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元首相対現首相の名誉毀損訴訟平成27年12月3日東京地裁判決全文紹介2

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平成28年10月17日:初稿
○「元首相対現首相の名誉毀損訴訟平成27年12月3日東京地裁判決全文紹介1」の続きです。



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(2) 真実性又は相当性の抗弁
(被告の主張)

 本件記事は,世界中で注目された本件事故の対応について,野党の衆議院議員の職責として報じたものであるから,公共の利害に係る事実に関し,公益を図る目的でされたことは明らかである。
 また,後記のとおり,本件記事が摘示する事実及び意見ないし論評の前提となっている事実は,その重要部分について,いずれも真実であるか又は被告において真実であると信じたことについて相当な理由があるから,本件記事について不法行為は成立しない。

ア 本件記事の重要部分
(ア) 摘示事実1について
 摘示事実1は,官邸から東京電力に対する働きかけにより海水注入が中断されたことについて,内閣総理大臣であった原告の責任を追及したものであるから,官邸から東京電力に海水注入中断を指示する旨の電話をせざるを得ないような原告の言動があったという事実,及びかかる原告の言動に起因して官邸から東京電力に電話があり,これによって海水注入が中断されたという事実は,重要な部分に当たるが,原告が「俺は聞いていない」と激怒したという事実は,重要部分には含まれないというべきである。

(イ) 摘示事実2について
 摘示事実2は,原告の側近の不適切な行動について,原告の管理監督上の責任を追及するものであるから,摘示事実の重要な部分は,原告の側近が,海水注入が中断されたことを「試験注入」とごまかし,原告の指示により海水注入が開始されたという嘘を流布したことが重要な部分に当たる。

イ 真実性について
(ア) 摘示事実1について
 首相官邸において本件会議が開かれ海水注入に関する検討がされた際,原告は,その場にいた者が海水注入の実施に異論を唱えていなかったにもかかわらず,ただ一人,海水注入について,「再臨界の可能性はないのか」,「海水を入れると再臨界するという話があるじゃないか,君らは水素爆発はないと言っていたじゃないか,それが再臨界はないって言えるのか。そのへんの整理をもう一度しろ」,「わかっているのか,塩が入っているんだぞ,その影響は考えたのか」などと激怒し喚きだし,海水注入に再臨界の危険性があるとの強い懸念を示し,本件会議を一旦中断して関係者らに海水注入について再検討するよう指示したのであるから,官邸から東京電力に対して海水注入の中断を指示する旨の電話をせざるを得ないような原告の言動があったことは,真実である。

 そして,これを受け,官邸において本件会議に参加していたCフェローは,官邸からD所長に電話をかけ,既に1号機に海水を注入していると答えたD所長に対し,「おいおい,やってんのか,止めろ」,「おまえ,うるせえ,官邸が,もうグジグジ言ってんだよ」と,海水注入の中断を指示したのであるから,原告の上記言動に起因して,官邸から東京電力に海水注入中断を指示する旨の電話があったことも真実である。

(イ) 摘示事実2について
 原告を本部長とする原子力災害対策本部は,A大臣が官邸にいたCフェローに対し口頭で海水注入を命じる措置命令を発し,午後7時04分に海水注入を開始したという真実を隠し,官邸のウェブサイトを通じて原告の指示により海水注入が開始されたという嘘を流布した。
 したがって,原告の側近が原告の指示により海水注入が開始されたという嘘を流布したことは真実である。

 また,A大臣は,前記1(4)のとおり,5月2日の参議院予算委員会において,3月12日午後7時04分に1号機の海水注入試験を開始したが,午後7時25分にこれを停止し,午後8時20分にホウ酸を混ぜた海水注入を開始した旨答弁しており,海水注入中断という事実は真実ではなかったが,海水注入が中断されたとの認識の下に,原告の側近が海水注入が中断されたことを「試験注入」とごまかしたことは,真実である。

ウ 相当性について
(ア) 摘示事実1について
 仮に前記イ(ア)が真実でないとしても,原告の言動に関する記述は当時の官邸にいた者の話や新聞報道等から真実であると判断したものであり,真実と信じるにつき相当な理由があった。
 また,実際には,現場の判断により海水注入は中断されていなかったが,当時は広く海水注入が中断されたとの報道がされており,海水注入が継続していたことは福島第一原発にいた一部の者しか知らなかった事実であるから,海水注入が中断した事実を真実であると信じたことにも相当な理由がある。

