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婚姻費用月額6万円から3万円への減額命令を取り消した高裁決定紹介

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令和 3年 7月 1日(木):初稿
○「審判確定した婚姻費用月額6万円から3万円への減額を認めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和2年2月20日大阪高裁決定(判例時報2477号50頁)全文を紹介します。

○抗告人夫は原審家裁審判で、相手方妻に対して支払うべき婚姻費用を、月額6万円から3万円への減額が認められたのですが、おそらく減額幅が小さいのでさらに減額即ち婚姻費用ゼロを求めて抗告し、その上抗告理由には、相手方妻から抗告人夫への毎月2万円の婚姻費用支払を求めたことについての判断が無いのが不当とも主張し、一蹴されています。婚姻費用を減額された相手方妻からの抗告はなかったようです。

○ところが、高裁は、夫の抗告に対し、前件審判時と同程度の稼働能力を有すると認められるから、前件審判を変更すべき事情変更が認められないとして婚姻費用分担金の減額申立てを却下しました。

○その内容は、抗告人は、退職してほとんど収入がない状態となっているが、自らの意思で退職した上、退職直前の給与収入は前件審判当時と大差はなく、退職後の行動をみても,抑うつ状態のため就労困難であるとは認められないから、抗告人の稼働能力が前件審判当時と比べて大幅に低下していると認めることはできず、抗告人は、退職後現在に至るまで前件審判当時と同程度の収入を得る稼働能力を有しているとみるべきであると厳しく判断されています。

○婚姻費用を減額された妻からの抗告ではないのに、夫の抗告に対し、婚姻費用減額申立を却下して、原審の減額命令を取り消したもので、抗告人夫としては、踏んだり蹴ったりの到底納得出来ない判断でしょう。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 抗告人の本件申立てを却下する。
3 手続費用は、原審及び当審とも各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣及び理由

 別紙抗告状、抗告理由書及び令和2年1月23日付け主張書面(各写し)のとおり

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 一件記録によって認められる事実は、次のとおり補正するほかは、原審判の理由欄の第2の1(原審判2頁1行目から5頁6行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原審判2頁21行目、23行目及び4頁8行目の「本件審判」をいずれも「前件審判」と改める。

(2)同3頁2行目の「面会できなくなった」を「同月30日に面会した後、面会できなくなったことから、」と改める。

(3)同3頁4行目から15行目までを次のとおり改める。
「イ 抗告人の受診状況
 抗告人は、平成30年4月21日、同月28日及び同年5月9日、Cの精神科医師D(以下「D医師」という。)の診察を受けて抗うつ剤を処方され、同年9月1日、診断書の作成を依頼し、抑うつ状態のため同日から同月30日まで休業加療が必要である旨記載された診断書の交付を受け、同年10月4日に再度診断書の作成を依頼し、抑うつ状態のため同月1日から同月30日まで引き続き休業加療が必要である旨記載された診断書の交付を受け、同年11月8日及び同月16日にも受診した。その後、抗告人は、約5か月間受診しなかったが、平成31年4月10日及び同月23日に受診し、令和元年5月7日には、診断書の作成を依頼し、気分変調症(慢性の抑うつ状態)であり、うつ状態の持続から一般就労は困難な状態である旨記載された診断書の交付を受け、同年6月13日及び同月19日にも受診したが、同日には抗うつ剤の処方を受けなかった。抗告人は、同年8月以降、受診も服薬もしておらず、同年9月11日の原審第4回審判期日において、「一連の裁判関係のことがなければ、身体、精神上特段の問題はない。」と陳述している。」

(4)同3頁17行目の「10月」の次に「20日」を加え、19行目の「(以下「本件退職」という。)」を削除し、4頁1行目の「取得し、」の次に「そのころ他の資格も取得し、」を加え、3行目の「いる。」を「いたが、同年10月20日、退職した。」と、4行目から6行目までを次のとおり改める。
 「(エ)抗告人は、同年8月21日から同年12月20日までの間に10日だけ、株式会社Eに衛生管理者の講師としてDVD撮影のために勤務し、同年秋ころ、F大学G学部(通信教育課程)の入学試験に合格し、入学金(金額不明)及び令和2年度の学費20万円を納入し、同年4月に入学する予定である。」

(5)同4頁22行目の「同年6月」を「令和元年6月」と改め、同5頁3行目の「1万6000円」の次に「、同年9月分が1万5000円、同年10月分が1万7500円」を、同行末尾に改行して「抗告人がEから支給された給与収入は、同年9月分が7200円、同年10月分が5万6000円、同年11月分が2万8800円、同年12月分が1万円である。」をそれぞれ加える。

