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腎臓病罹患秘匿での婚姻が告知義務違反に当たらないとした地裁判決紹介

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令和 6年 5月29日(水):初稿
○「セックスが全くなかったことによる慰謝料請求国内版まとめ」に性的不能者であることを秘して結婚し、離婚に至った元夫に対し、元妻へ500万円の慰謝料支払を命じた平成2年6月14日京都地裁判決(判時1372号123頁)を紹介していました。

○判例時報令和6年5月21号に掲載された令和4年12月26日東京地裁判決は、病院を経営する法人が弁護士法23条の2第2項に基づく照会に応じて患者の診療録等を開示したことが同患者に対する不法行為又は債務不履行を構成することはないとして、不法行為に基づく損害賠償請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求がいずれも棄却していますが、この判決の原告は、元妻から腎臓病に罹患していることを秘して婚姻したことが告知義務に違反するなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求に係る訴えを提起され、その訴訟で医療記録一部が開示されていました。

○元妻の元夫に対する婚姻に当たり腎臓病罹患告知義務を不法行為としての約850万円の損害賠償請求について棄却した令和4年11月22日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。判決は、婚姻が当事者間に重大な財産上・身分関係上の権利義務の変動をもたらすことに照らせば、とりわけ重要事項につき故意に虚偽の内容を述べ、その内容を要素として相手方が婚姻の決断に至った場合等、事案によっては不法行為が成立する余地はあるとしながら、本件では、元夫が故意に虚偽の内容を述べたとは認められず、告知義務違反があるとは評価できないとして棄却しました。結論としては妥当と思われます。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、849万8572円及びこれに対す平成31年1月1日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が被告と婚姻し、後に被告の疾患につき認識するに至った経過があるところ、被告の行為につき、
〔1〕婚姻前に上記疾患についての説明義務違反があった旨、
〔2〕上記疾患について原告が確認を求めたところ、モラルハラスメントに及んだ旨及び
〔3〕上記疾患を放置することで婚姻関係に支障を生じたさせた旨
を主張し、これらが不法行為に当たるとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害賠償金849万8572円及びこれに対する平成31年1月1日(継続的不法行為であることを前提として、その始期以後)から支払い済みまで民法(ただし、平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同様。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実等)
(1)当事者等
 原告と被告(平成5年○○月生まれ)とは、平成28年頃に知合い、後に交際を開始した。その後、平成31年1月17日に婚姻し、両名の間には、令和2年○月に子が生まれた。
 その後の同年9月18日、両名の間で離婚が成立した。
(争いがない)

(2)被告の疾患
 被告は、平成21年8月頃(15歳時)、IgA腎症と診断された。
 IgA腎症は、慢性糸球体腎炎と呼ばれる疾患の一種である。現時点で根本的な治療法が得られておらず、少なくとも平成27年時点において、指定難病(難病の患者に対する医療等に関する法律5条1項)に指定された。
 予後については、厚生労働省作成の資料(甲1)においては、
〔1〕成人発症の場合には10年間で人工透析や移植が必要な末期腎不全に至る確率は15から20%、20年間で約40%弱である旨、
〔2〕降圧薬や副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用により、平成8年以降は予後が改善しているとの報告もある旨、
〔3〕小児では成人よりも腎予後は良好である旨などが指摘されている。

また、平成26年作成の診療ガイドライン(甲11)においては、組織学的重症度と臨床的重症度を加味すると低リスク群、中等リスク群、高リスク群及び超高リスク群の4群に層別化することができ、高リスク群では49例中12例(24.5%)が生検後2.8から19.6(平均8.9)年で人工透析に移行した旨などが指摘されている。(甲1、甲9・1頁、甲11・53頁、弁論の全趣旨。ただし、上記疾患に関する被告の認識、治療経過等については、後に必要な範囲で更に認定・説示する。)

