平成27年 3月18日(水):初稿 |
○「一定金額を支払えば協議離婚できるとの誓約書が無効とされた判決紹介」の続きです。 日本では、結婚前の夫婦財産契約を締結する例は、殆ど聞いたことがありません。私はこの3月で弁護士稼業丸35年を経過しますが、この35年間夫婦財産契約が問題になった事案を取り扱ったことは一度もありません。また、夫婦財産契約に関する相談を受けたことも記憶にありません。従って民法親族法の以下の条文の存在も忘れていました(^^;)。そこで以下、夫婦財産契約備忘録です。 第755条(夫婦の財産関係) 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。 第756条(夫婦財産契約の対抗要件) 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。 ○それが、「一定金額を支払えば協議離婚できるとの誓約書が無効とされた判決紹介」での以下の誓約書を見て、そういえば夫婦財産契約なんて条文があったなと思い出しました。 一,離婚に対する財産分与について。 将来甲乙(※甲は妻、乙は夫)お互いにいずれか一方が自由に申し出ることによって,いつでも離婚することが出来る。 (一)甲(※妻)の申し出によって協議離婚した場合は左記の条件に従い乙(※夫)より財産の分与を受け,それ以外の一切の経済的要求はしない。 (イ)婚姻の日より5年未満の場合 現金にて5000万円 (ロ)右同文 10年未満の場合 現金にて1億円 (ハ)右同文 10年以上の場合 現金にて2億円 (二)尚,乙(※夫)の申し出によって協議離婚した場合は前項,第(一)項の金額の倍額をする 二,遺産相続について。 遺産相続は現金で参億円とする。但し遺言によってこれより増額することは出来る。 従って,民法に定める法定相続分並びに遺留分については,全て放棄する。 右,誓約いたします。 ○夫婦財産契約は、以下の法定財産制に修正を加えるものです。 第2款 法定財産制 第760条(婚姻費用の分担) 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。 第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任) 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。 第762条(夫婦間における財産の帰属) 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。 2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。 ○夫婦財産契約は、「婚姻の届出前」に限られます。婚姻届出後は夫婦財産契約を締結できません。婚姻中は、以下の夫婦間契約取消権があるからです。 第754条(夫婦間の契約の取消権) 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。 婚姻届出前の夫婦財産契約は殆ど利用されておらず、登記件数も年間数件に留まっているとのことです。 ○スエーデン婚姻法等諸外国では、夫婦財産契約の内容を詳細に規定する例がありますが、日本民法には夫婦財産契約内容に関する規定は全くありません。従って原則自由に任されていますが、契約である以上、公序良俗(民法第90条)に反する内容を定めることは出来ません。 ○「一定金額を支払えば協議離婚できるとの誓約書が無効とされた判決紹介」での誓約は、婚姻届前の合意ですが夫婦財産契約と評価するかどうかの論点はありません。判決では、「本件誓約書は,将来,離婚という身分関係を金員の支払によって決するものと解されるから,公序良俗に反し,無効と解すべきである。」とされました。しかし、「将来,離婚という身分関係を金員の支払によって決する」との理由で、公序良俗違反とされるのでは、夫婦財産契約なんて殆ど成立する余地はなくなります。夫婦財産契約の意義は、将来、離婚になった場合の財産の分配方法に関するものが重要だからです。有効に成立する夫婦財産契約内容サンプルについて勉強が必要です。調べて別コンテンツで報告します。 以上:1,794文字
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