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夫婦それぞれに婚姻破綻慰謝料支払義務を認めた家裁判決紹介

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令和 4年 8月 5日(金):初稿
○「元妻から元夫への婚姻破綻慰謝料請求を棄却した地裁判決紹介」の続きで、夫婦間の離婚・慰謝料請求事件で、夫婦それぞれに慰謝料支払義務を認めた珍しい判例として令和元年11月15日大津家裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告夫が、被告妻に対し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚と子らの親権者の指定(いずれも原告)及び養育費の附帯処分の申立てをし、慰謝料の支払を求め(本訴)、これに対し、被告妻が、原告夫に対し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚を求めるとともに、子らの親権者の指定(いずれも被告)及び養育費の附帯処分の申立てをし、慰謝料の支払を求めました(反訴)。

○これに対し大津家裁判決は、双方からの離婚請求を認容し、本訴については、被告妻による財産管理が夫婦の信頼関係を失わせ、婚姻関係破綻の原因となったことは明らかであるとして、これに対する慰謝料200万円を認め、反訴については、被告妻は、同居中から現在まで子らの監護養育を継続し、子らともに安定した生活を営んでおり、被告による監護養育の状況が子らの福祉に反することをうかがわせる事情はみられないが、原告は不在となる時間が多く、その間の監護補助者がいないばかりか、長年音信不通の両親による監護も実質的には期待できないとして長女及び長男の親権者を被告と定め、原告に対し、子らがそれぞれ20歳に達するまでの毎月の養育費4万2000円及び婚姻関係破綻の一因となった原告の行為に対する慰謝料100万円を認めました。


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主   文
1 原告と被告とを離婚する。
2 原告と被告との間の長女C(平成17年○月○日生)及び長男D(平成24年○月○日生)の親権者をいずれも被告と定める。
3 被告は,原告に対し,本判決確定の日から上記長女及び長男がそれぞれ20歳に達する日の属する月まで,1人につき1か月4万2000円を毎月末日限り支払え。
4 原告は,被告に対し,100万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求を棄却する。
7 被告のその余の請求を棄却する。
8 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 本訴
(1)主文1項同旨
(2)原告と被告との間の長女及び長男の親権者をいずれも原告と定める。
(3)被告は,原告に対し,本判決確定の日から長女及び長男がそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで,1人につき月2万円を毎月末日限り支払え。
(4)被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
(1)主文1項,2項同旨
(2)原告は,被告に対し,本判決確定の日の翌日から長女及び長男がそれぞれ成人に達する月まで,1人につき月6万円を毎月末日限り支払え。
(3)原告は,被告に対し,150万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 本件は,本訴において,原告が,妻である被告に対し,婚姻を継続し難い重大な事由がある(民法770条1項5号)として,離婚を求めるとともに,子らの親権者の指定(いずれも原告),養育費の附帯処分の申立てをし,慰謝料の支払を求め,反訴において,被告が,原告に対し,婚姻を継続し難い重大な事由がある(民法770条1項5号)として,離婚を求めるとともに,子らの親権者の指定(いずれも被告),養育費の附帯処分の申立てをし,慰謝料の支払を求めた事案である。

2 前提事実

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 親権者の指定について

(1)家庭裁判所調査官作成に係る平成31年2月15日付け調査報告書,証拠(甲7,乙14,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 同居期間中,原告は厩務員として稼働し,被告が主に子らの監護にあたっていた。

イ 長女及び長男は,現在,被告と暮らしている。被告は,午前8時に出勤し,学童に行っている長男のお迎えに行ってから午後6時20分頃,帰宅する。月収は11万円程度である。

ウ 被告の母は64歳で健康状態に問題なく,保険の外交員として稼働している。被告が体調を崩した時や,被告の出勤日に長男が体調を崩した場合に子らを監護し,長女の塾代や生活費の援助もしている。被告の父はトラック運転手として稼働しており,難病を患っているが,生活に支障はなく,被告及び被告の母いずれも都合がつかない場合に長男を監護したことがある。被告の父母は,今後も監護補助を了承している。

 長女は右耳に先天性耳小骨奇形があり,年1回通院して検診を受けている。長男は発達障害があり,「ことばと学びの教室」に通っている。被告と子らとの関係は良好で,子らの特性や発達に応じた配慮がなされており,被告による監護に格別の問題はみられない。

