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不貞行為第三者責任が”害意”なしとして破産免責された判例紹介3

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令和 6年 9月21日(土):初稿
○「不貞行為第三者責任が”害意”なしとして破産免責された判例紹介2」の続きで、令和に入ってからの同種判例として、令和3年12月2日東京地裁判決(ウエストロージャパン)全文を紹介します。

○破産法規定は以下の通りです。
第253条(旧破産法366条の12、免責許可の決定の効力等)
 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)


○上記二号にいう「悪意」とは,故意を超えた積極的な加害意思,すなわち害意を意味すると解するのが相当であるところ、既婚者と不貞行為に及んだ者において,その配偶者が有する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するという認識を有していたというだけでは,故意が認められるにとどまるとして、「悪意」には該当しないとして、不貞行為第三者責任としての損害賠償債権は、原則として非免責債権には該当しないと従前の判断を踏襲しています。

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主    文
1 被告から原告に対する東京地方裁判所平成26年(ワ)第25773号損害賠償請求事件の判決に基づく強制執行は,これを許さない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 本件につき,当裁判所が令和2年10月7日にした強制執行停止決定(令和2年(モ)第2435号)は,これを認可する。
4 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 主文第1項と同旨

第2 事案の概要
 本件は,原告が,東京地方裁判所平成26年(ワ)第25773号損害賠償請求事件の仮執行宣言付き判決(以下「本件債務名義」という。)に係る請求権(被告の原告に対する,不法行為(原告が被告の妻と不貞行為(既婚者が配偶者以外の者と性交渉を伴う交際をすることをいう。以下同じ。)に及んだこと)に基づく330万円の損害賠償請求権及びうち300万円に対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求権。以下,併せて「本件請求権」という。)につき,原告に対する破産免責許可の決定が確定したことによって責任を免れたと主張して,被告に対し,本件債務名義に基づく強制執行の不許を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者等
ア 原告(昭和48年生)は,平成25年8月から,当時被告の妻であったA(昭和44年生。以下「A」という。)と不貞行為に及び,その交際を継続し,現在は,被告と離婚した後のA及びその二人の子ら(後記イ)と共に,肩書地で生活している。

イ 被告(昭和49年生)は,Aの元夫である。被告及びAは,平成12年10月19日に婚姻の届出をして夫婦となり,長男B(平成13年生)及び長女C(平成17年生)(以下,併せて「子ら」という。)をもうけたが,平成28年2月5日,子らの親権者をAと定めて調停離婚した。(甲1,乙2)
 なお,被告は,平成25年9月から平成26年1月まで,急性大動脈解離の緊急手術,術後の貧血等のため入退院を繰り返すという状況にあり,退院後の同年3月11日には,同疾病のため身体障害者手帳(4級)の交付を受けた(乙10~13)。

(2) 本件債務名義の成立
 被告は,平成26年10月,原告に対し,原告がAと不貞行為に及んだことについて,不法行為に基づく損害賠償として550万円及びうち500万円に対する平成25年8月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成26年(ワ)第25773号。以下,同訴えに係る訴訟を「前訴」という。)。前訴の訴訟手続において,原告は,公示送達による呼出しを受けたが口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しなかった。東京地方裁判所は,平成27年1月9日,前訴に係る被告の請求を,330万円及びうち300万円に対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余を棄却する仮執行宣言付き判決を言い渡した(本件債務名義)。

(3) 原告に対する破産免責許可の決定
 原告は,平成30年11月12日付けで,自身について破産手続開始及び免責許可の申立てをした(東京地方裁判所平成30年(フ)第8361号)。東京地方裁判所は,同年11月21日,原告について破産手続を開始し,平成31年3月11日,原告について免責を許可する決定をし,その後同決定は確定した。(甲3,4)

(4) 強制執行停止決定
 原告は,令和2年9月24日,本件訴えの提起(同月23日)に伴い,本件債務名義に基づく強制執行の停止を求める申立てをし,当裁判所は,令和2年10月7日,原告に100万円の担保を立てさせた上で,本件訴訟の判決において民事執行法37条1項の裁判があるまで本件債務名義に基づく強制執行を停止する決定をした(東京地方裁判所令和2年(モ)第2435号)。

