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審判確定した婚姻費用月額6万円から3万円への減額を認めた家裁審判紹介

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令和 3年 6月30日(水):初稿
○平成28年1月に別居した相手方妻が、申立人夫に対し同年4月に、婚姻費用分担調停を申し立て、平成28年11月に同年11月以降は毎月6万円の婚姻費用を支払うよう命じた家裁審判が確定した後、平成30年10月に申立人夫が、13年勤務していた会社を退職して収入が激減したことを理由に婚姻費用を0とする婚姻費用減額調停を申し立てしました。

○これに対し、申立人夫と相手方妻の収入を標準算定方式に基づく算定表の「表11 婚姻費用・子1人表(子0~14歳)」に当てはめると、申立人が相手方に対して負担すべき婚姻費用分担額は、月額2万円ないし4万円程度と算定され、本件記録に現れた一切の事情を総合考慮すると、申立人が相手方に対して負担すべき婚姻費用分担額は、月額3万円と解するのが相当として平成30年10月から申立人夫が支払うべき婚姻費用を毎月6万円から3万円への減額を命じた令和元年10月30日神戸家裁尼崎支部審判(判時2477号53頁)全文を紹介します。

○この審判は、申立人夫が不服として抗告しましたが、抗告審大阪高裁は、覆しており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 神戸家庭裁判所尼崎支部平成28年(家)第599号婚姻費用分担申立事件について、同裁判所が平成28年12月26日にした審判の主文第2項を、平成30年10月以降分につき、次のとおり変更する。
 「相手方(本件申立人)は、申立人(本件相手方)に対し、平成30年10月以降、当事者の別居状態の解消又は婚姻解消に至る日の属する月まで、毎月末日限り、1か月当たり3万円を支払え。」
2 手続費用は、各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 申立人は、相手方に対し、婚姻期間中の生活費として毎月0円に減額して支払う。
 なお、申立人は、その後、相手方に対し、婚姻費用として毎月2万円の支払を求めると主張している。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば、以下の事実が認められる。
(1)当事者等
ア 申立人(昭和53年×月×日生)と相手方(昭和55年×月×日生)は、平成23年1月5日に婚姻し、申立人は、相手方と前夫との子K(平成15年×月×日生)と養子縁組した。
 申立人と相手方は、平成24年×月×日、長女L(以下「長女」という。)をもうけた。
イ 相手方は、平成28年1月16日、子らを連れて自宅を出て、以後、申立人と別居し、子らを監護養育している。
ウ 申立人は、同年10月24日、Kと調停離縁した。

(2)婚姻費用分担審判
ア 相手方は、同年4月11日、当庁に対し、婚姻費用分担調停申立てをした(当庁同年(家イ)第302号)が、同年8月15日に不成立となり、審判手続に移行した(当庁同年(家)第599号)。
イ 当庁は、同年12月26日、申立人の年収を462万5000円、相手方の年収を約216万円と認定した上で、申立人が相手方に対して支払うべき婚姻費用の額は、〔1〕同年4月から同年10月までの間は月額8万円と、〔2〕同年11月以降は月額6万円と定めるのが相当であるとして、既払金を控除した未払婚姻費用34万8364円及び平成28年12月以降の婚姻費用分担金として月額6万円を申立人に支払うよう命じる審判(以下「本件審判」という。)をし、同審判は確定した。

(3)本件審判後の状況
ア 婚姻費用の支払状況
 申立人は,平成30年4月までの間、相手方に対し、月額6万円の婚姻費用を支払っていたが、長女と面会できなくなった同年5月以降、婚姻費用を一切支払わなくなった。

イ 申立人の精神状況
 申立人は、長女と面会できないことや相手方との間で複数の裁判事件を抱えていることから精神的に疲弊し、同年4月28日、同年5月9日、同年9月1日、同年10月4日にメンタルクリニックを受診して薬の処方を受け、医師から「抑うつ状態」であり、同年9月1日から同年10月30日まで休業加療が必要であるとの診断を受けた。 
 申立人は、その後、同年11月16日、平成31年4月10日、同月23日、令和元年5月7日、同年6月13日、同月19日、上記メンタルクリニックを受診し、同年5月7日付けで医師から、「気分変調症(慢性の抑うつ状態)」であり「離婚後、子供に会えないという心理環境因がある。うつ状態の持続から、一般就労は困難な状態である」との診断を受けている。

