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配偶者慰謝料に不貞行為者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介2

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令和 2年 8月 9日(日):初稿
○「配偶者慰謝料に不貞行為者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介1」の続きで、不貞行為をした一方配偶者が、不貞行為をされた他方配偶者に慰謝料を支払い、その支払慰謝料が、不貞行為第三者の他方配偶者に対する慰謝料に填補されて、他方配偶者の不貞行為第三者への請求が棄却された裁判例として令和元年8月22日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します

○原告妻は、夫Aと平成22年6月頃から平成24年8月頃まで2年数ヶ月不貞行為を継続したとして被告に対し、550万円もの慰謝料請求をしました。これに対し被告は、原告と夫Aの夫婦関係は破綻していたこと、原告の夫Aが平成30年12月に原告に対し慰謝料100万円を支払ったことで原告の損害は全部填補されたので、被告の慰謝料支払義務も消滅したと主張しました。

○裁判所は、「原告夫婦の婚姻期間が本件不貞行為時まででも約13年にわたり,本件不貞行為の期間も約2年に及んでいること,原告が現在離婚を検討していること(原告本人)等の事情が認められる一方で,Aはこれまで被告以外の女性とも不貞行為に及んできたこと(証人A),原告夫婦は平成29年9月には同居していること(証人A,原告本人)等の事情も認められるところであり,その他本件で認められる一切の事情を考慮すると,本件不貞行為と相当因果関係にある慰謝料が,本件弁済の額である100万円を上回るものとは認められない。」として夫Aの100万円の支払で原告の損害は全て填補され請求は理由がないとして棄却しました。

○2年以上の不貞行為期間があることに争いがないところ、慰謝料は100万円を上回るものではないとしたところが、極めて妥当な判決です。不貞行為慰謝料なんて認めている文明国は日本くらいであり、少しでも少ない認定が増えて貰いたいところです。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 当事者の主張
1 請求原因

(1) 当事者等
 原告は,平成9年9月17日,A(以下「A」という。)と婚姻した(以下,原告とAとを併せて「原告夫婦」という。)。

(2) 被告とAとの不貞行為
 被告は,遅くとも平成22年6月頃には,Aと不貞行為に及んだ。
 被告は,上記不貞行為の当時,Aが既婚者であることを認識していた。

(3) 損害
 Aは,飲食店のチェーン店を経営しており,原告も手伝って営業を拡大してきた。Aは,平成29年9月28日以降自宅に戻ったものの,飲食店の経営も原告に任せきりの状態が続いており,原告は,Aに対する離婚手続を準備中である。
 上記不貞行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は500万円を下らず,弁護士費用は50万円が相当である。

(4) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償合計550万円及びこれに対する不貞行為の後である本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否等
(1) 請求原因(1)は,全部事項証明書に原告主張の記載があることは認める。

(2) 請求原因(2)のうち,被告において不貞行為の当初Aが既婚者であることを認識していたことは否認し,不貞行為が不法行為を構成することは争う。
 被告は,平成22年6月頃,Aと出会い,ほどなく,Aから交際を申し込まれた。これに応じて交際を始めた当初は,Aが既婚者であることは知らなかった。また,被告がAから既婚者であることを知らされた後も,Aから,原告とは別居中であり,被告とは結婚を前提に交際している旨言われた。被告は,当時,原告夫婦の婚姻関係は明らかに破たんしていると考えていたのであり,故意はない。

(3) 請求原因(3)は争う。

3 抗弁
(1) 破綻
 原告は平成16年にAと別居しており,その後5年以上経った平成22年の時点では,原告夫婦の夫婦関係は破綻していた。

(2) Aによる弁済
 Aは,平成30年12月12日,原告に対し,不貞行為の損害賠償として100万円を支払った(以下「本件弁済」という。)。これにより,原告の損害は全額填補されている。