2 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,本件請求権の破産法253条1項2号該当性である。
(1) 被告の主張
 原告は,Aが被告と婚姻関係にあることを知りながらAとの不貞行為に及んだだけでなく,①被告が大病を患っていることを知りながら,また,②同不貞行為が被告に発覚した後も,何ら悪びれることなくそれを継続した上,被告及びAの婚姻関係が終了する前から同棲生活を始め,さらに,③被告代理人弁護士が郵送した通知書を無視するなど,被告からの責任追及を意図的に逃れた。

 本件請求権は,原告による故意の不法行為であるAとの不貞行為によって被告が受けた精神的苦痛に係る慰謝料請求権であり,このような場合,破産法253条1項2号の「悪意」は積極的な加害意思,すなわち害意を意味すると解すべきではないところ,前記に掲げた事情によれば,原告の不貞行為は悪質で違法性が高いものであるから,原告には「悪意」があったというべきであるし,仮に「悪意」が害意を意味すると解したとしても,原告の害意の存在は肯定されるべきである。
 よって,本件請求権は,原告が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権に当たる。

(2) 原告の主張
 破産法253条1項2号の「悪意」とは積極的な加害意思,すなわち害意を意味すると解すべきところ,原告は,Aとの不貞行為を開始,継続するに当たり,被告に対する害意はなかった。
 被告が前記(1)で指摘する各事情は,原告の被告に対する害意を基礎づけるものではない。そもそも,原告は被告と面識がなく,また,被告が入院したのは,原告のAとの不貞行為が始まった後のことである上,原告は,被告の病状については大まかなことしか知らなかった。
 よって,本件請求権は,原告が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権には当たらない。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実,証拠(甲6,8,9,乙8,14,28,原告本人及び被告本人のほか,後掲のもの。ただし,以下の認定に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 原告及びAは,平成25年5月頃,オンラインゲームをきっかけに知り合い,やがて親交を深め,原告は,同年8月からAと不貞行為に及ぶようになった。

(2) 被告は,平成25年9月13日,急性大動脈解離のため,千葉県救急医療センターに入院して緊急手術を受けた。被告は,同年10月29日に同医療センターを退院し,医療法人財団健貢会総合東京病院にリハビリ目的で転院となったが,同年12月から平成26年1月にかけて,術後の貧血等のため同病院に入院した。(乙10~12)
 原告は,交際中のAから,夫である被告が血圧に関連する疾病のため入院し,場合によっては命にかかわる状態であることを聞いていた。

(3) 被告は,平成26年3月11日,解離性大動脈,疾病による心臓機能障害のため身体障害者手帳(4級)の交付を受けた。

(4) 被告は,平成26年3月下旬,原告及びAの不貞行為を知った。被告は,Aから原告の携帯電話の番号を聞き出し,原告に電話をしたところ,原告は自身の氏名と当時の住所(神奈川県横須賀市〈以下省略〉。以下,同所を「横須賀の住所」という。)を告げ(なお,原告が実際に告げたのは「横須賀市〈以下省略〉」であった。),被告に対して慰謝料を支払う,挨拶に行くなどと口にした(乙1)。

(5) 原告は,平成26年4月頃,携帯電話の番号を,前記(4)の番号から変更した。

(6) 被告は,平成26年6月16日,Aとの会話の中で,原告を「殺す」,「社会的に抹殺する」等の発言をした。その後,Aは,原告に対し,被告が上記発言をしたことを告げた。(甲7,乙15,16)。

(7) Aは,平成26年7月20日,子らを連れて,被告の肩書地所在の自宅を出て,近所のアパートにおいて3人で生活を始めた。

(8) Aは,平成26年8月20日,被告との離婚を求める調停を申し立てた(東京家庭裁判所同年(家イ)第6851号)。これに対し,被告は,同年中に,Aとの夫婦関係を円満に調整することを求める調停を申し立てた(東京家庭裁判所同年(家イ)第7043号)。

(9) 被告から委任を受けた土平英俊弁護士(本件訴訟の被告訴訟代理人。以下「土平弁護士」という。)らは,平成26年9月3日,原告に対し,横須賀の住所に宛てて,同日付けの通知書(原告のAとの不貞行為を理由に慰謝料500万円の支払を求める内容のもの)を内容証明郵便で発送したところ,不在のため再配達となったが,同再配達の際に応答した原告は別人を装い,原告はいないなどと述べ,同内容証明郵便を受領しなかった。土平弁護士らは,同月11日,原告に対し,横須賀の住所に宛てて,上記通知書を普通郵便で発送した。原告は,同月12日頃,横須賀の住所においてこれを受領したが,特段の対応を採らなかった。(乙5~7,18,19)

