平成17年11月16日(水):初稿 |
○本日の更新情報は、本日開催九士会のレジュメを兼ねた私の備忘録であり、新・裁判実務体系9名誉・プライバシー保護関係訴訟法387頁吉野夏己氏の論文「個人情報の提供と責任」を私なりにまとめたものであることをお断り申し上げます。この新・裁判実務体系9名誉・プライバシー保護関係訴訟法はプライバシー関係文献としては最高のものと思います。 ○日曜日とか平日でも夕食後等自宅でくつろいでいるときに突然見知らぬ人間から電話が入り、マンションを買いませんかなんて売り込みの電話が来ることがあります。私は売り込みと判ると迷惑ですと言って直ちに電話を切りますが、腹の虫の居所が悪いときは、腹が立って仕方ないときもあります。 ○私の事務所の電話番号はNTT電話帳に登録していますが、自宅電話番号は登録していません。それなのにどうして私の自宅電話番号を知っているのか、今度売り込み電話が来たら聞いてみようと思っております。 ○公表していない私の自宅住所電話番号と氏名についての情報は、かつて私が商品を購入したA通販会社が、系列のBマンション販売会社に提供していた場合、私は個人情報を漏らしたことについてA社に対して責任追及が出来るでしょうか。 ○個人情報保護法の成立によってA社が個人情報取扱業者であれば目的外使用例えば上記のように本人の同意を得ないで系列のB会社のマンション売り込み資料とするために提供することは個人情報保護法違反行為になり、主務官庁から行政監督がなされその監督に服しない場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。 ○しかし個人情報保護法はあくまで行政取締法規であり私人間の紛争を解決する法律ではありません。その個人情報保護法違反行為によって蒙った損害賠償等の請求は私人間の問題であり従来通り民法による不法行為責任或いは契約上の債務不履行責任として追及されます。 ○H17年11月13日更新情報で紹介した東京地裁「宴のあと」事件判決で、個人情報はプライバシー権として認められ、それは「他人に知られたくない私的事柄をみだりに公表されない利益」として、私的事柄とは①私生活上の事柄又はそのように受け取られる虞のあるもの、②一般人の感覚で公開を欲しないとみとめられること、③一般に未だ知られていないことの3要件があれば保護の対象となるとされました。 ○「宴のあと」事件後のプライバシー侵害についての重要な裁判例としては次のようなものがあります。 ①東京地判平成2年8月29日(判時1382号92頁) マンション販売業者Y1が、マンション購入者Xの自宅住所電話番号、勤務先名称電話番号を記載した購入者名簿を当該マンション管理業者Y2に交付してXの勤務先名称電話番号を開示したことについて、Xの勤務先名称電話番号はプライバシーに属することを認めながら、管理会社への開示は管理の必要性があり正当な理由があるので不法行為にはならない。 ②東京地判平成3年3月28日(判時1382号98頁) 信託銀行Y1は、貸付信託契約を締結している顧客Xの氏名住所の記載された宛名ラベル付き封筒を建設会社Y2に交付し、Y2はY1協力で主催するアパート経営勉強会の案内状をXに郵送しても氏名住所は銀行の守秘義務の対象となる私的情報と言えるか疑問であり仮に当たるとしても宛名ラベルの貼られた郵便物の投函を共同事業者のY2に依頼したに過ぎず不法行為には当たらない。 ③東京地判平成10年1月21日(判時1646号102頁) Y(NTT)に対し電話の移設・番号変更と以降の電話帳不掲載を求めていたXの氏名電話番号住所をYが誤って電話帳に掲載したことについて、Xの電話番号住所氏名は私生活上の事柄であり、プライバシー侵害としてYに対して金10万円の慰謝料支払を命じた。 ④神戸地判平成11年6月23日(判時1700号99頁) 医師Xの職業別電話帳掲載氏名、職業、診療所住所、電話番号について、医師Xへのストーカー的対応を予見しつつXに無断でYがパソコン通信ネットワーク掲示板システムに掲載したことについて、職業別電話帳への掲載によって公開してもそれは眼科診療希望者への公開でありその限りで私生活上の事柄としての側面を有するものであり、不特定多数者に簡易迅速に伝達できるパソコン通信掲示板に無断で掲載することはプライバシー侵害に該当するとしてYに対し約金20万円の慰謝料支払を命じた。 ○①、②は、不法行為成立を否認しましたが、①は兎も角②については、個人情報保護法が成立した現時点では違法と認定される可能性が高いものと思われます。③についてはコメント不要な当然の結論ですね。 ○③については職業別電話帳に掲載公開しているのだから、これを他に転載されても仕方がないのではと言う思う方も多いかと思われます。当時と今はネット普及率が格段に異なり、ネット上の職業別電話帳に掲載された場合の結論は異なってくる可能性があります。 ○以上は判例の紹介ですが、学説では、プライバシー権を「自己情報コントロール権」として捉え、この見解によれば自己に関する情報を「いつ、どのように、どの程度まで、他者に伝達するかを自ら決定する」ことをいい、個人情報の収集、管理・利用、開示・提供の全てにつき、本人の意思に反してはならないことが原則とされ、「閲覧請求権、訂正・削除請求権、利用・伝播統制権」が含まれることになります(芦部信喜・憲法学Ⅱ人権総論378頁参照)。 ○この定義からすると、公表の有無を問わず、同意なく個人情報を収拾すること自体がプライバシー侵害となるし、誤情報の登録自体がプライバシーの侵害となり、恐ろしくて個人情報に一切触れなくなります。この学説には色々批判があるようですが、プライバシー侵害問題は奥が深く幅も広いようでまだまだ勉強が必要です。 以上:2,372文字
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