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夫婦同姓を合憲とする平成27年12月16日最高裁判決2反対意見全文紹介

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平成28年 1月 4日(月):初稿
○「夫婦同姓を合憲とする平成27年12月16日最高裁判決要旨紹介」の続きです。
夫婦同姓強要を合憲とした平成24年12月16日最高裁判決の、反対意見は、岡部喜代子・桜井龍子・鬼丸かおるの女性裁判官3名と大阪弁護士会出身木内道祥・東京弁護士会出身山浦善樹各裁判官の合計5名で、その要旨のみを紹介していました。今回は、弁護士出身2名の最高裁判所裁判官反対意見全文を紹介し、私自身もよく読んで勉強します。私自身は、極めてシンプルに夫婦同姓強要規定は違法とし、国家賠償責任も認める東京弁護士会出身山浦善樹裁判官の意見に賛成です。

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 裁判官木内道祥の意見は,次のとおりである。
 氏名権の人格権的把握,実質的男女平等,婚姻の自由など,家族に関する憲法的課題が夫婦の氏に関してどのように存在するのかという課題を上告人らが提起している。これらはいずれも重要なものであるが,民法750条の憲法適合性という点からは,婚姻における夫婦同氏制は憲法24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等に違反すると解される。私が多数意見と意見を異にするのはこの点であり,以下,これについて述べる。
1 憲法24条の趣旨
 憲法24条は,同条1項が,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻するかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるとして,婚姻の自由と婚姻における夫婦間の権利の平等を定め,同条2項が,1項を前提として,婚姻の法制度の立法の裁量の限界を画したものである。

 本件規定は,婚姻の際に,例外なく,夫婦の片方が従来の氏を維持し,片方が従来の氏を改めるとするものであり,これは,憲法24条1項にいう婚姻における夫婦の権利の平等を害するものである。もとより,夫婦の権利の平等が憲法上何らの制約を許さないものではないから,問題は,夫婦同氏制度による制約が憲法24条2項の許容する裁量を超えるか否かである。

2 氏の変更による利益侵害
 婚姻適齢は,男18歳,女16歳であるが,未成年者であっても婚姻によって成人とみなされることにみられるように,大多数の婚姻の当事者は,既に,従来の社会生活を踏まえた社会的な存在,すなわち,社会に何者かであると認知・認識された存在となっている。
 そのような二人が婚姻という結び付きを選択するに際し,その氏を使用し続けることができないことは,その者の社会生活にとって,極めて大きな制約となる。
 人の存在が社会的に認識される場合,職業ないし所属とその者の氏,あるいは,居住地とその者の氏の二つの要素で他と区別されるのが通例である。
 氏の変更は,本来的な個別認識の表象というべき氏名の中の氏のみの変更にとどまるとはいえ,職業ないし所属と氏,あるいは,居住地と氏による認識を前提とすると,変更の程度は半分にとどまらず,変更前の氏の人物とは別人と思われかねない。
 人にとって,その存在の社会的な認識は守られるべき重要な利益であり,それが失われることは,重大な利益侵害である。同氏制度により氏を改めざるを得ない当事者は,このような利益侵害を被ることとなる。

3 夫婦同氏制度の合理性
 同氏制度による憲法上の権利利益の制約が許容されるものか否かは,憲法24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるか否かの観点から判断されるべきことは多数意見の述べるとおりである。
 ここで重要なのは,問題となる合理性とは,夫婦が同氏であることの合理性ではなく,夫婦同氏に例外を許さないことの合理性であり,立法裁量の合理性という場合,単に,夫婦同氏となることに合理性があるということだけでは足りず,夫婦同氏に例外を許さないことに合理性があるといえなければならないことである。

4 身分関係の変動と氏
 民法が採用している身分関係の変動に伴って氏が変わるという原則は,それ自体が不合理とはいえないが,この原則は憲法が定めるものではなく,それを婚姻の場合についても維持すること自体が無前提に守られるべき利益とはいえない。
 身分関係の変動に伴って氏が変わるという原則が,民法上,一貫しているかといえば,そうではない。離婚の際の氏の続称(婚氏続称)は昭和51年改正,養子離縁の際の氏の続称は昭和62年改正により設けられたものであるが,離婚・離縁という身分関係の変動があっても,その選択により,従来の氏を引き続き使用することが認められている。この改正に当たっては,各個人の社会的活動が活発となってくると婚姻前の氏により社会生活における自己の同一性を保持してきた者にとって大きな不利益を被るという夫婦同氏制度の問題を背景とすることは意識されており,それには当面手をつけないとしても,婚姻生活の間に形成された社会的な認識を離婚によって失うことの不利益を救済するという趣旨であった。

5 氏の法律的な意味と効用
 昭和22年改正前の民法は,氏は「家」への出入りに連動するものであり,「家」への出入りに様々な法律効果が結び付いていたが,同年改正により「家」は廃止され,改正後の現行民法は,相続についても親権についても,氏に法律効果を与えていない。現行民法が氏に法律効果を与えているのは,僅かに祭祀に関する権利の承継との関係にとどまる。

