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令和 7年 1月11日(土):初稿 |
○原告男性及び被告P2女性は、いずれも被告会社の既婚従業員であり、原告が、被告P2から誘われて二人で食事をした後、承諾していないにもかかわらず被告P2からキスをされたことが不法行為に当たるなどと主張して、慰謝料350万円等の支払を求めました。被告会社にも職場環境配慮義務に違反するとして、慰謝料100万円の支払を請求しました。 ○これについて、キス行為は、原告に対する不法行為を構成するとして、慰謝料5万円の支払を命じ、被告会社に対する請求は、キス行為が行われた際の会食は、被告会社の業務とは関係なく、被告P2が職場における立場の優位性を背景に誘ったものとは認め難く、被告会社が本件行為について使用者責任を負うとの原告の主張には理由がなく、また、職場環境配慮義務に違反したともみとめられないとして、原告の請求は棄却した令和6年9月13日大阪地裁判決(LEX/DB)の被告P2請求関連部分を紹介します。 ○原告とP2は、「ヨメ」、「ダンナはん」などと呼び合う仲になっており、キス行為の3日前に、P2は原告にLINEで「ほんまにP4(原告の名前)って言うたらいかんけど好きや。」とメッセージを送ったのに対し、原告から「良い感じでわたしも好きですよ、P2さん。」などと返信を受け、更に原告から「いつでも離婚できる、東京に一緒に異動してもいい」とも伝えられ原告から好意をもたれていると確信してのキス行為でした。 ○「被告P2は、居酒屋を出てから原告の手をつなぎ、駅までの道を歩き、駅の近くに来たところで立ち止まり、原告の唇に1回、短時間のキスをした(本件行為)。原告は、この時、被告P2の手を振り払ったり、キスされることに抵抗したりする素振りは見せなかった。」と認定されています。 ○それでも判決は、原告の同意なく性的な行動であるキスをしたというものであるから、本件行為が職場におけるセクハラに該当するか否かにかかわらず、原告に対する不法行為を構成するというべきであるとして5万円の慰謝料を認めています。女性に性的行動をするときは、シッカリ同意を取り、至難の業ですが、その証拠を残しておく必要があります(^^;)。 ********************************************* 主 文 1 被告P2は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和5年1月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告に対し、連帯して、350万円及びこれに対する被告P2については令和5年1月15日から、被告会社については同月17日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告会社は、原告に対し、100万円及びこれに対する令和5年1月17日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 なお、原告は、第1項及び第2項につき仮執行宣言の申立てをし、被告会社は仮執行免脱宣言の申立てをした。 第2 事案の概要 1 原告及び被告P2は、いずれも被告会社の従業員である。 (1)被告P2に対する請求 原告が、被告P2から誘われて二人で食事をした後、承諾していないにもかかわらずキスをされたこと(以下、被告P2が原告にキスした行為を「本件行為」という。)が不法行為に当たるなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料350万円の支払を請求した(附帯請求は、不法行為日の後であり、訴状送達日の翌日からの民法所定の年3%の割合による遅延損害金の請求)。 (中略) 2 前提事実(証拠等によって認定した事実は括弧内に証拠等を掲記する。その余の事実は争いがない。) (1)当事者 ア 被告会社 エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社は、教育研修の企画・実施及び教育システムの企画・開発・販売・運営等を目的とする株式会社であったところ、令和5年7月1日、株式会社NTT ExCパートナーに吸収合併された(以下では、合併前後を問わず、「被告会社」という。)。 イ 原告 原告は、平成20年7月1日以降、被告会社で勤務する40代女性である(丙3、弁論の全趣旨)。なお、原告は、平成21年に結婚し、現在も婚姻中であるところ、社内においては、旧姓である「P4」を使用している(原告本人、弁論の全趣旨)。 原告は、令和元年12月当時、営業本部西日本営業部主査(第一営業担当)であった(丙3)。 ウ 被告P2 被告P2は、平成22年7月1日以降、被告会社で勤務する50代男性であり、既婚者である(丙2、弁論の全趣旨)。被告P2の自宅は京都市にあり、同自宅にはP2の家族が居住している(弁論の全趣旨)。 被告P2は、令和元年12月当時、営業本部営業推進部営業推進部門主査(営業推進担当)、営業本部西日本営業部兼務(第一営業担当)であった(丙2)。 (中略) (2)本件行為 被告P2は、令和元年12月26日、原告と二人で食事をした後、駅までの道のりを歩いている際、原告と手をつなぎ、駅の付近で原告にキスをした(原告による承諾があったか否かについては争いがある。) (中略) 4 主な争点に関する当事者の主張 (1)争点(1)について (原告の主張) ア 原告は、被告P2が原告と同じプロジェクトに関与しており、プロジェクトの核となる作業を行う人物であったこと、先輩であったこと等から、被告P2の機嫌を損ねないよう対応せざるを得ない状況にあった。かかる状況の下、原告は、令和元年12月26日、被告P2から、忘年会の趣旨で食事に誘われた。原告は、他の社員も一緒だと思って被告P2の誘いに応じたところ、店には被告P2しかおらず、二人で食事をすることになった。原告は、食事の後、被告P2と徒歩で駅まで行く途中、突然、被告P2に手をつながれ、その後一切承諾していないにもかかわらず、キス(本件行為)をされた。 イ 被告P2による本件行為は、原告による同意がないままなされたものであり、セクハラに該当し、不法行為を構成する。 (被告P2の主張) ア 被告P2が原告との関係につき、被告会社内において優越的な立場にあったことはない。 