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元首相対現首相の名誉毀損訴訟平成27年12月3日東京地裁判決全文紹介3

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平成28年10月18日(火):初稿
○「元首相対現首相の名誉毀損訴訟平成27年12月3日東京地裁判決全文紹介2」の続きで平成27年12月3日東京地裁判決(判時2303号 頁)の判断部分を3回に分けて紹介します。
この元首相と現首相の争いは、現首相がメルマガで、「3月12日の海水注入は菅氏が決定したとされているが、実際には注入は菅氏の指示で中断されていた。しかし側近は『注入は菅氏の英断』とする嘘をメディアに流した」などと指摘したことについて、元首相は、実際には注入中断を指示していなかった上、吉田所長(当時)の判断で注入は続けられていたのに、現首相はは嘘を書いて、元首相の名誉を傷つけた、と主張し、その精神的苦痛に対する慰謝料として1100万円を請求したものです。

○判決は、海水注入が元首相の指示で中断されたかどうかについては、中断された事実はなかったが、東電本社では現場を指揮する所長に対し中断を指示した事実を挙げるも、元首相については、「内閣総理大臣である原告に東京電力において開始した海水注入を中断させかねない振る舞いがあったというべきであり,海水注入の中断に関する本件記事は,重要な部分において真実であった」と認定しています。

○元首相は、東京工業大学出身の理科系で原子力ついて中途半端な知識があったばかりに、現場にやり方に色々疑問を呈して口出しをして、そのため東電本社が現場の所長に海水注入停止を指示し、納得しない所長に対し、「おまえ,うるせえ,官邸が,もうグジグジ言ってんだよ。」と声を上げたと認定しています。

○多少知識があったとしても日本国内では前代未聞の原子力大災害の緊急事態においては、現場に任せるしかない、後の責任だけは俺が負う、兎に角、現場の判断でシッカリやれと激励するしかないと思われます。刻一刻と危機が迫っており、周りがガタガタ言ってもどうにもなりません。緊急事態で人間の本性が出ると言われますが、その典型を元首相の対応に見ることができます。

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第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前記第2の1の前提事実及び証拠(各項掲記のもののほか,甲19,乙36~38)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 福島第一原発における事故発生後の経緯
ア 3月11日午後2時46分,本件地震が発生し,福島第一原発の原子炉は緊急停止した。そして,午後3時27分と同35分にそれぞれ上記地震に伴って発生した津波が到達し,これにより福島第一原発は,全交流電源を喪失した。
 そこで,東京電力は,午後3時42分頃,原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)10条1項に基づき,上記全交流電源の喪失の事実を政府等に通報し,また,午後4時45分頃には1号機の原子炉水位が確認できず注水状況が不明になったとして,原災法15条1項の規定に基づく特定事象(非常用炉心冷却装置注水不能)の発生を通報した。

 原告は,A大臣らから上記通報内容の説明を受け,午後7時03分,原子力緊急事態宣言を発令し,原告を本部長,A大臣を副本部長とする原子力災害対策本部を設置した。
 また,原告は,官邸において福島第一原発の状況を十分に把握できていないと考え,B委員長らと共に翌12日午前6時15分頃,官邸を発ち,午前7時11分頃,福島第一原発に到着してD所長と面会し,現地の状況を視察した。(乙1,2)

イ 福島第一原発のD所長は,原子炉を冷却するため防火水槽内の淡水を使用していたが,3月12日正午頃,淡水が枯渇した場合には,福島第一原発3号機タービン建屋前に津波で溜まっていた海水を1号機の原子炉容器内に注入することを決め,消防ホースを準備するように職員らに指示し,テレビ会議システムを通じてD所長と連絡を取り合っていた東京電力本店の対策室もこれを了承した。(甲7,乙3)

ウ 同日午後2時53分頃,防火水槽内の淡水が枯渇したため,東京電力は,同日午後3時18分,「異常事態連絡様式(第2期以降)(原子炉施設)」と題する定型書類に「今後,準備が整い次第,消火系にて海水を炉内に注入する予定」と記載して,首相官邸内の内閣情報集約センター及び保安院にファクシミリ送信した。(乙3・10頁,乙10)

エ ところが,同日午後3時36分頃,1号機の原子炉建屋において水素爆発が起きたため,1号機原子炉容器内に海水を注入するための準備作業は中断された。

(2) 本件会議の状況とCフェローのD所長に対する指示
ア A大臣は,同日午後5時55分頃,官邸にいたCフェローに対し,1号機に海水注入をするように指示し,保安院に対して,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉規制法」という。)64条3項に基づく措置命令発出の準備をするよう指示した。Cフェローは,A大臣からの上記指示を,同日午後6時05分頃,東京電力の本店に伝達した。(乙2,3,10)

