令和 4年 5月31日(火):初稿 |
○「元夫婦双方が申し立てた財産分与申立をいずれも却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和2年10月29日広島高裁決定(金融・商事判例1637号14頁)を紹介します。 ○当審相手方妻が抗告人夫に対し財産分与の申立てをした原審第1事件、抗告人夫が当審相手方妻に対し財産分与の申立てをした原審第2事件、原審令和2年6月30日広島家裁審判はいずれも却下する旨の審判をしました。そこで抗告人夫が即時抗告をしました。 ○これに対し、広島高裁決定は、原審第1事件は、抗告人夫の当審相手方妻に対する財産分与請求権ではなく当審相手方妻の抗告人夫に対する財産分与請求権の具体的な内容を形成する手続であり、当審相手方妻の申立てを却下する旨の原審判部分は、結論において、原審第1事件において抗告人夫が受け得る最も有利な内容であるから、抗告人夫に原審判中の上記部分に対する不服申立ての利益がなく、本件抗告のうち、原審判中原審第1事件の申立てを却下した部分に対する抗告は不適法であるとして却下しました。 ○また、離婚の当事者は、離婚の時から2年を経過したときは、財産の分与について、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することはできず(民法768条2項)、抗告人夫は、当審相手方妻と離婚した日から2年を経過した後に原審第2事件の申立てをしたものなので、不適法なので、却下すべきであり、これと同旨の原審判中原審第2事件の申立てを却下した部分は相当であり、この部分に係る抗告は理由がないからこれを棄却すべきとしました。 ○抗告人夫は、最高裁に許可抗告をして、最高裁で一部覆されており、別コンテンツで紹介します。 *************************************** 主 文 1 本件抗告のうち原審判中原審第1事件の申立てを却下した部分に対する抗告を却下する。 2 その余の本件抗告を棄却する。 3 抗告費用は、抗告人の負担とする。 理 由 第1 抗告の趣旨及び理由並びに当事者の主張 本件抗告の趣旨は、別紙1即時抗告申立書(写し)の「第2 抗告の趣旨」欄に記載のとおりであり、本件抗告の理由は、別紙2即時抗告理由書(写し)に記載のとおりである。 当事者のその余の主張は、別紙3答弁書(写し)、別紙4主張書面1(写し)、別紙5主張書面2(写し)、別紙6主張書面3(写し)、別紙7主張書面4(写し)及び別紙8第1主張書面(写し)に記載のとおりである。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 原審第1事件は、当審相手方が、抗告人に対し、財産分与の申立てをした事案であり、原審第2事件は、抗告人が、当審相手方に対し、財産分与の申立てをした事案である。 原審は、抗告人及び当審相手方の各申立てをいずれも却下する旨の審判をしたところ、抗告人が即時抗告をした。 2 前提事実 事実の調査の結果によれば、次の事実が認められる。 (1)当審相手方及び抗告人は、平成23年11月19日に婚姻し、平成29年8月9日に離婚した。 (2)抗告人は、平成30年3月13日、広島家庭裁判所に対し、財産分与請求調停の申立てをし(同裁判所平成30年(家イ)第390号)、平成31年2月26日、同申立てを取り下げた。 (3)当審相手方は、令和元年8月7日、広島家庭裁判所に対し、財産分与請求調停の申立てをした(同裁判所令和元年(家イ)第1204号)。 (4)これに対し、抗告人は、調停手続において抗告人が主張及び立証方針を明らかにすると原審相手方が調停申立てを取り下げる可能性が高いことなどを理由として、速やかに審判手続に移行するよう求めるとともに、審判手続に移行するまでは主張及び立証方針を明らかにすることを留保するとして、指定された調停期日への不出頭を続けたため、同調停事件は、令和元年11月18日、不成立により終了し、審判手続に移行した(原審第1事件。家事事件手続法272条4項参照)。 (5)当審相手方は、令和2年1月14日、原審第1事件に係る申立てを取り下げた。これに対し、抗告人は、同月21日に異議を述べて取下げに同意しなかった。 (6)抗告人は、令和2年3月16日、広島家庭裁判所に対し、財産分与請求審判(原審第2事件)の申立てをした。 第3 当裁判所の判断 1 原審判中原審第1事件の申立てを却下した部分に対する不服申立てについて (1)財産の分与に関する処分の審判(民法768条2項本文、家事事件手続法別表第二の四の項参照)は、財産分与の権利者の義務者に対する財産分与請求権の具体的な内容を形成する手続であり、審理の結果、当該審判の相手方が申立人に対して分与すべき財産の存在が認められない場合は、申立人が相手方に対して分与すべき財産の存在が認められるとしても、申立人に対し、相手方に当該財産の分与を命ずることはできず、当該申立ては却下すべきものと解するのが相当である。 