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貞操権侵害を理由に慰謝料50万円の支払を認めた地裁判決紹介

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令和 6年11月26日(火):初稿
○「貞操権侵害を理由に慰謝料20万円の支払を認めた地裁判決紹介」で、婚姻していることを秘して、マッチングアプリに登録して、結婚を視野に入れた真摯な交際を望んでいるかのように装って性交渉に及んだ男性に対し、女性への貞操権侵害を理由に慰謝料20万円の支払を命じた地裁判決を紹介していました。

○同様の事案として、既婚者であったにもかかわらず、婚活パーティーにおいて独身者であるかのように装って交際を開始し、平成30年6月9日から同年7月30日までに5回肉体関係を持つなどし、女性の貞操権を侵害して精神的苦痛を与えたと主張して、男性に対し慰謝料300万円を請求しました。

○これに対し、被告は当時、元妻と離婚について協議をしていたところ、参加資格が独身者に限定されている本件パーティーに参加して原告と出会い、さらに、交際開始前に原告からその年のうちに結婚することが前提でなければ交際ができないと言われたにもかかわらず、既婚者であることなどを秘して原告と交際を開始し、原告と複数回肉体関係を持ったことが認められ、被告は、自身が既婚者であることを秘し、被告が独身者である旨原告に誤信させ、原告と肉体関係を持ったといえるから、原告の性的意思決定の自由である貞操権を侵害した不法行為が成立するとして50万円の慰謝料支払を命じた令和5年8月17日東京地裁判決(LEX/DB)の関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告は、原告に対し、55万円及びこれに対する平成30年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを6分し、その5を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成30年6月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告は、既婚者であったにもかかわらず、独身者であるかのように装って原告と交際を開始して肉体関係を持つなどし、原告の貞操権を侵害して精神的苦痛を与えたと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計)及びこれに対する平成30年6月2日(最初に肉体関係を持った日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

第3 前提事実

     (中略)

第5 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)被告は、平成16年、元妻と婚姻して2人の子をもうけたが、その後、不和となり、遅くとも平成22年11月に同人らとの別居を開始した(乙5)。
 被告は、元妻と離婚について協議をしていたところ、元妻は、平成29年12月10日、被告に対し、2人の子(いずれも平成17年○月生)が義務教育を終了したら離婚の手続をしたいと考えている旨を告げた(乙7、被告本人4~8頁)。

(2)
ア 原告と被告は、平成30年5月18日、本件パーティーに参加し、カップルとなった。
 原告は、当時40歳であったことから、結婚して子をもうけるためには平成30年のうちに結婚することが必要だと考え、結婚相手を探すため、本件パーティーに参加していた(原告本人1頁)。
 被告は、元妻と離婚が成立した後に再婚する相手を探すため、本件パーティーに参加していた(被告本人8頁)。しかし、被告は、当時既婚者であり、本件パーティーの参加資格(独身者であること)を満たしていなかった。

イ 原告と被告は、本件パーティー終了後、食事に行った。原告は、その際、被告に対し、年内に結婚して子供がほしいことから、結婚を前提とした交際が条件であることを述べた。しかし、被告は、原告に対し、自身が既婚者であることを秘し、原告の提示した条件には異論を述べなかった。(原告本人3頁)
(被告は、原告が上記のやり取りがあったことを否認する。しかし、原告が、平成30年8月11日、被告に対し、「私は最初に話した通り、早々に、出来れば今年中に結婚して子供が欲しいと思ってます」とのメッセージを送っていること(甲5の85頁)などから、上記やり取りに係る原告の法廷における供述は信用することができる。)

(3)原告と被告は、その後、ほぼ毎日メッセージのやり取りをしたり、数回食事に行くなどした。そして、原告と被告は、平成30年6月9日、被告からの申込みにより交際を開始し、同日、初めて肉体関係を持った(甲5の1~15頁、原告本人4頁)。
 原告と被告は、その後、同月13日、同月17日、同月24日、同年7月1日及び同月30日に合計5回、肉体関係を持った。

(4)原告と被告は、その後もメッセージのやり取りをしていたが、被告からの話題のほとんどが、被告の性的願望(被告の前で原告が第三者と性的行為をすることなど)に関するものであった。原告は、性的要求をエスカレートさせる被告に対して疑問を持つようになり、インターネットで被告の氏名等を検索したところ、被告と思しき人物に妻と2人の子がいる旨の情報を発見した。そこで、原告は、平成30年8月12日、被告に対し、「Bさん結婚してるのでしょう。もしかして別居してるのかもしれないけど、奥さんと子ども2人いるのでしょう。」とのメッセージを送った。これに対し、被告は、「してません。ふざけた事言ってるな。」、「何を根拠に言ってるのか アホだね」、「本当イライラするのでもう結構」などと返信した。(甲5の75~89頁、甲6、原告本人16頁)

