○令和2年8月当時、原告(55歳)が、被告(16歳、高校1年)に対し、被告が原告の恋愛感情を利用して原告から金品を詐取したなどと主張して、不法行為に基づき、原告が被告のために支出したとする金品等約266万円損害賠償等を求めました。原告は、原告と恋人として交際する意思がないにもかかわらず、原告に対し、その意思があるかのように装ってその旨誤信させ、別紙支出一覧表に記載のとおり、生活費の援助やブランド品の贈与等の支出をさせた。かかる行為は、原告の恋愛感情を利用して、原告から金銭や経済的利益を詐取するものであり、不法行為に当たると主張しています。
○原告と被告が知り合う契機となった原告の本件アカウントは、そのアカウント名及び投稿内容から見て、女子中学生や女子高校生向けにいわゆる「パパ活」として買い物等の金銭的援助をする旨を申し出たものであり、被告は本件アカウントを通じて原告に「パパ活」をしたいと申入れ、原告から買い物代や小遣いの提供を受けることを合意したうえで金品等の提供を受けていたものと認められました。
○原告は令和4年に至り当時18歳の成年者になった被告に対し、訴えを提起しましたが、令和5年9月13日東京地裁判決(LEX/DB)判決は、この事案について、金品等の交付に向けた欺罔行為があったとは認められず、原告本人の供述をにわかには採用し難く、被告の欺罔行為と、原告が金品等を提供したこととの間に、因果関係があるとは認められないとして、原告の請求を棄却しました。
○地方の裁判所では、到底、訴訟になるような事案ではないと思われますが、東京地裁には、色々な訴えが提起されることを実感する事案です。
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主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、265万8726円及びこれに対する令和4年4月14日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、被告が原告の恋愛感情を利用して原告から金品を詐取したなどと主張して、不法行為に基づき、原告が被告のために支出したとする金品等の合計265万8726円の損害賠償等を求める事案である。
2 前提事実
(1)原告は、昭和40年生まれの男性であり、被告は、平成16年生まれの女性である。
(2)原告(当時55歳)と被告(当時16歳、高校1年)は、令和2年8月までに、原告が、インスタグラム上の「○○○○○○○○○○」との名称のアカウント(以下「本件アカウント」という。)から、被告のアカウントに対してフォローリクエストを行い、これを受けた被告が、原告に対して「パパかつしたいです」「女の子2人です」とのメッセージを送ったことを契機として会うようになり、以降、令和3年8月まで、原告において、被告の食事代や買い物代を負担したり、プレゼントを贈ったり、会った際に現金を渡したりする関係にあった。
3 争点及び当事者の主張
(1)不法行為の成否
(原告の主張)
ア 令和2年9月10日から令和3年1月8日までの行為について
(ア)被告は、原告と恋人として交際する意思がないにもかかわらず、原告に対し、その意思があるかのように装ってその旨誤信させ、別紙支出一覧表に記載のとおり、生活費の援助やブランド品の贈与等の支出をさせた。かかる行為は、原告の恋愛感情を利用して、原告から金銭や経済的利益を詐取するものであり、不法行為に当たる。
(イ)また、別紙支出一覧表のうち、令和2年10月15日から同月23日までの支出は、被告が、原告に対し、親から追い出されて家出中であり生活費が足りない等と虚偽の事実を述べ,同年12月20日から令和3年1月6日までの支出は、被告が、原告に対し、財布を無くしたとの虚偽の事実を述べ、それぞれ、原告をしてその旨誤信させて支出させたものであり、この点においても不法行為に当たる。
イ 令和3年5月8日から同年8月21日までの行為について
(ア)被告は、令和3年4月18日、「C」という別人を騙って原告に連絡し、原告をして、「C」が被告とは別人であると誤信させ、同年5月8日以降、別紙支出一覧表に記載のとおり、生活費の援助やプレゼント等の支出をさせた。原告は、「C」を被告であると認識していれば、これらの支出をすることはなかった。
(イ)また、別紙支出一覧表のうち、同年6月25日以降の支出は、被告が、原告と恋人として交際する意思がないにもかかわらず、原告に対し、その意思があるかのように装ってその旨誤信させて支出させたものであるから、この点においても不法行為に当たる。
(中略)
第3 争点に対する判断
1 認定事実
前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告は、被告と知り合った当時、本件アカウントのプロフィール欄に、「ぱぱ 貧困女子を救いたい。最初は2人でもいいよ。DMきて」と表示し、「a」というブランドの服や小物の写真に「a やっぱりギャルには人気なのかな #JKブランド #JCブランド #お買い物 #神奈川 #ギリ東京 #初心者歓迎」との文章を添えた投稿や、複数のブランドの紙袋を並べた写真に「質より量って感じかな 買い物 #神奈川jkと繋がりたい #神奈川JCと繋がりたい #買い物」との文章を添えた投稿をしていた。(乙1の1から3)
(2)原告は、本件アカウントに連絡してきた被告に対し、初めは友人を連れてきても良く、原告において被告と友人の買い物代各3万円程度、交通費及び食事代を負担し、帰りに1万円ずつ渡す旨を申し出るとともに、2度目からは2人がいい、1週間に1回程度会って月額10万円程度、「表向きカレカノって感じ」にしたい、等と伝えた。(甲2の4、甲5、原告本人)。
(3)原告は、令和2年8月20日、初めて被告と会い、被告と被告が同行した友人の美容室代等各3万円程度を負担し、同人らに対し、現金各1万円を渡した。(甲2の2、甲5、乙7、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
