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妻の同性愛相手方との性的行為について慰謝料を認めた地裁判決紹介2

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令和 5年11月25日(土):初稿
○「妻の同性愛相手方との性的行為について慰謝料を認めた地裁判決紹介」の続きで、判例時報最新号に掲載された令和4年4月26日横浜地裁小田原支部判決(判時2569号○頁)関連部分を紹介します。

○「妻の同性愛相手方との性的行為について慰謝料を認めた地裁判決紹介」の令和3年2月16日東京地裁判決(判時2516号○頁)では、妻の同性愛の相手方女性に対して550万円を請求したのに対し、支払を認めた金額は11万円でしたが、令和4年4月26日横浜地裁小田原支部判決は、同様に妻の同性愛相手方女性に慰謝料330万円を請求し、何と、132万円の慰謝料支払を認めました。

○原告の元妻Aは、原告との間に子供3人を産んでいることから、純然たる同性愛者ではない両性愛者(バイセクシャル)で、LGBT(性的少数者)に属します。本件は、妻の同性愛行為により離婚に至っていることを重視して132万円もの慰謝料支払を妻の同性愛相手方女性の被告に命じています。

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主   文
1 被告は,原告に対し,132万円及びこれに対する令和2年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する令和2年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
 本件は,原告が,被告が原告の妻と性的関係にあったとして,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円及びこれらに対する不法行為の後の日(離婚日)である令和2年2月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の法定利率による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提となる事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,末尾掲記の証拠によって認定することができる。)
(1) 原告とA(以下Aという。)は,令和2年2月10日に離婚が成立した元夫婦である。原告とAは,平成17年5月1日に婚姻し,両名の間には平成18年○月生れの長女,平成23年○月生れの二女,平成25年○月生れの長男がいる。

(2) 被告とAは,職場の元同僚であり,Aと原告の婚姻期間中である平成31年1月頃から令和元年9月頃までソーシャルネットワークサービスであるLINEを利用したメッセージのやりとりを多数回行っていた。

(3) 原告は,Aと被告との間の上記(2)のやりとりをしていること及びメッセージの内容等を知り,令和元年11月11日からAと別居し,離婚するに至った。

(4) 原告は,被告に対し,令和2年4月3日付けで,被告とAとの間の不貞行為により離婚するに至り,精神的苦痛を被ったなどとして慰謝料の支払を求める旨の通知書を送付し,同通知書は同月6日に被告に到達した。(甲3の1・2)

2 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,被告のAとの間の性的行為が原告に対する不法行為に当たるか(争点1)及び不法行為に当たる場合の損害額(争点2)である。
(1) 被告のAとの間の性的行為が原告に対する不法行為に当たるか(争点1)について
(原告の主張)
ア 被告とAとの間で性的行為が行われるようになるまでは,原告とAとの間の婚姻生活は円満なものであった。被告とAとの間のLINEでのやりとりは別紙記載1ないし12,14及び15のとおりであり,これらのやりとりの行われた時期から見て,Aと被告との間の性的関係は少なくとも平成31年1月頃から原告が知るに至った令和元年9月頃まで継続していた。

 被告は,Aと被告は同性であるため,いわゆる挿入行為を伴う性的行為を行ったことはなかったなどとして,原告に対する不法行為を構成しない旨主張するが,不貞行為は,自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶこととされるところ,同性間において行われた性交類似行為であっても婚姻共同生活の平和維持という権利又は法的保護を侵害するに足りるものである。現に,被告とAとの性的行為により,原告とA間の婚姻関係は破綻し離婚するに至っており,不貞行為又はそれと同視すべき行為として不法行為に当たる。さらに,被告が,原告とA間の婚姻関係を破壊しようとする意思をも有していたことは別紙記載13及び16から明らかである。

イ 原告及び子供たち,とりわけ長女は,Aと被告との性的関係が発覚したことにより多大な精神的苦痛を被った。Aの性的関係の相手が同性であったことは,異性の間の不貞行為の場合に比して原告に与えた衝撃の程度は大きく,原告及び子供たちは決して癒えることのない大きな傷を負っており,被告とAによる共同不法行為が成立する。

(被告の主張)
ア 被告とAとの間で別紙記載1ないし16のようなLINEでのやりとりがあったこと自体は認める。被告とAが一定期間親しい関係にあったことを否定するものではないが,両者間で行われたのは性交類似行為にとどまるし,約9か月間で,月1回程度という限られたものであった。

イ 被告とAとの間において,異性間の挿入行為を伴う性的行為はなく,男女間の性交渉に相当する行為はなかった。また,男女間の法律婚夫婦間においては,婚姻外の異性との間で性的関係を形成することのみが貞操義務に違反するものというべきで,同性間において性的行為が行われたことにより,男女間の婚姻関係における法的利益が侵害されることはない。したがって,被告とAの関係は原告に対する不法行為を構成しないというべきである。
 さらに,本件において,被告において,原告とAとを離婚させることを意図して,その婚姻関係に対する不当な干渉をしたなどの事情はないから,原告とAが離婚したことについての不法行為責任を問われるいわれはない。

ウ 原告とAが離婚に至ったのは,原告が3人の子の育児に向き合うAの精神的・肉体的負担を十分に解することなく,夫婦生活においてAの性的尊厳を損ねるような行為を行ってきたことにあるというべきである。