2 判断
(1)抗告人は、前件審判で定められた婚姻費用分担金を支払わなくなる前月の平成30年4月21日にD医師の診察を受け始めた。抗告人は、長女と面会できなくなったためうつ状態に陥った旨主張するが、長女とは同月30日に面会した後、面会できなくなったのであるから、上記主張は矛盾している。

 抗告人は、同年9月1日及び同年10月4日にD医師に診断書の作成を依頼し、抑うつ状態のため休業加療が必要である旨記載された診断書の交付を受けたが、いずれの診断書も、具体的な症状が全く記載されていないし、抗告人の主訴に基づいて作成されたと推認されるから、これらをもって直ちに抗告人が実際に休業加療を要する状態にあったと認めることはできない。現に、抗告人は、同年9月1日以降も休業することなく勤務を継続していたのである。

(2)ところが、抗告人は、平成30年10月20日、13年間も勤務していたHを自主退職し、同月30日、婚姻費用分担金の減額を求めて本件調停申立てをした。しかし、抗告人の同年1月1日から同年10月20日までの給与収入は363万5000円であり、これを年額に換算すると、約453万円(363万5000円÷293日×365日)となり、前件審判において婚姻費用分担金算定の基礎とされた給与収入462万5000円をわずかに下回るだけである。

(3)抗告人は、本件調停申立て後、平成30年11月16日に受診した以後は約5か月間受診しなかったが、本件調停が平成31年3月25日に不成立となり、本件審判手続に移行した約半月後の同年4月10日にD医師の診察を受け、令和元年5月7日、D医師に診断書の作成を依頼し、気分変調症(慢性の抑うつ状態)であり、うつ状態の持続から一般就労は困難な状態である旨記載された診断書の交付を受けた。

しかし、上記診断書も、前同様に具体的症状は全く記載されておらず、どの程度就労が制限され、どのような形態であれば就労可能であるのか明らかではない。このような上記診断書の作成時期、経緯及び記載内容からすれば、抗告人は、本件審判手続において自己に有利な資料として提出するために上記診断書の交付を受けた疑いなしとしない。したがって、上記診断書をもって抗告人が抑うつ状態のため定職に就いて継続的に勤務することが困難な状態にあると認めることはできない。

(4)しかも、抗告人は、Hを自主退職後、散発的ではあるものの、I、J及びEに勤務して給与収入を得る傍ら、平成31年春ころには第一種衛生管理者の免許等を取得し、令和元年秋ころにはF大学G学部(通信教育課程)の入学試験に合格し、令和2年4月に入学する予定である。

このように、抗告人は、自己の将来に役立てるために免許等の取得や大学入学を目指して意欲的に取り組み、実現しているのであるから、就労困難であるほどの抑うつ状態であるというのは不自然であり、信用することはできない。抗告人が就労困難でないことは、抗告人が令和元年8月以降は受診も服薬もしていない上、同年9月11日の原審第4回審判期日において、相手方との審判等がなければ、身体、精神上特段の問題はない旨陳述していることからもうかがえるところである。

 なお、抗告人が前件審判で定められた婚姻費用分担金を支払っていないにもかかわらず、上記大学の入学金及び20万円もの学費を納入したことは、婚姻費用分担義務より自らの希望を優先させるものであって、不相当であるといわざるを得ない。

(5)以上のとおり、抗告人は、前件審判後、断続的にD医師の診察を受け、Hを退職してほとんど収入がない状態となっているが、自らの意思で退職した上、退職直前の給与収入は前件審判当時と大差はなかったし、退職後の行動をみても,抑うつ状態のため就労困難であるとは認められないから、抗告人の稼働能力が前件審判当時と比べて大幅に低下していると認めることはできず、抗告人は、退職後現在に至るまで前件審判当時と同程度の収入を得る稼働能力を有しているとみるべきである。

したがって、抗告人の精神状態や退職による収入の減少は、前件審判で定められた婚姻費用分担金を減額すべき事情の変更ということはできず、抗告人の本件申立ては理由がない。
 なお、相手方の給与収入は、前件審判当時と同程度であるし、他に本件において前件審判で定められた婚姻費用分担金の額を変更すべき事情の変更は認められない。
 

3 抗告理由について
 抗告人は、原審において相手方に対して月額2万円の婚姻費用の分担を求めていたのに、その判断がされておらず、原審判は不当であると主張する。
 しかし、本件の申立ての趣旨は、前件審判で定められた抗告人の相手方に対する婚姻費用分担金の減額であるから、本件において相手方の抗告人に対する婚姻費用分担の要否及び金額について判断することはできない。抗告人の上記主張は失当である。

4 結論
 よって、原審判は相当ではないからこれを取消し、抗告人の本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 永井裕之 裁判官 上田日出子 惣脇美奈子)
以上:4,087文字

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