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離婚意思欠如無効離婚届出提出者に損害賠償を命じた地裁判決紹介

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令和 5年 6月21日(水):初稿
○離婚届に妻(専門学校講師・歯科医師資格有り)の署名押印はあるがその離婚意思を欠いて無効である離婚の届出をした夫(医師)が妻の真意を確認することなくその届出をした過失により妻としての地位を不安定な状態に置いてこれを侵害したなどとして、妻が夫に対し、慰謝料・弁護士費用合計950万円の損害賠償請求をしました。

○これに対し、夫の妻に対する不法行為に基づく損害賠償責任が認められるが、妻にも、離婚届用紙に署名押印して夫に交付し、且つ、自宅を出た夫と連絡がとれたにもかかわらず離婚意思のないことを明確に伝えなかった過失が認められるとして50%の過失相殺を認めて、最終的に夫に対し161万5900円の支払を命じた令和4年3月28日東京地裁判決(判時2552号○頁)関連部分を紹介します。事案概要は以下の通りです。
h21.8.8婚姻、h25長女、h26長男誕生
h29.9.17夫が子らを連れて別居
h29.9.20夫が離婚届提出
h29.11.15妻が夫を相手に協議離婚無効確認調停申立
h30.2.27妻が離婚無効確認訴訟提起、h31.3.27離婚無効確認判決、r1.10.5離婚無効判決確定


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主   文
1 被告は、原告に対し、161万5900円及びこれに対する令和2年10月25日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の動産を引き渡せ。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は、原告に対し、950万円及びこれに対する令和2年10月25日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 主文第2項と同旨

第2 事案の概要
 本件は、原告が、夫である被告に対し、〔1〕原告に離婚意思がないのに離婚届を提出し、子らを連れ去り、原告と子らとの面会交流を妨げたとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料800万円及び弁護士費用150万円の合計950万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年10月25日から支払済みまでの民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、〔2〕別紙物件目録記載のバッグは被告から贈与を受けた原告の固有財産であるとして、所有権に基づく返還請求として、同バッグの引渡しを求める事案である。

1 前提事実(証拠等により認定した事実はその証拠等を付記する。証拠等の付記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)原告(昭和47年○月生)と被告(昭和48年○○月生)は、平成21年8月8日に婚姻をし、両者の間に長女(平成25年○月生)及び長男(平成26年○月生)が生まれた。(甲1)

(2)原告ら家族4人は、原告の肩書住所地所在のマンションに居住していたが、平成29年9月17日、被告が子らを連れて同所を出た後戻らず、以後、原告と被告は別居し、子らは被告と同居している。(弁論の全趣旨)

(3)被告は、平成29年9月20日、子らの親権者を父である被告と定めて原告と被告とがその協議で離婚をする届出(以下「本件離婚の届出」といい、その離婚を「本件離婚」という。)をした。

(4)原告は、平成29年11月15日、被告を相手に、本件離婚に係る協議離婚無効確認調停をさいたま家庭裁判所越谷支部に申し立て、同調停が不成立となった後の平成30年2月27日、本件離婚の無効確認訴訟を同支部に提起した。

同支部は、平成31年3月27日、本件離婚の届出がされた時点で原告は離婚の意思を有していなかったとして、本件離婚が無効であることを確認する旨の判決を言い渡し、その控訴審である東京高等裁判所も、令和元年9月18日,本件離婚の届出がされた時点で原告には離婚の意思がなかったから本件離婚は無効であるとして、被告の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、同年10月5日、これらの判決は確定した。(甲2、3、乙17)

(5)原告は、上記(4)の協議離婚無効確認調停と同時に、被告を相手方とする子らとの面会交流調停をさいたま家庭裁判所越谷支部に申し立てた。(乙1、17)

(6)被告は、平成25年4月9日、原告のために、別紙物件目録記載のバッグ(以下「本件バッグ」という。)を購入した。被告は、現在、本件バッグを被告の肩書住所地所在の住居において所持・保管している。(乙15、弁論の全趣旨)

2 当事者の主張の要旨

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 損害賠償請求について
(1)前記前提事実のほか、証拠(甲2~11の2、甲13、14、17、18、乙20~22、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件離婚の届出に至る経緯やこれに関連する事情等に関して、次の事実が認められる。
ア 原告は歯科医師の資格を有する専門学校等の講師であり、被告は医師である。

イ 原告は、被告の精子異常のために不妊治療を経て子らを出産し、その治療の際には採卵時の全身麻酔を10回以上受けた。

ウ 原告と被告とは、自宅の片付けや育児等を巡り、時には激しい夫婦げんかをすることもあったものの、被告が謝罪をするなどして収まり、夫婦関係が険悪化するまでには至らなかった。そのような婚姻生活の中で、被告は、自宅がごみ屋敷のようになり片付けが一向に進まないのは原告の片付けられない性分にあるとの不満を募らせ、日常生活におけるストレスを解消するために、勤務終了後や休日にパチンコをするなどして自己の余暇の時間を費やしていた。

エ 被告は、平成29年9月17日、原告から同年10月以降における長女の土曜日の習い事の送迎を依頼されたことを契機として原告との間で子育てや自宅の片付け等を巡る有形力を伴う激しい口論となり、長男を連れて外出した後3通の離婚届用紙を持って帰宅すると、その3通全ての届出人(夫)欄に署名押印し、原告も3通全ての届出人(妻)欄に署名した上でそのうちの1通にのみ押印し、その際、3通全ての「未成年の子の氏名」の「夫が親権を行う子」欄には長男の、「妻が親権を行う子」欄には長女の各氏名を記入する一方、3通全ての証人欄を空欄のままとし、上記のとおり原告が署名押印した1通を原告から受領すると、原告との間で事後の具体的な生活について話し合いをしたり、自己や子らの荷物等を持ち出したりすることなく、そのまま子らと共に自宅を出た。