(2) 不法行為に当たる場合の損害額(争点2)について
(原告の主張)
 被告とAの間の性的行為及びその結果,離婚に至ったことによって原告が受けた精神的苦痛は,金銭に換算し得ないものであるが,あえて金銭に換算すれば300万円を下らない。また,本件と相当因果関係のある弁護士費用としては,上記損害額の1割に当たる30万円が相当である。

(被告の主張)
 損害の発生は否認し,損害額については争う。
 仮に不法行為が成立するとしても,原告とA間の婚姻関係は争点(1)の被告の主張ウにおいて述べたような事情で,既に信頼関係が失われ,きっかけ次第で破綻し得る状態にあったもので,このことは原告の損害額の認定に当たり考慮されるべきである。

第3 当裁判所の判断
1 前記認定事実
に加え,証拠(証人A。原告本人,被告本人,甲2,乙1,2,4。ただし,下記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告とAは,原告とAが婚姻する前に交際関係にあった時期があった。
(2) 被告とAは,平成31年1月から令和元年9月頃までの間,頻繁にLINEでのメッセージのやりとりを行っていた。(乙2)

(3) 被告は,上記(2)の期間に,多くて月に1回の頻度でAと会い,その際に,Aとの間で陰部を指や口で触れたり,陰部を重ね合わせるなどの性交類似行為を行うこともあった。そのうち,平成31年1月1日及び令和元年8月11日には,被告が,Aと原告の当時の自宅を訪れ,同自宅内で性交類似行為を行った。

(4) 原告は,Aの帰宅が深夜になることがあったことなどからAの行動に不信を持ち,Aの使用するスマートフォンについて,原告の使用する機器からもLINEでのやりとりなどを見ることができるように設定した。その結果,原告は,令和元年9月頃,被告とAのやりとりの内容を把握するに至った。原告は,Aに対し,被告との関係を問いただし,子供のためにも関係を断つようになどと申し入れたが,Aは関係を断つことを約束しなかった。

(5) 原告は,上記(4)のLINEのメッセージのやりとりから令和元年9月29日,被告とAの関係が継続しているのではないかと推測し,Aと一緒に入浴した二女からAの胸部にあざがあったことを聞き出して,被告とAがその後も性的行為を行っていると確信し,離婚を決意した。

(6) 上記(5)の後,原告が実家に戻る形で別居を開始し,その後,3人の子供の親権者を原告と定めて離婚するに至った。

2 争点1について
(1) 被告とAが,平成31年1月頃から令和元年9月頃までの間,性交類似行為を行ったことがあったこと,その回数は多くて月に1回程度であったことは,上記1認定のとおりである。なお,証人Aは,証人尋問において,被告との関係に肉体関係はなかった旨述べた部分があるものの,被告の陳述書(乙4)において被告が記載した内容の行為を被告との間で行ったことは否定しない旨述べているところであり,被告との間で性交類似行為を行ったことを認める趣旨と解される。

(2) また,証人Aは,原告の性行為の求めに相当程度苦痛を感じるようになっていたことや,子供に関して話し合うことに向き合ってもらえていないと感じていたなどと述べるとともに,原告との婚姻生活において,平成31年1月頃までには心の寄り添いを感じられなくなっていたなどとも述べるが,原告とAの婚姻関係の破綻の直接的な原因は,Aが被告との関係が深まったことにあると言わざるを得ない。ただし,原告のAに対する言動が,Aにおいて自分の心情を十分に配慮してもらえていないと感じさせるものであったことは,本件第2回口頭弁論期日に原告・A間の長女を同道して尋問を傍聴させたことからも推測されることであり,Aが原告との婚姻生活の各場面において苦痛を感じるようになっていたことは否定しがたい。

 しかしながら,Aと原告がいまだ婚姻関係にあったにもかかわらず,被告がAとの間で性交類似行為を行ったことは,原告とA間の婚姻共同生活の平穏を侵害するもので,不法行為に当たるというべきである。不法行為は成立しない旨の被告の主張は採用できない。

 なお,原告は,被告がAと原告の婚姻関係を破壊しようとする意図をも有していた旨主張し,これに沿うようなAと被告との間のLINEでのやりとりもあるものの,全体の流れからすれば,両親の愛情が子供にとって大切だなどといったやりとりもしているのであって,被告において,原告とAの婚姻関係を破綻させようとする意図を認めるに足りる証拠はない。

3 争点2について
 証拠(証人A,乙1)によれば,原告とAとの婚姻生活において,Aが離婚をしたい旨告げたことが3度ほどあったことがうかがわれるものの,3人の子供をもうけて同居を続け,婚姻関係を継続してきたところ,被告との関係が発覚したことを機に別居をし,その後,離婚に至ったこと,被告とAとの性的行為の態様,継続期間等の本件に現れた一切の事情に照らすと,原告の精神的苦痛を慰謝するためには120万円が相当である。

なお,原告は,異性間の不貞行為の場合に比して原告の被った精神的苦痛は大きいなどと主張し,原告本人尋問においてもこれに沿う供述をするが,夫婦の一方が第三者と性的行為を持つことにより夫婦のもう一方が被る精神的苦痛は,行為の相手方の性別に左右されるものではないというべきであり,採用できない。
 また,原告は,弁護士に本件の訴訟代理を委任しているところ,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,12万円とするのが相当である。

4 結論
 以上によれば,原告の請求は一部理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
 横浜地方裁判所小田原支部民事部 (裁判官 杉田薫)

 
以上:4,920文字

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