○「
LPガス供給のための戸建住宅設置配管設備の住宅付合を認めた最高裁判決紹介」の続きで、その第一審令和5年3月24日東京地裁判決(Westlaw Japan)関連部分を紹介します。
○LPガス供給事業者の原告が被告に対し、被告が約定の供給期間の経過前に原告との間のLPガス供給契約を終了し、同供給契約においては、原告が設置したLPガスの供給設備の費用相当額を被告が負担する旨の合意があったとして、同費用相当額を基礎に所定の方式により算出した金額の支払請求ができる旨の取決めに基づく算出金額17万3775円を請求しました。
○これに対し、被告は、建売業者Aから本物件を購入する際、本件消費設備等の費用に関する説明を受けておらず、本件消費設備等である本物件のガス配管の費用は本物件の購入代金に含まれているという認識で、本件消費設備等は、本物件に付合しており、被告は本件消費設備等を、本物件の一部としてその所有権を取得したので本件消費設備等の取得につき、被告が原告にその費用を支払う義務はなく、本件取決めは損害賠償ないし違約金の予定の定めである本件取決めは、原告とのLPガス供給契約を解約したときに、当然かつ一方的に被告に金銭の支払義務を発生させるものであり、解約に伴う損害賠償の予定あるいは違約金の定めというべきものであり、契約解消により業者に生ずべき平均的な損害を超えて定められたものとして消費者契約法9条1号により無効となると主張しました。
消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 (略)
2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。
○判決は、本件取決めは、原告の主張するような本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意ではなく、本件消費設備等の費用を算定の基礎として算出した中途解約に対する違約金を定める合意というべきものであり、その余の点については検討するまでもなく、本件消費設備等の費用を被告が負担する旨の合意に基づく原告の被告に対する本件請求には理由がないとして請求を棄却しました。
○この棄却理由があいまいであったこともあり、原告が控訴し、控訴審は、原告の請求を認めており、別コンテンツで紹介します。
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主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、17万3775円及びこれに対する令和3年6月16日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、LPガスの供給事業者である原告が、被告が約定の供給期間の経過前である令和3年6月15日に原告との間のLPガス供給契約を終了したところ、同供給契約においては、原告が設置したLPガスの供給設備の費用相当額を被告が負担する旨の合意があり、同供給契約が終了した場合には、同費用相当額を基礎に所定の方式により算出した金額の支払請求ができる旨の取決めがあるとして、これに基づき同算出に係る金額である17万3775円とこれに対する弁済期(上記LPガス供給契約の終了日)の翌日である令和3年6月16日以降の民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原告は、原告と被告の間の上記取決めは、被告がLPガスの供給設備の費用相当額を負担する合意であり、本件請求は、この費用相当額の負担合意に基づくものである、上記取決めは中途解約による損害賠償の予定や違約金の定めではなく、本件請求は、これに基づく損害賠償ないし違約金の支払を求めるものではない旨本件の請求を釈明している。
したがって、本件の中心的争点は、上記取決めが、損害賠償の予定や違約金の定めではない、LPガスの供給設備の費用相当額を被告が負担する合意だったかどうかである。
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない)
(中略)
2 争点及び当事者の主張
(1) 原告・被告間に本件契約書記載のとおりのLPガス供給契約が締結されたか。
(原告の主張)
原告と被告は、本件契約書を作成して、その記載のとおりのLPガス供給契約を締結した。
(被告の主張)
被告は本件契約書に署名・押印をしたが、これが契約であるとの認識はなかった。
(2) 本件契約書記載の本件消費設備等費用相当額の請求に関する取決め(前提事実(2)②及び③。以下「本件取決め」という。)は、本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意といえるか(損害賠償の予定等の性質を有するものではないか)。
(原告の主張)