オ 原告は、平成29年9月18日、被告に対して電話をかけ、その後に被告からかかってきた電話での会話において、被告の所在を尋ね、被告に早く帰ってくるように言ったところ、被告は、京都にある被告の実家に帰る旨を告げて電話を切った。また、原告は、同日、原告の父の訪問を受け、被告から原告との共同生活の継続が困難である旨の連絡があったがどういうことかと聞かれた。

カ 被告は、上記エの原告が署名押印した離婚届の証人欄に被告の母と姉に署名押印してもらうとともに、「未成年の子の氏名」の「夫が親権を行う子」欄に記載されていた長男の氏名の横に長女の氏名を加筆し、「妻が親権を行う子」欄に記載されていた長女の氏名を抹消した上で、平成29年9月20日、同離婚届を提出して本件離婚の届出をした。

キ 原告は、被告による子らの連れ去り及び本件離婚の届出に対処するための弁護士費用として、次のとおり、合計93万8000円を支出した。
 〔1〕法律相談料 2万円
 〔2〕面会交流調停、監護者指定・子の引き渡し調停、協議離婚無効確認調停の着手金 43万2000円
 〔3〕監護者指定・子の引き渡し審判事件の着手金 10万8000円
 〔4〕離婚無効確認請求控訴事件の着手金 16万2000円
 〔5〕離婚無効確認請求控訴事件の報酬金 21万6000円

(2)また、証拠(乙3~14、17、22、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告と子らとの面会交流の経緯に関して、次の事実が認められる。

         (中略)


(3)本件離婚の届出に関する上記事実関係によれば、原告が、被告との間で事後の具体的な生活についての話し合いもせずに、離婚届用紙に署名押印したのは、当日の口論の勢いの赴くままに激情に駆られてのことであったと考えられ、このことは、離婚無効確認訴訟の控訴審判決(甲3)においても指摘されているところである。

このような状況下において上記の署名押印がされたことに加え、翌日の電話での会話の中で、原告が被告に対し、早く帰ってくるようにという、離婚の意思とはおよそ矛盾する言葉を発していたことからすれば、被告において原告に離婚の意思がないことに気付く契機は与えられていたというべきであり、そうであるにもかかわらず、原告の真意を確認することなく本件離婚の届出をしたのであるから、被告には無効な本件離婚の届出をしたことについて過失があるというべきである。

そして、本件離婚が原告の離婚意思を欠いて無効であるということになれば、被告が子らを原告の下から連れ去ったこともまた法的な根拠を失うことになるから、被告は、上記の過失により、原告の妻としての地位を不安定な状態におくことによってこれを侵害したのみならず、原告の子らに対する親権をも侵害したものということができる。したがって、被告は、原告に対し、これらの権利侵害によって原告の被った損害を賠償する責任を負うというべきである。

 他方で、原告と子らとの面会交流の経緯に関する上記事実関係によれば、原告と被告との別居状態を所与のものとした場合、被告が原告と子らとの面会交流を違法に妨げたとは認められない。この点に関しては、上記のとおり、面会交流審判においても、いずれの当事者が悪いというものではないと判断されているところである。したがって、被告は、原告と子らとの面会交流が必ずしも円滑に進んでいないことについて、原告に対し、不法行為責任を負うものではないというべきである。

(4)被告による子らの連れ去り行為及び本件離婚の届出行為により原告が精神的苦痛を受けたことは容易に推認することができるところ、前記事実関係等に現れた諸般の事情を総合考慮すると、その精神的苦痛を慰謝する金額としては、200万円が相当である。

また、被告の上記行為に対処するために原告が支出した弁護士費用93万8000円も、被告の上記行為と相当因果関係のある損害と認められる。なお、原告は、養育費、財産分与及び慰謝料調停の着手金として支出した10万8000円(甲14)も損害として主張するが、これらの調停は被告が申し立てたものであって(乙2)、そのための弁護士費用は被告による子らの連れ去り行為及び本件離婚の届出行為に対処するための費用とはいえないから、その主張は採用することができない。

 以上の損害の合計は、293万8000円となるが、原告にも、離婚届用紙に署名押印して被告に交付した過失及び自宅を出た被告と連絡がとれたにもかかわらず離婚意思のないことを明確に伝えなかった過失が認められるから、これらを考慮して50%の過失相殺を施すのが相当であり、その結果、上記の損害の合計は、146万9000円となる。

なお、被告は、原告が虚偽の事実をでっち上げたために離婚無効確認の紛争が長期化・複雑化・深刻化し弁護士費用も増大した旨を主張するが、仮に被告の主張するとおり原告の主張に虚偽の事実が含まれていたとしても、そのことがなければ紛争が長期化・複雑化・深刻化せず弁護士費用も増大しなかったとは直ちには認められないから、被告の上記主張は採用することができない。

 そして、本件事案の難易、請求額認容額その他諸般の事情を総合考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係のある本件訴訟の弁護士費用としては、14万6900円が相当であり、以上の損害の合計は、161万5900円となる。

2 バッグ返還請求について
 
         (中略)

3 結論
 以上によれば、原告の請求のうち、損害賠償請求は主文第1項の限度で理由があるからその限度で認容し、バッグ返還請求は理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第25部
裁判官 古田孝夫

別紙物件目録(省略)
以上:5,065文字

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