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不貞行為第三者責任が”害意”なしとして破産免責された判例紹介2

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平成31年 3月 9日(土):初稿
○不貞行為第三者として慰謝料請求を受けている方から自己破産手続によって責任を免れますかとの質問を受けました。この問題は、「不貞行為第三者責任が”害意”なしとして破産免責された判例紹介」で旧破産法第366条の12(現破産法第253条)「破産者ガ悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為ニ基ク損害賠償」請求権の「悪意」とは「積極的な害意」をいうとして、不貞行為を理由とする損害賠償請求権が非免責債権に当たらないとされた平成15年7月31日東京地裁判決(ウエストロージャパン)を紹介していました。

○不貞行為慰謝料請求権が、改正後の破産法第253条の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当しないとの判例を探したところ、平成28年3月11日東京地裁判決(判タ1429号234頁)がありましたので、全文紹介します。非免責債権とされる「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」にいう「悪意」とは、「故意を超えた積極的な害意」をいい、破産者がなした不貞行為につき、積極的な害意があったとまではいうことができず、破産者に対する慰謝料請求権は非免責債権に該当しないとして免責を認めました。

○破産法規定は以下の通りです。
第253条(旧破産法366条の12、免責許可の決定の効力等)
 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)


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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成25年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,被告と原告の夫との不貞行為により婚姻共同生活の平和を侵害され夫婦関係が破綻する危機に瀕したとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき550万円の賠償金(慰謝料500万円及び相当弁護士費用50万円)及び不法行為の日である平成25年12月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実
(1) 原告は,平成21年8月8日,訴外A(以下「A」という。)と結婚し,両者の間には現在3人の子,B(平成22年○月○日生まれ),C(平成24年○月○日生まれ),D(平成26年○月○日生まれ)がいる。
(2) 被告とAは,かねてからバスケットボールを共通の趣味とする知人であり,フェイスブックでメッセージを交換する程度の関係であったが,平成25年4月24日に携帯電話の連絡先を交換したころから,急速に親密な関係となった。
(3) 被告は,平成25年12月12日,Aに配偶者がいることを知りながら同人とともに箱根町湯本のホテルに宿泊し,肉体関係を持ち不貞関係を有するに至った。
(4) 被告とAとの不貞関係はその後も継続したが,被告は,当時の夫からAとの不貞関係を止めるように注意されたため,平成26年5月30日,Aに対し,2人の関係を清算する旨連絡したもののその3日後にはAに連絡をとり,2人の不貞関係は復活した。被告とAとは,その後平成26年6月21日にも肉体関係を持った。
(5) 被告は,平成27年7月7日,破産手続開始決定を受け,同年9月16日,免責許可決定を受けた。

2 当事者の主張
(1) 原告の主張

 原告は,平成21年8月8日にAと結婚し,3人の子宝に恵まれ,平穏かつ充実した婚姻生活を送っていた。ところが,原告が3人目の子を身ごもっていた当時,被告は,積極的かつ主導的にAとの不貞関係を結びかつ継続した。被告は,Aとの不貞関係を継続していた間,原告の2人の子と会ったり,被告が当時扱っていた年金保険商品をAに購入させたりしたばかりでなく,不貞関係発覚後には原告を侮辱するような言動をとるなど原告に対して不誠実な態度に終始してきた。
 以上のような被告の一連の行為によって,原告とAとの婚姻関係は破綻の危機に瀕し,婚姻生活の平穏は侵害され,原告は多大な精神的苦痛を被った。これら原告の被った精神的損害を慰謝するための慰謝料は500万円,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては50万円をそれぞれ下らない。

(2) 被告の主張
 被告は,Aとの不貞関係が発覚,終了した後,破産手続開始決定を受け,免責許可決定を受けた。被告は,破産手続において,原告の慰謝料請求権も破産債権として挙げていたから,免責許可決定によってその免責を受けている。破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するが,その趣旨及び目的に照らすと,そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解される。被告の場合,Aとの不貞関係は約9か月間であり長いとはいえないし,原告の2人の子らとも夫の友人としてあっただけであり,当時原告が妊娠しているということも知らなかった。本件におけるその他の事情を考慮しても,原告に対する積極的な害意があったということはできないから,原告の慰謝料請求権は免責されたというべきである。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1~28〔枝番を含む。以下同じ。〕,乙1~8,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,争いのない事実を含め,以下の事実が認められる。
(1) 原告とAとは,平成21年8月8日結婚し,平成25年末当時,両者の間には2人の子であるB(平成22年○月○日生まれ),C(平成24年○月○日生まれ)がおり,原告は,3人目の子であるD(平成26年○月○日生まれ)を身ごもっていた。

