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子ども手当・高校授業料無償化を考慮せず婚姻費用を決めた最高裁決定紹介

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令和 6年 3月15日(金):初稿
○「子ども手当・高校授業料無償化を考慮せず婚姻費用を決めた高裁決定紹介」の続きで、その特別抗告審である平成23年3月17日最高裁決定(家庭裁判月報63巻7号114頁)と抗告許可申立て理由書全文を紹介します。

○抗告人夫との間にもうけた長男長女を連れて別居していた被抗告人妻が、抗告人に対して行った婚姻費用分担の申立てにつき、抗告人が、被抗告人の基礎収入算定に当たり子ども手当を考慮せず、また、高校生の長女の生活指数算定に当たり高校授業料の無償部分を考慮しないのは不適法であるとして特別抗告及び許可抗告をしていました。

○これに対し最高裁も、特別抗告の理由につき、その実質は原決定の単なる法令違反を主張するもので、民事訴訟法336条1項所定の事由に該当しないとして特別抗告を棄却し、子ども手当の支給及び公立高等学校に係る授業料の不徴収が婚姻費用分担額に影響しないとした原審の判断は是認できるとして、許可抗告についても棄却しました。

○婚姻費用を支払う側の夫としては、少しでも支払額を少なくしたいとの気持は十分判りますが、子ども手当は子どもに支払われるもので夫婦間の婚姻費用には影響しないと考えるべきで、公立高校の授業料無償化月額9800円程度で抗告人の負担すべき婚姻費用の額を減額させるほどの影響を及ぼすものではないとの見解はやむを得ないと思われます。

「2024年度からの東京都における高校授業料実質無償化とは?」によると東京都では私立高校授業料も所得制限無く実質無償化となり、年額47万5000円を支援することになるとのことです。この私立高校の月額約4万円の支援は婚姻費用に影響するかどうかの判断は微妙と思われます。

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主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
1 平成22年(ク)第1075号事件について
 抗告代理人○○○○の抗告理由について
 民事事件について特別抗告をすることが許されるのは,民訴法336条1項所定の場合に限られるところ,本件抗告理由は,違憲をいうが,その実質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって,同項に規定する事由に該当しない。

2 平成22年(許)第34号事件について
 抗告代理人○○○○の抗告理由について
 本件事実関係の下において,子ども手当の支給及び公立高等学校に係る授業料の不徴収が婚姻費用分担額に影響しないとした原審の判断は,十分合理性があり,是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 金築誠志 横田尤孝 白木勇)

抗告許可申立て理由書
第1 原決定の判断

1 原決定は,相手方のこども手当の受給及び長女の高校授業料無償化は,婚姻費用分担に際しては,考慮すべきではないとする。
 その理由は,こども手当については次代を担うこどもの育ちを社会全体で応援するとの観点から実施されるものであるから,夫婦間の協力,扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担の範囲に直ちに影響を与えるものではないとする。

 次に,長女の高校授業料無償化については,公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく,長女の教育費ひいては相手方の生活費全体に占める割合もさほど高いものでないからであるとする。
 しかし,原決定は民法760条(「夫婦は,その資産,収入その他の一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」)の解釈について,重大な誤りがある。

2 なお,子供手当法(「平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律」)は,平成22年3月31日に成立し,4月1日より施行された。
 15歳以下の子供については,平成22年6月以降平成22年4月分に遡って,月額1万3000円の子供手当が支給されている。

 また,高校授業料無償化法(「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」)は平成22年3月31日成立し,4月1日から施行された。
 これにより,公立高校生は平成22年4月から年額11万8000円の授業料が不要となった。

第2 こども手当の受給について
1 原決定は,こども手当は社会全体で子供の発育を図るという理念から支給されるものであるが,婚姻費用分担義務は夫婦間の扶助義務に基づくものであることから,こども手当の受給は婚姻費用分担の範囲に影響を与えないと判断した。

 確かに,こども手当は社会全体で子供の発育を図るという理念に基づくものであり,他方の婚姻費用分担義務は夫婦間の扶助義務にもとづくものであるから,こども手当と婚姻費用分担義務はその制度理念が異なり,こども手当の受給により婚姻費用分担義務の範囲を減少させるべきでないとも考えられる。

2 しかし,家計の実態からすれば,こども手当の月額1万3000円を子供の教育費等に使用することにより,これまで子供の教育費等のために支出していた家計の負担は,受給額の範囲内で不要となる。
 月額1万3000円の範囲で,夫婦・子供の生活共同体を維持するために必要とされる家計である婚姻費用は減少するのである。

 すなわち,こども手当は社会全体で子供の発育を図るという理念に基づくものであるが,家計の実態からすれば,こども手当の受給により婚姻費用は減少し,その結果,夫婦の扶助義務に基づく婚姻費用分担義務も軽減される。

3 この点,原決定は,こども手当の家計に与える実態を無視して,こども手当の理念と夫婦の婚姻費用分担義務の理念の差異にのみ着目して,こども手当の受給は婚姻費用分担の範囲に影響を与えないとした。
 この結果,相手方がこども手当を受給することにより,婚姻費用が減少したにもかかわらず,婚姻費用は減少しないとしたため,申立人は,過大な婚姻費用を前提として,婚姻費用の分担額を定められた。

4 よって,原決定は,申立人のみに過大な婚姻費用の分担を定めており,婚姻費用は夫婦が公平に分担すべきものであるとした民法760条の解釈を誤っている。

第3 高校授業料無償化について
1 原決定は,公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく,長女の教育費ひいては相手方の生活費全体に占める割合もさほど高いものでないから,長女の高校授業料無償化は,婚姻費用分担に際しては,考慮すべきではないとした。

2 しかし,原決定は高校授業料無償化により月額にして9833円の授業料(年間11万8000円)の支払が不要となった点のみを評価して,相手方の生活費全体に占める割合もさほど高いものでないとしている。

 相手方は、高校授業料無償化による月額にして9833円の支出の減少のみならず,こども手当の受給による月額1万3000円も含めて捉えると,相手方は月額にして2万2833円の家計の負担の軽減がある。 
 これは相手方の生活費全体に比して,相当な額である。
 とすれば,高校授業料無償化は申立人の婚姻費用分担に際して,考慮すべき事項である。

3 この点,原決定は高校授業料無償化のみを捉えて,申立人のみに過大な婚姻費用分担額を決定しており,婚姻費用は夫婦が公平に分担すべきものであるとした民法760条の解釈を誤っている。

第4 まとめ
 以上により,原審判及び原決定は民法760条の解釈を誤っており,原審判は取り消されるべきである。

以上:3,030文字

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