3 争点及びこれに対する当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記第2の2の前提事実に加え、証拠(甲13、乙9、原告本人、被告本人のほか、後掲括弧内の各証拠。ただし後記認定に反する部分を除く。書証につき特に頁数を示す場合には「甲13・1頁」などと、尋問結果につき尋問調書の該当箇所を特に示す場合には「原告本人1頁」などと記載する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)原告と被告は、平成28年頃に知り合ったところ(前提事実(1))、その前後を含め、被告のIgA腎症についての診療経過、被告の認識等の事実関係は、概要以下のとおりである(以下の全体につき、甲9、10、弁論の全趣旨)。
ア 14歳の健診において尿蛋白、血尿が指摘されるなどし、平成21年(15歳時)に腎生検を受け、IgA腎症(予後良好群)と診断された。その後、服薬等の治療を受けたが、1か月で自己中断した。
 被告の説明によれば、当時は、まずは投薬をして様子を見ましょうという程度の話と認識しており、面倒に思って通院をやめてしまったという経過であった。
(甲9・1頁、被告本人2、3頁)

イ 大学1年時に再度尿蛋白、血尿を指摘されたが放置し、大学2、3年時には尿検査なく、平成27年頃、下肢浮腫と左背部痛が時々出現し、大学4年の健診で再度尿検査の異常が指摘された。
 その後、同年10月13日に両側口蓋扁桃摘出を受け、同年11月9日にステロイドパルス療法目的で入院となった。
 上記入院中に実施された腎生検の結果等により、IgA腎症高リスク群と診断され、退院時には今後の人工透析導入の可能性につき説明された(ただし、診療録上、上記説明の具体的内容は不明である。)。
 被告の説明によれば、上記退院時の説明内容は、IgA腎症については同時点で明確な治療法はない、重度の症状がある人の場合には20年から30年後に人工透析になる人もいる、被告の場合には手術も行って数値も良好になっているので、しばらくは投薬を続けて経過観察をするなどという旨であった。
 また、被告は、上記入院中、「Bspot療法」と呼称される治療方法の提案を受け、これを断ったことがあった。ただし、被告は、その理由につき治療効果は不明と言われたためである旨説明しており、その他、上記方法の効果が確立されたものであるか否かについては本件記録上不明である。
(甲9・1、2頁、甲10・12頁、被告本人3から5頁、弁論の全趣旨)

ウ 被告は、少なくとも平成28年3月から令和3年8月までの間、時期により変動があるものの概ね3か月に1回以上の頻度で通院し、血液検査を受けていた。
 被告の説明によれば、上記各通院の際、特に異常がある旨を指摘されたことはなく、また、投薬治療は継続していた。
 また、原告の説明によっても、原告は、その時期の詳細は判然としないものの、被告から上記各通院について検査結果の一覧表を示された上、説明を受けていた。関連して、原告と被告とは、LINE(いわゆるスマートフォンのアプリケーションの1つであり、簡易な方法により一覧性のある形でメッセージの送受信を行うなどの機能を有する。以下、単に「LINE」という。)でやり取りを行っていたところ、少なくとも令和元年1月23日時点においては、被告が「これから病院」との連絡をし、原告が特に疑問を述べるなどせずに日常的な会話のやり取りを続ける経過が見られた。
(乙6、7、原告本人11、12頁、被告本人4、5頁、弁論の全趣旨。なお、上記イ、ウの内容以外の治療経過等の詳細については、原告・被告双方とも、診療録等の客観的証拠を提出していない。)

(2)原告と被告とは、平成28年頃に知り合った(前提事実(1))後、平成30年秋頃から結婚を意識した交際をするようになった。
 上記交際期間中、被告は、原告に対し、自身のIgA腎症につき、定期的に通院して薬を飲んでいるという程度の軽い話をしたことがあった。
(なお、上記認定と反する原告の供述については、後記(11)において、必要な範囲で改めて説示する。以下の認定においても同様である。)
(乙9・1、2頁、原告本人1頁、被告本人5、6頁)

