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婚約の成立を否認して慰謝料支払請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 5年 8月 3日(木):初稿
○「婚姻予約成立要件の誠心誠意の約束とは」に、婚約の成立要件として、結納などの形式は必要なく当事者間に誠心誠意結婚の約束があれば足り、誠心誠意の約束とは、結納があったと同視できる程度の社会的公認或いは公然性が必要で、具体的には、先ず両親への報告が必要であり、更に友人、同僚等にも公表し、当事者の周囲の人間の殆どからあの2人は婚約者同士であると認められていることが必要と記載していました。

○原告女性(歯科医師)が、被告男性(歯科医師)に対し、被告が原告との婚約を破棄したことが債務不履行に当たると主張して、債務不履行に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の支払を求めました。これに対し、原告が指摘する事情は,婚約をした男女間でなければあり得ない事情ではなく、原告と妻帯している被告が婚約をしたことを裏付けるものとまではいえないとして、婚約の成立を否認し、請求を棄却した令和4年3月25日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○原告女性は、被告男性が、家族以外面会できない原告入院中に、「(未来の)ダンナ」として見舞いに来たこと、被告の全財産を「内縁の妻」である原告に遺贈し、原告と同じ墓への埋葬を希望する旨の遺言を作成したこと、原告に対し325万円のネックレスをプレゼントしたこと等を婚約成立の根拠としてあげていますが、判決は、いずれも婚約をした男女間でなければあり得ない事情とは認め難く,原告と妻帯している被告が婚約をしたことを裏付けるものとまではいえないとして婚約成立を否認しました。被告の妻帯が一番の障害と思われます。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する令和2年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告との婚約を破棄したことが債務不履行に当たると主張して,債務不履行に基づく損害賠償請求として,慰謝料500万円及びこれに対する被告が婚約を破棄したと原告が主張する令和2年1月30日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)当事者
ア 原告は,昭和42年生まれの女性である。
 原告は,かつて婚姻した経験を有しており,長男及び長女と生活している(原告本人)。

イ 被告は,昭和30年生まれの男性である。
 被告は,C(以下「被告妻」という。)と婚姻し,同人との間に長女及び二女をもうけた(甲10)。

(2)原告と被告との交際
 原告と被告は,平成31年1月5日,各々が所属する歯科医師会の合同新年会で知り合って連絡先を交換し,その後に交際するに至った。

3 争点及び争点に関する当事者の主張
 原告と被告が交際をしていたこと自体は当事者間に争いがないところ,本件の争点は,原告と被告との婚約の成否である。
(原告の主張)
 原告は,被告から積極的に交際を持ち掛けられ,デートのたびに「結婚してくれ」と言われたことや,原告が被告に紹介したD弁護士(以下「D弁護士」という。)から被告と被告妻との婚姻関係は既に破綻しており,原告が被告と交際しても不倫には当たらないと平成31年3月中旬頃に言われたこと,被告から被告妻との離婚が令和元年夏頃に成立する予定である旨を伝えられたことから,原告は,被告からの婚約の申込みに応じることとした。
 そして,原告は,平成31年3月28日,被告から「結婚してくれ」と言われたことから,これを承諾し,原告と被告との婚約が成立した。

(被告の主張)
 被告は,平成31年4月頃から原告が退院した令和元年5月中旬頃まで原告と交際しており,10回位食事をするなどしたが,被告が原告に対して結婚してほしいなどと発言したことはない。原告は,入院中に原告の姉から被告のことを悪く言われたことを端緒として被告に冷たく接するようになり,被告と会う回数,連絡する回数は非常に少なくなっていた。このように原告と被告との婚約は成立していない。

第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる

(1)原告と被告との交際
 原告と被告はいずれも歯科医師であるところ,被告は,平成31年1月5日に開催された歯科医師会の合同新年会で原告と知り合い,原告をゴルフに誘うようになった。原告は,当初,被告が婚姻していることを知らなかった。
 被告は,同月20日頃,ゴルフの際,原告に対し,婚姻しているものの,被告妻との婚姻関係がうまくいっていない旨を伝えるとともに,交際してほしいと申し入れた。これに対し,原告は,被告と交際すると不貞行為に当たると考え,被告の申入れを断った。

 原告は,その後,被告に対し,被告妻との離婚に関する法律相談をする相手として,原告の知人のD弁護士を紹介した。
 原告は,D弁護士から被告と交際をしても不倫には当たらないと言われたことから,被告と交際しても不貞行為には当たらないと判断し,被告からの交際の申入れを受け入れることとし,同年3月31日には被告と性交渉をし,その後も被告とゴルフに行く,店舗で食事をするなどした。(甲5,9,原告本人,被告本人)

