○判例時報2024年12月1日号に、弁護士業務としては、超巨大な訴額に羨ましい限りの判例が紹介されていました。令和6年2月8日東京高裁判決(判時2605号59頁)です。第一審の請求額は約101億円ですが、控訴審では損害額が約144億円と認定されています。私の事務所では、交通事故での後遺障害別表第一の1級事案で何件か億を超す紛争を扱ったことがありますが、請求額は数億円レベルで、10億円を超す紛争を扱ったことはなく、まして100億円を超す事案など扱うのは夢の又夢です。
○高裁判決では、被控訴人(被告)は控訴人(原告)に対し約94億円の支払を命じられて確定しています。このような超大規模訴額事案で、弁護士着手金・報酬金は基準通りに貰えるか興味あるところです。基準通り貰えたらこの1件だけで、しばらくの間、私の場合、○○年は遊んで暮らせます(^^)。
以下、その夢の事案のまとめです。次回判例勉強会でレポートします。
・要旨
物流倉庫内においてフォークリフト運転者が段ボールを回収運搬するに当たり、大量の段ボールが堆積する場所でフォークリフトの前進・後退を繰り返し、高温となった排気管と段ボールが接触して発火したことから発生した火災事故についてフォークリフト運転者の過失が肯定された事例(過失相殺35%)
・論点
大量の段ボールが堆積する場所でフォークリフトの前進・後退を繰り返し、高温となった排気管と段ボールが接触して発火したことから発生した火災事故についての
①債務不履行・不法行為責任の有無
②損害額
③損害拡大についての原告側過失の有無
・参照条文
民415・416・418建基準21同施行令112・保険法25
・事案
Xは事務用品オフィス家具等販売会社で3階建て物流倉庫(本件倉庫)所有
Yは製紙原料等卸販売会社
X・Y間で段ボール等再生資源継続販売契約
Y授業員が本件倉庫から段ボール等回収・運搬作業
h29.2.16Y従業員が本件倉庫内端材室(用済み段ボール集積場)で段ボール回収運搬作業をする際、大量の段ボールが堆積する場所でフォークリフトの前進・後退を繰り返し、高温となった排気管と段ボールが接触して発火し、本件倉庫床面積の60%焼損
XはYに対し債務不履行(主位的)・不法行為(予備的)請求として当初101億円の損害賠償請求
Yは損害を争い、1階端材室から2・3階への炎症(拡大損害)は消防関係法規違反のXの過失により生じたとして因果関係を否認し、過失相殺を主張
一審判決は、拡大損害も含めてYの債務不履行責任を認め、損害を約126億円とし原告過失2割過失相殺し、Xが受領した損害保険金約50億円を控除し、Yに対し約50億円の支払を命じた
X・Yとも不服として控訴
・控訴審判示概要
拡大損害も含めてYの債務不履行責任を認める
損害額は、約144億6300万円と認定
Xの過失-消防法規定違反危険物貯蔵等-、Y従業員の過失を考慮し、Xの過失割合35%
X受領約50億円保険金は損益相殺として控除すべき利益非該当で、保険会社も保険法第25条に基づく代位も不可
Yに対し、約144億6300万円×0.65(1-0.35)=約94億円の支払を命じた
※本件での受領保険金約50億円は、保険法第25条によって、Xの過失部分損害約50億円に充当されるため94億円から控除されないと理解
※s50.3.31最高裁判決(判時769号43頁)
上告人が、被上告人が上告人から賃借していた本件建物が被上告人の被用者の重過失による失火によって焼失したとして、被上告人に対し、使用者責任または賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償を求め、被上告人が、上告人の損害は火災保険金の受領によりすでに填補されたなどとして、損害賠償債務に充当された敷金の返還を求めた事案の上告審で、家屋消失による損害につき火災保険契約に基づいて被保険者たる家屋所有者に納付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、たまたまその損害について第三者が所有者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらないとした
・参照条文
保険法第25条(請求権代位)
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一 当該保険者が行った保険給付の額
二 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2 前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
建築基準法第21条(大規模の建築物の主要構造部等)
次の各号のいずれかに該当する建築物(その主要構造部(床、屋根及び階段を除く。)の政令で定める部分の全部又は一部に木材、プラスチックその他の可燃材料を用いたものに限る。)は、その特定主要構造部を通常火災終了時間(建築物の構造、建築設備及び用途に応じて通常の火災が消火の措置により終了するまでに通常要する時間をいう。)が経過するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために特定主要構造部に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない。ただし、その周囲に延焼防止上有効な空地で政令で定める技術的基準に適合するものを有する建築物については、この限りでない。
一 地階を除く階数が4以上である建築物
二 高さが16メートルを超える建築物
三 別表第一(い)欄(5)項又は(6)項に掲げる用途に供する特殊建築物で、高さが13メートルを超えるもの
(以下略)
同法施行令第112条(防火区画)
法第2条第九号の3イ若しくはロのいずれかに該当する建築物(特定主要構造部を耐火構造とした建築物を含む。)又は第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物で、延べ面積(スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のものを設けた部分の床面積の2分の1に相当する床面積を除く。以下この条において同じ。)が1500平方メートルを超えるものは、床面積の合計(スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のものを設けた部分の床面積の2分の1に相当する床面積を除く。以下この条において同じ。)1500平方メートル以内ごとに1時間準耐火基準に適合する準耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備(第109条に規定する防火設備であつて、これに通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後一時間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。以下同じ。)で区画しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物の部分でその用途上やむを得ないものについては、この限りでない。
一 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場の客席、体育館、工場その他これらに類する用途に供する建築物の部分
二 階段室の部分等(階段室の部分又は昇降機の昇降路の部分(当該昇降機の乗降のための乗降ロビーの部分を含む。)をいう。第14項において同じ。)で1時間準耐火基準に適合する準耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備で区画されたもの
(以下略)
以上:3,254文字
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