エ 原告は,厩務員として稼働しており,火曜日から日曜日の午前5時頃から11時頃まで,午後2時半頃から4時頃まで勤務し,不定期に残業がある。年20から30回は週末に出勤し,うち3,4回は泊付きの出張となる。原告は,出張の間のみ,子らの監護を両親に任せるつもりだが,両親とは約8年間連絡を取っていない。

オ 長女及び長男は,家庭裁判所調査官による調査において,被告と暮らすことを希望していると述べた。

(2)上記(1)の認定事実によれば,被告は、同居中から現在まで子らの監護養育を継続し,現在,子らともに安定した生活を営んでおり,被告による監護養育の状況が子らの福祉に反することを窺わせる事情はみられない。また,被告父母による監護補助が期待でき,その実績も十分ある一方,原告は不在となる時間が多く,その間の監護補助者がいないばかりか,残業や出張もあり,長年音信不通の両親による監護は実質期待できない。

 原告は,被告は収入が少ないのに多額の浪費をするので親権者として不適格であるとも主張するが,上記(1)の事実によれば,被告は自身の給与と母の援助で問題なく生活している。 

(3)以上によれば,長女及び長男の親権者を被告と定めるのが相当である。

2 養育費について
(1)証拠によれば,双方の収入状況は次のとおり認められる。
ア 原告の所得は,平成30年分は626万8766円(甲9の2。所得681万9243円-社会保険料控除120万0477円+青色申告特別控除65万円)である。

イ 被告の収入は,平成31年4月分は8万5667円,令和元年5月分は10万8209円,同年6月分は12万0500円,同年7月分は11万0875円,同年8月分は12万7501円(乙17ないし21)であった。

(2)上記双方の収入状況,子の年齢に基づき,標準的な算定方法に当てはめた上,一切の事情を総合考慮すると,被告は,原告に対し,養育費として,本判決確定日から子らがそれぞれ20歳に達するまでの間,子1人あたり毎月4万2000円を負担すべきである。

3 慰謝料について
(1)家庭裁判所調査官作成に係る平成31年2月15日付け調査報告書,証拠(甲8,乙15,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告は,平成24年頃から,原告名義の○○銀行○○支店の普通預金口座(口座番号××××××)のキャッシュカード等を預かって家計を管理し,原告に小遣い(原告によれば月5ないし7万円。被告によれば月8万円)を渡すようになった。

イ 原告は,平成27年夏頃の被告との喧嘩以後,専ら自室で過ごし,被告や子供らとの会話は殆どなくなった。原告は,被告から小遣い(原告によれば2か月に1回30万円,被告によれば月30万円)を貰い,ピンサロ,ファッションヘルス,キャバクラ等に行き,知人と女体盛を企画したり,風俗店の女性店員と食事に行く等した。

ウ 被告は,自身が管理する上記アの原告名義の口座から平成27年9月から12月までは合計約800万円(月額平均約200万円)を,平成28年1月から12月までは合計約1100万円(月額平均約90万円)を,平成29年1月には合計71万5324円をそれぞれ引出した。被告が平成27年9月以降,上記口座から引き出した金額の総合計は2000万円を超える。上記口座の平成29年2月28日の残高は,約140万円であった。

(2)上記認定事実(1)イによれば,複数の風俗店に通い,女体盛を企画し,風俗店の女性店員と食事に行く等したことが認められ,これが婚姻関係破綻の一因となったものと認められる。原告が支払うべき慰謝料としては100万円と認めるのが相当である。

 また,上記認定事実(1)ウによれば,被告は原告と不和になった後,約1年6か月間で原告名義の預金口座から,合計2000万円を超える金額を引き出したところ,被告はこれを原告への小遣い,引っ越し費用,車の買い替え,生活費用に充てて費消したと説明するが,それらを考慮しても余りある金額を引き出し,その大半に相当する金額が所在不明となっている。このような被告による財産管理が夫婦の信頼関係を失わせ,婚姻関係破綻の原因となったことは明らかである。被告が支払うべき慰謝料は200万円と認めるのが相当である。

4 よって,参与員の意見を聴いて,主文のとおり判決する。
大津家庭裁判所 裁判官 安福幸江
以上:3,963文字

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