(2)被告の離婚に向けた準備
 被告は,D弁護士に被告妻との離婚について相談し,平成31年4月12日頃,D弁護士と委任契約を締結した。
 被告は,同月頃には被告妻と別居するための住宅を探し始め,新居の賃貸借契約を申し込むに当たり,原告に対し,賃貸借契約の審査に落ちた場合には連帯保証人となることを依頼した。被告は,令和元年5月20日頃,品川区αに所在するマンションの賃貸借契約を締結したが,実際には連帯保証人は不要であった。

 被告は,同月25日,上記マンションに転居して別居を開始した。被告は,原告に対し,同月28日には被告妻から行動調査をされている可能性があるとして行動を自重する旨のメッセージを,同年6月3日には原告と二人きりで会うことは控える旨のメッセージを,同年7月10日には被告妻との離婚調停が開始するまでは,知人を含めて会うことは別として,原告と二人きりで会うことを控える旨のメッセージをそれぞれラインで送信した。

 被告は,同年8月1日,D弁護士を申立人代理人として,被告妻を相手方とする離婚調停を申し立て,同年9月4日や同年11月6日に調停期日が行われたが,調停は成立しなかった。(甲2,5,8,9,乙1,5,原告本人,被告本人)

(3)原告の入院
 原告は,令和元年5月4日から脳梗塞により昭和大学病院に入院した。被告は,原告と面会するために同病院に連絡を取り,家族以外との面会はできないと聞いたことから,原告の「(未来の)ダンナ」として同月6日以降,原告の見舞いに赴いた。(甲1,5,9,乙5,原告本人,被告本人)

(4)被告のスコットランド旅行
 原告と被告は,原告の姉及び原告の知人のE(以下「E」という。)とともに,ゴルフ等の目的でスコットランドへの旅行を予定していたところ,原告は入院の影響により旅行を取りやめた。他方,被告は,予定通りに令和元年6月17日から同月24日までの間,原告の姉及びEとともにスコットランドへ旅行した。

 原告は,旅行後に原告の姉から,旅行中の被告の態度が失礼であったなどと聞かされた。(甲5,9,乙5,被告本人)

(5)被告による遺言の作成等
 被告は,令和元年6月頃,青森県に所在する墓を移転するために,原告から紹介を受けた泉岳寺を訪れた。
 被告は,同年7月3日,被告の全財産を「内縁の妻」である原告に遺贈する旨,原告と同じ墓への埋葬を希望する旨の遺言を作成し,原告に遺言を撮影した写真をラインで送信した。(甲3,8,9)

(6)令和元年7月下旬以降の状況等
 原告と被告は,令和元年7月下旬以降,電話やラインを用いて連絡を取ることが少なくなった。
 原告と被告は,同年9月6日,港区高輪に所在するステーキハウスで食事した。原告は,その後,被告に対し,離婚調停の進捗状況を確認する旨のメッセージや,被告が原告の財産目当てであると疑う人物がいるところ,被告の言動からそのように疑われる旨のメッセージをラインで送信した。

 原告と被告は,同月26日,Eとともに中央区銀座に所在する高級寿司店において食事し,被告は,同日,原告に対し,325万円のネックレスを購入してプレゼントした。
 被告は,同月27日,原告を被告の母が居住する青森県への旅行やゴルフに誘ったものの,原告は,同年10月は多忙であるなどとしてこれらを断った。原告は,同年9月27日や同月29日に被告に対し,被告の長女及び二女を紹介するよう求める旨のメッセージをラインで送信し,被告は,これを了解する旨のメッセージをラインで返信した。

 原告は,令和2年1月29日,被告に対し,被告が委任している弁護士の連絡先を教えるよう求める旨のメッセージを送信した。被告は,同月30日,原告に対し,以前原告からストレスになるため電話をしないよう,特別な用事がなければラインをしないよう言われたとして関わりを持たないよう求める旨のメッセージをラインで送信した。原告は,その後も,被告に対し,原告が被告の連帯保証人になっていないかを確認する旨のメッセージをラインで送信した。

 このように,原告と被告は,令和元年7月以降,電話やラインを用いて連絡を取ることが少なくなっており,同年9月27日以降は会うこともなかった。また,原告と被告は,交際している間,結納をしたことも,同居したこともなかった。(甲4ないし6,8,9,原告本人,被告本人)