(イ) 摘示事実2について
 仮に前記イ(イ)が真実でないとしても,上記(ア)同様,当時の官邸にいた者の話,新聞報道等から真実であると判断したものであり,真実と信じるにつき相当な理由があった。

(原告の主張)
 本件記事の摘示事実は,いずれも真実ではなく,真実であると信ずるにつき相当な理由もない。
ア 本件記事の重要部分
 摘示事実1について,本件記事は,その内容に照らすと,原告が既に始まった海水注入に対し,理不尽な怒りをぶつけてこれを止めさせたとの趣旨と理解すべきであるから,原告が海水注入の事実を聞いた上で「俺は聞いていない」と激怒したという事実は,重要部分に当たる。
 また,本件記事は,福島第一原発の危機的状況において海水注入が中断したことについて原告を批判する内容であるから,実際に海水注入が中断したことも重要部分に当たるというべきである。

イ 真実性について
(ア) 摘示事実1について
a 本件会議は,3月12日の午後6時頃から20分程度行われたものであるから,そもそも本件会議の時点では海水注入は開始しておらず,原告は,3月12日午後7時04分に海水注入が開始した事実も聞かされていなかったから,原告が「俺は聞いていない」と激怒して海水注入を中断させることはあり得ない。本件会議では,淡水が切れたら海水を注入するということを当然の前提としており,原告も同様の認識を有していた。東京電力の職員から海水注入の準備が整うまでに1時間半ほどかかるとの説明がされたため,原告は,B委員長を始めとする原子力安全委員会や保安院,東京電力の職員らに対し,海水注入の準備が整うまでの間に海水注入に伴う塩による腐食の問題を検討するように言ったにすぎない。再臨界の問題は,これとは別に本件会議においてB委員長が再臨界の可能性があるとの趣旨を述べたため,上記検討と併せて再臨界の問題についても検討することを求めたものであり,海水注入に反対する趣旨ではなかった。同席者の中には,原告の質問が海水注入との関係でなされたと誤解した者がいたかもしれないが,それは原子力ないし理系の知識を有していない故の誤解である。

 したがって,原告が海水注入に異論を唱えたり,ましてや海水注入の事実を聞いて激怒したりこれを中断させようとしたという事実はない。
 また,東京電力による海水注入の開始は午後7時04分であり,午後8時20分に開始されたというのも事実に反し,午後7時04分に開始された海水注入はその後中断されることもなかったから,この点も事実に反する。

b 本件記事は「官邸からの電話」としているところ,これは原告の支配下にある者からの指示,すなわち原告の指示と同視できるもののみが該当するというべきである。そうすると,福島第一原発へ電話をしたCフェローは東京電力の社員であって,官邸職員ではないから,同人からの電話をもって,原告からの指示と同視することはできない。

 Cフェローは,官邸内の政府関係者に海水注入が開始されている事実等を伝えないまま自身の判断によって海水注入の中断を指示していたものであって,同人の電話について原告が批判されるべき理由はない。

c したがって,摘示事実1は重要部分において真実であるということはできない。

(イ) 摘示事実2について
 客観的事実として午後7時04分に開始された海水注入が午後7時25分に止められたことはなかったのであり,また,原告は,午後7時04分に海水注入がされたことを知らなかったのであるから,これを「試験注入」にすぎないとしたことはなく,午後7時25分の海水注入停止をごまかしたこともない。

 また,「試験注入」との語は,上記のとおり,官邸とは無関係に海水注入の中断を決めた東京電力が中断の事実を説明をするために作った用語であり,東京電力の説明を受けた者が,そのまま説明したものであって,官邸内の職員等原告の指揮下にある者らが「試験注入」という言葉を使ったわけではない。
 海水注入は,1号機の冷却を図らなければならない当時の緊迫した状況の中では当然の対応策であり,海水注入をしないなどという選択はあり得なかったから,そのような当然の対応をしたことを「英断」などという必要は皆無であった。
 したがって,摘示事実2は重要部分において真実であるということはできない。

ウ 相当性について
 被告の指摘する政府関係者について,その属性や素性等が明らかでないばかりか,反対尋問を経た証言もないのであるから,これを信用することはできない。また,新聞報道等に基づく判断は,真実であると信じたことについて相当な理由があることの根拠とはならない。

