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元夫婦双方が申し立てた財産分与申立をいずれも却下した家裁審判紹介

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令和 4年 5月30日(月):初稿
○離婚した元夫婦の一方である申立人妻が、財産分与調停の申立てをしたところ、相手方夫が同調停期日に出頭しなかったため、同調停事件は不成立により終了し、同調停の申立ての時に財産分与審判の申立てがあったものとみなされて(家事事件手続法272条4項)、審判に移行し(第1事件)、また、申立人妻は同審判の申立てを取り下げ、これに対し、相手方夫が財産分与審判の申立てをして、取り下げに同意せず、元夫婦双方の財産分与申立が係属しました(第2事件)。

○これに対し、以下の理由で、いずれの申立も却下した令和2年6月30日広島家裁審判(金融・商事判例1637号16頁)を紹介します。

○第1事件について、本件においては、申立人と相手方との間に、各自が自己名義の財産を取得し、互いに財産分与を求めない旨の合意が成立したものと認められ、財産分与について当事者間に協議が調ったので、申立人の財産分与審判の申立ては、民法768条2項に反し、不適法であって、却下を免れないとし、申立人は、現時点では財産分与を求める意思はないと述べており、財産分与請求権を放棄したものということができ、財産分与は、これを求める者の申立てに基づいて、家庭裁判所が裁量によってその内容を形成するものであるから、申立人が同請求権を放棄した場合にその内容を形成する必要はないとしました。

○第2事件について、財産分与について当事者間に協議が調ったものであるから、相手方夫の財産分与審判の申立ては、民法768条2項に反し、不適法であって、却下を免れず、相手方は、申立人と離婚した日から2年の除斥期間を経過した後に財産分与審判の申立てをしたので、相手方の上記申立ては、同条項に反し、不適法であって、却下を免れないとしました。

○夫が抗告して、広島高裁・最高裁と争われましたので、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 申立人の第1事件に係る申立て及び相手方の第2事件に係る申立てをいずれも却下する。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

 申立人と相手方は、平成23年11月19日に婚姻し、平成29年6月5日に別居した後、同年8月9日に離婚した元夫婦である。
 相手方は、平成30年3月13日、広島家庭裁判所に対し、財産分与調停の申立てをした(同裁判所平成30年(家イ)第390号)が、同調停事件は、平成31年2月26日、申立ての取下げにより終了した。

 申立人は、令和元年8月7日、同裁判所に対し、財産分与調停の申立てをした(同裁判所令和元年(家イ)第1204号)。相手方が同調停期日に出頭しなかったため、同調停事件は、同年11月8日、不成立により終了し、同調停の申立ての時に財産分与審判の申立てがあったものとみなされて(家事事件手続法272条4項)、審判に移行した(第1事件)。

相手方は、同月14日、同裁判所に対し、申立人が財産を相手方に分与するように求める旨等を記載した相手方主張書面3を提出した。申立人は、令和2年1月14日、同審判の申立てを取り下げたが、相手方が既に本案について上記書面等を提出していた上、同月21日に異議を述べて同意しなかったため、上記取下げは、その効力を生じなかった(同法153条)。申立人は,現時点では財産分与を求める意思はないと述べている。
 相手方は、同年3月16日、同裁判所に対し、財産分与審判の申立てをした(第2事件)。 

第2 当裁判所の判断
1 第1事件について

(1)事実の調査の結果(甲4、5)によれば、平成29年11月8日、申立人と相手方との間に、各自が自己名義の財産を取得し、互いに財産分与を求めない旨の合意が成立したものと認められる。
 したがって、財産分与について当事者間に協議が調ったものであるから、申立人の財産分与審判の申立ては、民法768条2項に反し、不適法であって、却下を免れない。

(2)その点をおくとしても、申立人は、現時点では財産分与を求める意思はないと述べており、財産分与請求権を放棄したものということができる。財産分与は、これを求める者の申立てに基づいて、家庭裁判所が裁量によってその内容を形成するものであり、申立人が同請求権を放棄した場合にその内容を形成する必要はない。

