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監護親意思のみでの履行不能との理由で間接強制申立却下維持高裁決定紹介

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令和 3年 6月 5日(土):初稿
○「面会交流給付内容特定不十分として間接強制申立を却下した家裁決定紹介」の続きで、その抗告審の令和2年3月18日名古屋高裁決定(判タ1482号91頁)を紹介します。

○抗告人(おそらく父)と相手方(おそらく母)との間の子である未成年者について、抗告人父が、抗告人と未成年者との面会交流につき相手方母に対する間接強制執行の申立てをし、令和2年1月9日名古屋家裁は、面会交流給付内容特定不十分として却下したため、抗告人が執行抗告した事案です。

○本件決定から3年以上が経過し,未成年者は,満15歳(中学3年生)に達し、独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有する段階に達し、現に抗告人との面会交流を拒む意向を表明しているなどの事情によれば、本件決定で命じられた面会交流に係る相手方の債務は、相手方の意思のみで履行することのできない債務となっているというべきであるから、本件間接強制の申立てはその要件に欠け、認めることができないところ、原決定は結論において相当であるとして、本件執行抗告を棄却しました。

○満15歳(中学3年生)に達して独立人格者と認められる未成年者自身が、面会交流を拒んでいる以上、その監護親に面会交流を強制することはできないとの趣旨の決定です。面会交流を強く望む父はキチンと養育費は支払っているはずで、養育費を支払いながら面会もできないのは気の毒ですが、手紙やメールでの遣り取り等父自身の努力で15歳の子が父に会っても良いという気持にさせるしかありません。

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主   文
1 本件執行抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨
1 原決定を取り消す。
2 相手方は,抗告人と相手方間の名古屋高等裁判所平成28年(ラ)第224号面会交流審判に対する即時抗告事件(原審・名古屋家庭裁判所平成28年(家)第685号)において,平成28年10月26日に決定された執行力ある決定正本に基づき,本決定が確定した日の属する月から,原決定別紙1「面会交流要領」のとおり,抗告人を,未成年者と面会交流させなければならない。
3 相手方が,本決定が確定した日以降,前項の義務を履行しないときは,相手方は,抗告人に対し,不履行1回につき10万円を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,抗告人が,前記第1の2及び3記載のとおり,抗告人と相手方との間の子である未成年者について,抗告人と未成年者との面会交流につき相手方に対する間接強制執行の申立てをする事案である。
 原決定が抗告人の申立てを却下したところ,抗告人が執行抗告した。
 なお,略称は,特に断らない限り,原審判の例による。

2 前提事実は,原決定2頁2行目の「別居した」を「別居し,平成26年5月8日,未成年者の親権者を相手方と定めて調停離婚した」に,15行目の「債権者は,平成30年7月29日以降」を「抗告人と未成年者との間の面会交流は,平成30年7月29日に待ち合わせ場所で5分程度話をしたのを最後に実施されておらず,抗告人は」に,それぞれ改め,同行目の「決定」の次に「(以下「本件決定」という。)」を加えるほかは,原決定の「理由」の「第2 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人の申立ては却下すべきものと判断する。その理由は,次項以下のとおりである。

2 子の面会交流に係る審判は,子の心情等を踏まえた上でされているといえるから,監護親に対し非監護親と子との面会交流を実施させなければならないと命ずる審判がされた場合,子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは,上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないことが原則となる。

 しかしながら,間接強制は,制裁の告知により債務者に履行を動機づけるものであるから,対象となる債務が債務者の意思のみで履行することのできる債務であることが要件となると解されるところ,面会交流を命ずる審判で間接強制が可能なものについては,審判当時の子の心情等を踏まえた上でされているとはいっても,その審判の後,子が成年に達するまで相当長期間にわたることも多く,面会交流に関する事情は審判後大きく変化することが当然に予定されていることが多いといえるし,子が成長して成年に近付くに従い,通常,監護親による給付は子の意向を無視しては物理的に実現することができない性質のものになったり,監護親による給付自体が観念しにくくなったりするといえる。

そうすると,面会交流を命ずる審判の後に年数が経過して,子の成長の段階が,上記審判が判断の基礎とし,想定した子の成長の段階と異なるに至ったために,監護親による面会交流に係る給付が,監護親の意思のみで履行することのできない債務となる場合があることは,面会交流を命ずる審判が予定するところであり,この場合において,子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは,上記審判に基づく間接強制決定を妨げる理由となると解される。

