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748日空白期間がある契約を一連契約として充当計算を認めた簡裁判決紹介

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令和 3年 3月25日(木):初稿
○消費者法ニュース121号204頁で紹介されている令和元年6月4日大野簡裁判決を紹介します。最近当事務所では、過払金返還請求事件は、殆どなくなりましたが、取引の空白期間が2年以上あっても一括充当計算を認めた判例で、過払金返還請求事件で使える判例です。3万円足らずの訴えを提起する弁護士の努力にはただただ頭が下がります。

○アイフルを被告とした過払金返還請求事件ですが、2万6673円の請求に対して207円差し引いた2万6466円が認容されています。その理由は、約定過払金については、第2契約の締結費用印紙代200円に充当されたと認められことです。しかし、第2契約は新たな取引で一括充当計算ができないとの主張に対し、第2契約締結時において、約定過払金の存在を認識していたものと考えられるとして、本件取引2の終了日から10年が経過していない本件においては、本件取引1において発生した過払金に関する消滅時効の主張は理由がなく、また、被告は悪意の受益者であると認められるとして一連契約としての一括充当計算を認めました。

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主    文
1 被告は,原告に対し,2万6466円及びこれに対する平成21年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,2万6673円及びこれに対する平成21年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概

 本件は,貸金業者である被告との間で金銭消費貸借取引を継続していた原告が,その取引経過を利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)所定の制限利率に引き直して計算すると過払金が発生しており,かつ,被告は悪意の受益者であるとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金及びこれに対する最終取引日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める事案である。

2 前提となる事実
(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。)
(1) 被告は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前のもの。同改正前の件名は,「貸金業の規制等に関する法律」。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)所定の登録を受けた貸金業者である(弁論の全趣旨)。

(2) 原告は,被告との間で,平成18年11月5日,カード入会申込書兼契約書兼消費者信用団体生命保険告知書(契約番号〈省略〉,以下「第1契約書」という。)を交わし(乙1),継続的金銭消費貸借契約の基本契約(以下「第1契約」という。)を締結し,平成18年11月5日から平成19年5月9日までの間,別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」(以下「別紙計算書」)の項番1から25の「年月日」欄記載の日に,「借入金額」欄記載の金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の金員を弁済した(甲2の2,以下「本件取引1」という。)。第1契約の約定年率は28パーセントであり,利息制限法所定の制限利率を超過していた(乙1)。

 なお,本件取引1については,約定年率によっても,平成19年5月9日時点において,276円の過払金が生じていた(以下「約定過払金」という。)(甲2の2)。
 また,第1契約書は,原告に返還されていない(争いのない事実)。

(3) 原告は,被告との間で,平成21年5月26日,カード入会申込書兼契約書(契約番号〈省略〉,以下「第2契約書」という。)を交わし(乙2,以下「第2契約」という。),利息制限法所定の制限利率内である実質年率18パーセントで(乙2),平成21年5月26日から同年8月4日までの間,別紙計算書の項番26から35の「年月日」欄記載の日に,「借入金額」欄記載の金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の金員を弁済した(甲2の3,以下「本件取引2」という。)。
 なお,被告は,平成21年5月27日,約定過払金のうち76円を,第2契約の借入金債務に充当した(争いのない事実)。
第2契約書を交わす際,ATMでの取引に必要なカードについて,第1契約に係るカードを失効し,新たにカードが発行された(争いのない事実)。

3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 約定過払金276円のうち200円の充当
(被告の主張)
 第2契約の締結費用200円に充当した。

(原告の主張)
 第2契約の締結費用としての200円の印紙代は,被告が負担したか,原告がその場で支払っていたかのいずれかであると考えられ,引き直し計算にあたって考慮することはできない。

(2) 一連計算の可否及び本件取引1における過払金の消滅時効の成否
ア 基本契約の個数
(原告の主張)
 平成19年5月9日,本件取引1は,約定年率に基づく計算で完済(276円の過払状態)となっているが,第1契約を解約する手続きはなされていない。
 第2契約は,約定年率を28パーセントから18パーセントに変更するための,第1契約の変更契約であり,本件取引1と本件取引2は1個の基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引であるから,引き直し計算を行う場合には,当然に一連計算をすることになる。

