○原告が元妻である被告に対し共有する建物について財産分与が請求されている中で共有物分割を求めることは権利の濫用であるとされた令和6年9月18日東京地裁判決(判時2635号57頁)関連部分を紹介します。論点が多岐に渡る長文判決であり、共有物分割を求めるcマンションに関する部分のみ掲載します。
○判決は、cマンション及びbマンションの帰するを財産分与手続に委ねた方が、他の夫婦共有財産と併せて分与の額及び方法を定めることができ、被告のみならず、原告にとっても、原被告間の権利義務関係を総合的に解決し得るという意味では利点があるとして、原告の請求を棄却しました。夫婦共有財産として財産分与請求中は、特段に事情がない限りは、共有物分割訴訟はできないと覚えておいて良いでしょう。
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主 文
1 被告は、原告に対し、377万3492円及びこれに対する令和4年2月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告の本訴請求に係る訴えのうち、別紙物件目録記載3の建物の分割を求める部分を却下する。
3 原告の本訴請求のうち、上記1の請求及び上記2の訴えに係る請求以外の請求をいずれも棄却する。
4 原告は、被告に対し、311万0290円及びこれに対する令和5年3月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
5 被告のその余の反訴請求を棄却する。
6 訴訟費用は、本訴について生じた部分は、これを10分し、その9を原告の、その余を被告の負担とし、反訴について生じた部分は、これを5分し、その2を被告の、その余を原告の負担とする。
7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴請求(原告)
(1)別紙物件目録記載1の建物を次のとおり分割する。
ア 別紙物件目録記載1の建物を被告の所有とする。
イ 被告は、原告に対し、ウの原告持分移転登記手続と引換えに、7384万5000円を支払え。
ウ 原告は、被告に対し、イの金員の支払と引換えに、別紙物件目録記載1の建物の持分5分の2について、共有物分割を原因とする原告持分移転登記手続をせよ。
(2)別紙物件目録記載2の建物を売却し、その売却代金から売却手続に要した費用を控除した金額を原告及び被告に各2分の1の割合で分割する。
(3)別紙物件目録記載3の建物を売却し、その売却代金から売却手続に要した費用を控除した金額を原告及び被告に各2分の1の割合で分割する。
(4)被告は、原告に対し、2930万1000円及びこれに対する令和4年2月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 反訴請求(被告)
原告は、被告に対し、537万7287円及びこれに対する令和5年3月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本訴事件は、原告が、元妻である被告に対し、同人らの共有名義の建物3戸の共有物分割を求めるとともに、別居後、被告がそのうち1戸の共有建物の賃料等を単独で取得していたと主張して、不当利得に基づいて、被告の利得金及びこれに対する訴状送達日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
一方、反訴事件は、被告が、原告に対し、別居後、被告が共有建物の住宅ローン,管理費及び固定資産税等の全額を負担していたと主張して、不当利得に基づいて、原告の利得金及びこれに対する反訴状送達日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提事実(末尾に認定の根拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(中略)
3 争点に関する当事者の主張
(中略)
(2)共有物分割請求が権利の濫用に該当するか(争点2)。
(被告)
前記(1)(被告)のとおり、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産の清算は、財産分与において夫婦共同生活の実態を踏まえて解決されるべきであり、単なる共有持分に基づく共有物分割請求においては、後記(3)(被告)のような実質的な寄与割合を考慮することができないため、被告が原告に財産分与を求める調停事件を申し立てた本件においては、原告の共有物分割請求は権利の濫用に該当するというべきである。
なお、原告は、前提事実(9)の離婚等請求訴訟において、原告と被告がbマンション及びcマンションを共同購入したとして、財産分与の対象財産確定の基準時である原被告の経済的協力関係が終了した時期は、別居時ではなく、平成23年12月5日であると主張していた。
(原告)
以下の諸点に照らすと、原告の共有物分割請求は権利の濫用に該当しないというべきである。
ア 財産分与の対象財産確定の基準時は別居時であるところ、cマンションの所有権取得日は別居後の平成20年3月4日であり、売買契約締結日である平成17年8月20日は実質的には売買予約がされた日であると考えるべきであるから、cマンションについては、財産分与請求ができず、共有物分割請求によるしかない。
(中略)
第3 当裁判所の判断
1 争点1(共有物分割請求に関する訴えの利益の有無)について
(中略)
2 争点2(共有物分割請求が権利の濫用に該当するか。)について
(1)認定事実
前記前提事実に証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア cマンションを購入する旨の売買契約の締結後、引渡しを受けるまでの経過
(中略)
(2)検討
ア 前記(1)ア(ア)、(ウ)のとおり、原告と被告がcマンションの引渡しを受けたのは、原告が被告と別居するようになった後であるが、cマンションを購入する旨の売買契約の締結自体は、別居の前にされていること(同(ア))、原告は、別居後も、被告に対し、cマンションの駐車場の位置についての意向を伝えたり、内覧会に出席したり(同(ア)、(イ))、住宅ローンを借入れていること(同(ウ))を考慮すると、cマンションは、原告と被告の別居の時期にかかわらず、原告と被告が合意の上で取得したものであるといえるから、財産分与の対象財産となり得るものである。