(10) 被告は,平成26年10月1日,前訴に係る訴えを提起した。

(11) 原告は,平成26年10月中に,横須賀の住所から前記(7)のアパートに転居し,A及び子らと同居生活を開始したが,住民票は横須賀の住所から移動させなかった。

(12) 前訴における被告である原告に対する呼出しは,横須賀の住所宛てに行われたが,不奏功となった。東京地方裁判所は,原告に対する呼出し等の手続を公示送達によって行った上で,平成27年1月9日に判決(本件債務名義)を言い渡した(前提事実(2),乙17)。

(13) 原告は,平成27年6月,A及び子らと共に肩書地に転居し,同年7月24日,住民票を横須賀の住所から移動させた。なお,A及び子らが住民票を移動させたのは平成29年4月に入ってからであった。(乙3,4,9)

(14) 平成28年2月5日,前記(8)の各調停事件において,①A及び被告が子らの親権者をAと定めて離婚すること,②被告がAに対して子らの養育費(一人につき月額1万円)を支払うこと,③Aが原告に対して離婚に伴う解決金として720万円を支払うこと等を定めた調停が成立した(乙2)。

2 争点に対する判断
(1) 破産法253条1項2号は,「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するところ,同号は,当該不法行為の加害者に対する制裁,被害者の救済,加害者の人格的・道義的責任の側面という趣旨から規定されたものと解される。同号のこのような趣旨に加え,同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」と規定していることを併せ考慮すると,同号にいう「悪意」とは,故意を超えた積極的な加害意思,すなわち害意を意味すると解するのが相当である。これに反する被告の主張は採用することができない。

(2) そもそも,既婚者と不貞行為に及ぶことがその配偶者に対する関係で不法行為となるのは,当該配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであるところ,このことに鑑みると,既婚者と不貞行為に及んだ者において,その配偶者が有する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するという認識を有していたというだけでは,故意が認められるにとどまるものである。

 そこで検討するに,認定事実によっては,原告が被告に対して害意を有していたと認めることはできない。すなわち,①原告は,Aとの不貞行為を継続する中で,少なくとも被告が血圧に関連する疾病のため入院し,場合によっては命にかかわる状態であることを認識していたものであるが(認定事実(2)),原告においてAとの不貞行為の継続中に被告の病気を知ったことにより,被告に対する認識が害意に転化するものとはいえない。

また,②原告が,Aとの不貞行為が被告に発覚した後も同不貞行為を継続し,Aと被告との婚姻関係が終了する前から同棲生活を開始したこと(認定事実(11))も,不貞行為における加害者の故意を超える害意を基礎づけるものとはいえない。

そして,③原告は,土平弁護士らが発出した通知書を無視(このうち内容証明郵便については他人を装って受領を拒絶)しているところ(認定事実(9)),このような原告の行為は,被告からの責任追及を意図的に回避しようとするものと評価することができるものの,被告に対する害意があったと評価することはできない。

 そして,証拠(原告本人)によれば,原告においては,Aとの新生活を早く始めたいという願望を抱き,また,被告が病を得たことを知ってその死を望むような心境に至ったこともあったことが認められるが,不貞行為に及ぶ者は,その相手方たる既婚者に対する恋愛感情ゆえにその独占を志向するのが一般というべきであるから,上記のような願望ないし心境も,不貞行為における故意に内包されるものというべきである。
 そのほか,原告において被告に対する害意を有していたと認めるに足りる証拠はない


(3) なお,証拠(甲4,乙21)によれば,原告において破産手続開始及び免責許可の申立てをした際に負担していた債務は,本件請求権に係る債務のほかには,パルティール債権回収株式会社が楽天カード株式会社から譲渡を受けたショッピング・カードローン債権に係る債務(元金27万0597円並びにこれに対する利息及び遅延損害金)しかなかったことが認められるが,このことは,原告がAとの不貞行為に当たって被告に対する害意を有していたとは認められないという前記(2)の結論を左右するものではない。

3 まとめ
 前記2で説示したところによれば,原告は,前提事実(3)の破産免責許可の決定により,本件請求権についてその責任を免れたものであるから(破産法253条1項本文),本件債務名義に基づく強制執行は許されないことになる。

第4 結論
 以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容し,民事執行法37条1項に基づき,前提事実(4)の強制執行停止決定を認可することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第18部  (裁判官 品田幸男)
以上:6,455文字

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