原告は、以降、令和3年1月8日までの間、被告と10回程度会い、被告に対し、食事をおごったり、被告が欲しがる衣類や雑貨等を買い与えたり、会った際には都度現金1万円程度を渡したりした。(甲2の1から4、甲5、乙7、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
(中略)
2 争点(1)(不法行為の成否)について
(1)令和2年9月10日から令和3年1月8日までの行為について
ア 上記期間中に原告が被告に対して支出ないし交付した食事代、買い物代や現金等について、原告は、被告が原告と恋人として交際する意思があるかのように装って原告からこれを詐取した旨を主張する。
しかし、原告と被告が知り合う契機となった原告の本件アカウントは、そのアカウント名及び投稿内容から見て、女子中学生や女子高校生向けにいわゆる「パパ活」として買い物等の金銭的援助をする旨を申し出たものであることが明らかであるといえ(前提事実(2)、認定事実(1))、被告は本件アカウントを通じて原告に「パパ活」をしたいと申入れ(前提事実(2))、原告から買い物代や小遣いの提供を受けることを合意した上で金品等の提供を受けていた(認定事実(2)、(3))ものと認められ、金品等の交付に向けた欺罔行為があったとは認められない。
これに対し、原告本人は、被告に対し、「パパ活」ではなく「恋人」としての交際を求めていた旨を供述するものの、原告が被告に伝えていたのは、要するに、彼氏彼女のような体裁を取りつつ、性交渉を伴う交際に対してお金を支払うというものであり(認定事実(2)、(4))、被告はそのようなメッセージのやり取りに応じていたにとどまり(同(5))、客観的にも欲しい物を買ってもらったり小遣いをもらったりする以上の付き合いはしていなかったのであり(同(6))、欺罔行為に当たる行為が認められない。また、原告においても、原告の出費に見合う被告からの見返りがないことについて不満を述べつつも(同(6))、被告の歓心を買い、被告との交際を発展させる目的で金品等を提供していたものというべきであり、何ら錯誤はないといえる。
イ 被告が原告に対し、家出や財布の紛失を申告して金品の提供を受けた点(認定事実(7))については、被告本人は、財布の紛失について、警察に届け出た事実や生徒手帳まで無くした事実はないのに、SNS等にその旨を「盛って」書いてしまったなどと供述しているものの、家出をしたことや財布を紛失したこと自体は事実である旨を供述しており、これらの事実が全くの虚偽であったと認めるに足りる証拠はない。なお、被告が原告から援助を受けるために多少事実を脚色した部分があったからといって、その内容や提供を受けた金額にも照らし、それが社会通念上許容されない違法行為であるとまでは認められない。
よって、この点においても金品等の交付に向けた欺罔行為があったとは認められない。
ウ よって、令和2年9月10日から令和3年1月8日までの行為について、不法行為に当たるとは認められない。
(2)令和3年5月8日から同年8月21日までの行為について
ア 上記期間中に原告が被告に対して支出ないし交付した食事代、買い物代や現金等については、被告が、原告との関係を一旦解消した後(認定事実(8))、別人の「C」を装って再び原告に接触し、「C」として提供を受けようとしたものであり(同(9))、金品等の交付に向けた欺罔行為があったといえる。
そして、原告本人は、上記期間を通じて、「C」が被告とは別人であると信じていた旨を供述するところ、確かに、原告は、「C」こと被告に対し、被告の誕生日とは違う時期にプレゼントを贈ったり、被告を示す「D」について裁判準備中であると伝えるなど、「C」を被告とは別人であると考えていたともとれる言動をしている(認定事実(10))。
もっとも、原告は、「C」を名乗る被告と複数回にわたって実際に会っているのであり、会ったその日に「B」ではないかと指摘し、その後も身分証を見せるよう繰り返し求めて素性を疑う言動をしたり、被告が「C」として送ったメーセージに対して「あー B?」と自然に応じたりもしている(認定事実(10))。これらの事実に加え、原告は被告に対し、ことあるごとに「Bでもいいんだよ、怒らないから言ってみな」等と言っていたとの被告本人の供述や、原告が、「C」と連絡が取れなくなってから直ちに被告に対して「C」との交際分も含めて損害賠償請求をした事実(同(13))にも照らすと、むしろ、原告は、「C」が被告であるとわかっていたか、被告ではないかと強く疑いつつも、被告の歓心を買い、被告との交際を発展させる目的で金品等を提供していたことが窺われるといえる。
以上によれば、原告本人の上記供述をにわかには採用し難く、被告の欺罔行為と、原告が金品等を提供したこととの間に、因果関係があるとは認められない。
イ また、原告は、「C」こと被告に対する支出のうち、令和3年6月25日以降の支出については、被告が原告と恋人として交際する意思があるかのように装って原告からこれを詐取した旨を主張する。
しかし、本件アカウントを通じた交際開始経緯や客観的な交際の状況等は、令和3年1月までの交際時とほとんど同じであり(認定事実(9)、(11)、(12))、(1)アと同様、金品等の交付に向けた欺罔行為があったとは認められないし、この点についての錯誤も認められない。
ウ よって、令和3年5月8日から同年8月21日までの行為についても、不法行為に当たるとは認められない。
3 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第37部 裁判官 中井彩子
(別紙)支出一覧表
以上:4,937文字
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