 また、平成29年6月5日の別居時における相手方名義の財産の価額が申立人名義の財産の価額を上回っていることを認めるに足りる資料はない。
 したがって、申立人の財産分与審判の申立てには理由がない。

(3)相手方は、家事事件手続法153条が財産分与審判について申立ての取下げに関する特則を設けた趣旨は、民法768条2項によりその申立ての期間に制限があることに加え、その審理の対象は基本的に離婚の際の夫婦共有財産の清算であって、定型的に夫婦の一方である申立人のみならず他の一方である相手方にも審判を得ることに特に強い利益があるものと認められるから、その申立てに対して相手方が一定の手続行為をした以上は、申立人がその申立てを自由に取り下げることができることとすることは相当でないことにあり、相手方は第1事件の審判移行後申立人が取下書を提出するまでの間に家庭裁判所に財産分与に関する形成処分を求める旨の文書を提出するとともに各種証拠申出をしたのであるから、家庭裁判所が申立人に財産分与審判を求める意思がないことを理由として申立ての却下審判をすることは、家事事件手続法153条の趣旨を蔑ろにするものであって許されない旨主張する。

 しかしながら、財産分与審判の申立ては、飽くまで申立人が相手方に対して財産分与を求める旨の申立てであって、家庭裁判所がその申立てに基づいて申立人に対して財産を相手方に分与するように命ずるのは申立ての範囲を超えるから、許されないものというべきである。財産分与は、子の利益を考慮すべき養育費等の子の監護に関する処分とは異なり、当事者以外の者の利益や公益性を考慮する必要性に乏しいから、家庭裁判所が申立人に対して財産を相手方に分与するように命ずる審判を後見的にすることを許容する必要はない。このように解しても、相手方が財産分与の申立てによりこれを求めることが可能であった以上、不都合はない。

 そうすると、申立人に対して財産を相手方に分与するように命ずる審判を得ることについて相手方に利益があることを前提とする相手方の上記主張は、その前提を欠くものというべきであって、採用できない。当裁判所が申立人の財産分与審判の申立てを却下する審判をすることは、申立人による上記申立ての取下げに同意せずに審判を求めた相手方にとって、申立ての範囲内で最も利益になる結果であるから、財産分与に関する審判を得ることについての相手方の正当な利益の保護を図った同条の趣旨に反するとはいえないし、当裁判所がその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものともいえない。

2 第2事件について
(1)上記1(1)で説示したとおり、財産分与について当事者間に協議が調ったものであるから、相手方の財産分与審判の申立ては、民法768条2項に反し、不適法であって、却下を免れない。

(2)その点をおくとしても、相手方は、申立人と離婚した日である平成29年8月9日から2年の除斥期間を経過した後である令和2年3月16日に財産分与審判の申立てをしたものであるから、相手方の上記申立ては、同条項に反し、不適法であって、却下を免れない。
 相手方は、除斥期間内である平成30年3月13日に財産分与調停の申立てをしたものであるが、同調停事件は、平成31年2月26日、申立ての取下げにより終了し、その後除斥期間が経過したことにより、相手方の財産分与請求権は消滅したものというべきである。

 相手方は、申立人の財産分与調停の申立てが除斥期間内にされたから、これと対象を同じくする相手方の財産分与審判の申立ては除斥期間の制限に服さない旨主張するが、申立人の上記申立ては、飽くまで申立人が相手方に対して財産分与を求める旨の申立てであって、申立人が相手方に対して財産分与をする旨の申立てを含むものではないから、相手方の上記申立てがこれと対象を同じくするとはいえない。

そして、同条項は、本文において財産分与について当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができると、ただし書において離婚の時から2年の除斥期間を経過したときはこの限りでないとそれぞれ規定していることも踏まえると、同期間内に申立人が財産分与の申立てをしても、相手方が財産分与を請求したとはいえず、同期間の経過後に相手方が財産分与の申立てをしてこれを求めることはできないものというべきである。相手方の上記主張は採用できない。

3 よって、主文のとおり審判する。
裁判官 増田純平
以上:3,657文字

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