平成20年 2月23日(土):初稿 |
○夫Aの妻Bが、勤務先の同僚Cと性関係を持った場合、夫Aは憤り、CのみならずBとCの勤務先D社のB、Cの上司にCとBの関係を告げ、更に勤務先であるD社自体に損害賠償請求をしたいとの相談を希に受けることがあります。 ○夫Aが妻Bの間男であるCに対し不法行為に基づく損害賠償請求が出来るかどうかについては、「不貞の相手方の他方配偶者に対する責任概観」、「間男・間女?の責任に関する最近の学説概観」、「間男・間女?の責任を否定する判例概観」、「夫と42年間不貞関係を継続した女性への損害賠償請求例5」等に詳しく記載したとおりです。 ○これらに記載したとおり、間男・間女?に対する請求については、裁判例の一般的傾向としては学説に同調し制限的になものが増えてきているような気がします。「貞操義務(民法752条)は、婚姻の基本であるが、それは、本来、夫婦間の問題であり、価値観の多様化した今日にあっては、性という勝れて私的な事柄については法の介入をできるだけ抑制」すべきとの考えです。 ○従って上記夫Aが妻Bの間男Cに損害賠償請求の訴えを出しても大した金額は取れなくなってきているところ、Cの勤務先であるD社への損害賠償請求などは論外と考えて良いでしょう。民法715条(使用者等の責任)「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」との規定でD社が社員Cの行為に責任を負うのは、あくまで「その事業の執行について第三者に加えた損害。」であり、CとBの性関係は、「その事業の執行」とは到底評価できないからです。 ○これに対しCがBの上司で、セクハラと認定されるようなケース場合、D社に労働環境の是正措置の懈怠を理由に使用者責任が認められる場合がありますが、BとCの自由意思による性関係の場合、D社は全く無関係であり何らの責任を負いません。 ○それでは面白くないAが、BとCの関係をD社の上司に告げることは問題がないでしょうか。D社としては、BC間のプライベートな関係を持ち込まれても迷惑なだけですが、かような関係に厳しく、これを理由にCが退職に追い込まれた場合などは、Aに何らの責任が及ばないでしょうか。 ○何か参考になる判例がないかと調べていると平成18年10月30日東京地裁判決では、自治体職員の上司からセクハラを受けたとして、自治体の長に懲戒処分を求めるなどして上司を退職に追い込んだ女性が、その上司から退職による逸失利益等約1億1000万円を請求されて何と6545万円が認容されていました。当事者の関係について原則として無関係な職場に持ち込み退職を求めるのは慎重にした方がよいでしょう。 以上:1,108文字
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