(被告の主張)
 第2契約においては,第1契約の与信情報をそのまま引き継ぐのではなく,新たな与信審査を行った結果,借入限度額が減少しており,契約年率も異なることから,第2契約は,第1契約の変更契約ではなく,新たな借入申込みがなされたことによる別個の契約である。

イ 充当合意の存在
(原告の主張)
 たとえ第1契約と第2契約が別個の基本契約であったとしても,最高裁平成18年(受)第2268号同20年1月18日第二小法廷判決(民集62巻1号28頁,以下「平成20年判決」という。)の判断基準に照らし,事実上1個の連続した貸付取引であると評価でき,本件取引1により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するから,一連計算がなされるべきである。

 平成20年判決が示した判断要素のうち,本件取引1の終了時に,第1契約書が返還されておらず,第1契約にかかるカードの失効手続もなされていないことからすれば,本件取引1と本件取引2は,事実上1個の連続した貸付取引であると評価できる。
 また,契約年率の違いは,被告が,平成18年12月20日公布平成22年6月18日施行の上限利率引下げの貸金業法改正を先取りして,第2契約締結に際して変更したものであり,一連計算すべきことを妨げる事情とはならない。

(被告の主張)
 平成19年5月9日,原告は約定残債務の全額を任意に完済して本件取引1を終了し,その後第2契約を締結するまでに748日間の空白期間があり,「新たな借入を予定していた」と評価することは困難であり,本件取引1により発生した過払金を本件取引2の借入金債務に充当する合意を擬制することも困難である。

 また,第1契約の契約年率は28パーセントであるのに対し,第2契約の契約年率は18パーセントであり,契約が質的に異なるから,本件取引1と本件取引2は連続した貸付取引ということはできない。
 さらに,本件取引1及び本件取引2の開始の都度,新たなカードが発行され貸与されていることからも,事実上1個の連続した取引と認めることができない。
 したがって,本件取引1と本件取引2は一連一体の取引とはいえず,本件取引1によって発生した過払金債権は10年以上経過しているので,被告は,同過払金債権について消滅時効を援用する。

ウ 充当の事実
(原告の主張)
 被告は,約定過払金276円のうち76円を,第2契約の借入金債務に充当しており,一連計算を行っていることは明らかである。
 よって,第1契約の引き直し計算にあたっても,当然に一連計算がなされるべきであり,消滅時効は第2契約の終了時から進行するから,被告の消滅時効の主張は失当である。

(3) 被告の悪意の受益者該当性
(原告の主張)
 被告は,貸金業者であり,利息制限法所定の制限利率を超える約定年率で貸付けをしていることを知りながら原告からの弁済を受けているので,悪意の受益者に該当する。したがって,被告は,過払金に法定利息を付して返還する義務がある。

 (被告の主張)
 被告は,貸付の際に貸金業法17条1項所定の書面(以下「17条書面」)を,弁済を受けるたびに同法18条1項所定の書面(以下「18条書面」)を,それぞれ交付する業務体制を整備しており,原告から任意の弁済を受けていたのであるから,貸金業法43条1項所定のみなし弁済規定の適用があると認識し,かつ,その認識を有するに至ったことにつきやむを得ないといえる特段の事情がある。したがって,被告は,悪意の受益者に該当しない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(約定過払金276円のうち200円の充当)について

 本件取引1における約定過払金276円のうち200円について,被告は,第2契約の締結費用200円に充当させたと主張する。
 第2契約書(乙2)には,額面200円の収入印紙が貼付され,第9条には,原則として印紙代200円はカード会員(債務者)が負担すべきものとされているから,約定過払金200円をもってこれに充当させたと考えるのが自然である。

 原告は,約定過払金276円のうち76円の第2契約の借入金債務に対する充当が第2契約締結の翌日であることから,第2契約締結時には,被告が約定利率過払金の存在を認識していなかったと解されるとして,第2契約書第9条ただし書きに基づいて被告が負担したか,原告がその場で200円を支払っていたかどちらかであると主張しているが,そうであれば,第2契約の借入金債務に約定過払金を充当させるに当たって,276円ではなく76円のみを充当させていることの合理的な説明が付かない。

