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不貞行為者ということだけで親権者になれないことはないはず

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令和 5年 7月26日(水):初稿
○広末涼子氏が子供達の親権者となって離婚を発表したところ、超有名弁護士が、「不倫して裁判になったら親権を得ることはない」とTV放送で解説しているとのことで、おやっと思いました。子供が居る夫婦の離婚の際は、先ず子供の親権者を決めなければならず、協議で決まらない場合家裁が決めますが、その判断基準は、「親権の概観-離婚の際の親権者指定基準概観1」に以下の様に記載した通りです。
家裁実務で定められている親権者指定の具体的基準は次の通りです。
①乳幼児期における母性の優先
②継続性の原則
③子の意思
④養育環境の比較
⑤兄弟姉妹不分離
⑥面接交渉の許容性
等を子の年齢や状況に応じてその優劣を検討し、父母の比較考量をして、先ず調停で合意を探り、合意できない場合は、審判や判決で裁判所が指定します。


○妻の不貞行為を理由とする離婚の場合でも同じで妻が不貞行為をしたとの理由だけで妻が親権者にはなれないということはありません。「不貞行為をしたら親権者になれませんか?【弁護士が解説】」というサイトでも「不貞行為そのものは親権者の判断に影響しないと可能性が高いと考えられます。」と解説されています。

○念のため裁判例を探したところ、平成4年12月24日東京高裁決定(判時1446号65頁)がありましたので紹介します。不貞行為をした有責配偶者である妻から夫への離婚請求と16歳の二男・三男の親権者を妻と指定することを認めています。

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主  文
一 原判決を取り消す。
二 控訴人と被控訴人とを離婚する。
三 控訴人・被控訴人間の二男二郎(昭和48年○月○日生)、三男三郎(昭和51年○月○日生)の親権者を控訴人と定める。
四 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

理  由
一 控訴人は、主文同旨の判決を求め(慰謝料及び財産分与の請求は、当審において取り下げた。)、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二 本件の事案の概要
 本件の事案の概要は、原判決記載(二枚目表三行目から四枚目表末行まで)のとおりであり、証拠関係は本件記録中の原審及び当審の証拠関係目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

三 当裁判所の判断
1 事実の経過

 《証拠略》によると、次のとおり認められる。
(一) 控訴人(昭和26年○月○日生)と被控訴人(昭和14年○月○日生)は、昭和44年8月プールで知り合い、昭和45年12月21日婚姻した。当時控訴人は19才、被控訴人は31才であつた。二人の間には、長男一郎(昭和46年○月○日生)、二男二郎(昭和48年○月○日生)、三男三郎(昭和51年○月○日生)の三子がある。

(二) 控訴人夫婦は、婚姻後何回か転居したが、昭和51年に甲田市乙田に中古住宅を購入し、昭和55年頃には、借金をして増築をした。ところが、それから半年も経つか経たないうちに被控訴人はまた転居先の物色を始めた。控訴人は、借金が増え、ローンの返済が多くなつて家計を圧迫するので反対したが、被控訴人は甲田市乙田に土地、家屋を購入し、昭和56年3月に一家は転居した。ローンの返済が月5万円から15万円に増えたこともあつて、控訴人はこの頃からパートで働きに出るようになり、昭和58年8月には、乙山株式会社(以下「乙山」という。)に営業社員として就職した。控訴人は、次第に仕事に熱意を増し、帰宅時間が遅くなることも多くなつた。それにつれて、控訴人は被控訴人が外で働いているのは同じなのに家事を分担してくれないことに不満を抱くようになり、一方被控訴人は、控訴人の帰宅の遅い理由を怪しみ、異性関係に疑いを抱き始めた。

(三) 昭和60年6月8日(土曜日)控訴人と被控訴人は連れ立つて夕飯の買物に出掛けたが、用があつて途中で分かれ、被控訴人は先に帰宅した。控訴人は、夕飯の時間になつても帰らず、被控訴人は、子供らと先に夕飯を済ませたが、控訴人はそれでも帰らなかつた。行先も告げていなかつたので被控訴人は立腹し、玄関のドアに「今夜は妹の家に行つて泊めてもらえ」と貼紙に書いて内から鍵をかけた。その頃控訴人は、会社の同僚と酒を飲んでいたのであるが、夜9時頃帰宅したところ右の貼紙を見、「それなら出て行つてやろう。」と思い、スナックに寄つたうえ、会社の顧客の一人で住居を知つていた丙川(控訴人と同年令の独身男性で一人暮しの公務員)のマンションに行き、泊めてもらつた。

このことから夫婦関係は一気に険悪化し、控訴人は、被控訴人と別れ丙川と一緒になつてもいいと考え、7月から8月にかけ丙川宅に同居し、三人の子供達の食事や洗濯のため、そこから自宅に通うような生活をしたが、親族に説得され、丙川と別れ、やり直すつもりで被控訴人の許に戻つた。被控訴人も子供達のためにも家庭を再建しようと考え、控訴人が「申し訳ないことをしました。これからは改めます。」と謝罪したこともあつて、控訴人に対し、丙川の不貞行為を宥恕する旨の意思を表明した。控訴人と被控訴人との婚姻関係は、それから4、5か月間は平穏な状態が続き、夫婦関係も復活した。

(四) しかし、その後被控訴人は、控訴人と丙川との関係が続いていると認めるべき確かな証拠もないのに、これが続いているのではないかとの疑いを捨て切れず、いつまでもそのことにこだわり、「丙川とまだ会つているのだろう。仕事の関係で他の男と体の関係を持つても構わない。しかし、結婚した以上、絶対離婚はしない。夫として一生束縛してやる。死ぬまで自由にはさせない。」などと言つて控訴人を責めた。

