平成15年12月 1日(月):初稿 |
■はじめに 前回まで数回に渡り、ある女性A女の前夫に対する損害賠償事件の顛末を紹介しました。その事件を通じて私は、人の紛争解決は、結局は、人の心が決めるものであることを痛感させられました。 法は確かに紛争解決の基準を提示しますが、それはあくまで一基準に過ぎません。全ての人がその基準で納得するとは限りません。と言うより法の基準では納得出来ない例の方が遙かに多いはずです。 前夫に対する損害賠償請求を依頼して、どうしても300万円取りたかったA女は、おそらく法の基準から言ったら、ゼロか取れても20万円位でした。従って、私の指導で70万円で和解したことは、手前味噌ですが、上出来な解決でした。しかし、A女にとっては、70万円は到底納得できない金額であり、A女の紛争解決になっていなかったのです。そのような不満を持たせないためにはどうすれば良かったのでしょうか。 ■自分の頭で考えて貰うプロセスを経ることが重要 繰り返しますが、当事者が、心からその結果に納得しなければ、たとえそれが法に照らして適正な結果であったとしても、紛争が本当に解決したとは言えません。紛争当事者が、その結果に納得するには、そのプロセスが重要です。 私は、プロのサービス業ですから、A女が70万円では不満であり、この金額で和解したのでは、必ず不満が残り、彼女の今後の人生にしこりを残し、本当の紛争解決にはならないことを見抜くべきでした。そして、A女の納得の得られるように先ずA女の主張を詳しく記載して訴えを提起すべきでした。 訴えを提起することにより、相手方B男も弁護士を依頼して、答弁書にその主張を詳しく記載して、徹底的に反論してきます。そこで、A女にはB男の主張書面を見せて詳しく解説することが出来ます。これによってA女は、益々、頭に来るでしょう。相手方の言い分は、到底、受け入れがたいものですが、自分の頭に入れざるを得ません。 そして当事者本人質問によって、直接裁判官の前で、A女、B男共に証言する機会が生じます。それにより相手の言い分を直接口頭でも聞くことになります。このような事件では、その後、裁判官から必ず和解勧告があります。裁判官は、当事者の書面での主張と、法廷での証言を聞いて、事件の実態について心証を取ります。その結果に基づき、理由をつけて、この事件は、この程度の金額ではとおおよその意見を述べてきます。 その裁判官の意見にA女は不満を持ちます。その時、代理人である私は、A女に、裁判官がそのような金額を提示してきた理由を、更に詳しく説明をします。これによってA女は、世の中は、なかなか自分の思うとおりにならないことがあると言うことを実感します。 ■大事なことは最終的結論は、自分の頭で考え、納得して出して貰うこと 大事なことは、決して、裁判官提示の和解金額で和解するように押しつけないことです。又、裁判官に対してはA女の主張を繰り返し代弁してやることです。そして、自分で納得しない限り、和解に応じるべきではありません、不満な気持ちで和解に応じると将来後悔します、自分の頭で考え、ご自分が、決して後悔しない覚悟が出来たら和解に応じて下さいとアドバイスします。 このようなプロセスを経ての70万円の和解であれば、A女は和解後、不満を持って弁護士を恨み続け、あちこちの相談所を駆け回るという不毛な人生を送らずに済んだはずです。A女の事件での私の仕事ぶりはサービス業としては失格でした。合格といえるためには、依頼者から、「先生が、これだけ一生懸命やってくれての金額だから、納得しました」と笑顔で言って貰うことです(以下、次号に続く)。 以上:1,495文字
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