○「
位置指定道路上設置ブロックの妨害排除請求を棄却した最高裁判決紹介」の続きで、位置指定道路に関する判例紹介を続けます。今回は、私道である位置指定道路所有者から第三者に対する自動車通行や駐停車を禁じた所有者の請求を認めた平成23年6月29日東京地裁判決(判タ1359号244頁)関連部分です。
○私道の所有者である原告らが、当該私道に接している土地の所有者に対し、私道の所有権に基づき、当該土地上に建設された賃貸用建物に出入りする者につき、当該私道を通行させるなどして原告らの私道の占有使用を妨害してはならないことの確認を求めました。
○これに対し東京地裁判決は、被告土地の関係者が本件私道を徒歩ないし自転車等で通行することは、位置指定道路の性質からしても、また実際の本件私道や被告土地の状況からしても、本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものとはいえないが、幅約4メートルしかなくかつ通り抜けできない本件私道に自動車を乗り入れることは、本件隣接地の所有者、すなわち本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものである等として、被告は、上記建物に出入りする者に本件私道を自動車通行させることや自動車を駐停車させることで、原告らの本件私道に対する占有使用を妨害してはならないとしました。
○判決は私道である位置指定道路は第三者を含む一般公衆の通行を許容する性質を有し、公衆の通行・立ち入りを全面的に禁止したり阻害したりすることはできないが、あくまで私道なので、その所有者は,当該道路に対する維持・管理権を有し,位置指定道路の趣旨等,法令の規定に反しない限り,当該道路の保全と関係権利者の居住の安寧のため,当該道路の利用を自治的に定めることができ,当該道路を利用する一般公衆もその定めによる利用制限に服すると一般論を述べた上で、自動車通行と駐停車による妨害排除を認めました。
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主 文
1 被告は,別紙物件目録14記載の土地上の建物に出入りする者を別紙物件目録1及び5記載の土地を自動車通行させることや自動車を駐停車させることで,原告らの前記土地に対する占有使用を妨害してはならない。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,その1を被告の,その余を原告らの各負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,別紙物件目録14記載の土地上の建物に出入りする者を別紙物件目録1及び5記載の土地を通行させるなどして,原告らの前記土地に対する占有使用を妨害してはならない。
第2 事案の概要等
本件は,私道の所有者である原告らが,当該私道に接している土地の所有者に対し,私道の所有権に基づき,当該土地上に建設された賃貸用建物に出入りする者につき,当該私道を通行させるなどして原告らの私道の占有使用を妨害してはならないことを求めたのに対し,被告が,当該私道は位置指定道路であり,一般公衆の通行のために利用させなければならないから原告らの請求は理由がないとして争った事案である。原告らは,私道の所有者による自治的な定めにより,あるいは当該土地の前所有者との間の当該私道利用についての合意の引受に基づき,被告の利用が制限されると反論している。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠により容易に認定できる事実)
(中略)
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告は,本件合意を引き受けているか。)について
(中略)
2 争点(2)(被告は,本件私道の所有者がその管理権に基づき被告に対し本件私道の通行を非常時に制限するとの定めに服するか。)及び同(3)(本件において,原告らの本件私道の所有権に対する侵害のおそれがあるか。)について
(1)前記1での認定事実に証拠(甲24,25,33)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告土地を購入し被告建物の建設を企図していた被告と,本件私道の所有者である原告X1,同X3,I及びJは,平成21年12月13日に被告土地上で話し合いの場をもったこと,この際に,原告X1らは,本件合意について説明し,被告土地と本件私道との境界線上には出入口を設置しないよう申し入れたが,被告は,位置指定道路だから反射的利益で通行できるから自由に通行させるなどと答え,拒絶したこと,本件私道の所有者のうち,K及びLは,遠方に居住しているため出席しなかったが,事前に原告X3に対し,被告が非常時以外も本件私道を通行することには反対であり,被告との話し合いは本件私道の他の所有者に任せる旨を伝えていたことが認められる。
