令和 2年 4月16日(木):初稿 |
○「新型コロナウイルス売上減少を理由とした賃料減額請求が増えてます」を続けます。 不動産賃貸業を営む顧問先が数件あり、また、副業で不動産賃貸業を営んでいる知人もおり、それらの方々が、特に飲食業等を営む賃借人から売上大激減を理由とした賃料減額請求を受けて困っているとの相談を複数受けています。今回のコロナウィルス騒ぎは、今後、どの程度継続するのか誰も判らず、このような場合、賃料鑑定が可能かどうかを、九士会仲間の不動産鑑定士に聞いてみると、前例がなく不可能との回答でした。 ○建物賃料減額請求は、法律としては借地借家法第32条(借賃増減額請求権)第1項「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」、第3項「建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。」の適用が考えられます。 ○この規定を形式的に適用すれば賃貸人は賃料減額請求を受けても、現行賃料を相当賃料として請求・受領でき、賃借人が賃料減額請求訴訟を提起して、その裁判が確定した場合に、裁判で正当と認められた賃料との差額が生じた場合は、その差額に年10%の利息をつけて返還することになります。 ○しかし、コロナウィルス騒ぎのような一時的な自然災害による経済事情の変動を理由にした建物賃料減額請求が認められた裁判例は見当たりません。おそらくこれほどの事例は過去になかったからと思われます。また賃料について一時期を限っての鑑定も今回のコロナウィルス騒ぎを理由とした鑑定も現時点では不可能とのことでした。 ○次に考えられる法的な請求としては、民法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」との規定による減額請求が考えられます。 ○今回のコロナウィルス騒ぎが「賃借人の責めに帰することができない事由」に該当することは明白です。問題は、緊急事態宣言による例えば居酒屋の営業自粛要請があって休業した場合が「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」に該当するかどうかです。営業自粛が事実上営業禁止命令として法的拘束力を有している場合には明らかに「使用及び収益をすることができなくなった」に該当しますので、その営業禁止期間は賃料全額減額請求が可能と思われます。 ○問題は、営業自粛要請という曖昧な行政からの要請に基づく休業が「使用及び収益をすることができなくなった」に該当するかどうかです。仙台市においては令和2年4月現在では、外出自粛要請は出ていますが、営業自粛要請まで出ていませんので、この民法第611条は適用にならないと思われます。 ○以上から賃貸人の立場としては法的には賃料減額請求に応じる義務はないとの結論でも良さそうですが、賃借人が売上減少で経済的困窮状態にあることが明白であるのに減額請求に一切応じないということは現実対応としては妥当でないと思われます。ビル賃貸業の顧問先の話しでは地域のビルオーナー連絡会があり、会合を開いて賃料減額請求に一定の割合で応じるとの決議をしたとのことです。また、数多くの不動産賃貸業者の税務処理顧問をしている税理士さんに聞いてみると賃料減額請求に対する対応は、その賃貸業者の経済的余力の大小によってことなり、大幅減額に応じる割合は正にケースバイケースとのことでした。 ○賃料減額請求に対する対応についての相談は、賃料減額請求の法律上の要件等を説明し、その要件以外の賃貸人と賃借人の信頼関係維持・賃貸借契約継続の必要性、賃貸人の経済的事情等を総合考慮してケースバイケースできめ細かなアドバイスをするしかありません。 以上:1,893文字
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