これを原審第1事件についてみると、原審第1事件は、抗告人の当審相手方に対する財産分与請求権ではなく当審相手方の抗告人に対する財産分与請求権の具体的な内容を形成する手続であり、当審相手方の申立てを却下する旨の原審判部分は、結論において、原審第1事件において抗告人が受け得る最も有利な内容であるから、抗告人に原審判中の上記部分に対する不服申立ての利益があるとは認められない。 したがって、本件抗告のうち、原審判中原審第1事件の申立てを却下した部分に対する抗告は不適法である。 (2) ア 抗告人は、家事事件手続法の立案過程における同法153条に関する議論の内容等を踏まえると、家庭裁判所は、財産の分与に関する処分に係る審判の申立てがあった場合に、当該申立ての申立人が相手方に対して分与すべき財産の存在が認められるのであれば、申立人に相手方に対する財産の分与を命ずる旨の審判をすべきであり、原審判中、これが許されないこと等を前提として原審第1事件の申立てを却下した部分は違法である旨を主張する。 しかし、財産の分与に関する処分について、請求に期間の制限を設ける民法768条2項ただし書きと、審判の申立ての取下げの場面において一定の場合に相手方の同意を必要とする旨を規定する家事事件手続法153条とは、調停や審判(以下「審判等」という。)の申立てと審判の取下げという異なる場面について規律するものであり、後者が前者等に配慮して設けられたものであるとしても、そのことをもって直ちに、財産分与請求審判において、自ら申立てをしたのではない相手方の申立人に対する財産分与請求権の具体的な内容の形成が許容されることになるものではなく、その可否は解釈に委ねられている。 そして、離婚をした当事者は、民法768条2項ただし書き所定の2年の経過前に、財産の分与を請求する審判等の申立てをし、自らの他方に対する財産分与請求権の具体的な内容の形成を求める機会が保障されているのであり、それをしない者について、自ら申立てをしたのではない財産分与請求審判において、他方に対する財産分与請求権の具体的な内容を形成する必要はないというべきところ、前記前提事実によれば、本件の場合には、抗告人は、平成29年8月9日に当審相手方と離婚した後、いったん平成30年3月13日に財産分与請求調停の申立てをしたものの、平成31年2月26日にこれを取り下げ、その後、離婚の時から2年である令和元年8月9日が経過するまでの間、財産分与を請求する審判等の申立てをしなかったものである。 したがって、抗告人の上記主張は、その前提において採用することができない。 イ 抗告人は、原審判中原審第1事件の申立てを却下した部分が憲法29条及び31条に違反する旨をも主張するが、いずれも独自の見解を主張するものであって、採用することができない。 2 原審判中原審第2事件の申立てを却下した部分に対する不服申立てについて (1)離婚の当事者は、離婚の時から2年を経過したときは、財産の分与について、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することはできないところ(民法768条2項参照)、前記前提事実によれば、抗告人は、当審相手方と離婚した日である平成29年8月9日から2年を経過した後である令和2年3月16日に原審第2事件の申立てをしたものであるから,同申立ては不適法である。 (2)抗告人は、民法768条2項が財産権を保障する憲法29条1項に反し、当該法令違憲がないとしても、原審判中原審第2事件の申立てを却下した部分は、憲法29条1項に反し、また、民法768条2項の解釈を誤ったものである旨を主張するが、いずれも独自の見解を主張するものであって、採用することができない。 3 抗告人のその余の主張を検討しても、上記1及び2の各判断は左右されない。 第4 結論 以上によれば、本件抗告のうち原審判中原審第1事件の申立てを却下した部分に対する抗告は不適法であるからこれを却下すべきであり、また、原審第2事件の申立ては不適法であるからこれを却下すべきであり、これと同旨の原審判中原審第2事件の申立てを却下した部分は相当であるから、この部分に係る抗告は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって、主文のとおり決定する。裁判長裁判官 横溝邦彦 裁判官 鈴木雄輔 沖本尚紀 (別紙)1~8〈略〉 以上:3,805文字
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