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自炊代行業者に自炊行為差止と損害賠償を認めた東京地裁判決全文紹介4

平成27年 3月28日(土):初稿
○「自炊代行業者に自炊行為差止と損害賠償を認めた東京地裁判決全文紹介3」を続けます。




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ウ 被告ドライバレッジが原告らの著作権を侵害するおそれについて
 上記(1)イのとおり,被告ドライバレッジは,平成24年11月現在において,そのスキャン事業として,会員登録をした利用者から利用申込みがあると,有償で,書籍をスキャナーで読み取ることにより,書籍を電子的方法により複製して,電子ファイルを作成している(丙2によると,現時点における被告ドライバレッジのスキャン事業も同様であると認められる。)。

 上記(1)ウ(イ)及び(ウ)のとおり,原告らを含む作家122名及び出版社7社は,被告ドライバレッジに対し,本件質問書において,作家122名は,スキャン事業における利用を許諾していないとした上で,作家122名の作品について,依頼があればスキャン事業を行う予定があるかなどの質問を行った。被告ドライバレッジは,作家122名の作品について,利用者の依頼があってもスキャン事業を行うことがない旨回答し,その後,そのウェブサイトの「著作権について」と題するページに,スキャン対応不可の著作者一覧として原告らを含む著作者120名を掲載した。その後の調査会社の調査によると,被告ドライバレッジは,原告X6及び甲の作品について,スキャンを依頼され,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したDVDを納品した。

 このように,被告ドライバレッジは,本件質問書に対し,作家122名の作品について,利用者の依頼があってもスキャン事業を行うことがない旨を回答するなどしている。しかし,調査会社の調査によると,被告ドライバレッジは,原告X6及び甲の作品について,スキャンを依頼され,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したDVDを納品しているし,被告ドライバレッジは,チェック漏れとしながらも,平成23年10月から平成25年1月までの間において,原告作品を合計557冊スキャンしたことを認めている。

 以上に照らすと,被告ドライバレッジが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当である。また,被告ドライバレッジに対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。

(3) 次に,法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるか(争点1-2)について検討する。
 被告らは,法人被告らのスキャニングについて,そのスキャン事業の利用者が複製の主体であって,法人被告らはそれを補助したものであるから,著作権法30条1項の私的使用のための複製の補助として,法人被告ら行為は適法である旨主張する。

 しかし,上記(2)のとおり,本件において著作権法30条1項の適用は問題とならないし,また,本件における書籍の複製の主体は法人被告らであって利用者ではないから,被告らの主張は事実関係においてもその前提を欠いている。
 したがって,被告らの主張は理由がない。

(4) 続いて,原告らの被告サンドリームに対する差止請求が権利濫用に当たるか(争点1-3)について検討する。
 被告サンドリームらは,本件は,法的に見ても,社会的に見ても,評価や将来の制度設計について多様な意見があり得る問題といえるなどとして,仮にスキャン代行が私的使用に該当しないと判断される場合であっても,権利の濫用に該当する旨主張する。

 しかしながら,被告サンドリームらの主張によっても権利の濫用に該当する事情は見当たらないし,上記(1)において認定した事実に加え,本件記録を精査しても,同様に権利の濫用に該当する事情は見当たらないから,被告サンドリームらの主張は理由がない。

(5) 小括
 以上のとおり,法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当であり,法人被告らに対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。他方で,私的使用のための複製及び権利濫用の抗弁はいずれも理由がない。
 したがって,原告らの法人被告らに対する著作権法112条1項に基づく差止請求は理由がある。

2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否(争点2)及び損害額(争点3)について
(1) 不法行為に基づく損害賠償請求の成否(争点2)について

ア 著作権者が,その著作権を侵害する者(又は侵害するおそれがある者)に対し,著作権法112条1項に基づく差止請求をする場合には,著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その著作権者において,具体的事案に応じ,著作権取得に係る事実に加え,著作権侵害(又はそのおそれ)に係る事実を主張立証する責任を負うのであって,著作権者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない(損害賠償請求では,故意又は過失に加え,損害の発生及びその額を主張立証する責任を負う点が異なる。)。そうすると,著作権法112条1項に基づく差止請求権は,著作権者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。

 したがって,著作権者が,著作権法112条1項に基づく差止めを請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,著作権侵害(又はそのおそれ)と相当因果関係に立つ損害というべきである。

イ 以上に基づいて,被告サンドリームらに対する不法行為に基づく損害賠償請求の成否について検討する。
 前記1(1)ウに認定した被告サンドリームの対応に照らすと,このような被告サンドリームの対応によって,原告らは,被告サンドリームに対する差止請求を余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任したものと認められるし,被告サンドリームの過失も認められるというべきである。

 また,証拠(甲1,乙6)によれば,被告Y1は,被告サンドリームの代表者であるとともに,そのスキャン事業の責任者であったことが認められるから,被告サンドリームと同様に過失が認められ,被告サンドリームと共同して不法行為を行ったものと認めるのが相当である。

 したがって,原告らの被告サンドリームらに対する不法行為に基づく損害賠償請求は成立する。

ウ 続いて,被告ドライバレッジらに対する不法行為に基づく損害賠償請求の成否について検討する。
 前記1(1)ウ(ア)及び(ウ)に認定した被告ドライバレッジの対応に照らすと,このような被告ドライバレッジの対応によって,原告らは被告ドライバレッジに対する差止請求を余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任したものと認められるし,被告ドライバレッジの過失も認められるというべきである。

 また,証拠(甲3,12,丙2)によれば,被告Y2は,被告ドライバレッジの唯一の取締役かつ代表者であるとともに,そのスキャン事業の運営統括責任者であったことが認められるから,被告ドライバレッジと同様に過失が認められ,被告ドライバレッジと共同して不法行為を行ったと認めるのが相当である。

 したがって,原告らの被告ドライバレッジらに対する不法行為に基づく損害賠償請求は成立する。

(2) 損害額(争点3)について
 上記(1)のとおり,法人被告らに対する差止請求に係る弁護士費用相当額が因果関係のある損害である。
 そして,被告サンドリームらと被告ドライバレッジらがそれぞれ負担すべき弁護士費用相当額は,上記差止請求の内容,経過等に照らすと,原告1名につき10万円が相当である。

(3) 小括
 以上のとおり,原告らの被告サンドリームらに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,原告1名につき10万円(附帯請求として被告サンドリームにつき訴状送達の日の翌日である平成24年12月2日から,被告Y1につき前同様の同月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める限度で理由がある。

 また,原告らの被告ドライバレッジらに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,原告1名につき10万円(附帯請求として被告ドライバレッジにつき訴状送達の日の翌日である平成24年12月2日から,被告Y2につき前同様の同月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める限度で理由がある。

3 結論
 よって,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第29部  裁判長裁判官  大須賀滋   裁判官  小川雅敏   裁判官  西村康夫

以上:3,562文字

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