慰謝料支払義務は消滅していると主張すること自体は、後述するとおり理由があるものと認められる上、上記認定事実(4)のとおり、被告は原告の求める謝罪文の作成にも応じる旨回答しているのであるから、被告の対応が本件不貞行為による慰謝料額を増額させるほど不誠実であるとは評価し難い(被告の慰謝料支払義務が消滅しているとの主張に法的な理由がある以上、謝罪文の作成を条件に和解条項に清算条項を入れることを求めること自体も、不相当とは認められない。)。

原告の主張する本件不貞行為発覚直後の原告と被告との間のやり取りに関しても、トラブルが生じることを懸念して対面での面会を躊躇すること自体にはやむを得ない面もあることや、前述のとおり、その後原告から慰謝料を請求されたことを受けてとはいえ、被告は最終的には謝罪文の作成・送付に応じる姿勢を示していることなどに鑑みれば、慰謝料額に関する上記認定を左右するに足りる事情とまでは認め難い。

 また、原告は、令和元年12月に訴外Cが被告と密会していたことが判明し、原告は更なる精神的打撃を受けたと主張するが、被告と訴外Cが接触するに至った経緯・理由もその際の行動の内容も何ら明らかでない以上、慰謝料額に関する上記認定を左右するに足りる事情とまでは認め難い。

 さらに、原告は、訴外Cとの交際期間や婚約後の同棲期間をもって、同人と人生を共にした時間は長い旨主張するが、婚姻共同生活の平穏という不貞行為の被侵害利益の内容・性質に鑑みて、婚姻に至る前の交際期間や婚約期間の長さをもって、不貞行為を理由とした慰謝料を大きく増額させる事情と評価することは相当ではない。

(2)弁済の抗弁の成否
 原告が、訴外Cから、「慰謝料」の名目で本件300万円を受領したこと自体は当事者間に争いがない(上記認定事実(3))。
 そして、原告と訴外Cが作成・締結した本件離婚合意書2条1項には、訴外Cが原告に対して、自らが不貞行為を働いたことを認めて謝罪し、これによる慰謝料として金300万円の支払義務があることを認める旨が明記されているのであるから、本件300万円の性質は、本件不貞行為を原因とする慰謝料であるものと認められる。

 これに対し、原告は、本件300万円には上記慰謝料とは別の違約金や財産分与金が含まれていると主張する。しかし、前述のとおり、本件離婚合意書には、訴外Cが不貞行為を行ったことによる慰謝料として300万円の支払義務を負うことが明記されている上、清算条項として、同合意書に定めるもののほかには、名目の如何を問わず互いに何らの財産上の請求をしないこと及び原告・訴外C間に何らの債権債務のないことが定められているのであるから(同合意書5条)、仮に訴外Cが本件接触禁止条項に違反した事実があったとしても、上記清算条項に基づき、同人はもはや本件違約金の支払義務を負わないのであるから、本件300万円に本件違約金が含まれるとは認め難い。

また、本件離婚合意書は、慰謝料について定めた2条とは別に財産分与に関する条項を設け(同合意書3条)、原告・訴外C間では財産分与を行わないことを明記していることから、本件300万円に財産分与金が含まれるとも認め難い。原告は、本件300万円に違約金や財産分与金が含まれる理由として、原告と訴外Cの婚姻関係財産の内容や原告が訴外Cから本件300万円を受領した経緯について縷々主張するが、原告には代理人弁護士が付いて、弁護士の付いていない訴外Cと交渉の上本件離婚合意書を作成していることに照らせば(上記認定事実(2))、法律専門家である弁護士が検討した上で合意した本件離婚合意書の文言から敢えて乖離して、本件300万円に本件不貞行為を原因とする慰謝料以外の性質の金員が含まれると解すべき理由は見出し難く、原告の主張は採用できない。

 したがって、訴外Cの本件300万円の支払は、もっぱら、被告との本件不貞行為により離婚に至ったことに対する慰謝料に係る損害賠償債務の弁済としてされたものと認められる。被告の原告に対する本件不貞行為を理由とする損害賠償債務(慰謝料支払義務)は、訴外Cの上記損害賠償債務と不真正連帯債務の関係に立つことから、訴外Cの上記損害賠償債務の弁済によって、被告の原告に対する本件不貞行為を理由とする損害賠償債務もまた消滅することとなる。そして、訴外Cが支払った300万円という慰謝料の金額は、被告の原告に対する上記慰謝料200万円を大きく上回っており、本件300万円には、本件不貞行為を理由とするいわゆる離婚原因慰謝料のみならず離婚慰謝料も含まれ得ることを考慮してもなお、同慰謝料額は被告の原告に対する損害賠償債務を消滅させるのに十分な金額であると認められ、訴外Cによる本件300万円の弁済によって被告の原告に対する本件不貞行為を原因とする慰謝料支払義務は全部消滅したものと認められる。

3 結論
 以上の次第で、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部 裁判官 松原経正
以上:4,971文字

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