令和 6年 3月14日(木):初稿 |
○「子ども手当・高校授業料無償化を考慮せず婚姻費用を決めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審平成22年9月29日福岡高裁那覇支部決定(家庭裁判月報63巻7号106頁)全文と相手方妻代理人の意見書全文を紹介します。 ○相手方妻が、別居中の配偶者である抗告人夫に対し、婚姻費用分担の審判を申し立て、一審平成22年7月15日那覇家庭裁審判(家庭裁判月報63巻7号118頁)は、抗告人夫に対し未払婚姻費用約71万円と婚姻費用8万9000円(平成23年×月から9万3000円)の支払を命じました。 ○これに対し抗告人夫は、一審家裁審判は相手方夫の実際の支払能力を無視していること、申立人が得る長男についての子ども手当(月額月1万3000円)、長女についての高校授業料無償化の利益(月額9800円)を考慮せず婚姻費用を決めたのは不当として、福岡高裁に抗告しました。 ○これに対し、福岡高裁は、 1.子ども手当は,次代を担う子どもの育ちを社会全体で応援するとの観点から支給されるものであり,夫婦間の協力扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担額には影響しない 2.妻が高校生と中学生の子を監護養育しているところ,子の通う公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく,妻の生活費全体に占める割合もさほど高くはないものと推察されるなどの事情の下では,公立高等学校に係る授業料の不微収は,夫が分担すべき婚姻費用の額に影響を及ぼすものではない として、抗告を棄却しました。 ○これに対し、抗告人夫は、最高裁に特別抗告しており、その結果は別コンテンツで紹介します。 ************************************************* 主 文 1 本件抗告を棄却する。 2 抗告費用は抗告人の負担とする。 理 由 1 審理の経過等 抗告人(原審相手方)と相手方(原審申立人)は平成6年×月×日に婚姻の届出をした夫婦であり,長女(平成6年×月×日生)及び長男(平成8年×月×日生)をもうけた。相手方は,平成21年×月×日,子らを連れて実家に戻り,それ以来抗告人と別居して子らを監護・養育している。 相手方は,平成21年×月×日,抗告人との夫婦関係調整(離婚)調停(那覇家庭裁判所平成21年(家イ)第×××号)及び婚姻費用分担調停(同庁平成21年(家イ)第×××号)を申し立てたものの,いずれも調停不成立となり,後者が審判手続に移行した(原審事件)。 原審は,相手方及び抗告人の収入を踏まえ,抗告人に対し,原審事件に係る調停が申し立てられた平成21年×月から平成23年×月又は同居若しくは婚姻の解消に至る日の属する月まで月額8万9000円,同年×月から同居又は婚姻解消に至る日の属する月まで月額9万3000円を婚姻費用として相手方に支払うよう命じた。 抗告人は原審判を不服として抗告し,別紙「抗告理由書」(写し)に記載のとおり主張した。相手方は別紙「意見書」(写し)に記載のとおり主張した。 2 当裁判所の判断 (1)当裁判所も,給与所得者である相手方の税込収入(年額82万9230円)及び自営業者である抗告人の課税される所得金額(年額326万2501円)等にかんがみ,抗告人に対し,原審事件に係る調停が申し立てられた平成21年×月から平成23年×月又は同居若しくは婚姻の解消に至る日の属する月まで月額8万9000円,同年×月から同居又は婚姻解消に至る日の属する月まで月額9万3000円を婚姻費用として相手方に支払うよう命ずるのが相当と判断する。その理由は原審判に記載のとおりである。 (2)抗告人は,賃貸アパートのローン等多額の債務を負担しているから原決定によって命ぜられた婚姻費用の支払は負担能力を超えると主張する。婚姻費用の支払義務は自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務(生活保持義務)であって,抗告人が主張するような債務の支払に劣後するものではない。 抗告人は,相手方が長男に係る子ども手当(平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律(平成22年法律第19号)参照)を受給しているから,これを相手方の収入に含めるべきであると主張する。子ども手当制度は,次代を担う子どもの育ちを社会全体で応援するとの観点から実施されるものであるから,夫婦間の協力,扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担の範囲に直ちに影響を与えるものではない。 抗告人は,長女が通う公立高等学校の授業料が無償化されたから(公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成22年法律第18号)参照),相手方の生活費がそれだけ減少したと主張する。公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく,長女の教育費ひいては相手方の生活費全体に占める割合もさほど高くはないものと推察されるから,授業料の無償化は、抗告人が負担すべき婚姻費用の額を減額させるほどの影響を及ぼすものではない。 また,これらの公的扶助等は私的扶助を補助する性質のものであるから,この観点からも婚姻費用の額を定めるにあたって考慮すべきものではない。 3 結論 よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないので棄却することとし,主文のとおり決定をする。 (裁判長裁判官 橋本良成 裁判官 森鍵一 山崎威) (別紙)意見書 第1 抗告理由に対する反論 1 抗告理由書第1について (1)抗告人は,審判が,抗告人の実際の収支を無視し,抗告人の支払能力を無視したものであるから,取り消されるべきである旨主張する。 (2)しかし,抗告人の上記主張の内容は,抗告人が,収入以上の支出をしているから,支払能力がないといっているにすぎない。 つまり,抗告人の主張は,収入を全部使ってしまえば,婚姻費用を支払う必要がないという主張にほかならず,到底認められるものではない。 (3)よって,審判が取り消される理由とはならない。 2 抗告理由書第2について (1)基礎収入について 抗告人は,子ども手当を相手方の基礎収入に含めるべきである旨主張する。 しかし,子ども手当は,あくまでも子どもを扶養する者が受給する手当であって,収入ではない。 従前において,児童手当も,婚姻費用の算定において,基礎収入には加算しない運用がなされている。 したがって,子ども手当を基礎収入に含めるべきではない。 (2)生活費指数について 抗告人は,高校授業料無償化により,審判使用の長女の生活費指数が生活実態を反映していない旨主張する。 婚姻費用の算定については,簡易迅速に標準的な養育費を算定するため,一般的に審判が採用している計算式が用いられている。 確かに,事案によっては個別的要素を考慮すべき場合もあろうが,標準化に際しては,個別的要素も一定程度考慮されているはずである。よって,個別的要素を考慮するには,上記計算式を用いることが著しく不公平になるような特別な事情がある場合に限られると解すべきである。 今年度より,無償化された公立高校の授業料は年約12万円であり,かつ,授業料以外にも教育費はかかることからすれば生活費における高校の授業料の占める割合がそれほど高いとは思われず,これを考慮に入れずに計算を行ったとしても著しく不公平になるということはできない。 以上のとおり,高校授業料無償化という事実は,標準化された生活費指数を変更すべき特別の事情とはいえず,生活費指数を変更すべき理由とはならない。 3 以上のとおり,抗告人の抗告には理由がないから,審判の結論を維持すべきである。 以上 以上:3,085文字
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