平成23年 9月18日(日):初稿 |
○「セックスが全くなかったことによる慰謝料請求国内版3」を続けます。 平成2年6月14日京都地裁判決(判時1372号、123頁)を3回に分けて紹介しましたが、読んで判るとおり、単にセックスが全くなかったことだけを理由とする慰謝料請求ではありません。セックスが全くなかったことに象徴されるA男の結婚に対する全く不誠実な認識、全くいい加減な態度で結婚に至り、それまでの仕事を投げ打って結婚生活に臨んだにも拘わらず無残な結果となり、人生を一からやり直さなければならなくなったA女に対する不法行為責任が認められたものです。 ○A女は35歳の昭和62年5月に44歳のB男と見合いして交際を始め、翌昭和63年2月に結納を交わし、4月8日婚姻届けをして5月3日にフランスの教会で結婚式を挙げ、帰国後5月11日から同居生活を初めるも、1ヶ月後の6月18日にBとの結婚生活に絶望を感じ実家に戻り、6月20日と7月2日に仲人宅で話し合いをして、B男も離婚意思を固め、同月7日に離婚届が提出されました。 ○婚姻届けから離婚届までは3ヶ月で、その間同居期間は1ヶ月少々ですが、B男は、A女との11ヶ月間に渡る交際中から新婚旅行中、同居を初めてからAが離婚を決意してB方を出るまでの2ヶ月間、Aに指一本触れようとせず、手を握ることもなく、キスもせず、性交渉を求めてきたことも全くなく、このことをA女が深刻に悩んでいることを全く知りません。判決は、このようなB男について、「夫婦に置いて性交渉をすることに思いが及ばなかったか、もともと性交渉をする気がなかったか、あるいは性的能力について問題があるのではないかと疑わざるを得ない。」と述べています。 ○判決は、「性的不能者であることを秘して結婚し、離婚のやむなきに至らせたとして、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を請求した事案」とも総括して、最終的にA女のB男に対する1000万円の請求の内500万円を認容しています。A女は婚礼道具等447万円も費用を支出し、且つ、10年かかって築き上げた60名も生徒が居るエレクトーン教室も手放していることから1000万円の請求も決して過大な請求ではなく、私が裁判官であれば、B男の余りのいい加減さに驚嘆し700~800万円程度認めても良いのではと思った程です。 ○請求額の2,3割の減額は、結婚前の約11ヶ月の交際にあります。10ヶ月間の交際を経て結納を交わし、且つ、結婚式はわざわざフランスまで行って挙式を上げていますので、A女の結婚に対する意気込みは相当なものですが、B男が、あれほどまで結婚をいい加減に考えていたことにどうして交際中に思い至らなかったのかが不思議であり、請求額の2,3割の減額は過失相殺がなされて然るべきと思いました。 ○私の中学・高校時代は、昭和40年前半ですが、この頃はまだ「処女」、「初夜」等の言葉が生きていた様にも思いますが、私が20代以降に入った昭和50年代は、結婚前のセックスが当たり前の時代になっていたような気もします。本件事案は、昭和62年の見合いですから、この頃は婚前のセックスも相当解放されていた時代であり、当時の感覚でも結納まで交わして手も握ってこないB男にA女が奇異の感を持たなかったかが不思議と言えば不思議です。 ○「婚活したらすごかった (新潮新書)」と言う本には、初対面でいきなり女性側からホテルに誘われ、事に及んでSMプレイを要求され、激しい攻防の終了後、女性は、デートを何回かしてある程度交際が深まった時点でセックスに及ぶのが普通だが、結婚生活で最も重要なことはセックスの相性であり、最終的にその相性が悪いことが判明するとそれまでの交際が無駄になるので、先ずセックスの相性を試すと説明したとの記述があります。著者は、なるほど、確かに理にかなっていると感心したとのことですが、本件と比較すると正に隔世の感があります(^^)。 以上:1,605文字
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