してみると,遅くとも,平成21年12月13日までに,本件私道の所有者全員(甲25及び弁論の全趣旨からすれば,原告X3は同X2及び同X4の意を汲んで話し合いに参加していたと認められる。)が,被告による本件私道の通行を非常時に制限する旨定めたと認められる。K及びLは,F及びGに対し,被告土地の所有者及びその関係者が本件私道を無償で通行すること(車両を除く。ただし,建物の解体・建築に伴う工事,または緊急時においては車両の通行を認めるものとする)などを記載した承諾書に署名押印している(乙1の2)が,これは,(承諾の相手方に対する合意違反となりうる点はともかく)その後に前記の定めを行うことを必ずしも否定するものではないから前記認定を左右しない。
(2)そこで,このような私道所有者による利用制限の定めが他の私道利用者等を拘束するかについて検討する。
位置指定道路は私道ではあるが,その所有者以外の第三者を含む一般公衆の通行を許容する性質を有しているものであるから,公衆の通行・立ち入りを全面的に禁止したり阻害したりすることはできない。しかし,あくまで私道であるから,その所有者は,当該道路に対する維持・管理権を有し,前記の位置指定道路の趣旨等,法令の規定に反しない限り,当該道路の保全と関係権利者の居住の安寧のため,当該道路の利用を自治的に定めることができ,当該道路を利用する一般公衆もその定めによる利用制限に服するものというべきである。
本件私道も,位置指定道路であり,かつ現状も道路として整備,利用されているものであるから、一般公衆の通行を禁止するような取り決めをその所有者がしても,これに基づき直ちに通行を排除することはできない。よって,被告(ママ原告?)による本件私道の通行を非常時に制限する旨定めた取り決めが,ただちに被告に適用されるものではない。
しかし,本件私道は幅約4メートル,総延長約37メートルの通り抜けできない道路であり(前記前提事実),本件私道の所有者はいずれも本件隣接地の所有者であって,本件隣接地の利用者にとっては本件私道が公道に通じる唯一の通路であり,現に原告X4は毎日の通勤に自動車を利用していること(甲24,25,弁論の全趣旨),被告土地上に建築された被告建物は1世帯当たり35平方メートル程度の計6世帯が居住可能となっており,本件私道側に2階からの階段の一つが設置され,ガス等のメーターのうちにも本件私道側に面して設置されているものがあること,被告土地は通路状部分により直接公道に接しており,公道に接する部分には自転車やバイクの駐車が可能なスペースがあり,その他にも自転車等を駐輪するに足りるスペースがあること(前記前提事実,甲11の1・2,12,13,乙2),これまでに平成22年11月ころに本件私道上に引越のトラックが駐車して引越作業が行われ,原告X1が,私道であるから止めてほしい旨申入れて移動させたことが1度あること(甲20の1・2,24)からすると,被告土地の関係者が本件私道を徒歩ないし自転車等で通行することは,前記位置指定道路の性質からしても,また実際の本件私道や被告土地の状況からしても,本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものとはいえないが,幅約4メートルしかなくかつ通り抜けできない本件私道に自動車を乗り入れることは,駐停車により本件私道によってのみ公道に通じている本件隣接地の利用者の利便を著しく損なう可能性の高いものであり,ひいては本件隣接地の所有者,すなわち本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものである。
(3)そして,平成22年11月には実際に本件私道上に被告建物への引越作業のトラックが駐車するという事態が起きたものであり,被告建物が6世帯が居住可能となっている賃貸物件であることを踏まえると,今後も同様の事態が生じる蓋然性があるものといえ,かつ,被告土地は直接公道に接しているから本件私道への自動車の乗り入れが否定されたとしても大きな不都合を生じるものではない。
(4)なお,被告は,被告建物を賃借する者に対しては,賃貸借契約に基づく権利行使をすることが可能だが,賃貸人といえども,賃借人に対し,近隣住民に迷惑をかけないよう求めることはできても,通行そのものを禁止することまではできないし,被告建物に出入りする者に対し,本件私道を通行しないよう求める権限がないと主張する。
しかし,被告は,自認するとおり被告建物の賃借人に対しては賃貸人としての立場から一定の権利行使が可能であり,例えば引越の際に本件私道側に荷物搬入のための自動車を進入させないことや,被告建物の居住者が自動車を保有ないし使用している場合や関係者が被告建物を訪れる場合にも自動車を本件私道に進入させないことを賃借人あるいは被告が事前に接触可能な関係者に約束させるなど,権限に基づき一定の措置を行うことが可能である。
それらの措置の実効性や,賃借人がこれに違反した場合の被告の責任については,具体的な状況に応じて,被告に帰責性がないとされる場合もありうるが,これは一定の措置が不可能であることを意味するものではない。
(5)よって,原告らによる本件私道の利用についての取り決めは,被告土地上の建物に出入りする者について,自動車通行することや駐停車することを禁ずる限度で有効な制限と解されるが,その余の部分については,第3者に対し主張し得ないものである。
3 結論
以上の次第で,原告の請求は主文記載の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 野村武範)
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