平成22年 5月30日(日):初稿 |
○平成21年5月28日名古屋高裁判決(判時2069号50頁)は、先ず扶養的財産分与として妻にマンション賃貸を命じた点が重要であり,どのような論理構成か検討します。 妻Aは、一審実質敗訴を受け、控訴審に至りようやく、夫Bに対し、不貞行為・悪意の遺棄を理由に慰謝料・財産分与等を求める離婚の反訴を提起しました。本件のように婚姻破綻が明白な事案は、一審時点で慰謝料等の支払を求める反訴を提起した方が無難ですが、意地になっている妻はなかなか離婚の反訴を出しません。 ○妻Aは離婚の反訴で居住マンションについての賃借権の確認を求めていますが,その請求原因は以下の通りでした。 ・平成11年購入の居住マンション代金2835万円の内350万円は妻Bの退職金等特有財産で支払ったのでA持分1000分の117は特有財産である。 ・AからBへの婚姻費用分担審判でBは、居住マンションの家賃相当部分を婚姻費用から差し引くべきと主張し、Bが支払うべき婚姻費用から家賃相当額として住宅ローン及び管理費の4割相当額金4万6148円が控除されている。 ・従って婚姻費用分担審判が確定した平成17年1月末までに夫Bを貸主、妻Aを借主とする賃料月額金4万6148円、賃貸期間は妻Aと長女が居住マンションを使用する必要がなくなるまでの期間とする条件で賃貸借契約が成立したと評価すべき 要するに妻Bは夫Aが負担すべき婚姻費用の中から差し引かれる家賃相当額月額金4万6148円は、家賃として支払っているために婚姻費用から相殺されていると主張しました。 ○これに対し夫Bは、居住マンションについて妻Aは別居前から占有を継続しているだけで新たに占有権限が設定されたわけではなく、別居時点で夫婦関係は完全に破壊されており、賃貸借契約が成立するなどあり得ず、婚姻費用審判で控除された金4万6148円は家賃そのものではなく、婚姻費用の精算または調整金に過ぎないと主張しました。 ○両者の主張について裁判所は次のように認定しました。 ・本件紛争経過に照らすとAB間別居時に居住マンション賃貸借の合意が成立したとは認められない。 ・しかし夫Bの本件別居は悪意の遺棄に該当し、遠い将来の退職金等を分与対象とされないこと、居住マンションの一部は妻の特有財産であること、妻Aには婚姻破綻に責められるべき点が認められないことから、扶養的財産分与として居住マンションについて一定期間居住を認めて法的地位の安定を図るのが相当 ・婚姻費用審判において夫Bが家賃相当分控除を強硬に主張し金4万6148円が控除されたこと、退職金等が直接的財産分与対象とされないので扶養的財産分与の要素として斟酌すべきことから①清算的財産分与として夫持分1000分の883全部を夫に取得させるとともに、②扶養的財産分与として夫取得部分を賃料月額金4万6148円、賃貸期間を長女が高校卒業する平成27年3月までとの条件で妻に賃貸するよう命ずるのが相当 ○流石に別居時AB夫婦間に賃貸借の合意が成立したとまでは評価出来ませんので、退職金が財産分与の対象にされなかったこと、一部に妻の特有財産としての持分があること、おそらく判決時小学6年生の長女がせめて高校卒業まではこのマンションに居住したいと強く希望している点等を考慮し、扶養的財産分与の理屈をたてたものと思われます。紛争の具体的に妥当な解決を求めていわば大岡裁きとして裁判所の裁量を広く認めたもので大いに参考になります。 以上:1,424文字
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