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扶養的財産分与としてマンション使用貸借権を認めた高裁決定紹介

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令和 2年 5月26日(火):初稿
○抗告人元妻(原審申立人)が離婚した相手方元夫(原審相手方)に対し、離婚後の財産分与として1900万円(清算的財産分与1000万円及び慰謝料的財産分与1000万円の合計額)から既払金(100万円)を差し引いた残額)の支払い並びに共有名義の本件マンション(オーバーローン)について、長男が成人するまで15年間の使用借権の設定を申立しました。

○これに対し、原審は、慰謝料的財産分与を考慮せず、扶養的財産分与として平成16年3月31日まで本件マンションに対する抗告人元妻の使用借権を設定し、さらに相手方元夫に対して同マンションからの抗告人の転居費用等の100万円の支払を命じていました。

○抗告人元妻が抗告した事案において、抗告人元妻の本件マンションの持分割合が6分の1であることを考慮して、抗告人元妻から相手方元夫に対し共有持分全部を財産分与させた上で、扶養的財産分与として二女が高校を、長男が小学校を卒業する時期(離婚から8年経過後の平成19年3月31日)まで、本件マンションについて相手方元夫を貸主、抗告人元妻を借主とする使用貸借権を設定し、相手方元夫に対し抗告人元妻の将来の転居費用105万円の支払いを命じた平成18年5月31日名古屋高裁決定(家庭裁判月報59巻2号134頁)関連部分を紹介します。

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主   文
原審判を次のとおり変更する。
1 抗告人は,相手方に対し,原審判別紙物件目録記載1,2の各土地及び同3の建物について,同目録記載の共有持分全部(上記各土地につき20万分の345,同建物につき6分の1の各共有持分)を財産分与する。
2 抗告人は,相手方に対し,平成19年3月31日を経過したときは,原審判別紙物件目録記載1,2の各土地及び同3の建物について,前項の財産分与を原因とする各共有持分全部移転登記手続をせよ。
3 抗告人と相手方との間において,原審判別紙物件目録記載1,2の土地及び同3の建物について,次の内容の使用貸借権を設定する。
(1)借主 抗告人
(2)貸主 相手方
(3)期間 平成11年6月4日から平成19年3月31日まで
(4)借主の負担する費用 水道料金を含む共益費,駐車場使用料及び光熱費
4 相手方は,抗告人に対し,105万9132円を支払え。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

 別紙「即時抗告申立書」及び「準備書面」(平成15年2月26日付け)のとおり。

第2 事案の概要
 本件は,抗告人(原審申立人)が,離婚した元夫である相手方(原審相手方)に対し,離婚後の財産分与として,1900万円〔2000万円(清算的財産分与1000万円及び慰謝料的財産分与1000万円の合計額)から既払額(100万円)を差し引いた残額)の支払い並びに共有名義の原審判別紙物件目録記載1,2の土地並びに同3の建物(本件マンション)について,長男(第3子)が成人するまで(15年間)の使用借権の設定を申し立てた事案である。

 原審は,財産分与として,抗告人への慰謝料的(財産)分与を考慮するのは相当でないとし,扶養的財産分与として,抗告人と相手方との間に,平成16年3月31日まで本件マンションに対する抗告人の使用借権を設定し,さらに相手方に対して同マンションからの抗告人の転居費用等100万円の支払を命じたところ,抗告人がこれを不服として抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,財産分与として,抗告人から相手方に対し,本件マンションの共有持分を分与する(ただし,共有持分全部移転登記は,後記使用貸借期間終了時とする。)とともに,離婚時から平成19年3月末まで,貸主を相手方,借主を抗告人とする使用借権を設定し,相手方から抗告人に対し,財産分与として105万9132円を分与するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

2 離婚に至る経過等について

         (中略)


3 財産分与について
(1)清算的財産分与について

ア 清算の時期について
 原審判「理由」中「3 清算的財産分与について」(1)のとおりであるから,これを引用する。

イ 清算対象財産について
(ア)本件マンション
 抗告人と相手方は,本件マンションの評価について,固定資産税の評価額による旨合意している。そして,本件各記録によれば,原審判別紙「マンションの評価」のとおり,本件マンションの平成12年度の固定資産評価額〔上記(原審判)夫婦財産の清算時期(平成11年6月4日)からすると,上記年度の評価額によるのが相当である。〕は,土地建物の合計で2090万8143円であり,上記清算時点における本件住宅ローンの残債務の額は,合計2383万4453円〔うち1口1110万円のものが1063万8747円,1口1300万円のものが1249万1390円,1口150万円のものが70万4316円(平成11年11月22日現在の残高61万7584円に,同年6月から11月まで毎月16日に支払われた各9619円の6か月分合計5万7714円と同年7月のボーナス時支払額2万9018円の合計8万6732円を加えた額)〕であったと認められる。