 よって,被告の主張通り,約定過払金200円については,第2契約の締結費用に充当されたと認められ,さらにいえば,被告は,第2契約締結時において,約定過払金の存在を認識していたものと考えられる。
 以上のことから,本件取引1について利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した結果,第2契約締結時までに生じていた過払金2万3450円と過払利息2399円のうち200円については,第2契約締結時である平成21年5月26日に,原告が負担すべき印紙代200円に充当することで返納されたと認められる(別紙計算書における返納欄記載のとおり)。

2 争点(2)(一連計算の可否及び本件取引1における過払金の消滅時効の成否)について
(1) 第2契約は,第1契約の借入金債務が,約定年率による計算によって全額が弁済された(ただし,276円の過払状態)後に締結されたこと,新たに契約書が作成され,約定年率も借入限度額も異なる(乙1,2)ことから,第1契約とは別個の契約であると認められる。
 原告は,第2契約は,第1契約の変更契約であると主張するが,採用できない。
 したがって,本件取引においては,2つの基本契約が締結されたものである。


(2) そこで,本件取引1において発生した過払金を第2契約における借入金債務に充当する旨の合意が存在したという原告の主張について検討する。
 前提となる事実によれば,本件取引1の終期(平成19年5月9日)から本件取引2の始期(平成21年5月26日)までの期間は,748日間であり2年以上の空白期間が認められる。これは,本件取引1の期間が6か月間,本件取引2の期間が3か月間であることと比較して,相当な長期間であり,本件取引1と本件取引2の連続性を否定する事実と評価されうる。

 しかし,第1契約書は,本件取引1の終了後も原告に返還されておらず,約定過払金276円の返納手続もとられていない。また,本件取引1で使用されていたATMカードについての失効手続もとられなかった。これらの事実からすると,原告被告間において,本件取引1の終了後も,その後の取引を予定していたものと評価することもできる。

 そして,約定過払金276円のうち,200円については,第2契約締結の費用に充当され,残りの76円については,第2契約を開始した翌日に,第2契約の借入金債務に充当されている事実からは,約定過払金について第2契約の締結費用及び借入金債務に充当させる合意の存在が認められる。そうであれば,法定利率の引き直し計算によって発生した過払金についても,第2契約における借入金債務に充当する合意があったと認めるべきである。


 以上のことから,被告には,第2契約に基づく取引を第1契約に基づく取引と一体のものとして取り扱う意思があったと認められ,本件取引1と本件取引2は,長期にわたる空白期間を考慮しても,事実上1個の連続した貸付取引として,一連一体のものと評価するのが相当である。
 そして,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,一連一体となった取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当であるから,本件取引2の終了日から10年が経過していない本件においては,本件取引1において発生した過払金に関する消滅時効の主張は理由がない。


3 争点(3)(被告の悪意の受益者該当性)について
(1) 貸金業者が利息制限法所定の制限超過部分を債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の悪意の受益者であると推定される。

(2) 被告は,本件取引を含む金銭消費貸借取引全般について,被告において17条書面及び18条書面を交付する業務体制を整備していたことを主張するが,上記(1)の特段の事情を認めるに足りる立証を行わない。したがって,被告において貸金業法43条1項の要件を満たしていると認識し,そう認識することがやむを得なかったといえる特段の事情があったと認めることはできず,被告は悪意の受益者であると認められる。

第4 結論
 以上,説示したところに従い,本件取引について,制限超過部分を元本に充当すると,過払金及び法定利息の額は,それぞれ別紙計算書のとおりとなる。原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。
 よって,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条ただし書きを適用した上,主文のとおり判決する。
 なお,被告は,仮執行宣言が付される場合は,仮執行免脱の宣言がされること及びその執行開始時期を判決正本が被告に送達された時から14日を経過した時とすることの申立てをするが,相当ではないので,この申立ては認めない。
 大野簡易裁判所 (裁判官 村上智子)
以上:6,211文字

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