3 これを本件について検討するに,未成年者は,本件決定当時11歳10か月(小学6年生)であり,本件決定は,その当時の未成年者の心情等を踏まえた上で,頻度及び日時を「2か月に1回,第3土曜日又は日曜日 3時間程度」,受渡場所を「原則としてJRa駅北出口付近」などと定めて相手方が抗告人と未成年者とを面会交流させることを命じているところ,その後,現在までに,3年以上が経過し,未成年者は,満15歳(中学3年生)に達しており,受験をして高校へ進学する直前の時期に至っていると認められる(相手方が原審に令和元年11月16日に提出した書面の記載参照)。

 また,子の監護に関する処分の審判をする場合には,子が満15歳以上であるときは,子の陳述を聴かなければならないとされていること(家事事件手続法152条2項)などによれば,満15歳は,独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有するに至る年齢であるといえるところ,子が満15歳又は高校生となる段階において,監護親が,特定の頻度又は日時に特定の場所において子を非監護親に対して引き渡す方法により面会交流を実施することは,通常想定されない。未成年者が小学6年生で,半年弱で中学校に進学するという段階でされた本件決定が,未成年者が満15歳又は高校進学を目前とする成長の段階に達した後にも,未成年者の意向にかかわらずに実現することができる間接強制が可能な相手方の債務を想定していたとは考え難い。

 そして,未成年者は,本件決定当時において,抗告人に対する強い負の感情を抱き,抗告人と会いたくないと繰り返し述べていた(本件決定の理由の第3の2(9),(10)参照)ところ,現在,抗告人と最後に会った際の抗告人の言動に嫌な思いをしたことなどを理由に,抗告人との面会交流を拒む意向を表明していると認められる(相手方が原審に令和元年11月16日に提出した書面の記載参照)。

 そうすると,本件決定から年数が経過し,本件決定が判断の前提とし,想定した未成年者の年齢・成長の段階と現在の未成年者の年齢・成長の段階が大きく異なるに至り,未成年者が独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有する段階に達し,現に抗告人との面会交流を拒む意向を表明しているなどの事情によれば,相手方は,未成年者の上記意向にかかわらず,原決定別紙1「面会交流要領」のとおりの面会交流をさせる給付債務を,相手方の意思のみによって履行することができないというほかない。

4 これに対し,抗告人は,面会交流を実施するには,未成年者の拒否感を軽減する必要があり,相手方自身が抗告人の言動についての認知を修正し,未成年者に面会交流の意義を伝えていくことが求められていたにもかかわらず,未成年者が満15歳に達して,なお抗告人に拒否感を示しているというのであれば,これは専ら相手方の責任によるものというべきであり,間接強制が認められないとすることは,未成年者の福祉にも正義にも反する旨主張する。

 しかしながら,本件決定以後に全く面会交流が実施されなかったというのではなく,むしろ,最後の面会交流となった平成30年7月29日までの1年半余りの間は、おおむね本件決定に沿った面会交流が実施されていたことがうかがわれるから,相手方が,本件決定当時に抗告人との面会交流に否定的な意向を示していた未成年者に対して面会交流の実施に向けた働きかけを何らすることなくことさらに面会交流を拒否し続けたというものではない。また,面会交流の給付債務が相手方の意思のみによって履行することができない債務であると判断されるのは,上記2及び3のとおり,未成年者の成長の段階が,本件決定の想定した段階と大きく異なるに至ったことを理由とするものである。

 したがって,抗告人の上記主張を検討し,未成年者の福祉などの観点からみても,本件決定による相手方の給付債務が相手方の意思のみによって履行することのできない債務となっているとの判断が覆ることはない。 

5 以上の次第で,本件決定で命じられた面会交流に係る相手方の債務は,相手方の意思のみで履行することのできない債務となっているというべきであるから,本件間接強制の申立ては,その要件に欠け,認めることができない。

第4 結論
 よって,原決定は結論において相当であって,本件執行抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 始関正光 裁判官 蛯名日奈子 裁判官 日比野幹)
以上:3,986文字

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