令和 5年 9月29日(金):初稿 |
○「子の意思に反する引渡申立に間接強制金支払を否認した高裁決定紹介」の続きで、子の引渡の間接強制申立に関する令和3年12月23日富山家裁決定(判タ1510号198頁)全文を紹介します。 ○債権者が、債権者と債務者との間の長女D(平成21年生まれ、決定時11歳)及び二女C(平成25年生まれ、決定時7歳)について、D及びCの監護者をいずれも債権者と定めて債務者に対してCの引渡しをするよう求め、これについて債権者の請求を認める旨の審判がなされ、この審判は令和3年11月29日確定しました。Dは債権者への引渡が実現しているようです。 ○その後Cの債権者への引渡しを試みたものの、最終的にCが債務者宅に帰宅する旨を述べたことから、引渡が実現できなかったため、債権者が、債務者に対し、二女Cの引渡義務履行済みまで1日当たり3万円を支払えとの間接強制申立を求めました。 ○これに対し、債務者は、Cの心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつCの引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる行為を行っており、その債務の履行の提供を行っているということができる一方、現時点においてCに一定の心理的な負荷がかかっており、これ以上に債務者が行うべき行為を具体的に想定することは困難というべきであるから、このような事情の下において、本件審判を債務名義とする間接強制決定により、債務者に対して金銭の支払を命じて心理的に圧迫することによってCの引渡しを強制することは、権利の濫用に当たるとして、申立てを却下しました。 ○「子の意思に反する引渡申立に間接強制金支払を認めた家裁決定紹介」で紹介した令和3年7月13日和歌山家裁決定の事案でも、子の引渡を試みて、債務者は、待ち合わせ場所に本件子を連れてきたが、債権者との待ち合わせであることを伏せていたため、本件子が強く反発し、円滑な交流を実現することはできず、引渡しを強行すれば子の心身に有害な影響を及ぼす旨主張しましたが、認められませんでした。間接強制を認めるかどうかの基準が、いまいち不明確です。 ******************************************* 主 文 1 本件申立てをいずれも却下する。 2 申立費用は債権者の負担とする。 理 由 第1 申立ての趣旨 1 富山家庭裁判所令和2年(家)第3813号子の引渡し申立事件の審判の執行力ある正本に基づき,債務者は,債権者に対し,当事者間の二女C(平成25年*月*日生)を令和3年10月20日までに引き渡せ。 2 債務者が前項の期間内に前項記載の債務を履行しないときは,債務者は,債権者に対し,上記期限の翌日から履行済みまで1日当たり3万円の割合による金員を支払え。 第2 当裁判所の判断 1 認定事実 本件記録によれば,次の各事実を認めることができる。 (1)債権者は,当庁に対し,令和2年5月25日,債権者と債務者との間の長女D(平成21年*月*日生。以下「D」という。)及び二女C(平成25年*月*日生。以下「C」という。)の監護者を債権者と定め,Cの引渡しを求める旨の調停を申し立てたが(当庁令和2年(家イ)第188号ないし第190号),上記調停は,同年11月12日,不成立となり,審判に移行した(当庁同年(家)第3811号ないし第3813号)。 そして,当庁は,Dは一貫して債権者との生活を希望し,債権者・債務者宅でCと生活したいとの意向を明確にしていること,Cは債権者・債務者の別居前と同様に家族全員での生活に戻りたいと願う一方で,一向に好転しない現実を目の前にし,D以上に心理的葛藤に苦しんでいること,D及びCの主たる監護者を債権者と債務者のいずれか一方であると断定することができず,別居後の監護状況にも特段の問題がないことなどを指摘しつつも,D及びCの監護者をいずれも債権者と定め,債務者に対してCの引渡しを命ずる旨の審判をした(以下「本件審判」という。)。 (2)債務者は,これを不服として即時抗告し,名古屋高等裁判所金沢支部は,令和3年9月1日,上記抗告を棄却する旨の決定をした。その後,債務者は許可抗告及び特別抗告をしたが,名古屋高等裁判所金沢支部は,同年10月11日,許可抗告を許可しない旨の決定をし,最高裁判所は,同年11月29日,特別抗告を棄却する旨の決定をした。 (3)債務者は,令和3年9月14日,債権者とCを面会させ,同月22日,債権者がCに接してCの引渡しを試みたが奏功せず,その後,債務者が立ち会わない状況下でCと債権者を面会させてCを債権者に引き渡す試みをすることとなった。そして,債権者は,同年11月3日にCの学用品及び衣類等を準備した上で債務者代理人が現在の債権者宅にCを連れて入り,債権者代理人及び債務者代理人が立ち会ってCと債権者及びDを面会させ,Cがそのまま債権者宅に留まることを希望した場合,債務者代理人と玄関先で待機している債務者は退去するなどの方法でCを債権者に引き渡す方法を,債権者代理人を通じて提案し,債務者は,債務者代理人を通じてこれを受諾した。そして,上記の方法によりCの引渡しを試みたものの,最終的にCが債務者宅に帰宅する旨を述べたことから,上記引渡しは奏功しなかった。 (4)債務者は,令和3年11月19日,債務者代理人を通じ,債権者に対し,再度Cを引き渡すことを試みるかどうかの方針を尋ねたところ,債権者は,同年12月2日,債権者代理人を通じ,Cを無条件で引き渡すのであれば引渡しを実施するための協議に応じる旨の返答をした。これに対し,債務者は,同月10日,債務者代理人を通じ,Cに確認したところ,債務者又は債務者代理人が付き添わなければ債権者の元に行かないとのことであり,Cを単独で債権者宅に連れて行くことは困難である旨を連絡した。 (5)Cは,令和3年12月8日,○○内のクリニックにおいて診察を受け,恐怖症性不安障害と診断された。 2 検討 子の引渡しを命ずる審判は,家庭裁判所が,子の監護に関する処分として,一方の親の監護下にある子を他方の親の監護下に置くことが子の利益にかなうと判断し,当該子を当該他方の親の監護下に移すよう命ずるものであり,これにより子の引渡しを命ぜられた者は,子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ,子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ,合理的に必要と考えられる行為を行って,子の引渡しを実現しなければならないものである。 このことは,子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。したがって,子の引渡しを命ずる審判がされた場合,当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは,直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない(最高裁判所平成31年4月26日第三小法廷決定・判時2425号10頁参照)。 もっとも,本件においては,債務者は,令和3年9月14日,Cを債権者に引き渡すことを試みたものの奏功せず,さらに,債権者の提案により,債務者がCの目の前にいない状況下で債権者にCを引き渡すべく,同年11月3日,Cの学用品及び衣類等を持参してCを債権者宅に連れて行き,債権者代理人及び債務者代理人が立ち会って債権者宅内で債権者及びDと面会させてCの意思に委ね、Cがそのまま債権者宅に留まることを望めばそれがかなう状況を作ったものの,最終的に,Cは債務者宅に帰宅することを述べたため,引渡しが奏功しなかった。 そして,Cは,現状,債務者又は債務者代理人の立会いなく単独で債権者宅に行くことを望んでいない。このような経過に照らすと,債務者は,Cの心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつCの引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる行為を行っているから,その債務の履行の提供を行っているということができる。 他方,現時点においてCに一定の心理的な負荷がかかっており,これ以上に債務者が行うべき行為を具体的に想定することは困難というべきである。このような事情の下において,本件審判を債務名義とする間接強制決定により,債務者に対して金銭の支払を命じて心理的に圧迫することによってCの引渡しを強制することは,過酷な執行として許されないと解される。 したがって,このような決定を求める本件申立ては,権利の濫用に当たるというべきである。 よって,本件申立ては相当でないから,これを却下することとして,主文のとおり決定する。 以上:3,485文字
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