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不貞行為慰謝料300万円請求に対し90万円を認めた地裁判決紹介

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令和 5年 1月 5日(木):初稿
○原告夫が、妻と不貞行為をした被告に対し、慰謝料300万円、興信所調査費用約92万円、弁護士費用約40万円合計約432万円の損害賠償を求めた事案で、慰謝料90万円・弁護士費用9万円の99万円の支払を認めた令和3年10月21日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。妻が弁護士を代理人として補助参加人として訴訟参加しています。妻が証人として出頭することは良くありますが、補助参加人として訴訟参加までする例は余りありません。

○事案概要は以下の通りです。
・平成17年原告と妻は婚姻し、平成19年長男・平成22年二男誕生
・平成30年4月原告と妻は自宅で原告誕生パーティ開催、同年8月家族で外食と妻の誕生パーティ開催
・平成30年12月被告は妻と一泊温泉旅行・平成31年4月被告は妻と2人きりで都内ホテル3時間半滞在
・平成31年3・4月原告と妻は長男小学校卒業式・中学校入学式に夫婦で出席
・令和元年妻は子らを連れて原告と別居し、同年11月離婚調停申立


○争点概要は以下の通りです。
・不貞行為の有無-被告・妻は否認
・原告夫婦の婚姻破綻時期-被告・妻は平成30年10月と主張
・被告の過失の有無-被告は妻からの婚姻関係完全破綻説明を確信
・損害額-原告は慰謝料300万円・調査料92万円・弁護士費用40万円合計432万円と主張


○判示概要は以下の通りです。
・一泊旅行と2人きりの3時間半ホテル滞在時に性関係がなかったことについて説得的説明がないとして不貞行為を認定
・婚姻破綻時期は、不貞行為認定平成30年12月より後、
・被告は、原告・妻の同居と子らの行事参加を認識していたので過失あり
・損害額は慰謝料90万円と弁護士費用9万円を認定、調査費用は因果関係を否定


○一泊旅行・ホテル滞在について、合理的な説明ができていれば不貞行為が認定されない裁判例もあります。本件では、原告は,被告はその際に不貞行為に及んでいないとの具体的な反論や弁解はしていないと主張しているとおり、被告側でその説明が不足していたようです。「人妻と子らの前で上半身裸で過ごしたこと等で不貞行為否認高裁判決紹介」で紹介した例のように控訴審まで争うかどうか気になるところです。

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主   文
1 被告は,原告に対し,99万円及びこれに対する令和元年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,431万7706円及びこれに対する令和元年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 夫である原告と妻である被告補助参加人(以下単に「補助参加人」という。)は平成17年に婚姻し,平成19年に長男が,平成22年に次男がそれぞれ誕生したが,補助参加人は,令和元年7月,子らを連れて原告宅を出て原告と別居し,同年11月には原告に対する離婚調停を申し立てた。被告は,少年サッカークラブのコーチとして次男を指導していた。

 本件は,原告が,被告は遅くとも平成30年12月頃から補助参加人と不貞行為に及んでおり,これによって原告と補助参加人の婚姻関係が修復困難なまでに破壊され,原告の平穏な婚姻共同生活が侵害されたとして,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料300万円,調査費用92万5188円及び弁護士費用相当額39万2518円の計431万7706円並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日である令和元年8月17日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記の書証又は弁論の全趣旨によって容易に認めることができる事実)

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(不貞行為の存否)について

 前提となる事実(前記第2の1(5)及び(6))において認定説示したとおり,被告は,平成30年12月29日から同月30日にかけて補助参加人と泊りがけで温泉旅行に行き,平成31年4月12日にも補助参加人と2人きりで都内のホテルに3時間半程度滞在していたというのであり,その理由について被告らからは何ら説得的な説明はされていない。したがって、少なくとも,上記各機会において,被告と補助参加人との間に不貞行為があったものと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠もない。

