令和 6年12月18日(水):初稿 |
○ある離婚事件で婚姻中に夫が妻に買い与えた宝石類について、夫婦共有財産として妻は夫に対しその価額の半分を財産分与として返還する義務があるかどうかが問題になりました。私は直感的にその宝石類は、贈与によって妻の専用の財産即ち特有財産になると思いましたが、裁判例では、宝石類も共有財産として財産分与の対象になるとするものもあるようです。以下、その裁判例を紹介します。 ○宝石類について財産分与が問題になった裁判例として平成4年8月26日東京地裁判決(家庭裁判月報48巻4号69頁)があります。 原告妻と被告夫の婚姻関係は、被告の悪意の遺棄、暴力行為7年余りにわたる別居生活等により破綻したとし、原告が被告に対し、被告との離婚を求め、原被告間の婚姻関係は、悪意の遺棄、暴力行為等の被告の責めに帰すべき事由により破綻したものであるとし、慰謝料を求めた事案です。 当事者の主張として (6)宝石類 ア.サファイヤ指輪 33万円 イ.ダイヤ指輪 46万円 被告は,原告に対し,右の夫婦共同財産の2分の1程度の財産を分与するのが相当である。 と記載されていますが、判決理由文が省略されておりその結論は不明です。 ○次にその控訴審平成7年4月27日東京高裁判決(家庭裁判月報48巻4号24頁)は、被控訴人(原告,妻)が控訴人(被告,夫)に対し,離婚等の請求をし、財産分与については,財産分与の対象となる金額の約3割6分に相当する2510万円を被控訴人妻に分与し,その余を控訴人に分与するのが相当であるとして、宝石類について以下の通り判示しています。 4 宝石類関係 80万円 証拠(甲20,48,49)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,家出の際に,ダイヤモンドの結婚指輪及びシンガポールで購入したサファイヤの指輪を持ち出したこと,これらの指輪の平成4年4月当時の鑑定人の評価では,前者が46万円から138万円,後者が33万円から99万円の範囲内にあることが認められる。 控訴人は,被控訴人が高価なエメラルドを持ち出した旨主張するが,それを認めるに足りる証拠はない。 これによると,これら指輪は,夫婦の共有財産であり,合計80万円と評価するのが相当である。 ○宝石類は妻の専用品とした裁判例として平成10年6月26日名古屋家裁審判(判タ1009号241頁)があり、相手方と協議離婚した後に内縁関係を結び、その後これを解消した申立人が、相手方に対し、財産分与及び慰謝料を求めたものです。これに対し申立てを却下する旨の審判がなされ、申立人が即時抗告をし、右内縁関係期間中の財産分与の申立てにつき差し戻された事案の家裁審判です。 審判理由で、本件内縁期間中に申立人及び相手方が形成した財産に関する清算的財産分与について、検討するとし、その検討対象財産の中で宝石類が記載され、次のように判示しています。 (6)宝石類 本件記録によれば、本件内縁期間中に申立人が相手方から買い与えられた宝石類は、ネックレス1点、指輪3点であり、その購入価格は、指輪1点が約80万円、他の指輪一点が約30万円であったことが認められ、なお、その余の価額は不明である。 これらの宝石類は、社会通念に従えば申立人の専用品と見られるから、申立人の特有財産であるというべきであり、したがって、本件財産分与の対象とはならない。 ○宝石類の外に例えば夫が時計好きで婚姻中に500万円のロレックス製時計を購入し夫の専用品として使用し、離婚時に残っている場合、これが財産分与の対象になるかが問題になった場合、妻側に立つと、特にそれ以外にはめぼしい共有財産が無い場合、財産分与対象として時価の2分の1相当額の財産分与が認められて然るべきです。宝石・時計等の嗜好品で夫婦の一方の専用品となっているモノが、財産分与の対象となるかどうかは、他の財産分与対象財産の価額とその嗜好品の価額の比較等総合的に検討する必要があると思われ、原則は専用品として財産分与対象にはならないが、例外的になる場合もあると覚えておきます。 以上:1,654文字
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