イ 前記第2の1(3)イのとおり,官邸内においては,同日午後6時頃から同6時20分頃まで,原告,A大臣,B委員長,保安院の職員,Cフェローらが集まり,1号機への海水注入に関する検討がされた(本件会議)。
 Cフェローは,本件会議において,原告に対し,淡水が枯渇したため,1号機に海水を注入する予定であり,その準備に約1時間半ほど時間がかかるとの説明をした。原告は,海水を注入することによる原子炉の腐食の可能性について質問したほか,B委員長に対し再臨界の可能性はないのかと尋ねた。これに対し,B委員長が再臨界の「可能性はゼロではない」と回答したため,原告は,海水中にホウ酸を投入するなど再臨界を防ぐための方法を検討するように求め,本件会議は散会となった。(乙1,2,15,32~34)

ウ 一方,D所長は,前記第2の1(3)ウのとおり,同日午後7時04分,準備が整ったとして1号機の原子炉容器内に海水を注入する作業を開始したが,官邸にいたCフェローは,このことを知らず,午後7時25分頃,注入開始時刻の目安を把握するため,福島第一原発のD所長に電話をかけた際に,既に海水注入を開始していると知らされた。Cフェローは,これに驚き,D所長に対し,官邸で海水注入の了解が得られていないとして海水注入を停止するよう求め,納得しないD所長に対し,「おまえ,うるせえ,官邸が,もうグジグジ言ってんだよ。」などと声を上げた。
 東京電力の本店対策室も,D所長に対して海水注入の停止を指示したことから,D所長は,表向きこれを受け入れる旨返事をしたが,実際にはこの指示には従わず,密かに海水注入を続けたため,実際には海水注入が中断されることはなかった。(甲7,乙1,5,15)

エ B委員長,保安院の職員,Cフェローらは,同日午後7時40分頃,原告に対し,本件会議において示された検討事項について検討結果を報告したが,Cフェローは,午後7時04分から既に1号機の原子炉容器内に海水注入がされていた事実を原告やA大臣らには伝えず,原告は,そのことを知らないまま,午後7時55分,経済産業大臣であるA大臣に対し,海水注入を指示した。
 また,午後8時05分には海水注入を命ずる経済産業大臣名の命令文書が作成され,Cフェローから東京電力本店に対し,海水注入の許可が得られた旨の報告がされた。(甲7・9頁,乙10)

(3) 官邸発表等
ア 前記第2の1(3)オのとおり,首相官邸は,3月12日午後8時50分頃,本件事故に関する政府の対応を時系列で説明するウェブサイトのページにおいて,午後6時に「福島第一原発について,真水による処理はあきらめ海水を使え」との総理大臣指示がされた旨を公表し,原告も,その頃,自らマスコミに対し,同日午後8時20分から1号機に海水を注入する異例の措置を始めた旨を発表した。(乙18,24,25)

イ A大臣は,5月2日,参議院予算委員会において,3月12日午後7時04分に,東京電力が1号機に対する「海水注入試験」を開始し,午後7時25分に停止したこと,「総理からの本格的な注水をやれ」との指示を受け,午後8時20分,1号機に対し,消火系ラインを使用して海水注入を開始し,海水には水素爆発を防ぐためホウ酸を混ぜたことなどを答弁した。(乙27)

ウ E内閣総理大臣補佐官(以下「E補佐官」という。)は,5月21日に実施された記者会見において,本件会議において海水注入するに際しての安全性を確認するよう原告から原子力安全委員会,保安院に指示がされたこと,原告からは特に再臨界の危険性がないのかと確認がされ,それを受けてホウ酸を投入するなど再臨界を防ぐ方法を検討すべきだという話になり,本件会議が1時間ないし1時間半休憩となったこと,東京電力からは海水注入まで1時間ないし1時間半はかかるとの説明があったためその間しっかり検討するようにとの指示があったこと,官邸としては当初の海水注入の事実を把握していなかったこと,東京電力の担当者からは保安院に口頭で伝えた旨証言されているが,保安院には連絡を受けていたという記録は残っていないこと,3月12日午後7時40分に原告への説明がされ,その説明を受けて午後7時55分に原告が海水注入の指示をし,午後8時05分にA大臣から海水注入の命令が出されたことなどを説明した。(乙8,23)


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