 そこで,同氏の効用は,家族の一体感など法律効果以外の事柄に求められている。
 多数意見は,個人が同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感する意義をもって合理性の一つの根拠とするが,この点について,私は,異なる意見を持つ。
 家族の中での一員であることの実感,夫婦親子であることの実感は,同氏であることによって生まれているのだろうか,実感のために同氏が必要だろうかと改めて考える必要がある。少なくとも,同氏でないと夫婦親子であることの実感が生まれないとはいえない。
 先に,人の社会的認識における呼称は,通例,職業ないし所属と氏,あるいは,居住地と氏としてなされることを述べたが,夫婦親子の間の個別認識は,氏よりも名によってなされる。通常,夫婦親子の間で相手を氏で呼ぶことはない。それは,夫婦親子が同氏だからではなく,ファーストネームで呼ぶのが夫婦親子の関係であるからであり,別氏夫婦が生まれても同様と思われる。

 対外的な公示・識別とは,二人が同氏であることにより夫婦であることを社会的に示すこと,夫婦間に未成熟子が生まれた場合,夫婦と未成熟子が同氏であることにより,夫婦親子であることを社会的に示すことである。このような同氏の機能は存在するし,それは不合理というべきものではない。しかし,同氏であることは夫婦の証明にはならないし親子の証明にもならない。夫婦であること,親子であることを示すといっても,第三者がそうではないか,そうかもしれないと受け止める程度にすぎない。
 夫婦同氏(ひいては夫婦親子の同氏)が,第三者に夫婦親子ではないかとの印象を与える,夫婦親子との実感に資する可能性があるとはいえる。これが夫婦同氏の持つ利益である。
 しかし,問題は,夫婦同氏であることの合理性ではなく,夫婦同氏に例外を許さないことの合理性なのである。
 夫婦同氏の持つ利益がこのようなものにとどまり,他方,同氏でない婚姻をした夫婦は破綻しやすくなる,あるいは,夫婦間の子の生育がうまくいかなくなるという根拠はないのであるから,夫婦同氏の効用という点からは,同氏に例外を許さないことに合理性があるということはできない。

6 立法裁量権との関係
 婚姻及びそれに伴う氏は,法律によって制度化される以上,当然,立法府に裁量権があるが,この裁量権の範囲は,合理性を持った制度が複数あるときにいずれを選択するかというものである。夫婦同氏に例外を設ける制度には,様々なものがあり得る(平成8年の要綱では一つの提案となったが,その前には複数の案が存在した。)。例外をどのようなものにするかは立法府の裁量の範囲である。
 夫婦同氏に例外を許さない点を改めないで,結婚に際して氏を変えざるを得ないことによって重大な不利益を受けることを緩和する選択肢として,多数意見は通称を挙げる。しかし,法制化されない通称は,通称を許容するか否かが相手方の判断によるしかなく,氏を改めた者にとって,いちいち相手方の対応を確認する必要があり,個人の呼称の制度として大きな欠陥がある。他方,通称を法制化するとすれば,全く新たな性格の氏を誕生させることとなる。その当否は別として,法制化がなされないまま夫婦同氏の合理性の根拠となし得ないことは当然である。
 したがって,国会の立法裁量権を考慮しても,夫婦同氏制度は,例外を許さないことに合理性があるとはいえず,裁量の範囲を超えるものである。

7 子の育成と夫婦同氏
 多数意見は,夫婦同氏により嫡出子であることが示されること,両親と等しく氏を同じくすることが子の利益であるとする。これは,夫婦とその間の未成熟子を想定してのものである。
 夫婦とその間の未成熟子を社会の基本的な単位として考えること自体は間違ってはいないが,夫婦にも別れがあり,離婚した父母が婚氏続称を選択しなければ氏を異にすることになる。夫婦同氏によって育成に当たる父母が同氏であることが保障されるのは,初婚が維持されている夫婦間の子だけである。
 子の利益の観点からいうのであれば,夫婦が同氏であることが未成熟子の育成にとってどの程度の支えとなるかを考えるべきである。
 未成熟子の生育は,社会の持続の観点から重要なものであり,第一義的に父母の権限であるとともに責務であるが,その責務を担うのは夫婦であることもあれば,離婚した父母であることもあり,事実婚ないし未婚の父母であることもある。現に夫婦でない父母であっても,未成熟子の生育は十全に行われる必要があり,他方,夫婦であっても,夫婦間に紛争が生じ,未成熟子の生育に支障が生じることもある。
 未成熟子に対する養育の責任と義務という点において,夫婦であるか否か,同氏であるか否かは関わりがないのであり,実質的に子の育成を十全に行うための仕組みを整えることが必要とされているのが今の時代であって,夫婦が同氏であることが未成熟子の育成にとって支えとなるものではない。