2 争点(原告と被告との婚約の成否)に対する判断
(1)原告は,平成31年3月28日に被告との婚約が成立した旨主張する。確かに,原告と被告は,性交渉をしたほか,複数回食事やゴルフをし,入院した原告を被告が見舞い,原告の姉及びEとともにスコットランド旅行を計画し,被告は遺言に原告を内縁の妻であると記載し,原告は被告の子らと会うことを希望するなど,相当程度親密な交際をしていたことが認められる。

(2)しかしながら,原告と被告は結納をしておらず,同居したこともない上,原告と被告との連絡状況をみても,令和元年7月下旬以降はラインや電話を用いた連絡の頻度が減っており,同年9月27日以降は会うこともなかったというのであって(前記認定事実(6)),原告が令和2年1月以降に被告に対して,原告が被告の連帯保証人となっていないかを確認する旨の連絡をするのみで,原告と被告の関係性について確認をする,あるいは,交際の継続を求めることを目的とする連絡をした形跡がうかがわれないこと(弁論の全趣旨)を併せ考えると,原告と被告とが婚約をしていたとすれば極めて不自然な事態が生じているというほかない。

そもそも,被告は,原告と交際を開始した当時は婚姻しており,これを原告も認識していたところ(前記認定事実(1)),被告が原告と婚姻するためには被告妻と離婚することが条件となっており,被告妻の意向次第では被告と被告妻との離婚がいつ成立するか明らかではない状況下で原告と被告が婚約をしたというのは甚だ疑問である。

実際,被告妻は被告の動向を把握するために被告の行動調査をしていたことがうかがわれ、原告自身もかかる状況を認識していたことからすると(前記認定事実(2))原告も被告が被告妻と離婚するためには相当程度の困難があることを認識していたといえ,それにもかかわらず,原告が被告との結婚を実現することができるなどと考えていたというのも理解し難い。

 他方,被告は,原告に対し,原告との交際がうまくいき,被告妻との離婚も成立したら,原告との結婚を視野に入れて交際したいと伝えたことはあると思う旨供述するところ(被告本人19頁),被告が被告妻との離婚を望み,かつ,原告に交際してほしいと申入れ,実際に交際していたことに照らすと,被告の上記供述は自然な内容であるといえ,相応に信用することができるというべきである。原告は,被告からの交際の申入れを,一方的に婚約であると主張しているにすぎないというべきである。 

 以上に照らすと,被告は,原告に対し,将来的には原告との結婚を視野に入れて交際することを申し入れ,原告はこれに応じたにとどまり,このような交際関係を超えて,原告と被告との間に婚約が成立したと認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。

(3)これに対し,原告は,原告と被告が性交渉をしたこと,被告が新居の賃貸借契約を締結するに当たって原告が連帯保証人となることに応じたこと,被告が将来の夫として入院中の原告を見舞ったこと,被告が原告の姉及びEとスコットランド旅行をしたこと,被告が遺言に原告を内縁の妻と記載したこと,被告が原告と同じ墓への埋葬を希望し,原告が紹介した墓を見に行ったこと,被告が原告に対して婚約指輪に代えて高額のネックレスを購入したこと,被告が原告を被告の母が居住する青森県への旅行に誘い,原告に被告の子らを紹介することを了承していたことなどからすると(前記認定事実(1)ないし(6)),原告と被告との間に婚約が成立したことが認められるなどと主張する。

しかしながら,原告と被告はいずれも婚姻経験を有し,歯科医師として就業している成年の男女であるところ(前記前提事実(1)),性交渉をし,交際相手の連帯保証人となることに応じ,入院中の交際相手を見舞うために身分関係を偽り,交際相手と親族や友人を含めて海外旅行を計画し,親族に交際相手を紹介しようとすることは,婚約にまで至らずとも,一般的な交際関係においてもあり得る事情であるといえる。

また,被告が原告に比べて年長であることに照らすと(同),被告が高額のネックレスを購入したことも,年長の男性が年少の交際相手の女性の歓心を買おうとしてした言動の範疇ということができる。さらに,被告が被告妻との離婚を希望していたことに照らすと(前記認定事実(2)),被告が遺言に原告を内縁の妻と記載したことや原告と同じ墓への埋葬を希望したことも,行き過ぎた言動であることは否定し難いものの,原告と被告が婚約をしたからこその言動とみることはできない。

このように,原告が指摘する事情は,婚約をした男女間でなければあり得ない事情とは認め難く,原告と妻帯している被告が婚約をしたことを裏付けるものとまではいえないから,原告の主張を採用することはできない上,他に原告と被告が婚約をしたことを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。

(4)以上によると,原告と被告が婚約をしたとは認められない。


3 したがって,被告が原告に対して債務不履行責任を負うとは認められない。

第4 結論
 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条により主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第25部 裁判官 熊谷浩明
以上:6,237文字

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