被告P2は、令和元年12月26日、原告と食事をした後、駅まで歩く道すがら、どちらからともなく手をつなぎ、駅に到着した際に、どちらからともなくキスをしたものであって、原告の意思に反して手をつないだりキスをしたりしたものではない。 イ 本件行為は、原告と被告P2のそれまでの職務内外のやり取りを前提に、両名の間で親しい関係に至った状態で、互いの明示又は黙示の同意の下でなされたものであって、不法行為を構成しない。 本件行為前後の原告と被告P2との一定の好意を寄せ合うLINEのやり取りや、会食の経緯などに鑑みれば、本件行為は原告と被告P2の私的な会食後の出来事であり、職場におけるセクハラには該当しない。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実、括弧内の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。証拠は特記しない限り枝番を含む。) (中略) (4)令和元年12月26日(本件行為当日)の出来事 ア 原告と被告P2は、京橋で待ち合わせをし、京阪電車で移動し、京都市中書島駅の近くの居酒屋で、二人で食事をした。 イ 原告は、被告P2との食事中か居酒屋から駅までの帰り道であったかは定かではないものの、年始は空いている、いつでも離婚できる、東京に一緒に異動してもいいという趣旨の発言をした(乙3、原告本人・8~9、27頁、被告P2)。 ウ 被告P2は、居酒屋を出てから原告の手をつなぎ、駅までの道を歩き、駅の近くに来たところで立ち止まり、原告の唇に1回、短時間のキスをした(本件行為)。原告は、この時、被告P2の手を振り払ったり、キスされることに抵抗したりする素振りは見せなかった。その後、原告と被告P2は、別々の電車に乗って帰宅した。(乙3、原告本人、被告P2) エ 被告P2は、原告と別れた後の午後11時24分、原告に対し、LINEで「今日もほんま楽しかった。好きな気持ち伝えられて良かった。気を付けて帰るように!」とのメッセージを送った。被告P2は、原告から返事がなかったことから、午後11時28分、原告に対しLINEで「おーい!返事ないけど大丈夫か~」とのメッセージを送った。これに対し、原告は、被告P2に対し、午後11時29分に「大丈夫ですよ。ちゃんと電車乗ってますし…何より最寄駅まで送ってくださったのがありがたいです。」と、午後11時32分に「大丈夫ですよ、今日、楽しかったから。ちゃんと帰ります。」とのメッセージを送った(LINEのやり取りの詳細は、別紙2の「295」~「323」のとおり。ただし、認定事実(1)イ参照。)。(以上につき、乙1) (中略) 2 争点(1)について (1)本件行為について ア 被告P2は、本件行為について、原告の同意があり、不法行為が成立しないと主張する。認定事実(4)ウによれば、被告P2は、本件行為をすることについて、原告の明示の同意を得ていない事は明らかであるから、黙示の同意があったか否かについて、以下検討する。 認定事実(1)イ、(2)ウ、エ及び(3)アによれば、原告と被告P2は、令和元年12月11日に被告P2が、原告を「ヨメのP8」と呼び始めたのを契機として、「ヨメ」、「ダンナはん」などと呼び合うようになっていたほか、同月16日には、原告が、原告からの誘いを断った被告P2に対し、「あんまり距離置くと泣きますよ、ヨメ。」、「一緒にいましょ。P2さん、男前、大好きです。」などとメッセージを送り、同月23日には、被告P2からの「ほんまにP4って言うたらいかんけど好きや。」とのメッセージに対し、原告も、「良い感じでわたしも好きですよ、P2さん。」などと返信するなど、お互いに好意を持っているかのように読めるLINEのやり取りを行う関係にあったことは認められる。 もっとも、原告と被告P2はいずれも既婚者であることからすると、仮に原告が被告P2に対して好意を持っていたとしても、直ちに被告P2と性的な行動に当たるキスをすることについてまで同意していることまでは推認できないというべきである。そして、証拠(甲9)によれば、原告は、本件行為を受けた直後の同月26日午後11時23分~午後11時42分にかけて、知人女性に対し、「センセイかの(原文のまま)突然の告白…死んでも良いかな。」、「サシ飲み行ったワタシが悪いんかな?」、「これは不味い。」、「忘れたいわ。お手軽なんやろな、ワタシ。」などと、本件行為を不快に思っていることをうかがわせる内容のLINEのメッセージを送信していることが認められる。加えて、原告は、本件行為の3日後になされた、二人で年始に会おうという趣旨の被告P2からの誘いを直ちに断っていること(認定事実(5)イ)、原告が、令和2年1月中旬には、原告及び被告P2の上司であるP5課長に対し、被告P2の言動に関する相談をしていること(認定事実(7)ア)等の事情を総合考慮すると、原告としては、被告P2からキスされることについて、黙示にも同意をしていたとは認められない。 そして、本件行為は、原告の同意なく性的な行動であるキスをしたというものであるから、本件行為が職場におけるセクハラに該当するか否かにかかわらず、原告に対する不法行為を構成するというべきである。 (中略) 5 争点(4)について 上記2で検討したとおり、本件行為は原告に対する不法行為を構成するところ、原告及び被告P2がいずれも既婚者であること、被告P2が原告にキスをしたのは本件行為の1回限りであり、その態様としても、キスしていた時間は短時間であり、原告もその場では強い拒絶を示していないこと、被告P2が本件行為に及んだのは、原告に対し、LINEで「ほんまにP4って言うたらいかんけど好きや。」とメッセージを送ったのに対し、原告から「良い感じでわたしも好きですよ、P2さん。」などと返信を受けた3日後であり、原告からいつでも離婚できる、東京に一緒に異動してもいいという趣旨の発言を受けた後のことであって、被告P2としては、原告から好意を持たれていると誤信してのことであると思われること、本件行為に至るまでの経緯等、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮し、原告の本件行為による慰謝料は5万円を相当と認める。 以上:5,157文字
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