また、前提事実(3)、(5)及び(6)のとおり、bマンションは、原告が被告と別居するようになる前に、これを購入する旨の売買契約が締結され、原告に対する引渡しがされたものであるから、財産分与の対象財産となり得るものである(なお、原告も、前記(1)ウのとおり,前提事実(9)の離婚等請求訴訟においては、cマンション及びbマンションが財産分与の対象財産となり得る旨の主張をしていたものである。)。
そして、cマンション及びbマンションの帰するが財産分与手続に委ねられた場合には、他の夫婦共有財産と併せてその帰するが決せられることになり、cマンションの取得に関する当事者の意向(前記第2の3(3))、cマンションの取得に当たっての被告の特有財産の支出(前記(1)エ)を考慮すると、cマンションの住宅ローンについての原告の内部的な負担部分をゼロにすることで、被告が代償金を支払わずにこれを単独取得することとなる可能性があるが、これを共有物分割手続で処理する場合には被告が代償金を支払わずに単独取得する余地はないから、cマンションの帰するを決するために共有物分割手続を選択することは、被告が代償金を支払わずにcマンションを単独取得する可能性を奪うとともに、代償金の額が被告の資力を上回る場合にはcマンションに居住する被告(前提事実(8))の自宅を奪うこととなり、被告にとって酷な結果となる。
これに対し、原告は、bマンションを売却すれば、cマンションの代償金を支払うことができる旨の主張をするが、その主張自体、被告が代償金を支払わずにcマンションを単独取得する可能性を否定するものであるし、被告は、前記第2の3(3)(被告)のとおり、bマンションの単独取得も希望している。そして、被告がbマンションを単独取得するために必要な代償金の額についても、被告の特有財産の支出等の無形の寄与を考慮できる財産分与手続によるか、これを考慮できない共有物分割手続によるかによって、異なる可能性があり(前記(1)オ(ア)参照)、共有物分割手続による場合には、bマンションの競売を命じた場合に被告が取得できる代金の額も、無形の寄与が考慮されない持分割合に応じたものとなる。
イ 他方、前記(1)エ(イ)、オ(イ)のとおり、cマンション及びbマンションの住宅ローンは、被告が単独で支払っていることが認められるし、前提事実(11)のとおり、原告と被告との離婚を命ずる判決が既に確定し、被告が原告に財産分与を求める調停事件を既に申し立てていることも考慮すると、原告を住宅ローン債務から早期に解放すべくcマンション及びbマンションの帰するのみを先に決するために共有物分割手続によるべき必要性は高いとはいえない。
むしろ、cマンション及びbマンションの帰するを財産分与手続に委ねた方が、他の夫婦共有財産と併せて分与の額及び方法を定めることができ、被告のみならず、原告にとっても、原被告間の権利義務関係を総合的に解決し得るという意味では利点がある。
これに対し、原告は、前記(1)イ(オ)の債権差押命令により、原告の給与債権が差し押さえられたため、生活が窮乏し、早急に未払婚姻費用を弁済する必要が生じた旨の主張をするが、原告が婚姻費用の支払を怠ったことの結果にすぎない(なお、婚姻費用の減額の必要性が認められない旨の審判がされていることは、前記(1)イ(ウ)、(エ)のとおりである。)。
ウ そして、原告が、前提事実(9)の離婚等請求訴訟において離婚請求を認容する判決が言い渡され、離婚に伴う財産分与手続を進められる余地が生じた後に、本訴請求に係る訴えを提起していること(前提事実(10))、上記の離婚等請求訴訟においては、cマンション及びbマンションが財産分与の対象財産となり得る旨の主張をしていたにもかかわらず(前記(1)ウ)、本訴訟においては、一転して、財産分与の対象財産にならない旨の主張をしていること、婚姻費用の支払も任意に履行せず(同イ(イ))、部下よりも貧相な住まいに住む必要はないことや、被告が億ションに住んでいることへの憤りといった理由から、家賃月額29万5000円の住居に居住している旨の供述をするなどしていたこと(同イ(エ))、cマンションが財産分与の対象財産にならない旨の主張をしながら、原告が5分の2の持分しか有しない同マンションについて、持分の価格ではなく実質的持分2分の1相当の金銭の取得を希望するなどという一貫しない主張をしていること(前記第2の3(3)(原告))を考慮すると、共有物分割手続においてcマンション及びbマンションの帰するのみを先に決することを求める原告の意図は、被告の特有財産の支出等の無形の寄与が考慮された財産分与がされる前に共有物分割手続において持分の価格を取得し、夫婦共有財産の実質的な清算を拒むことで、被告に経済的な不利益を負わせる点にあったと推測される。
エ 以上のような、前提事実(11)の財産分与手続によらずに、本訴訟の共有物分割手続によってcマンション及びbマンションの帰するが決せられることにより原告の受ける利益と被告の被る不利益等の客観的事情のほか、本訴訟の共有物分割手続においてcマンション及びbマンションの帰するを決することを求める原告の意図とこれを拒む被告の意図等の主観的事情を総合考慮すれば、原告があえてcマンション及びbマンションの共有物分割を請求することは、権利の濫用に該当するというべきである。
(3)小括
以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうちcマンション及びbマンションの共有物分割請求は、争点3(cマンション、bマンション及びaマンションの分割方法)について判断するまでもなく理由がないというべきである。
5 結論
以上の次第で、原告の本訴請求については、主文第1項の金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、原告の本訴請求に係る訴えのうちaマンションの分割を求める部分は不適法なものであるからこれを却下することとし、上記認容部分及び却下部分に係る各請求以外の請求は理由がないからいずれも棄却することとする。
被告の反訴請求については、主文第4項の金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部 裁判官 宮川広臣
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