 前記(原審判)のとおり,本件マンションは婚姻中に購入されたものであるから夫婦共有財産といえるが,本件マンションには,本件住宅ローンを被担保債務とする抵当権が設定されており,上記のとおり,清算時点における本件住宅ローンの残債務額は本件マンションの平成12年度の固定資産評価額を上回っており,結局,上記マンションの財産価値はないことになる。そして,前記(原審判)のとおり,本件マンションは,抗告人と相手方との共有であるところ,これをそのままにした場合には,将来,共有物分割の手続を残すことになることから,抗告人と相手方のいずれかに帰属させるのが相当であるところ,上記マンションについての本件住宅ローンがいずれも相手方名義であり,相手方が支払続けていること,その財産価値が上記のとおりであること,その他,抗告人の持分割分(6分の1)等を考慮すると、抗告人の上記共有持分全部を相手方に分与し,相手方に本件マンションの所有権全部を帰属させるのが相当である(もっとも,扶養的財産分与として,相手方に使用借権の設定をするのが相当であり,この点は後述する。)。

 なお,抗告人が,本件マンションの購入にあたってその両親から援助を受けた固有の資産である300万円を拠出していること,本件マンションは,この300万円のほか,本件住宅ローン2560万円,△△からの特別住宅貸付145万6000円の融資(いずれも相手方名義)により購入された(したがって,代金は約3000万円であると推認できる。)ことは前記(原審判)のとおりである。しかし,抗告人の上記固有資産の提供は,上記のとおり本件マンションに実質的な財産価値がない以上,清算的財産分与としては,これを考慮することはできないというべきである。 


         (中略)

イ 扶養的財産分与について
(ア)抗告人は,扶養的財産分与として,長男が成人に達する月の平成26年×月×日を終期とする本件マンションの使用借権の設定(ただし,共益費,水道光熱費,駐車場使用料は抗告人が負担する。)を求めている〔なお,抗告人は,本件マンションの共有持分(6分の1)を固有の資産としてこれを保有することを前提にしているから,上記申立ては,実際上は,相手方の共有持分(6分の5)についての抗告人の使用借権の設定を求めるものと解することができる。〕。

(イ)ところで,夫婦が離婚に至った場合,離婚後においては各自の経済力に応じて生活するのが原則であり,離婚した配偶者は,他方に対し,離婚後も婚姻中と同程度の生活を保証する義務を負うものではない。しかし,婚姻における生活共同関係が解消されるにあたって,将来の生活に不安があり,困窮するおそれのある配偶者に対し,その社会経済的な自立等に配慮して,資力を有する他方配偶者は,生計の維持のための一定の援助ないし扶養をすべきであり,その具体的な内容及び程度は,当事者の資力,健康状態,就職の可能性等の事情を考慮して定めることになる。

本件各記録によれば,抗告人の勤務先における給与収入は平成15年において年間約210万円であった(時給制で賞与はない。)こと,他に社会保障給付として4か月毎に,市の遺児手当が4か月に一度未成年者ら3人分で合計3万4800円(月額8700円),県の遺児手当が合計5万4000円(月額1万3500円),市の児童扶養手当が合計11万6680円(月額2万9170円)の給付を受けており,平成15年の月額収入は,給与収入,相手方からの養育費及び上記社会保障給付を合わせて平均約41万円であったこと,そして,抗告人の毎月の支出は,子供の学費等を含めて月額約37万円程度であるが,自動車税及び自動車保険料に加え,本件マンションの老朽化に伴う室内修繕費(例えば,平成16年4月にはトイレ修繕費として12万6000円を負担している。),二女の入学諸費用等の臨時出費をも踏まえると,抗告人の平成16年の年間収支は概ね同額程度であること,他方,相手方の収入は,平成15年において年間約1170万円(妻の収入も合わせた世帯収入は約1560万円,いずれも税込み)であるが,自らの生活費以外に未成年者らへの養育費,本件マンションのローン返済だけでも月額30万円以上を負担しており(ローン返済は月額返済とは別に,さらに年2回各約41万円を負担している。),大学教授としての職業上の必要経費も一定程度見込まれることが認められる。以上の事実を前提にすれば,抗告人と相手方との収入格差は依然大きいものの,抗告人は,社会経済的に一応の自立を果たしており,また,その収支の状況をみても,外形上は,一定の生活水準が保たれているかのようである。

 しかしながら,抗告人の上記収支の均衡は,住居費の負担がないことによって保たれているということができ〔本件各記録によれば,養育費審判においても,相手方の基礎収入において,本件ローンとして月額19万7094円,その共益費として月額1万8705円及び固定資産税として月額1万0742円などが差し引かれて計算され,その結果,未成年者3名の養育料を合計18万9000円として,相手方が本件マンションに関する費用を負担することを前提に未成年者らの養育費が算定されている。〕,抗告人及び未成年者らが居住できる住居(ある程度の広さが必要であり,そうとすれば賃料負担も少なくない。)を別途賃借するとすれば,たちまち収支の均衡が崩れて経済的に苦境に立たされるものと推認される。そうすると,本件においては,離婚後の扶養としての財産分与として,本件マンションを未成年者らと共に抗告人に住居としてある程度の期間使用させるのが相当である。

