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妻の同性愛相手方との性的行為について慰謝料を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 6月28日(火):初稿
○同性愛者である被告(女性)が原告の妻と性的行為を行ったことについて、不貞行為に該当するとして不法行為に基づく損害賠償請求を認めた令和3年2月16日東京地裁判決(判時2516号○頁)関連部分を紹介します。

○原告夫が、同性愛者である被告が妻と性的行為をしたことについて、不貞行為をしたとして,不法行為に基づく損害賠償として慰謝料500万円,弁護士費用50万円の合計550万円の損害賠償請求をしました。東京地裁には、色々な事案の訴訟があると感嘆します。

○判決での認定事実を読むと、本件はどう見ても、原告の妻Aの方が、被告との関係の継続を望み,被告に対し好意を抱き続け、Aが被告を誘ったとしたか思えません。500万円の請求に対し、10万円のみの慰謝料認定は、実質は、原告の敗訴ですが、私の感覚としては、中途半端な金額を認めるよりは、請求全部棄却が妥当と思います。

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主   文
1 被告は,原告に対し,11万円及びこれに対する令和元年12月28日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを50分し,その49を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,550万円円及びこれに対する令和元年12月28日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が同性愛者である被告が妻と不貞行為をしたとして,不法行為に基づく損害賠償(慰謝料500万円,弁護士費用50万円)とこれに対する訴状送達の日(令和元年12月27日)の翌日から民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5%の遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。なお,以下,本判決で用いる年月日については特に断りのない限り平成29年を指し,証拠について枝番のあるものは,特定していない限り,その全部を指す。)
(1) 当事者
 原告(昭和57年○月○日生まれ 男性)は,A(以下「A」という。昭和60年○月○日生まれ 女性)と,平成14年1月頃に知り合い,交際の上,平成26年9月9日に婚姻した。
 被告(昭和58年○月○日生まれ 女性 旧姓「B」,婚姻後「Y」)は,会社員であり,Aと1月頃,インターネットの出会い系掲示板を通じて知り合い,二人で外出したり,食事したり,映画を見るようになった。被告は9月に婚約者と婚姻した。

(2) 被告がAに性的行為を行ったこと(本件各行為)
ア 本件行為1
 被告は,4月16日,映画を見ようとAを誘い,入店した池袋のインターネットカフェにおいて,Aに性的行為を行った(以下「本件行為1」という。)。

イ 本件行為2
 被告は,5月3日,小岩駅付近の飲食店でAと酒を飲んだ後,ラブホテルにAを誘い,Aに性的行為を行った(以下「本件行為2」という。)。

ウ 本件行為3
 被告は,6月2日,被告とAの誕生日を祝うということで,Aと女子会等のイベントでも利用されるホテル「a」を利用し,誕生日のイベント(食事や記念撮影)終了後,ホテルの部屋に戻った際,Aに性的行為を行った(以下「本件行為3」といい,本件行為1,2と合わせて,「本件各行為」という。)。

(3) 原告と被告,被告とAのメール等のやり取り
ア 原告は被告に対し,9月24日,別紙1のとおり,メールを送った(以下「本件メール1」という。乙1)。

イ 被告とAはLINEで,①5月5日,別紙2のとおり,やり取りし(以下「本件メール2」という。乙2),②6月7日,別紙3のとおり,やり取りし(以下「本件メール3」という。乙3),③6月13日,別紙4のとおり,やり取りし(以下「本件メール4」という。乙4),④8月28日,別紙5のとおり,やり取りし(以下「本件メール5」という。乙5),⑤9月2日,別紙6のとおり,やり取りした(以下「本件メール6」という。乙6)。また,Aは,被告に対し,10月4日,別紙7のとおり,メールを送った(以下「本件メール7」という。乙7)。

(4) 本件訴訟の提起
 原告は,令和元年12月27日に被告に送達された訴状をもって本件訴訟を提起した。

2 争点
(1) 不法行為の成否
(2) 損害額

第3 争点に対する当事者の主張

         (中略)


第4 争点に対する当裁判所の判断
1 認定事実


(1) 被告は,1月頃,インターネットの女性同士の出会い系サイトにおいて,既婚者で同性愛者のパートナーを募集するというカテゴリーの掲示板を通じてAと知り合い,二人で外出したり,食事したり,映画を見るようになった(乙9,被告本人1,2頁)。

(2) 被告は,Aと3回ほど食事に行くなどした後,4月5日に個室居酒屋で食事をしていた際,お互いの首筋にキスをするなどした。被告は,4月16日,映画を見ようとAを誘い,入店した池袋のインターネットカフェにおいて,Aの胸や下半身をなめたり,陰部を直接触るなどの性的行為を行った(本件行為1)。(甲12,乙9,証人A・1,2頁,被告本人2~4頁)

