令和 5年 1月 6日(金):初稿 |
○「未成年者祖母を民法第766条1項監護者と認めない最高裁判決紹介」で紹介した令和3年3月29日最高裁判決(裁判所HP、判時2535号39頁)では、父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないとして、子の祖母の民法第766条での監護者指定申立を却下しました。 ○この最高裁判決の事案は以下の通りです。 ・抗告人前妻Y1と前夫は,h21.12,本件子Aをもうけたが,h22.2,Aの親権者を抗告人Y1と定めて離婚 ・抗告人Y1及びAは,h21.12,抗告人Y1の母である相手方(Aの祖母)と相手方宅で同居するようになり,以後,抗告人Y1と相手方が本件子を監護 ・抗告人Y1は,h29.8頃,Aを相手方宅に残したまま,相手方宅を出て抗告人Y2と同居するようになり,以後,相手方が単独でAを監護 ・抗告人Y1と抗告人Y2は,h30.3に婚姻し,その際,抗告人Y2は,A養子縁組 ・相手方(A祖母)がY1・Y2に対し、相手方を監護者と指定する監護者指定審判申立 ・原審大阪高裁は、Aの監護者として相手方を指定 (理由) 子の福祉を全うするためには,民法766条1項の法意に照らし,事実上の監護者である祖父母等も,家庭裁判所に対し,子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることができると解すべき ○この事案では、原審大阪高裁は、未成年者Aを実際監護してきたAの祖母(相手方)を監護者に指定したもので、未成年者Aの最も優先して考慮した極めて妥当な決定と思われます。しかし、最高裁は、法文を重視し、事実上子を監護してきた第三者が,家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はないとして、いわば杓子定規な解釈で、祖母の監護者指定申立を却下しました。 ○この場合、祖母が監護者になる方法はないのでしょうかとの質問を受けました。 祖母が監護者になるためには、祖母は未成年者Aの親権者ではないので、未成年者後見人或いは監護職務代行者になるしかありません。以下、民法の関連条文です。 第838条 後見は、次に掲げる場合に開始する。 一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。 第839条(未成年後見人の指定) 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。 2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。 第840条(未成年後見人の選任) 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。 祖母が未成年者後見人或いは監護職務代行者になるには、親権者が親権或いは管理権を有しなくなる必要があり、そのための民法等関連条文は以下の通りです。 第834条(親権喪失の審判) 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。 第834条の2(親権停止の審判) 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。 2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。 第835条(管理権喪失の審判) 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。 家事事件手続法第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分) 家庭裁判所(第105条第2項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。 ○以上の通り、祖母が未成年者の監護者になるには、未成年者後見人或いは職務代行者になる方法がありますが、そのためには、未成年者の親族として、親権者である実親の親権喪失・親権停止・管理権喪失の審判を家庭裁判所に申立をして家庭裁判所から未成年後見人或いは職務代行者に選任されることが必要です。その各申立の要件は、結構厳しくかなりハードルは高いと思われます。別コンテンツで、裁判例を紹介しますが、前記最高裁決定は、祖母の監護実現には相当の障害になります。 以上:2,265文字
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