平成24年 7月26日(木):初稿 |
○妻が、夫と早く離婚したいばかりに、子の養育料は一切請求しないので、兎に角、離婚届に判を押して欲しいと請求して、夫が、養育料を支払わなくて良いならば離婚に応じると、それを条件に不承不承離婚届を作成することは,世間にはよくあります。しかし、このような妻の約束が効力がないことは、「認知・養育料放棄誓約の効力-殆ど効力なし」に、「それでは『養育料は請求しない』との誓約書は全く意味がないのでしょうか。全くないとは言えなくても、殆ど無いと言って差し支えないでしょう。それは養育料とは子供の監護・養育要するに子育てに必要な費用で基本的には子供が父親に対して有する権利だからです。」と記載したとおりです。 ○このことを確認した昭和56年8月24日仙台高裁決定(家月35巻2号145頁、家族法判例百選[第6版]94頁)を紹介します。「前記和解は抗告人と相手方母との間に成立したもので、抗告人と相手方との間に直接の権利義務を生じせしめたものではないから、右和解が養育料折半の趣旨で成立したとしても相手方に対しては何らの拘束力を有せず、単に扶養料算定の際しんしゃくされるべき一つの事由となるに過ぎないし、また抗告人が相手方母に対し前記和解に基づく養育料を支払つたからといつて当然に本件扶養審判において差引計算をしなければならぬ筋合のものでもない。」と述べています。 ○このような判例の趣旨を踏まえ、家庭裁判所での離婚調停では、妻が養育料を請求しないと述べ、夫がこれに応じて、これを条件に離婚を承諾するような場合、養育料不請求の約束は無効であることを夫に説明し、調停条項には記載せず、養育料に関する取り決めは何ら触れないで離婚調停を成立させるのが一般です。ですから、後になって、妻或いは子から養育料を請求されても、離婚の合意は詐欺によって取り消す或いは錯誤で無効だなんて、言えません。 ********************************************** 抗告人 A(父) 相手方 C(子) 右法定代理人親権者母 B 主 文 本件抗告を棄却する。 抗告費用は抗告人の負担とする。 理 由 一 本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。 二 よつて検討するに、記録によれば、本件扶養料請求申立事件の背景となる実状と経緯については原審判の理由に記載のとおりであると認めることができ、この認定を動かすに足りる資料はない。そして右事実に徴すれば、抗告人と相手方母との間に昭和53年6月9日成立した養育料一ヵ月2万円支払の和解および右和解後に生じた双方の事情を綜合勘案して、相手方が抗告人より受けるべき扶養料を相手方が小学校に入学した昭和55年4月以降月額2万9000円と定め、抗告人は相手方に対し金40万6000円を即時に並びに昭和56年6月以降相手方が成人に達するまで毎月末限り金2万9000円を支払うよう命じた原審判は相当である。 三 抗告人は、抗告人の昭和55年1月ないし8月における定常的な月収は17万8288円ないし17万9898円であり、同年4月分は超過勤務手当1万0280円が加算された特異的な月収であるから、これを基準として扶養料を算出するのは不当であると主張する(別紙抗告理由3の前段)。 然し、年間を通じて行われる扶養についての扶養料の算定は扶養義務者の年間収入を基準とすべきであるから、月々定額の扶養料の支払を命ずる場合は年間収入を12ヵ月で割つた一ヵ月平均月収を基準とするのが合理的であるところ、記録によれば、抗告人の昭和54年度における給与所得控除後の金額は230万2881円、1ヵ月平均月収は19万1907円であると認められ、昭和55年度分のそれについては資料の提出がないため不明であるが、抗告人が国家公務員である○○大学文部教官であることからすれば、同年度における抗告人の諸手当(超過勤務、勤勉、期末の各手当)を含む年間収入を12ヵ月で割つた一ヵ月平均月収が抗告人の主張する同年1月ないし8月の定常的な月収はもとより超過勤務手当を含む同年4月分月収をも上回わるものであろうことは推認するに難くない。してみれば扶養料算出の基準として超過勤務手当を含む昭和55年4月分月収を採つたからといつて抗告人に何らの不利益を及ぼすものではなく、抗告人の立場からこれを不当として非難すべき理由はない。 次に抗告人は、前記和解は相手方の養育料を抗告人と相手方母とが折半して負担する趣旨で成立したものであるところ、抗告人の昭和55年4月分月収を基準に算出した相手方の受けるべき生活程度5万3699円の折半額は2万6849円であるから、これを超えて相手方の扶養料を月額2万9000円と定めることは前記和解の趣旨に反して不当である、また抗告人は相手方母に対し昭和56年5月まで前記和解に基づく養育料を支払つているのにこれを差引き計算せず、抗告人に対し昭和55年4月以降昭和56年5月まで月額2万9000円の扶養料合計40万6000円の即時支払を命じたのは不当であると主張する(抗告理由2および同3の後段)。 然し、原審判も述べるとおり、前記和解は抗告人と相手方母との間に成立したもので、抗告人と相手方との間に直接の権利義務を生じせしめたものではないから、右和解が養育料折半の趣旨で成立したとしても相手方に対しては何らの拘束力を有せず、単に扶養料算定の際しんしゃくされるべき一つの事由となるに過ぎないし、また抗告人が相手方母に対し前記和解に基づく養育料を支払つたからといつて当然に本件扶養審判において差引計算をしなければならぬ筋合のものでもない。 四 その他記録を精査するも原審判にはこれを取消変更すべき違法、不当の事由は存在しない(なお別紙抗告理由1に記載されている点は抗告人においてもこれを問題とすることは本意でないというのであるから、当裁判所も右の点については判断を示さない)。 よつて原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 小木曽競 裁判官 伊藤豊治 井野場秀臣) 以上:2,531文字
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