4 抗弁に対する認否等
(1) 抗弁(1)について
 不貞行為時に原告夫婦の婚姻関係が破綻していたことは争う。
 原告がAと平成16年に別居したのは,経営していた事業につき,東京都内に新店舗を出すためにマンションを借りたからにすぎない。Aは週末には自宅に戻っていた。原告は,Aが同マンションに宿泊していた際も,Aの両親と同居し,その介護を行っていた。原告は,平成23年から,Aに全面的に委ねていた事業の経営に本格的に復帰し,以後経理等を中心に経営を共同している。

(2) 抗弁(2)について
 本件弁済の事実は認め,100万円を本件の損害賠償債務の元本から充当することは争わない。

第3 当裁判所の判断
1 請求原因(1)及び(2)について

(1) 請求原因(1)について
 証拠(甲1)によれば,請求原因(1)の事実が認められる。

(2) 請求原因(2)について
ア 証拠(乙1,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成22年6月頃にはAと不貞行為に及び,Aとの同様の関係は,平成24年8月頃まで継続したと認められる。

イ そして,原告は,上記不貞行為の当時,被告において,Aが既婚者であることを認識していた旨主張し,証人Aも,これに沿う供述をする。

 しかし,上記不貞行為の直接の契機は,平成22年6月頃,Aが訪れた飲食店で被告が接客の仕事をしていたというものであるところ(乙1,被告本人),証人Aも,当時の一般的な自己の行動として婚姻していることを隠すことはない旨供述しているにとどまり,被告に対して自己が既婚者であることを告げたか否かは証人A自身も定かではない。そうすると,その当時Aには別の交際相手がおり(被告が指摘する交際相手の存在は証人Aも認めている。),更に婚姻していたことは知らなかった旨の被告の供述は一概に排斥できず,上記不貞行為の開始前に,被告においてAが既婚者であることを知っていたと認めることはできない。

ウ 他方,被告は,平成22年9月頃にはAから自己が既婚者であることを告げられたことを自認しており,この後Aとの交際を継続したことは,原告に対する不法行為を構成するというべきである(以下「本件不貞行為」という。)。
 この点につき,被告は,Aが既婚者であることを知った後もAとの関係を継続したのは,原告夫婦の婚姻関係が同時点で破綻していると信じたためであり,被告には故意がない旨主張する。しかし,相手に配偶者がいることを知りながら,不貞行為を含む交際を継続することは,特段の事情のない限り,同配偶者に対する故意による不法行為の成立を妨げないと解すべきところ,被告において原告夫婦の婚姻関係が同時点で破綻していると信じた根拠は,Aから,原告夫婦が原告とは別居中であり,被告とは結婚を前提に交際している旨言われたことにとどまるのであり(乙1,被告本人),このようなAの言説があったことをもって,上記特段の事情ということはできない。
 以上の限度で,請求原因(2)は認められる。

2 請求原因(3)及び抗弁(2)について
 原告は,本件不貞行為による原告の慰謝料について500万円は下らない旨主張し,被告は,Aの原告に対する100万円の弁済により原告の損害は全額填補されている旨主張する。

 そこで,本件不貞行為による原告の慰謝料を検討するに,証拠(甲3,原告本人)によれば,原告には,本件不貞行為による精神的苦痛が生じていることが認められる。そして,原告夫婦の婚姻期間が本件不貞行為時まででも約13年にわたり,本件不貞行為の期間も約2年に及んでいること,原告が現在離婚を検討していること(原告本人)等の事情が認められる一方で,Aはこれまで被告以外の女性とも不貞行為に及んできたこと(証人A),原告夫婦は平成29年9月には同居していること(証人A,原告本人)等の事情も認められるところであり,その他本件で認められる一切の事情を考慮すると,本件不貞行為と相当因果関係にある慰謝料が,本件弁済の額である100万円を上回るものとは認められない。

 そして,本件弁済を損害賠償債務の元本に充当することには当事者間に争いがないため,原告が求める本判決確定の日の翌日からの遅延損害金は発生せず,加えて,弁護士費用を除く損害が全額填補されているため,弁護士費用相当額も損害とは認められない。
 以上のとおり,抗弁(2)は理由がある。


3 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第16部 (裁判官 五十嵐浩介)

 
以上:3,705文字

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