ア 本件契約書では本件消費設備等の所有者は原告と記載されているが、本件消費設備等は本物件に付合しており、その所有者は被告である。したがって、本件契約書の記載は矛盾しており、その文言どおりに本件取決めを解釈することはできない。
被告は、令和元年頃、株式会社A(以下「A」という。)から、本物件を購入するに際し、本物件の購入代金に本件消費設備等の費用は含まれておらず、同費用を被告が負担する可能性がある旨の説明を受けていた。
これらに加え、本来、被告が負担すべき本件消費設備等の費用を原告が支払ったものであることを踏まえると、本件取決めは、当該費用を被告が原告に支払うことを合意したものであり、原告から被告に対するLPガス供給が10年経過前に終了したことを停止条件として支払期限が到来するものと解するのが相当である。
イ 本件取決めは損害賠償や違約金の予定の定めではない。
本件取決めは、原告から被告に対するLPガス供給契約の解除を要件としておらず、被告がLPガスの供給事業者を原告から他社に変更することは原告に対する債務不履行ではないから、損害賠償や違約金に関する定めには当たらない。
(被告の主張)
ア 被告は、令和元年頃、Aから本物件を購入したが、その際に、本件消費設備等の費用に関する説明を受けたことはなかった。被告としては、本件消費設備等である本物件のガス配管が原告の所有物とは思わず、その費用は本物件の購入代金に含まれているという認識であった。
本件消費設備等は原告も認めているように、本物件に付合しており、被告は本件消費設備等を、本物件の一部としてその所有権を取得したのであり、原告から取得したのではない。したがって、本件消費設備等の取得につき、被告が原告にその費用を支払う義務はない。
原告は、建売住宅である本物件の建築に際し、Aから本件消費設備等の設置工事を請け負い、同工事を行ったのであるが、原告はこの工事費用の支払を注文者であるAに求めていない。すなわち、原告は本件消費設備等の設置工事を無償で請け負ったのであり、その費用を同契約外の被告が負担しなければならないものではない。
イ 本件取決めは損害賠償ないし違約金の予定の定めである(本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意であるとの原告の主張する合意に対する積極否認)。
本件取決めは、原告とのLPガス供給契約を解約したときに、当然かつ一方的に被告に金銭の支払義務を発生させるものであり、解約に伴う損害賠償の予定あるいは違約金の定めというべきものである。なお、その場合には、上記解約により原告には何らの損失・損害も発生しないから、本件取決めは、契約解消により業者に生ずべき平均的な損害を超えて定められたものとして消費者契約法9条1号により無効となるものである。
(3) 本件取決めは錯誤(ただし、平成29年法律第44号による改正前民法95条によるもの)により無効となるものか。
(被告の主張)
仮に、本件取決めが本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意であったとしても、上記(2)(被告の主張)記載のとおり、被告は本件消費設備等に係る費用を負担する義務を負っていないのに、これがあるものと誤信して本件取決めを行ったのであるから、本件取決めは錯誤により無効である。
(原告の主張)
否認する。
第3 当裁判所の判断
1 原告・被告間に本件契約書記載のとおりのLPガス供給契約が締結されたかについて
原告と被告は、令和元年7月10日付けで、本件契約書に署名(記名)・押印しており、その後、被告は、その記載どおりに同日より、原告から本物件に係るLPガスの供給を受けていること(前提事実)からすれば、原告と被告の間には、本件契約書の記載どおりのLPガス供給契約が締結されたものと認められる。
2 本件取決めは、本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意といえるか(損害賠償の予定等の性質を有するものではないか)について
(1) 掲記の証拠等によれば次の事実が認定できる。
ア 原告は、令和元年頃までに、Aの承諾の下、本物件にLPガスの供給設備及び消費設備を設置したが、その設置費用についてはAに請求しなかった(甲1、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、令和元年6月10日、Aから本物件を、売買代金2770万円(ただし、土地代金が1513万円、建物代金が1257万円。税込)で買った(乙1)。
被告は、この売買に当たり、宅地建物取引士から、重要事項として、本物件にはガス設備が設けられており、その整備時期は令和元年5月頃であること、ガス配管設備(供給設備及び消費設備)の所有権はプロパンガス供給業者にあること、被告がプロパンガス供給業者を変更する場合には、償却残存期間に応じて費用が発生する場合があることといった説明を受けた(乙2、弁論の全趣旨)。