(3) 被告は,5月3日,小岩駅付近の飲食店でAと酒を飲んだ後,ラブホテルにAを誘い,Aに対して性的行為を行った(本件行為2 甲12,乙9,証人A・3,4頁,被告本人4~6頁)。

(4) 被告とAはLINEで,5月5日,本件メール2のやり取りをし,その際,Aは被告に対し,「わたしは時々はお泊りしたいょ」といったメッセージを送信した(乙2)。

(5) 被告は,6月2日,被告とAの誕生日を祝うため,Aと女子会等のイベントでも利用されるホテル「a」を利用し,誕生日のイベント(食事や記念撮影)終了後,ホテルの部屋に戻った際,Aに性的行為をした(本件行為3 甲12,乙9,証人A・4頁,被告本人6,7頁)。

(6) 被告は,6月7日,Aからプロポーズされ,異性の婚約者と結婚をやめて,一緒になって欲しいと言われたが,これを断った。そうしたところ,Aから被告に対し,「わたしがYちゃん(被告のこと)が好きな理由を書いてPCメールに送ったからあとでお読みください」といったメッセージ(本件メール3)が送信されてきた。(乙3,9,被告本人7,8頁)

(7) 被告は,Aと距離を置こうと考えるようになり,被告とAはLINEで,6月13日,本件メール4のやり取りをし,その際,被告はAに対し「この前のことも含めて,ちょっと暫く会うのはやめようと思ってる。」とのメッセージを送信した。これに対し,Aは被告に対し,「実は私もあれから色々と考えて,お友達に戻ろうかなって思ってて。」と,今後,被告と友達として付き合っていきたい旨のメッセージを送信した。(乙4,9,被告本人8頁)

(8) 被告は,Aと友達に戻ったと考えたため,出会い系サイトで再び同性のパートナーを探し,7月に出会った同性の恋人と8月から交際を開始するようになった。また,被告は,9月に被告が同性愛者であることを理解している婚約者と婚姻した。(乙9,被告本人9,15頁)

(9) 被告とAはLINEで,8月28日,本件メール5のやり取りをし,その際,Aは被告に対し「私の気持ちを軽く書いておきますね。Yさん(被告のこと)が言っていたように一緒にいると落ち着くって言うのは私にもありました。この出会いもご縁ですし,これからはお友達としてYさんの理解を深めて行きたいなと思っています」といったメッセージを送信した(乙5)。

(10) 被告とAはLINEで,9月2日,本件メール6のやり取りをし,その際,被告はAに対し「実は恋人が出来たので,嫌な思いをさせたくないので,会うのはやめようと思います」というメッセージを送信した。これに対し,Aは被告に対し「また不倫ですか?やはり私のことは遊びだったんですね。」等と別れを切り出した被告を非難するメッセージを送信した。(乙6)

(11) 原告は,9月頃,Aから被告との関係や被告との間であった出来事について話を聞いた(甲11,証人A・12頁,原告本人3頁)。そして,原告は,被告に対し,9月24日,本件メール1のとおり,和訳すると「死から逃れることはできない」というメールアドレスを用いてメールを送り,原告は同性愛に偏見はもっておらず,Aと被告が仲良く付き合うのであれば特に問題はないと考えていたこと,被告がAと肉体関係を持ったために原告の家庭はめちゃくちゃになったこと,被告にはきちんとAと向き合って欲しかったのに,それをせずにすぐに次の同性のパートナーを作ったことを非難する内容のメールを送った(乙1)。

(12) Aは被告に対し,10月4日,本件メール7を送り,「Yさんの彼女にも,私の旦那さんにも,秘密でお会いしたいです。」「一度デートして欲しいんです。」といったメールを送信し,被告にもう一度会いたい,デートして欲しいとの申入れを行った(乙7)。

(13) Aは,平成30年6月14日から病院を受診し,同年10月18日にPTSDであるとの診断を受けた(甲2)。Aは,損害保険会社のコールセンターで働いていたが,令和元年7月から令和2年4月まで休職した(証人A)。原告は,平成26年9月9日にAと結婚する前から癌にり患して闘病生活を送り,経過観察中であったが,9月からクローン病を発症し,働けない状況が続いている。原告は9月にAから被告とのことを聞き,一時は離婚も考えたものの,思いとどまり,現在に至るまでAとの婚姻関係は継続している(原告本人1,3,7,10頁)。

