○「
マンション法59条競売に民執法63条は適用されないとした高裁決定紹介」の続きで、マンション法第59条1項に基づく競売請求をめた令和5年8月9日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。
○本件マンションの本件管理組合の管理者である原告が、区分所有者である被告に対し、本件管理規約に定める管理費等に係る被告による長期滞納管理費等元金169万8706円及び遅延損害金70万6661円の合計240万5367円について、区分所有法59条1項に規定する要件に該当するとして、同条項に基づき、被告の区分所有権及び敷地利用権の競売を求めました。
○被告による管理費等の滞納行為は、同法57条1項に規定する行為をした場合に該当し、また、当該行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいともいえ、被告の区分所有権及び敷地利用権には、根抵当権が設定されたところ、根抵当権の元本が確定し、一部弁済を原因として根抵当権が一部移転していること、担保不動産競売開始決定がされて差押えがされたものの、取消決定がされたことが認められ、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に該当するなどとして、請求を認容し
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主 文
1 原告は、被告が所有する別紙1物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、別紙1物件目録「一棟の建物の表示」欄記載の建物(以下「本件マンション」という。)の管理組合(以下「本件管理組合」という。)の管理者である原告が、本件マンションの区分所有者である被告に対し、本件マンションの管理規約(以下「本件管理規約」という。)に定める管理費等に係る被告による長期滞納について、同法59条1項に規定する要件に該当するとして、同条項に基づき、本件マンションに係る被告の区分所有権及び敷地利用権の競売を求める事案である。
第3 当事者の主張
1 原告の主張
別紙「請求の原因」記載のとおり
2 被告の主張
原告が本件マンションの管理者であること、被告が別紙物件目録1記載の建物を取得したこと、被告が管理費の支払義務等を負っていたこと、令和2年11月19日に不動産競売開始決定がされたこと、被告の商業登記後上に解散して代表清算人が選任される等の記載があることは認める。その余の事実については、不知。
第4 当裁判所の判断
1 証拠(甲1から3まで及び9)及び弁論の全趣旨によれば、別紙請求の原因1及び2の各事実のほか、本件管理組合の収入は1億6257万7303円であるのに対し、支出は1億6107万4607円であるとの事実を認めることができる。そうすると、このような被告による管理費等の滞納行為は、区分所有法57条1項に規定する区分所有者が第六条第一項に規定する行為(建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同利益に反する行為)をした場合に該当するといえ、また、当該行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいともいえる。
2 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件マンションに係る被告の区分所有権及び敷地利用権については、平成5年12月17日に根抵当権が設定されているところ、平成29年12月11日に根抵当権の元本が確定し、平成30年3月23日の一部弁済(弁済額4582万0683円)を原因として根抵当権が一部移転していること、令和2年11月19日に担保不動産競売開始決定がされて差押えがされたものの、令和3年8月4日に取消決定がされたことが認められる。これらの事情等によれば、本件については、「他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に該当するというべきである。
3 証拠(甲7及び8)及び弁論の全趣旨によれば、別紙請求の原因5及び6の各事実を認めることができる。そうすると、本件は、区分所有法59条1項及び2項に規定する集会の決議に基づく訴えであって、同決議に際しては同条2項において準用する弁明する機会も与えられており、同条に規定する要件に該当するというべきである。
4 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第49部
裁判官 谷地伸之
(別紙1)物件目録
(中略)
(別紙2)請求の原因
1 当事者
(1)原告は、別紙物件目録記載の一棟の建物(甲1)であるa(以下「本件マンション」という。)の区分所有者らが本件マンション及びその敷地並びに付属施設の管理を行うために、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)に基づいて設立した管理組合(権利能力なき社団)(以下「本管理組合」という。)の管理者である(甲2)。
(2)被告は、平成5年12月17日、別紙物件目録記載の建物であるa××××号室(以下「本件建物」という。)の区分所有権を取得し、現在に至るまでこれを所有している(甲1)。
2 被告が区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと
(1)管理費等の支払義務
被告は、平成5年12月17日、本件建物の区分所有権を取得したため、管理規約(以下、単に「規約」という。)第25条1項1号及び2号、第30条2項及び3項、第31条2項及び3項に基づき、管理費、修繕積立金、給湯暖房基本料、給湯使用料、暖房費、水道使用料(以下「管理費等」という。)の支払義務を負う(甲2)。
(2)被告による管理費等の滞納
被告は、平成28年9月分から管理費等を滞納していたため、本件管理組合は被告に対し、令和元年12月11日に管理費等の請求訴訟を提起した。そして、令和2年3月4日、同訴訟の認容判決が出ている(甲3)。しかし、被告は、その後の管理費等の支払も履行していない。
そのため、被告の滞納額は、令和4年7月6日現在、管理費等元金169万8706円及び遅延損害金70万6661円の合計240万5367円に増加している(別紙「滞納管理費等内訳書」参照)。
(3)以上のような、長期にわたり、かつ多額にのぼる被告の管理費等の滞納は、「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項、57条1項、6条1項)に該当する。
3 区分所有者の生活上の障害が著しいこと
管理費等は、マンションの維持管理費に充てられるものであり、マンションの維持管理等に必要不可欠なものである。しかし、前述2(2)に述べたとおり、被告は、長期にわたり、多額の管理費等を滞納しているのみならず、後述4(1)に述べる被告の対応のとおり、今後発生する管理費等を完済しようという意思が認められず、今後も被告の管理費等の不払額は増大することが予想される。
本件管理組合の予算は、直近の収支状況を見ると、収入としては1億6257万7303円あるのに対し、支出としては1億6107万4607円の支出をしており、剰余金は150万2696円しか生じていない(甲9管理費収支表参照)。また、直近の収入の内、剰余金の原資になっているのは、他の区分所有者の管理費等の滞納の回収の際に回収した遅延損害金での収入である(甲9 収支明細書参照)。
そのため、このような遅延損害金の収入がなければ剰余金はほとんど生じないような予算状況であることは明らかである。そのため、240万5367円もの滞納をしている被告が今後も本件居室を所有し続けると、収支状況はマイナスになる可能性が高く、マイナスとなった場合は、他の区分所有者が被告の負担分を補填し続けるか、それとも、本件マンションの管理・修繕の質を落とす等の措置をとらざるを得ないこととなり、区分所有者の生活上の障害が著しいといえる(区分所有法59条1項)。
4 他の方法によっては滞納管理費の回収が困難であること
(中略)
5 総会決議
本件マンションの区分所有者らは、令和4年3月26日の棟総会において、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数をもって、本件区分所有権及び敷地利用権について、区分所有法59条による競売請求訴訟を提起することを決議した(甲7)。
6 弁明の機会の付与
原告は、上記決議に先立ち、被告に弁明の機会を与えるために、弁明の機会の付与を行った(甲8)。
7 結語
以上の事実によれば、被告の管理費等の滞納は、「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項、57条1項、6条1項)に該当し、これにより「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(同法59条1項)な状態が生じていることは明らかといえる。
よって、原告は、被告を除く他の本件マンションの区分所有者全員のために、区分所有法59条に基づき、被告の有する本件区分所有権及び敷地利用権について競売を請求する。
以上:3,761文字
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