加えて,前記のとおり,抗告人が相手方からの離婚要求をやむなく受け入れたのは,その要求が極めて強く,また本件文書において一定の経済的給付を示されたからこそであると推認され,上記給付には,抗告人が未成年者らを養育する間は家賃なしで本件マンションに住めることが含まれており,この事情は扶養的財産分与を検討する上で看過できないこと(もっとも,本件文書の内容からすると,相手方は,抗告人が未成年者らを養育する期間を離婚後4年間程度と想定していたものと解されるが,それは,その時点における相手方の見通しを示したものというべきであって,離婚から3年半後の平成14年12月27日に,未成年者らの親権者を相手方から抗告人へと変更する審判がなされ,これが確定したことにより,上記期間は4年を超える相当程度の長期間となったのであるから,上記離婚の経過等に照らせば,相手方においても,抗告人が4年を越える期間を家賃なしに本件マンションに居住することを受忍すべきものである。),前記のとおり,抗告人は,本件マンションの購入費用を含めて合計1000万円に近い持参金を婚姻費用として提供しており,これらは,夫婦共有財産としては残存しておらず,具体的な清算の対象とはならないものの,上記金額に照らすと,分与の有無,額及び方法を定める「一切の事情」(民法768条3項)のひとつとしてこれを考慮するのが相当であること,未成年者らの年齢(殊に,平成18年×月×日をもって長女は成人に達し,平成19年3月には二女も高校を卒業する。),その他,以上で認定した諸般の事情を総合すると,扶養的財産分与として二女が高校を,長男が小学校を卒業する時期(離婚から約8年を経過した時期)である平成19年3月31日まで本件マンションについて相手方を貸主,抗告人を借主として,期間を離婚成立日である平成11年6月4日から平成19年3月31日までとする使用貸借契約を設定するのが相当というべきである(もっとも,上記契約は使用貸借契約であり、また,それは扶養的財産分与であるから,使用が確実に確保される必要があることなどの事情を踏まえ,共有持分全部移転登記手続は,上記使用貸借期間終了時においてこれを行うとするのが相当である。)。

そして,養育費申立ての審判における相手方の基礎収入の算定において,共益費の負担が考慮されているが,共益費,光熱費及び駐車場使用料を抗告人の負担とすることは,抗告人もその申立の趣旨に掲げており,上記各費用の性質に照らしても,現実に本件マンションを使用する抗告人の負担とするのが相当である。

(ウ)これに対し,相手方は,未成年者らに対し十分な養育費を支払っており,この上本件マンションに使用借権を設定することは抗告人に不当な利益を与えるものであり,離婚後における相手方の将来にわたる収入をも財産分与の対象とするものであって,不当であると主張する。 

 確かに,抗告人のために本件マンションの使用借権を設定することは,未成年者らの養育ないし利益の側面を否定できないが,他方で,抗告人の離婚後の生計の維持にとって必要であることは前記のとおりである(しかも,抗告人が親権者として未成年者ら3名を監護扶養する以上,そのような負担を負った抗告人の離婚時の扶養の側面と上記未成年者らの利益等は,事実上も峻別できない。)。そうすると,これをもって抗告人に不当な利益を与えるとはいえず,また,離婚後における相手方の将来にわたる収入をも財産分与の対象とするものでもない。

 なお,相手方は,抗告人に対し,離婚した翌月の平成11年7月から平成16年3月までの57か月間の,本件マンションの共益費(月額1万8705円)合計106万6185円の支払を求めるところ,確かに,本件各記録によれば,相手方が上記費用を負担していることが認められるが,本件マンションに関する諸費用の処理は,本件財産分与に関する審判の確定をもって明確になるものであるから,上記は財産分与の審判中においては考慮しない。

(エ)上記を前提とすると,抗告人は将来転居の必要が生じるところ,本来,その費用は,離婚後の自助努力によるべきところであるが,抗告人の前記生活状況等及び前記(原審判)のとおり,相手方の転居費用が婚姻費用によって賄われたことなどをも考慮し,その一部50万円を相手方から抗告人に分与させることとし,前記(第3,3(1)エ)の清算的財産分与の清算額55万9132円に加算して,合計105万9132円を分与するのが相当である。

第4 結論
 よって,抗告人から相手方に対する本件財産分与の申立ては,主文第1項ないし4項の限度で認容するのが相当であり,これと異なる原審判は相当でないから,これを変更することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 林道春 山崎秀尚)
以上:6,478文字

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