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令和 5年10月 3日(火):初稿 |
○結婚する気がない私的交際の結果、妊娠・中絶する例は山のようにあると思われますが、妊娠・中絶は女性側に多大な精神的・肉体的苦痛があるところ、男性はほとんどありません。そこで苦痛を受けた女性がほとんど苦痛のない男性に慰謝料請求の訴えを出す例があり、近いところでは「妊娠中絶慰謝料1100万円請求に対し110万円支払を命じた地裁判決紹介」を紹介していました。 ○「婚約に至らない交際で妊娠した場合の男の責任を認めた地裁判例紹介」で紹介した判例でも慰謝料905万円の請求に対し認めた金額は114万円で、双方不服で高裁に控訴しましたが、高裁も慰謝料金額は妥当として控訴棄却でした。 ○原告女性が、被告男性に対し、被告との子を妊娠・中絶したところ、被告は妊娠・中絶に係る原告の精神的・肉体的な苦痛や負担を軽減、解消するための行為をすべきだったのにこれをしなかったと主張し、不法行為に基づき、慰謝料200万円と弁護士費用・治療費等約36万円の合計236万円の請求をしました。 ○被告男性は訴状送達を受けても裁判所に出頭せず、欠席判決となりましたが、慰謝料200万円及び治療費いずれも2分の1に減額して請求を認めた令和4年3月23日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。妊娠中絶慰謝料は、激しく争っても、全く争わない欠席判決でも100万円程度が裁判官の常識のようです。 ********************************************* 主 文 1 被告は,原告に対し,117万4335円及びうち107万4335円に対する令和4年2月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し,236万2670円及びうち214万8670円に対する令和4年2月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,被告との子を妊娠・中絶したところ,被告は妊娠・中絶に係る原告の精神的・肉体的な苦痛や負担を軽減,解消するための行為をすべきだったのにこれをしなかったと主張し,不法行為に基づき,236万2670円(治療費14万8670円,慰謝料200万円及び弁護士費用21万4000円)及びうち214万8670円(治療費及び慰謝料の合計)に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の割合の遅延損害金の支払を求める事案である。1前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがない。) (1)当事者等 原告は,平成10年生の女性であり,被告は,平成9年生の男性である。 (2)経緯 ア 原告と被告は,17ないし18歳の頃,3ないし4か月交際していたが,その後は,友人として時々遊ぶ仲であった。 イ 原告と被告は,令和3年4月初め頃以降,原告が時々,被告宅に泊まるなどし,こうした中で性交渉し,原告は,これにより妊娠した。 ウ 原告は,同年6月10日,被告に対し,LINEで,自身の妊娠を伝え,「できたら産みたいと思っている」と伝えたところ,被告は,「認知はできないし,結婚もできない。もし産むならば養育費は支払う」と回答し,原告は「しばらく考えさせて欲しい」と返答した。 エ 原告は,被告のインスタグラムを見て,被告に交際相手ができたことを知るなどし,同年7月4日,被告に対し,「堕すこととした。書類にサインが欲しい」として,会って話合いをすることを求めた。 オ 原告は,同月5日,原告の知人とともに被告と会って話合いをした。被告は,原告に対し,当該話合いの中で,堕胎手術をする病院として新橋にある病院を勧め,「病院には一緒に行く,同意書にもサインする。」などと言い,堕胎に掛かる費用について,当初,被告が全部支払うと話したが,その後,半分を支払うとの意向になり,最終的には,病院にも同行しないと述べるに至った。 カ 原告は,同月9日,中絶手術を受けた。 キ 原告は,中絶手術後,体調を崩し,再度の手術を行い,気分障害,心的外傷後ストレス障害となって,同年8月30日から1か月間,仕事を休み,自宅療養した。 (3)堕胎手術や気分障害,心的外傷後ストレス障害により原告が負担した費用 ア 共立習志野病院産婦人科 1万2000円 イ フィデスレディースクリニック田町 12万7750円 ウ 大塚クリニック 8920円 2 請求原因 (1)前提事実(2)のとおり,原告は,被告との性交渉の結果,妊娠したが,被告は,原告の中絶手術に関して病院へ同行せず,中絶の同意書にも署名せず,原告及び原告代理人からの手紙にも対応しなかったものであり,被告が,原告の精神的・肉体的な苦痛や負担を軽減,解消するための行為をするべきだったのにこれをしなかったことにつき,不法行為が成立する。 (2)原告に生じた損害 ア 治療費合計14万8670円(前提事実(3)) イ 慰謝料200万円 原告は,中絶手術を受け,その後,仕事に従事できなくなるなどして,精神的・肉体的に多大な損害を受けたことから,慰謝料は200万円が相当である。 ウ 弁護士費用21万4000円 3 被告の認否反論等 被告は,準備書面を提出せず,口頭弁論の期日に出頭しない。 第3 当裁判所の判断 1 被告は,請求原因事実を争うことを明らかにしないから,自白したものとみなされる。 2 前提事実(2)のとおり,原告は,被告との性交渉の結果,妊娠・中絶することとなった。 共同して行った先行行為の結果,一方に心身の負担等の不利益が生ずる場合,他方は,その行為に基づく一方の不利益を軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があるところ,前提事実(2)のとおり,被告は,中絶手術に関して病院への同行や同意書への署名に協力せず,一度は費用を負担する旨を述べながら,結局はその費用も負担しなかったことが認められ,上記義務を履行しなかったことは明らかであり,不法行為が成立する(以下「本件不法行為」という。)。 そうすると,原告が負担した,治療費合計14万8670円の2分の1である7万4335円については,本件不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。 また,被告の本件不法行為により,原告は精神的苦痛を被ったものと認められるところ,前提事実(2)記載の被告の態度,原告に生じた心身の不調,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,上記苦痛に対する慰謝料は100万円,これと相当因果関係のある弁護士費用としては,10万円が相当ということができる。 3 よって,原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容することとし,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事37部 裁判官 瀬戸麻未 以上:2,831文字
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