(3) 本件記事を削除することなく掲載を継続したことについて被告に不法行為が成立するか
(原告の主張)
ア 被告が本件記事を掲載した後である5月27日,海水注入が中断した事実はないことが報道され,被告は,同事実を前提とする摘示事実1及び同2がいずれも事実ではないことを認識するに至った。

イ 新聞や雑誌等のメディアにおいては,名誉毀損となる記事が掲載された媒体が発行されれば,後に事実ではないことが明らかとなったとしてもこれらの媒体の回収が極めて困難である。一方で,インターネットを利用した記事の場合,削除又は修正が容易であるにもかかわらず広く全国,全世界で閲覧が可能であるという特殊性があることからすると,インターネットメディアを利用する者は,その特性に応じ,記事の誤りが判明した場合は当該記事を削除するなどしてそれ以上名誉毀損による損害が継続,拡大しないよう防止すべき義務を条理上負っているというべきである。

ウ したがって,被告が本件記事の内容は真実でないと認識した5月27日以降も約4年間にわたって本件記事を掲載し続けたことは,上記義務に反し,不法行為を構成する。

(被告の主張)
ア 本件記事は,被告の運営する本件サイトにアクセスした上,メールマガジンバックナンバーのページにアクセスする必要があるから,公然と摘示しているとはいえない。

イ 本件記事の公表後,原告や当時の政府関係者は,国会における答弁等において本件記事の指摘する海水注入をめぐる経緯やその後の官邸発表等について説明を行っており,その内容は広く報道等されているところ,これらを併せて読む一般の読者においては,被告の意見である本件記事を読んだとしても,上記原告らの反論を踏まえて理解するから,本件記事の掲載を継続していたとしても,これにより原告の社会的評価が低下するということはない。

ウ 表現の自由が民主主義を支える重要な人権として優越的地位にあること,本件記事は,当時の内閣総理大臣としての原告の言動について,野党議員である被告が批判をしたものであることを考慮すれば,仮に本件記事に掲載後真実でないことが明らかとなった部分が含まれているとしても,その掲載の継続が違法となるのは,①記事の内容が真実ではないことが明白になり,②これによって原告に重大な名誉毀損を生じさせ,③表現の自由との関係を考慮しても当該記事をそのまま掲載し続けることが社会的な許容の限度を超えると判断される場合に限られると解するべきである。

 そうすると,本件は,①海水注入の中断がなかったという記事の一部分についてのみ真実でないことが明らかになったにすぎず,②本件記事の大部分は真実である上,一般人においても,対立野党の議員である被告において内閣総理大臣である原告を批判する内容であることは当然に理解しており,海水注入の中断がなかったという事実も広く知れ渡ることとなったのであるから,これらを前提として記事の内容を理解することから,原告にもたらす不利益は大きくない。さらに,③内閣総理大臣の言動に対する批判的言論が事後的にでも名誉毀損として違法となるのであれば,民主主義の根幹たる表現活動が萎縮する結果となるから,表現の自由との関係で影響は大きく,社会的許容限度を超えるとはいえないというべきである。

(4) 原告に生じた損害
(原告の主張)
 本件記事の内容が明白に虚偽であること,その内容が翌日の全国紙で大々的に報じられたこと,2年以上の間掲載され,原告からの再三の削除要求にも被告が応じていないこと,選挙期間中も閲覧可能であり,原告及び原告が所属するa党を攻撃する意図から掲載しているものであること等を考慮すると,原告に生じた精神的損害は,金銭に換算すると1000万円は下らない。
 また,原告は本件訴訟を弁護士に依頼しているところ,その費用としては100万円が相当である。

(被告の主張)
 争う。

(5) 名誉回復措置としての謝罪広告
(原告の主張)
 原告は,行政府の長である内閣総理大臣として,予断を許さない本件事故の対応のため陣頭指揮に当たっていたところ,本件記事は,原告が極めて利己的な立場から激怒して海水注入を止めさせようとした上,その事実を隠蔽し,逆に海水注入を自身の英断であるというでっちあげを行い国民に嘘をついていると指摘するものであって,原告の名誉を著しく毀損するものであるから,名誉回復のための措置として,謝罪広告の掲載を求める。

(被告の主張)
 争う。


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