(2) 被告は,かねてからAが当時の被告の夫の後輩であることやバスケットボールを共通の趣味とすることから面識を有していて,バスケットボールの試合会場で挨拶を交わしたり,フェイスブックでメッセージを交換したりする関係であったが,平成25年4月24日にAが携帯電話の連絡先を知らせてきたことから連絡先を交換し,そのころから2人で食事に出かけるようになり親密な関係となっていった。被告は,平成25年○月,Aの誕生日にマフラーをプレゼントした。なお,被告はアールニューボールドというブランドの財布をAにプレゼントしていない。

(3) 被告は,平成25年12月12日,Aに配偶者がいることを知りながら同人とともに箱根町湯本のホテルに宿泊し,肉体関係を持ち不貞関係を有するに至った。もっとも,当時,被告は,原告が3人目の子を身ごもっていることは知らなかった。

(4) その後,被告とAは,頻繁に連絡を取りあい,継続的に月に2,3回程度,被告の仕事帰りに会うなどしてその不貞関係を継続した。その間,被告は,原告とAとの間の子らと会ったことがあった。被告は,当時の夫からAとの不貞関係を止めるように注意されたため,平成26年5月30日にはAに対し,2人の関係を清算する旨連絡した。しかし,被告にはAに会いたいとの気持ちがあったことから,当時,被告が職務としてAに勧めていた個人年金商品に関する連絡をとる必要があり,そのことをきっかけとしてAに対し連絡をとり,2人の不貞関係は復活した。被告とAとは,その後平成26年6月21日にも肉体関係を持った。

(5) 被告とAとの不貞関係に気づいた原告は,平成26年8月13日,被告に対し,Aとの不貞関係に関して手紙を送りたいので住所を教えてほしい旨の連絡をした。これに対し,被告は,これを拒絶し誠実に対応することをしなかった。そのころ,被告の当時の夫は,被告に対し,原告から①被告とAとの不貞関係が継続していた当時に原告が身ごもっていたこと,②Aは原告を始めとする家族と暮らすための自宅を新しく購入していたこと,③Aは過去にも妻である原告以外の女性と遊んでいたことなどの事情を聞かされたことを話した。被告とAとの不貞関係は終了した。

(6) その後,被告と原告は,それぞれ代理人を通じて交渉をしていたところ,被告が原告に対して謝罪した上で和解金210万円を頭金として35万円を一括して支払い,残金の175万円を月々7万円の25回の分割で支払うとの内容でおおむね合意に達し,その旨の条項の記載がある合意書に双方が署名捺印した。

 しかし,被告は,ほかにも200万円程度の借金があり,上記和解金の頭金35万円を捻出することができず,分割金として7万円を支払ったのみで,自己破産の申立てをした。被告は,平成27年7月7日午後5時,破産手続開始決定と同時に破産手続廃止の決定を受け,同年9月16日には免責許可決定を受けた。被告は,上記破産手続において,原告の慰謝料請求権を破産債権として挙げていた。

2 上記認定事実によれば,原告とAとの婚姻関係は,Aが原告と婚姻していることを認識した上で被告と肉体関係を持つに至り,その不貞関係が継続し,その後原告に発覚するに及んで破綻の危機に瀕したということができる。被告とAとの不貞行為は,原告に対する関係において共同不法行為として,それにより原告が被った損害を賠償する責を負うべきこととなる。そして,原告が3人目の子を身ごもっていた時期に継続して不貞関係を持っていたこと,Aとの不貞関係において被告は決して受け身なものであったとはいえないことなど被告とAとの不貞行為の態様,及び不貞関係発覚直後の被告の原告に対する対応など本件に顕れた一切の事情に鑑みると,原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,多くとも本件提起前に原告被告間でおおむね合意に達した210万円を超えることはないと認めるのが相当である。

 もっとも,被告は,その後,その資力から上記和解金を捻出することができず7万円を支払ったのみで,破産手続開始決定と同時に破産手続廃止の決定を受け,平成27年9月16日には原告の慰謝料請求権をも破産債権として掲げた上で免責許可決定を受けた。そこで検討するに,破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するところ,同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」と規定していることや破産法が非免責債権を設けた趣旨及び目的に照らすと,そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解するのが相当である。

 本件においては,上記認定及び説示したとおり,被告の,Aとの不貞行為の態様及び不貞関係発覚直後の原告に対する対応など,本件に顕れた一切の事情に鑑みると,被告の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえない。しかしながら他方で,本件に顕れた一切事情から窺われる共同不法行為者であるAの行為をも考慮すると,被告が一方的にAを篭絡して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず,原告に対する積極的な害意があったということはできない。原告の被告に対する慰謝料請求権は破産法253条1項2号所定の非免責債権には該当しないといわざるを得ない。よって,原告の慰謝料請求権につき,被告は法律的には責任を免れ,強制執行を予定した債務名義たる判決においてその請求を認容することはできないこととなったというほかはない。

3 したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 佐久間健吉)
以上:4,849文字

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