2 認定事実の補足説明
(1) 原告は,前記1(2),(3),(5)の本件各行為について,Aの意思に反して被告が無理やり一方的に行ったものであると主張し,Aもその旨証言する。
 しかし,被告は本件各行為に至ったことは認めているものの,Aの意思に反するものではなかったと供述している。

 そして,前記1(4),(6),(7),(9),(10)のとおり,本件各行為の前後におけるAと被告の間のやり取りからすると,Aが被告との関係の継続を望み,被告に対し好意を抱き続けていたことが読み取れる。
 その他,本件各行為がAの意思に反して行われたと認めるに足りる証拠はない。

(2) この点,原告は,本件メール6において,Aが「身体を許す」と表現したことをもって,Aの意思に反して本件各行為が行われたと主張する。
 しかし,本件メール6は前記1(10)のとおり,被告が新しい恋人ができたので別れたいと切り出したのに対し,Aが被告を非難する文脈の中で言及されたものであって,かかる表現のみをもって,Aの意思に反して本件各行為が行われたと推認することはできない。むしろ,本件メール2~7には,Aが本件各行為の後にも,被告に対して好意を有していることをうかがわせるやり取りがなされている。
 以上からすると,本件各行為がAの意思に反してなされたと認めることはできない。

3 争点(1)(不法行為の成否)
(1) 不貞行為とは,端的には配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるが,これに限らず,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と解するのが相当であり,必ずしも,性行為(陰茎の挿入行為)の存在が不可欠であるとは解されず,夫婦共同生活を破壊し得るような性行為類似行為が存在すれば,これに該当するものと解するのが相当である。

 そして,同性同士の間で性行為あるいはその類似行為が行われた結果として,既存の夫婦共同生活が離婚の危機にさらされたり,離婚に至らないまでも形骸化するなど,婚姻共同生活の平穏が害される事態もまた想定されるところである。

(2) 本件各行為は,前記2のとおり,被告がAの意思に反して行ったものとまでは認められないが,いずれも前記1(2)の本件行為1と同様の態様で行われた(被告本人3~7,16頁)とのことであるから,原告とAの婚姻共同生活の平穏を害しかねない性行為類似行為であるといえ,不貞行為に該当する。

(3) なお,原告は,Aが同性愛について関心を有しており,同性である被告と親しく付き合うこと自体については許容していたが,本件各行為のような性的行為を行うことまでは許容していなかった(甲11,原告本人2頁)以上,被告がAに対し本件各行為を行ったことについて,原告に対する不法行為が成立する。


4 争点(2)(損害額)
(1) この点,原告は,本件各行為がAの意思に反して被告から強引に行われたことを前提にして,AがPTSDと診断され,休職せざるをえなくなったとして,減収分の休業損害を請求している。
 しかし,そもそも,Aが本件各行為により,PTSDとなり休職し,減収が生じたとして,その休業損害は,Aに生じた損害であって,原告に生じた損害といえるのか疑問である。
 かかる点を措くとしても,前記2のとおり本件各行為が被告によってAの意思に反して行われたと認めるに足りる証拠はない以上,本件各行為がPTSDの原因になったと認めることはできない。

 また,本件各行為は4月16日から6月2日までに行われているが,前記1(13)のとおり,Aが通院を開始したのはそれから約1年経過した平成30年6月14日のことであり,PTSDと診断されたのは同年10月18日のことであるし,Aが休職するに至ったのは,令和元年7月からのことであるから,本件各行為との間の因果関係も認め難い。

 したがって,Aの減少分の休業損害についての原告の請求には,理由がない。

(2) 前記1(13)のとおり,本件各行為により,原告は,一度はAとの離婚も考えるなど原告とAとの間の婚姻共同生活の平穏は害されたといえるものの離婚にまでは至っていない。また,本件各行為は被告が同性のAに対して性行為を行ったというものであり,原告も性行為自体は許容していなかったものの,Aと被告が親しく付き合うこと自体は許容していた。

なお,被告も同性であるAと本件各行為に至ったことについては,問題がないとは認識していないし,相手方の配偶者が嫌だと感じるのであれば,良くないことである旨述べているところである(被告本人11,12頁)。これらの事情に加えて,その他本件における諸事情を総合的に考慮すれば,原告に認められるべき慰謝料は10万円,弁護士費用相当額は1万円とするのが相当である


(3) なお,被告は,本件各行為の主たる責任はAにあると主張するが,本件各行為の主たる責任については,Aと被告どちらか一方にあるとまでは認め難いから,かかる被告の主張は採用できない。

5 結語
 したがって,原告の請求は一部理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第15部 (裁判官 内藤寿彦)
 
 
 〈以下省略〉
以上:6,149文字

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