2 争点(2)(原告ら夫婦の婚姻関係が破綻していたか)について
 原告と補助参加人とが,令和元年7月まで,長男及び次男と共に原告肩書住所地で同居していたことは争いがない。 
 そして,原告及び補助参加人は,平成28年及び同29年の夏休みに子らと2度にわたって沖縄に旅行に行き,補助参加人は子らと共に平成30年4月に自宅で原告の誕生パーティーを企画開催し,原告及び補助参加人はFと共に同年5月に運動会に出席し,同年8月12日から15日まで4日間にわたって家族で外食し,同月○○日に家族で補助参加人の誕生日を祝った(前記第2の1(4))。

補助参加人と原告は,同年11月の段階でも,補助参加人が原告に次男を練習試合に連れていくよう依頼し,原告がこれに応諾するなどのやり取りや,補助参加人が友人とライブに行った先で原告に対し会場の写真と共に「近い席でした!やった!」などと伝え,原告も「いいねー。楽しんで!」と応ずるなどのやり取りをLINE上で交わしていた(同(5))。原告と補助参加人は,平成31年3月,長男の小学校の卒業式に,同年4月には同じく中学校の入学式にそれぞれ夫婦で出席し,両者間では,同月の段階でも,補助参加人が原告に洗濯物の取込み等を依頼し,原告がこれに応ずるといった程度のやり取りはLINE上で交わされていた(同(6))。
 そうすると,少なくとも被告と補助参加人が不貞行為に及んだ平成30年12月の時点では,原告と補助参加人との間の婚姻関係が,法的保護に値しないほど実質的に破綻していたということはできない。

 これに対し,被告及び補助参加人は,生活費の不足や原告の育児への無理解に常に強いストレスを感じていた補助参加人は平成29年に復職した頃から離婚に向けた準備を開始し,平成30年10月に離婚の意思を原告に伝えるなどしており,遅くとも同年には原告との婚姻関係は実質的に破綻していたと主張する。

確かに,前記第2の1において認定説示したとおり,補助参加人は,平成27年頃から次男と添い寝するようになって原告と寝室を別にしていたほか,平成29年5月には妹に対し,原告と離婚したいとの意思や原告に対する嫌悪感をLINEで送信するなどしていた(同(4))し,平成30年8月頃からはGの家に呼ばれるなどして深夜遅くまで帰宅しないことが多くなっていた(同(5))。

そして,補助参加人が平成26年8月から約1年間,自律神経失調症,うつ状態,めまい,買い物症候群の症状で心療内科に通院してカウンセリングと内服療法を受けていたこと(同(3)。なお,証拠(乙1)によれば,補助参加人の説明に基づき,診察した医師は同年9月の段階でその原因を「夫婦の不和」と診断していたことが認められる。)も併せ考えると,補助参加人が原告から渡される生活費の不足や育児・家事の負担割合等について長年原告に強い不満を有しており,それが原告との婚姻関係を相当程度動揺させていたことが認められる。

しかしながら,補助参加人が平成30年10月に原告に対して離婚の意思を告げていたことを裏付けるに足りる客観的な証拠はないし,証拠(甲6,23ないし26)によれば,原告も(補助参加人から見れば少ないとの不満はあったであろうものの)猿楽FCへの送迎等で育児に相応に関わってきたことは認められる。その他,本件において認められる事情を総合しても,原告と補助参加人との間の婚姻関係の破綻の有無に関する前記認定を覆すには足りない。

3 争点(3)(被告に過失があったか)について
 前記第2の1(3)において認定説示したとおり,補助参加人及び原告は,それぞれ被告がコーチを務める猿楽FCで次男らの練習の送迎や練習試合の応援,付添いをしていたため,被告が原告を見かけたり,挨拶を交わしたりしたことも少なくとも数回あったほか,被告は,少なくとも各一度,原告らが夫婦で猿楽FCの試合に応援に来ていた場面及び同FCの懇親会行事に参加していた場面に遭遇していた。

