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弁護士のリタイアメント対策-第17回業革シンポ第9分科会配布資料抜粋紹介

平成28年 1月 5日(火):初稿
○私は66歳弁護士引退を目指してリタイアメント対策はしてきたつもりですが、64歳の平成28年1月時点では、引退をもう3年先に延ばしています。種々の事情がによりますが、当事務所事務処理システムを含めた事務所設備等を引き継いでくれる若い弁護士の育成が遅れていることも理由の1つです。いずれにしても私の引退時期宣言はいい加減で当てになりません(^^;)。

○私が弁護士登録してこの稼業に入ったのは昭和55年でした。それから司法改革による弁護士大量増員時代が始まる前の20年数年間は、弁護士殿様商売が横行した古き良き時代でした。その意味では、恵まれた環境での弁護士稼業を30年近く継続できました。しかし、弁護士にとって恵まれた環境は、お客様にとっては恵まれない環境だったとも評価できます。

○ここ数年、「弁護士資格だけでは食えない時代」に入ったことは確実です。今後、「弁護士資格だけで食える弁護士殿様商売横行時代」に逆戻りすることはないと覚悟すべきでしょう。この弁護士にとって厳しい時代、弁護士は、若い時代から将来のリタイアメント時期を見据えた対策が必要です。たまたま第17回弁護士業務改革シンポジウム<第9分科会>配付資料の「3 リタイアメント」に日本の弁護士が利用することができる年金制度を含む福利厚生制度の概略を解説していますので、紹介します。

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(第17回弁護士業務改革シンポジウム<第9分科会>)
「今の働き方に不安はありませんか?
 弁護士のワークライフバランス
 ~子育て・リタイアメント/メンタルヘルス~」
の配付資料から抜粋


3 リタイアメント
本項最後に,日本の弁護士が利用することができる年金制度を含む福利厚生制度の概略を報告し,あわせて弁護士のリタイアメントの実情につき報告する。後者についてはこれまで日弁連でまとまった調査や報告はなされておらず,当分科会で弁護士会による調査として確認できたのは,わずかに第二東京弁護士会の意識調査アンケートだけであった。本項では,第二東京弁護士会の意識調査も参考にした。

(1) 健康保険関係(医療費等)
①国民健康保険(個人事業主の場合),②社会保険としての健康保険(主に5人以上の従業員を常時雇用する強制適用事業所と法人の場合)が主なものである。他に特別なものとして③東京都弁護士国民健康保険組合(対象は東京都他関東地区の一部の弁護士家族,勤務者家族,詳細はhttp://www.bengoshi-kokuho.or.jp/。)がある。

(2) 病気,出産育児,介護,死亡等による就労制限や就労不能に対するもの
① 国の制度として,社会保険(健康保険)上の傷病手当,労災給付,産前産後や育児・介護休暇中の社会保険(雇用保険)給付や保険料免除・年金取扱特例等。詳細はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/12.html 。*9
② 日弁連の制度として,福利厚生規則に基づく見舞金・弔慰金制度(葬礼,傷病,退会,災害時,出産は対象外)や弁護士休業補償保険,団体定期保険(グループ保険)がある。後の2者は民間保険会社が引き受けている。
詳細はhttps://w3.nichibenren.or.jp/member/index.cgi。
他に,産前産後等の場合の会費免除制度もある。
③ 弁護士協同組合の斡旋事業による各種保険。*10
④ 各弁護士会の制度として,産休・育休・病気療養等における会費免除制度,慶弔時の見舞金制度,女性弁護士専用控室やベビーシッター代の補助制度(東京・第二東京,) 行事・研修参加時等の臨時保育などがある 。

*9 但し,社会保険に加入している弁護士は多くはないと想像される。なお,傷病手当制度は市町村国民健康保険では任意制度であり一般に支給されない(東京都弁護士国民健康保険組合も同じ)。
*10 弁護士協同組合の福利厚生事業には,書籍販売等の物品販売や役務の割引制度,クレジットカードなどがある。詳細はhttp://zenbenkyo.com/service/。

(3) リタイアメントに関する諸制度(主に年金等)
① 国の制度

国の制度としては国民年金制度(個人事業主の場合),厚生年金制度(社会保険対象事業所,法人の場合)がある。しかし,前者は所得に無関係な保険料負担と給付額を不合理として保険料を支払っていない例も多い。後者については事業主や法人社員弁護士の場合当面の保険料負担がかなり高額になる例もある(ただし,保険料は所得税控除対象。)。

② 日弁連レベルの制度
日本弁護士国民年金基金(国民年金加入者のみの年金の上乗せ制度。詳細はhttp://www.bknk.or.jp/),弁護士共済制度(互助年金制度https://w3.nichibenren.or.jp/member/index.cgi)があり,後者は保険会社委託である。

③ その他
独立行政法人中小企業基盤整備機構の小規模企業共済による事業主退職金制度。詳細はhttp://www.smrj.go.jp/skyosai/051298.htm。