ウ 原告は、被告がLPガスの供給者を原告から日本瓦斯株式会社に変更したことに伴い、令和3年6月16日付けで、被告に対し、ガス供給解約に伴う残存簿価費用との件名で、17万3775円の支払を請求した(前提事実、甲4)。
(2) 検討
ア 本件取決めは、原告の本物件に対するLPガスの供給期間を10年以上と定めた上で、当該ガスの供給を受ける立場にある被告に、本件消費設備等の費用負担義務があるとしつつ、原告は、同供給期間中は、被告に対する同費用の支払請求をしないとする一方で、被告が上記供給期間経過前に原告からのLPガス供給を終了させる場合には、上記費用のうち所定の算定式で一定額を控除した額(以下「本件請求額」という。)を請求するというものである(前提事実、認定事実イ)。
イ しかし、前提事実、上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件消費設備等は、被告が本物件を取得する前に、Aの承諾の下、原告が本物件に設置し、これにより本物件に付合したものであるところ、原告は、その際に、その設置費用をAに請求することなく、原告が負担することとしたものといえる。結局、Aと原告の間では、原告が無償で本件消費設備等を本物件に設置したものであり、これによれば、当該設置費用は原告の判断により、これを原告が負担することとしたものといえる。また、被告は本件消費設備等が付合した本物件を、Aから売買により取得したのであるから、被告が本件消費設備等を取得したことに法律上の原因がないともいえない。
そうすると、本件消費設備等の設置費用は、本物件をAから購入した者(被告)が当然に負担すべき性質のものではなく、また、その費用を原告が負担したのは原告自身の判断によるものなのであるから、本件取決めが、その文言に即して、単に本件消費設備等の費用を被告が負担するという合意であり、それに尽きるとするのは不合理である。
ウ 本件取決めの内容は、被告に本件消費設備等の費用負担義務があるとするものの、被告によるLPガス供給契約の中途解約(10年以内の解約)があった場合に限り、その具体的な支払義務が発生するというものになっており、その支払が実際に問題となる場面は、被告による中途解約の場合に限られている。
また、原告は、本件消費設備等をAとの関係では無償で設置し、本物件をAから購入した被告との関係では、原告が被告とLPガスの供給契約を締結し、かつ、その期間を10年以上と定めるとともに、本件取決めを設けている。
これらによれば、原告としては、被告との間でLPガスの供給を相当期間にわたり行うことで、本件消費設備等の設置に係る投下資本を回収しようとしたものと考えられ、中途解約の場合には、LPガスの供給に対する対価の支払を受けられなくなることから、本件消費設備等の費用に基づき算出された本件請求額の支払を被告に求めることとしたものといえる。
すなわち、原告は、本件取決めをもって、本件消費設備等の費用そのものの支払を被告から受けようとしていたというよりも、中途解約の場合に同費用から算出された本件請求額の支払義務が被告に発生するとの仕組みを用いることで上記のLPガスの供給による対価の支払いを維持しようとしたものというべきであり、この場合に被告が負担する本件請求額の支払義務は、まさに中途解約に対する違約金というべきものであって、本件消費設備等の費用は、かかる違約金の算定方法として用いられたにすぎないものと見るのが合理的である。
なお、原告は、被告が原告とのLPガス供給契約を中途解約することは債務不履行にならないとして、本件取決めは、損害賠償や違約金の定めではないと主張するが、上記のように本件取決めは、LPガスの供給契約を維持するための仕組みといえ、中途解約の場合には被告に一定の金銭負担を生じさせるものである。したがって、本件取決めは、10年間という期間設定のあるLPガスの供給契約を、上記金銭負担を背景に当該期間は維持させることを被告に約させるものといえるのであり、上記のとおり違約金として認定できるものである。
エ 以上のとおり、本件取決めは、原告の主張するような本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意ではなく、本件消費設備等の費用を算定の基礎として算出した中途解約に対する違約金を定める合意というべきものである。
したがって、その余の点については検討するまでもなく、本件消費設備等の費用を被告が負担する旨の合意に基づく原告の被告に対する本件請求には理由がない(本件では、原告は中途解約に対する違約金の支払請求をしない旨の整理がされていることは事案の概要欄記載のとおりである。)。
3 結論
よって、原告の請求には理由がないから棄却することとして主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第31部 (裁判官 増子由一)
以上:6,195文字
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