そうすると,被告は,原告及び補助参加人が子らと共に同居して家庭生活を送り,夫婦揃って子らの行事に参加していた事実を認識していたことは明らかであり,それにもかかわらず原告と補助参加人との間の婚姻関係が法的保護に値しないほど実質的に破綻していたものと被告が信じていたとすれば,少なくとも被告には一定の過失があったものといわざるを得ない。

 これに対し,被告は,補助参加人から,原告とは家庭内別居状態にあって性的関係などもなく,食事もほぼ別に取るなど婚姻関係が破綻していることなどを繰り返し聞かされたと主張するが,仮にそれが事実であるとしても,被告が依拠したのは,上記2において認定説示したとおり原告との婚姻生活に不満を有していた補助参加人からの一方的な説明にすぎない(なお,被告は,一度だけ原告らが夫婦で応援に来た際にもあえて離れて応援をし,同じく一度だけ懇親会に共に参加した際にも互いに言葉を交わしていなかったのを見たとも主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はないし,仮にそのような事実があったとしてもその時期は不明である上,そのような事情だけから原告ら夫婦の婚姻関係の破綻を即断することに合理性はないものというべきである。)。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

4 争点(4)(損害額)について
 原告と補助参加人は平成17年11月に婚姻し,令和元年7月まで同居していたのであって,被告と補助参加人との不貞行為時である平成30年12月の時点でもその婚姻期間は13年以上に及んでいた。そして,その婚姻関係がなお法的保護に値するものであった以上,原告と補助参加人が最終的に別居,更には離婚調停の提起に至る大きな原因を作った被告の不貞行為(及び被告が現時点でもその存在を否認していること)により原告は精神的苦痛を受けているものといえるから,その損害は被告による賠償によって慰謝されるべきである。

 他方,上記2において認定説示したとおり,補助参加人は,原告から渡される生活費の不足や育児・家事の負担割合等について長年原告に強い不満を有しており,それが上記時点において原告との婚姻関係を相当程度動揺させていたこともまた事実である。そして,被告が原告と補助参加人との婚姻関係が実質的に破綻しているものと信じた一因は,上記のような不満を有する補助参加人の説明に一定の説得力があったからであると推認され(上記のとおり,平成27年頃以降原告と補助参加人とが寝室を別にしていることなどは事実である。),原告が平成30年8月頃以降,補助参加人がしばしば夜遅くまで友人らと出歩くことを事実上制御し得なくなっていたものと推認されることなども勘案すれば,被告と補助参加人の不貞行為による原告に対する精神的衝撃が極めて大であったとまでいうことは困難である。

これらの事情を総合すると,原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,90万円が相当である。

 また,原告は被告に対する損害賠償請求訴訟を提起するに当たって弁護士に委任せざるを得なかったものであり,その要した弁護士費用のうち9万円については,被告の不法行為との間に相当因果関係が認められる。

 他方,原告の主張によっても,平成31年3月下旬には,原告は被告と補助参加人が平成30年12月末に宿泊を伴う温泉旅行に行ったことを裏付けるメールを入手していたというのであり,被告が上記温泉旅行の事実を争っていないことも併せ考えれば,探偵会社に対して支払った調査費用については,被告の不法行為との間の相当因果関係を認めることは困難というべきである。

この点について,原告は,平成31年3月下旬の段階では既に探偵会社と正式の契約を締結した後であり,既に調査費用の発生は確定していた旨主張するが,原告が上記メールを入手した時期についても、原告が探偵会社と契約を締結した時期やその契約内容についても,これを裏付ける客観的な証拠はない(なお,証拠(甲5)によれば,原告が探偵会社に調査費用92万5188円を支払ったのは同年4月29日であったことが認められる。)から,原告の上記主張は採用することができない。

5 結論
 以上のとおりであるから,原告の請求は99万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である令和元年8月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。 
東京地方裁判所民事第15部 裁判官 岡田幸人
以上:5,448文字

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