(4) 日本の弁護士のリタイアメントを巡る実情
① 現在ある弁護士独自の年金制度

(3)で概観したとおり,弁護士独自の年金制度といえるのは,日本弁護士国民年金基金と互助年金制度(弁護士共済制度)のみである。以下,やや詳述する。

ア日本弁護士国民年金基金
日本弁護士国民年金基金は終身型と確定年金型があり,個人が自由に設計できる仕組みである。年金給付額は口数(1口目は固定,2口目以降は自由設計)によって定まり,これに伴う掛金は年齢や性別によって異なり,女性の掛金が男性に比較して若干高額である。掛金は年齢が上がるほど逓増し,逆に1口当たりの年金額は低減する。

最大月額掛金が6万8000円に制限されているため,若いうちに加入するほど有利な仕組みとなっている。また,専従配偶者や事務員も加入資格がある掛金は上記制限額まで全額所得控除の対象である。

ちなみに,月額10万円の保証付終身年金を受けるための掛金月額は,29歳1月~30歳0月では,男性4万4150円,女性5万2750円,34歳1月~35歳0月では,男性5万5600円,女性6万6350円などとなっている。

加入者は弁護士本人,専従者,事務員含め12167名(2011年7月1日現在),加入口数は9868口,平均掛金額は,男性が4万5871円,女性が4万5312円,全体で4万5673円(いずれも同年6月末現在)と公表されている。

イ互助年金制度(弁護士共済制度)
他方,互助年金は,老後資金の準備積立制度であり,加入資格は,加入日現在満84歳未満の弁護士本人に限られる(ただし,国民年金加入者に限られない。)。

積み立ては,月払い(A種)と一時払い(B種)があり,一時払いは月払いに加入していることが条件となっている。1口5000円で20口まで加入でき,年金受給は,満60歳からで,60~65歳までは減額年金,66歳以降は普通年金となる。満60歳以後は希望する時期に手続きすると年金受給が開始となる(払込期間は設定されていないため,受給手続をしない場合は,最長84歳まで積立てが続く。)

また,年金としてではなく,一時金として積立金を払い出すことも可能である。2010年4月現在の予定利率は,1.25%となっている。募集は,各委託保険会社により,毎年4月1日加入(12~1月募集)と10月1日加入(5~6月募集)の2回である。

これらの制度は,いずれも,掛金口数によって給付が決まり,所得如何に関わらず,自由に選べる制度,つまり「個人の自助努力に委ねる」制度と言ってよい。

② 会員のリタイアメントに対する意識
リタイアメントを支える制度が上述の通り決して充実しているとはいえない現実である一方,会員自身はリタイアメントに対してどのような意識を有しているのだろうか。
例えば,第二東京弁護士会が2005年に実施した会員アンケート(回答数166,平均55・6歳,弁護士経験年数23年。) によれば,会員の意識として以下の結果 * 1 2が報告されている。
*12 「特集弁護士の引退を考える」第3回(NIBEN Frontier 2005年7月号)第二東京弁護士会

ア.70歳まで働くことを理想とし,70歳で引退することを予定,
イ.引退した後の生活手段は預貯金と不動産収入が主で趣味やボランテイア活動中心の生活,
ウ.引退後には楽しみと不安が相半ばし,不安の主な理由は健康と生活資金,エ.高齢の会員には59歳~60歳で仕事の内容を変えた人が多く,事務所体制を変えた人も相当数あり,
オ.充実した引退生活のためには趣味,友人,家族関係,財産が大切,
カ.引退せずに現役として働き続ける場合には周囲の弁護士と依頼者の理解が必要。
また,4割近くが働ける限りいつまでも働くと回答し,大半の弁護士の60~70歳以後の生活は少しずつ仕事を減らしたり,事務所を共同化する「セミリタイヤ」状態ではないかとされている。そして,平均的弁護士が60歳で引退するためには最低でも5~6000万円,最高では1億2000万円の貯蓄が必要とのモデルプランが示されている。

しかし,最低貯蓄のモデルプランに関して言えば,アンケートが実施されてから僅か6年の経過ではあるが,既に法曹養成制度も弁護士の経営環境も激変している。地域や顧客層の違いもあろうが,平均的弁護士においてこのような貯蓄が可能と言えるかは大いに疑問である。特に若手弁護士の就職難や全体に仕事の密度が上がる割には事件単価が低くなる傾向もあり,もはやこのシュミレーションは現実性がないように思われる。

つまり,生涯現役を選ぶにせよ,ハッピーリタイアを選ぶにせよ,弁護士個人の自助努力には限界が見えつつあるのではなかろうか。

③ まとめ
これまで,弁護士は自由業として,経済的にもある程度恵まれていることが前提とされ,そのリタイアメントも基本的に個人の自助努力に委ねられてきた。しかし,弁護士を取り巻く社会環境の激変は,そのような前提が崩れつつあることを示している。
今後,弁護士という司法の一翼を担う社会的意義のある職業が,その役割にふさわしく魅力あるものであるためには,リタイアメントについても一定の安心が提供できる体制を弁護士業界全体で構築していく必要がある。


以上:4,295文字

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