(3)その後、原告と被告とは、それぞれの両親との単独の顔合わせを実施した上、平成30年12月30日には両家の顔合わせを実施した。
 被告は、原告の両親との顔合わせにおいて、健康状態について質問を受け、過去に手術を行い、同時点では特に腎臓に異常があるわけではなく、経過観察して薬を飲んでいる旨を回答した。その際、IgA腎症との疾患名を述べることはなく、また将来的な人工透析の可能性についても述べることはなかった。
 その後、原告と被告とは、平成31年1月17日に婚姻の届出をした。
 なお、これらと前後して、被告は、平成28年4月に就職する際には、履歴書にIgA腎症との疾患名を記載していた。
(原告本人1、2、9、10頁、被告本人6、20から25頁、弁論の全趣旨)

(4)被告は、令和元年夏頃に加入していた保険の見直しを検討した際、保険会社の担当者から、持病のない者と同様の保険には加入できない旨の説明を受け、その際にIgA腎症が指定難病に指定されていたことを知った(被告本人7、19、20頁、弁論の全趣旨)。

(5)原告と被告が令和元年11月30日頃から令和2年1月2日頃までに行ったLINEのやり取りを見ると、令和元年12月23日時点で、被告が原告に対し、これまでの人生で最大のストレスを覚えている、忘れることはなく永遠に憎しみ続けるだろう、C家全員の誇りと尊厳にかけて報復しなければならない旨などを述べたことがあった(乙5・440頁。明示されていないものの、後記(6)の手紙を指すものと解される。)。
 その他には、結婚式の準備に関する諍いや、被告の妊娠に伴う体調不良に関するやり取り等が見られるが、被告の暴言に当たるような発言や、原告が被告の発言を恐れて疑問や反対の意見を述べられないなどという経過は特段見当たらない。また、被告の疾患に関する内容も見当たらない。
(乙5、原告本人12から14頁、弁論の全趣旨)

     (中略)

2 争点(1)(被告の〔1〕告知義務違反、〔2〕モラルハラスメント、〔3〕疾患の放置が認められるか否か及びこれらについて不法行為が成立するか否か)について
(1)原告は前記第2の3(1)のとおり主張するので、検討する。
ア〔1〕告知義務違反について
(ア)婚姻が当事者間に重大な財産上・身分関係上の権利義務の変動をもたらすことに照らせば、とりわけ重要事項につき故意に虚偽の内容を述べ、その内容を要素として相手方が婚姻の決断に至った場合等、事案によっては不法行為が成立する余地はあるものと解される。

 しかし他方で、上記のような場合に至らない事案についてまで広く告知義務を課し、これに反した場合の損害賠償責任を認めることは、とりわけ本件のような疾患に関する情報については、婚姻前の時点で全面的にプライバシー情報を開示することを要求する結果や、過失による医学的な説明の誤りについても広く損害賠償責任を求める結果となりかねず、にわかに肯定し難い。よって、上記のような場合に至らない事案については、不法行為の成否につき慎重に検討すべきものと解される。


(イ)以上に基づき検討する。 
〔1〕IgA腎症に関する医学的知見としては,現時点で根本的な治療法が得られておらず、人工透析や移植が必要な末期腎不全に至る患者も相当の割合に上る旨の指摘がある(前提事実(2))。そして、
〔2〕被告は、被告の自認する範囲によっても、平成27年時点で、IgA腎症については同時点で明確な治療法はない旨や人工透析の可能性がある旨などの説明を受けており(認定事実(1)イ)、
〔3〕それにもかかわらず、原告の両親との顔合わせの際には、特に腎臓に異常があるわけではなく、経過観察して薬を飲んでいる旨を述べ、IgA腎症との疾患名や人工透析の可能性につき述べることはなかった(認定事実(3)。