(5)被告は、前記(4)のメッセージのやり取り(原告が被告に対して既婚者であるか否かを尋ねたやり取り)の後、原告からのメッセージに対してあまり返信しないようになった。被告は、平成30年9月8日のメッセージのやり取りを最後に、原告からのメッセージに返信しなくなり、同日頃、原告と被告の交際は終了した。(甲5の89~93頁)

2 争点1(不法行為の成否(権利侵害、違法性))について
(1)認定事実(1)~(3)によれば、被告は、当時既婚者であったにもかかわらず、参加資格が独身者に限定されている本件パーティーに参加して原告と出会い、さらに、交際開始前に原告から平成30年のうちに結婚することが前提でなければ交際ができないと言われたにもかかわらず、既婚者であることなどを秘して原告と交際を開始し、同年6月9日~同年7月30日、原告と6回肉体関係を持ったことが認められる。これらの事実によれば、被告は、自身が既婚者であることを秘し、被告が独身者である旨原告に誤信させ、原告と6回にわたって肉体関係を持ったといえるから、原告の性的意思決定の自由である貞操権を侵害した不法行為が成立すると認められる。

(2)これに対し、被告は、原告との交際開始当時、被告と元妻は離婚することには合意しており、原告と結婚を前提に交際することについてほぼ障害がない状況であったから、原告に対する貞操権侵害は認められないと主張する。

 しかし、原告が結婚を前提とした交際を求めているにもかかわらず、婚姻していることを秘して交際を開始して肉体関係を持つこと自体、原告の貞操権を侵害したものというべきである。また、認定事実(1)によれば、被告は、原告との交際開始当時、元妻との間の2人の子の義務教育が終了する令和2年頃までは元妻と離婚する見通しが立っていなかったといえるから、そもそも、被告において、原告との交際開始当時、平成30年のうちに原告と結婚することに障害がなかったとはいえない。
 したがって、被告の前記主張は採用することができない。

(3)また、被告は、原告が、〔1〕以前交際していた男性のことを未練がましく話していたこと、〔2〕被告との会話中、上司や他人の悪口を言っていたこと、〔3〕被告が食事代を負担しても礼を言わなかったことから、平成30年7月30日には交際を続けるのが難しいと思っており,以降、原告とは疎遠になったなどとして、貞操権侵害の違法性の程度が低い旨を主張する。

 しかし、被告が指摘する上記〔1〕~〔3〕の事実によって前記(1)で認定した貞操権侵害の違法性の程度が低くなるとはいえない。また、この点を措いてみても、上記〔1〕~〔3〕の事実があったことを認めるに足る証拠はない。この点に関し、被告は、上記〔1〕~〔3〕の事実があったと述べる陳述書(乙17)を提出するが、同陳述を裏付ける証拠はなく、同陳述はにわかに信用できない。 
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(4)その他、被告が主張する点を踏まえて検討しても、前記(1)の認定判断は左右されず、被告には、原告に対する不法行為が成立する。

3 争点2(損害)について
(1)慰謝料 50万円
 前記2(1)で認定した貞操権侵害の内容や程度、交際の経緯等の本件に現れた事情を勘案すると、被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、50万円と認めるのが相当である。

(2)弁護士費用 5万円
 事案の難易、審理の経過、認容額等の本件に現れた事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、5万円と認めるのが相当である。

4 争点3(消滅時効の完成の有無(時効の起算点))について
 被告は、原告が、被告が既婚者であることを知ったのは、平成30年7月中旬であると主張する。しかし、これを認めるに足る証拠はない。
 他方、前提事実2(4)及び(5)並びに認定事実(4)によれば、原告が、〔1〕同年8月12日頃、被告が既婚者なのではないかと疑うようになったこと(なお、原告が、これ以前に、被告が既婚者であることを知っていたとは認められない。)、〔2〕令和3年7月30日、被告に対し、貞操権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求める催告をしたこと、〔3〕令和4年1月28日、本件訴訟を提起したことが認められる。これらの事実に鑑みると、原告の被告に対する貞操権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が完成したとはいえない。

5 まとめ
 以上によれば、原告の請求は、不法行為に基づく損害賠償として、損害金55万円(慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の合計)及びこれに対する平成30年7月30日(不法行為の終期である最後に肉体関係を持った日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第15部 裁判官 三田健太郎
以上:4,453文字

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