控訴人はこのような被控訴人の態度に生理的嫌悪を感ずるようになり、子供の前での争いを避けるため、口もきかず、顔を合わせることも避けるようになり、昭和61年夏以後は性関係も拒否し、子供の世話はするが、被控訴人に対しては、食事の世話も洗濯もしなくなつた。被控訴人も、家庭に帰つてもこのような状況であつたことから外で憂さを晴らし、毎日深夜泥酔して帰るようになり、家計にも月15万円しか入れなくなつた。

(五) 昭和62年夏被控訴人の勤めていた会社で希望退職の募集があつた。被控訴人は右のような家庭内別居というような状況もあつて、会社を辞めて自分で店を開こうと転職を決意し、募集に応じた。しかし、控訴人に話せば、安定収入を失うことから反対されるに決まつていると考えたので、話をせず、昭和63年1月それまで勤めていた会社を退職し、自宅を担保に1000万円を借り入れ、退職金700万円を合わせて、丁原市丁田に実兄と共にアイスクリームと焼きそばの店を開く準備にとりかかつた。被控訴人が退職した約1か月後になつて、控訴人は被控訴人の勤めていた会社に電話で問い合わせた結果、このことを知り、被控訴人の出店計画に強く反対した。しかし、被控訴人は控訴人やその親族の反対を振り切つて計画を実行し、同年4月から丁原市丁田にアイスクリームと焼きそばの店を開店し、店に泊り込んで帰宅しないことが多くなつた。しかし、商売はうまくいかず、控訴人に渡す生活費も月8万円に減少し、翌年は正月にも被控訴人は帰宅しなかつた。

(六) このような生活を続けることに疲れた控訴人は被控訴人と縁を切つて新しい生活を始めようと決意し、平成元年3月現住所にマンションを借りて乙田の家から三人の子と共に転居し、自分の方から別居に踏み切つた。入れ替りに、被控訴人は自宅に戻つた。その時以来、控訴人は勝手に出て行つたのだから、と言つて被控訴人は生活費を全く渡さなくなつた。

(七) 控訴人は、被控訴人が会社を辞めて店を始めようとしていた昭和63年3月と自分が乙田の家を出た直後の平成元年4月に夫婦関係調整の調停を申し立てたが、被控訴人は控訴人の離婚の求めに応じなかつたので、いずれも取り下げた。しかし、被控訴人は生活費を渡さないので、控訴人は平成元年6月婚姻費用分担の調停を申し立て、平成2年5月「双方とも平均月収は30万円を上回つているが、3人の子の養育費の分担として月8万円を支払え。」との審判があり、被控訴人の即時抗告は同年10月棄却された。

控訴人は同年12月本訴を提起した。そうすると被控訴人は、乙田の土地家屋を売却し、控訴人が原審で求めていた財産分与と慰謝料の合計2532万5000円から振込手数料700円を控除した金額を、被控訴人の要求に応ずる経済的能力はあることを示す趣旨で乙山に預託し、婚姻費用も審判に従つて支払つている。そして被控訴人は、自宅を売つたので肩書住所地のアパートに1人で暮し、その後丁原の店もやめて、会社勤めをしている。別居以来、調停や裁判の席以外に被控訴人は控訴人と会うことも音信もないが、今も離婚に応ずる意思は全くなく、控訴人の婚姻生活への復帰を求めている。

(八) 当審の口頭弁論終結時である平成4年10月27日、長男は21才で会社員、二男は19才で大学生、三男は16才で自衛隊員である。

2 以上認定の事実関係によれば、控訴人と被控訴人との間の婚姻関係は既に破綻し、控訴人の離婚意思は固く、被控訴人は離婚には応じないものの、これまでの態度を改め、自分の方から関係改善への努力をするような兆しも見られないことに照らすと、回復の見込みはないものというべきである。

 ところで、旧民法814条2項、813条二号は、妻に不貞行為があつた場合において、夫がこれを宥恕したときは離婚の請求を許さない旨を定めていたが、これは宥恕があつた以上、再びその非行に対する非難をむし返し、有責性を主張することを許さないとする趣旨に解される。この理は、現民法の下において、不貞行為を犯した配偶者から離婚請求があつた場合についても妥当するものというべきであり、相手方配偶者が右不貞行為を宥恕したときは、その不貞行為を理由に有責性を主張することは宥恕と矛盾し、信義則上許されないというべきであり、裁判所も有責配偶者からの離婚請求とすることはできないものと解すべきである

本件において、既に認定したところによれば、被控訴人は、控訴人の丙川との不貞行為について宥恕し、その後4、5か月間は通常の夫婦関係をもつたのであるから、その後夫婦関係が破綻するに至つたとき、一旦宥恕した過去の不貞行為を理由として、有責配偶者からの離婚請求と主張することは許されず、裁判所もこれを理由として、本訴請求を有責配偶者からの離婚請求とすることは許されないというべきである。

 そして、前記認定の事実関係によると、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、既に回復し難いほどに破綻したものというべきであるから、民法770条1項五号にいう「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するものというべきであり、右破綻について控訴人に専ら又は主として責任があるとはいえないから、控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。

 控訴人と被控訴人との間の二男二郎(昭和48年○月○日生)及び三男三郎(昭和51年○月○日生)の親権者は、前記認定の事実関係に照らすと、控訴人と定めるのが相当と認められる。


3 以上のとおり、控訴人の本訴請求は正当として認容すべきであり、これを棄却した原判決は失当というべきであるから、これを取り消し、二郎及び三郎の親権者を控訴人と定め、訴訟費用の負担につき民訴法96条、89条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 白石悦穂 裁判官 犬飼真二)
以上:4,679文字

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