8 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について
 本件規定は憲法24条に違反するものであるが,国家賠償法1条1項の違法性については,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできず,違法性があるということはできない。

 裁判官山浦善樹の反対意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見と異なり,本件規定は憲法24条に違反し,本件規定を改廃する立法措置をとらなかった立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるべきものであるから,原判決を破棄して損害額の算定のため本件を差し戻すのが相当と考える。以下においてその理由を述べる。
1 本件規定の憲法24条適合性
 本件規定の憲法24条適合性については,本件規定が同条に違反するものであるとする岡部裁判官の意見に同調する。

2 本件規定を改廃する立法措置をとらない立法不作為の違法について
(1) 社会構造の変化

 岡部裁判官の意見にもあるように,戦後,女性の社会進出は顕著となり,婚姻前に稼働する女性が増加したばかりではなく,婚姻後に稼働する女性も増加した。晩婚化も進み,氏を改めることにより生ずる,婚姻前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害される不利益や,個人の信用,評価,名誉感情等にも影響が及ぶといった不利益は,極めて大きなものとなってきた。
 このことは,平成6年に法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして法務省民事局参事官室により公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」においても,「…この規定の下での婚姻の実態をみると,圧倒的大多数が夫の氏を称する婚姻をしており,法の建前はともかく,女性が結婚により氏を変更するのが社会的事実となっている。ここに,女性の社会進出が顕著になってきた昭和50年代以後,主として社会で活動を営んでいる女性の側から,女性にとっての婚姻による改氏が,その職業活動・社会活動に著しい不利益・不都合をもたらしているとして,(選択的)夫婦別氏制の導入を求める声が芽生えるに至った根拠がある。」として記載がされていたのであり,前記の我が国における社会構造の変化により大きなものとなった不利益は,我が国政府内においても認識されていたのである。

(2) 国内における立法の動き
 このような社会構造の変化を受けて,我が国においても,これに対応するために本件規定の改正に向けた様々な検討がされた。
 その結果,上記の「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」においては,いわゆる選択的夫婦別氏制という本件規定の改正案が示された。
 上記改正案は,本件規定が違憲であることを前提としたものではない。しかし,上記のとおり,本件規定が主として女性に不利益・不都合をもたらしていることの指摘の他,「我が国において,近時ますます個人の尊厳に対する自覚が高まりをみせている状況を考慮すれば,個人の氏に対する人格的利益を法制度上保護すべき時期が到来しているといって差し支えなかろう。」,「夫婦が別氏を称することが,夫婦・親子関係の本質なり理念に反するものではないことは,既に世界の多くの国において夫婦別氏制が実現していることの一事をとっても明らかである。」との説明が付されており,その背景には,婚姻の際に夫婦の一方が氏を改めることになる本件規定には人格的利益や夫婦間の実質的な平等の点において問題があることが明確に意識されていたことがあるといえるのである。
 なお,上記改正案自体は最終的に国会に提出されるには至らなかったものの,その後,同様の民法改正案が国会に累次にわたって提出されてきており,また,国会においても,選択的夫婦別氏制の採用についての質疑が繰り返されてきたものである。
 そして,上記の社会構造の変化は,平成8年以降,更に進んだとみられるにもかかわらず,現在においても,本件規定の改廃の措置はとられていない。

(3) 海外の動き
 夫婦の氏についての法制度について,海外の動きに目を転じてみても,以下の点を指摘することができる。
 前提とする婚姻及び家族に関する法制度が異なるものではあるが,世界の多くの国において,夫婦同氏の他に夫婦別氏が認められている。かつて我が国と同様に夫婦同氏制を採っていたとされるドイツ,タイ,スイス等の多くの国々でも近時別氏制を導入しており,現時点において,例外を許さない夫婦同氏制を採っているのは,我が国以外にほとんど見当たらない。
 我が国が昭和60年に批准した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に基づき設置された女子差別撤廃委員会からは,平成15年以降,繰り返し,我が国の民法に夫婦の氏の選択に関する差別的な法規定が含まれていることについて懸念が表明され,その廃止が要請されるにまで至っている。

(4) まとめ
 以上を総合すれば,少なくとも,法制審議会が法務大臣に「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申した平成8年以降相当期間を経過した時点においては,本件規定が憲法の規定に違反することが国会にとっても明白になっていたといえる。また,平成8年には既に改正案が示されていたにもかかわらず,現在に至るまで,選択的夫婦別氏制等を採用するなどの改廃の措置はとられていない。

 したがって,本件立法不作為は,現時点においては,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものである。そして,本件立法不作為については,過失の存在も否定することはできない。このような本件立法不作為の結果,上告人らは,精神的苦痛を被ったものというべきであるから,本件においては,上記の違法な本件立法不作為を理由とする国家賠償請求を認容すべきであると考える。
以上:6,819文字

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