なお、指定難病に指定されていたかどうかの認識については、根本的な治療法がない旨の説明を受けていたと解される以上、認識の有無は重要な相違をもたらすものではないと解される。)。これらの点については、婚姻における重要な経過の中での説明内容として、相当の疑問があることは否定できない。

 しかし他方で、〔4〕IgA腎症については、近年では予後が改善している旨、小児では成人よりも腎予後は良好である旨などの指摘もあり、診療ガイドラインで指摘された人工透析への以降の割合・期間についても、期間は平均10年足らず、最長で20年弱と、婚姻の性質から見て長期に過ぎるとは言えないものの、割合としては高リスク群で約4分の1というものである(前提事実(2))。併せて、〔5〕被告は、平成28年3月は定期的に通院して検査を受け、その間、被告の説明によれば特に異常を指摘されたことはなく、投薬治療は継続していた(認定事実(1)ウ)。加えて、〔6〕原告の説明によっても、被告が原告に対して一定程度の説明をしていた経過もうかがわれる。

 これらの点に照らせば、被告について将来的に人工透析に至る蓋然性をどの程度高いものとし、当面の婚姻生活について重要なものと見るかは、評価の分かれ得るところと解さざるを得ない。また、被告は、原告に対し、少なくとも通院の状況自体を隠していたものではないし、前記の原告の両親に対する回答内容についても、十分な説明と言い難いことは明らかであるものの、故意に虚偽の内容を述べたとまでは断定し難い。
 以上によれば、原告につき、故意に虚偽の内容を述べたとは認められないし、また前記(ア)の観点から故意に告げるべき内容を告げなかった告知義務違反があるとまでは評価できない。

(ウ)以上から、〔1〕告知義務違反は認められない。この点に反する原告の主張は、故意に虚偽の内容を述べたとする点については前提を欠き、また自身の疾患について故意に告知しなかったとの点の評価については前記(ア)、(イ)の説示のとおりであって、採用することができない。

イ〔2〕モラルハラスメントについて
 まず、被告が原告の父について常識がない旨の発言をしたことは、被告も自認しているものの、原告の父が交付した手紙の内容及び時期(認定事実(6))も併せれば、上記発言のみをもってモラルハラスメントに当たるとは考えられない。

 その他には、前記認定・説示のとおり(認定事実(5)、(11)ウ)、原告と被告との間では、少なくともLINEのやり取りに現れた内容による限り、被告の暴言に当たるようなものは見当たらず、かえって、両者の諍いの中で、原告も被告に対する意見、感情等を述べていた経過が見られる。そうすると、原告の主張するような、被告が激昂や暴言を繰り返していた経過があるとは考え難い。また、被告は、詳細は判然としないものの、原告に対して通院の経過につき検査結果を示して説明していたこともあり(認定事実(1)ウ)、この点においても、IgA腎症につき何ら取り合わない旨の対応をしていたとは考え難い。その他、前記認定事実の全体を検討しても、モラルハラスメントに当たるような経過は見当たらない。
 よって、〔2〕モラルハラスメントについての原告の主張は、事実関係において前提を欠き、採用できない。

ウ〔3〕疾患の放置について
 上記の点に関し、被告の治療経過を見ると、被告は、大学4年生時より前の時点においては、自己判断により治療を中止し、また健診の結果を放置した経過が見られる(認定事実(1)ア、イ)。しかし、大学4年生時以降は、手術及び入院治療を受けた上、概ね3か月に1回以上の通院を継続している(認定事実(1)イ、ウ)。これらの経過に照らせば、少なくとも平成27年に上記の手術等が実施されて以降、被告が自身の疾患を漫然と放置していたとは認められない。
 よって、〔3〕疾患の放置についての原告の主張は、事実関係において前提を欠き、採用できない。

(2)以上から、争点(1)についての原告の主張は、いずれも採用できない。

3 まとめ
 以上から、争点(2)につき判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部 裁判官 金田健児
以上:6,960文字

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