ウ 申立人の稼働状況
(ア)申立人は、休職することなく、平成30年10月、13年間勤務していた株式会社Hを自主退職した(以下「本件退職」という。)。なお、申立人は、平成31年4月18日まで雇用保険を受給している。
(イ)申立人は、求職活動を続け、平成30年12月からは株式会社Iとの間で短期雇用契約を締結し、令和元年6月までの間、月にゼロないし数日程度、M競馬場競馬開催当日の馬場等の維持管理作業を内容とする業務に従事した。
(ウ)申立人は、平成31年4月に第一種衛生管理者の免許を取得し、令和元年5月13日、株式会社Jに雇用され、週に2時間程度、衛生管理の業務に従事している。
(エ)申立人は、資格取得のための勉強をし、短期訓練も受け、上記2社以外にも複数の会社に求職活動を続けているがそのほとんどが不採用となっている。

エ 婚姻費用減額申立て
 申立人は、平成30年10月30日、当庁に対し、本件審判で定められた婚姻費用分担金の額を月額0円に減額することを求めて、婚姻費用分担(減額)調停申立てをした(当庁同年(家イ)第859号。以下「本件調停申立て」という。)が、平成31年3月25日に不成立となり、本件審判手続に移行した。

(4)当事者の収入状況
ア 申立人の収入状況
(ア)申立人は、本件退職後から同年4月18日までの間、雇用保険(基本手当)及び求職支援費として合計74万9951円を受給した。

(イ)申立人の平成30年の給与収入は、Hからの給与収入は363万5000円であり、Iからの給与収入は8万円である。
 申立人の平成31年1月以降にIから支給された給与収入は、同年3月分として5万円、同年4月分として7万円、同年6月分として2万円である(同年1月分も支給されているが、金額を裏付ける証拠はない。)。
 申立人の令和元年6月以降にJから支給された給与収入は、同月分が2万6000円、同年7月分が1万7000円、同年8月分が1万6000円である。

イ 相手方
 相手方の平成29年の給与収入は224万6523円、平成30年の給与収入は210万0819円である。

2 検討
(1)婚姻費用分担額の減額の要否

 申立人は、本件審判確定後、平成30年10月に勤務していたHを自主退職し、その後は求職活動を行って2社に短期雇用され、求職活動を継続しているところ、仮に、申立人が再就職できたとしても、申立人の年齢や精神状況、求職活動の状況等に照らせば、本件審判当時と同程度の収入を直ちに得られる可能性が高いとは認められず、現時点では、本件審判で定められた婚姻費用分担額を維持することが実情に適さなくなったというべきである。
 そうすると、申立人による本件退職が自主退職であることを踏まえても、本件審判後、本件審判に定められた婚姻費用分担額を減額すべき事情変更があり、婚姻費用分担額の減額の必要性が認められる。


(2)減額後の婚姻費用分担額
ア 申立人の収入
 申立人は、本件退職後、雇用保険を受給し、求職活動を継続して2社との間で短期雇用契約を締結しているが、安定した収入を得られるに至っておらず、精神状態については、抑うつ状態又は気分変調症であり「一般就労は困難」との診断を受けている。もっとも、申立人の精神疾患の原因は長女と面会ができていないことや相手方との間での裁判を抱えていることであることにあるとされており、申立人は求職活動を継続し、強い就労意欲を有している。

 以上の諸事情に加えて、申立人の年齢や従前の職歴、直近の雇用形態や給料、雇用保険の受給額等を考慮すると、申立人には、少なくとも従前の総収入{=436万2000円=Hからの平成30年の給与収入363万5000円×(12か月÷10か月)}の6割である年額約260万の収入を得られる蓋然性があると認められる。
 したがって、婚姻費用分担の基準となる申立人の総収入は、年額260万円と認めるのが相当である。

イ 相手方の収入
 本件審判時と現在の相手方の生活状況に変更があった事情はうかがわれず、上記1(4)イの相手方の給与収入に照らせば、婚姻費用分担の基準となる相手方の総収入は年額210万円と認めるのが相当である。

ウ 婚姻費用分担額
 夫婦は、互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条)、別居した場合でも、自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。そして、婚姻費用の分担額は、義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して、義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入額の合計額を世帯収入とみなし、これを、生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費を按分して権利者世帯に割り振られる婚姻費用から、権利者の上記基礎収入を控除して、義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照。以下「標準算定方式」という。)に基づいて検討するのが相当である。

 そこで、申立人と相手方の収入を標準算定方式に基づく算定表の「表11 婚姻費用・子1人表(子0~14歳)」に当てはめると、申立人が相手方に対して負担すべき婚姻費用分担額は、月額2万円ないし4万円程度と算定され、本件記録に現れた一切の事情を総合考慮すると、申立人が相手方に対して負担すべき婚姻費用分担額は、月額3万円と解するのが相当である。

3 婚姻費用分担額の減額の始期
 婚姻費用分担額の減額の始期については、本件調停申立てがされた平成30年10月とするのが相当である。

4 よって、主文のとおり審判する。
(裁判官 島田美喜子)

以上:4,204文字

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