平成29年10月11日(水):初稿 |
○「準消費貸借契約旧債務立証責任に関する昭和43年2月16日最高裁判決紹介」の続きで、今回は、旧債務の主張責任に関する昭和46年6月16日千葉地裁判決(下級裁判所民事裁判例集22巻5・6号699頁)全文を紹介します。 ○準消費貸借に基づき貸主が借主に対して目的物の返還を請求する場合に主張立証しなければならない要件は、従前の債務の目的物と同種、同等、同量の金銭その他の代替物を返還する合意であり、貸主は、準消費貸借の合意の内容を明らかにするため、目的となつた金銭その他の代替物を給付すべき旧債務を特定できるように主張しなければならないとしています。この点に関する最高裁判決は、現時点では見当たりませんが、実務はこの千葉地裁判決に従っているように思えます。 ******************************************** 主 文 被告は原告に対し45万5000円およびこれに対する昭和43年12月31日から右支払いずみまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを100分しその9を原告の、その余を被告の各負担とする。 この判決の第一項は仮に執行できる。 事 実 第一、申立て 一、被告は原告に対し50万円およびこれに対する昭和43年12月31日から右支払いずみまで年6分の割合による金員を支払え。 二、訴訟費用は被告の負担とする。 との判決および仮執行の宣言。 第二、請求の原因 一、原告は、被告に対し 1 昭和43年11月2日に、45万円を、被告振出しの金額50万円支払人千葉県八千代市株式会社千葉銀行大和田支店振出日同年12月4日振出地八千代市と記載された持参人払式小切手1通とひきかえに、 2 同年11月7日に、5000円を、 いずれも弁済期を同年12月4日と定めて、貸し渡した。 ところが同年12月4日になつて被告から右小切手の振込延期の申出でがあり,原告は、右小切手1通を被告に返却し、代わりに被告振出しの小切手番号DA8988金額50万円支払人八千代市株式会社千葉銀行大和田支店振出日同年12月30日振出地八千代市と記載された持参人払式小切手一通を受けとり、これを担保として、金額を50万円とする貸金に組替え、その弁済期を同年12月30日とする準消費貸借契約を締結した。 右貸付にも準消費貸借にもいずれも利息の定めはなかつた。 二、原告は、同年12月30日に右小切手を支払人に呈示し、支払人をして小切手面に右呈示の日と同日付をもつてした支払を拒絶する旨の宣言を記載させ、現にこれを所持している。 三、よつて原告は被告に対し右準消費貸借契約に基づく貸金50万円およびこれに対する昭和43年12月31日から支払いずみまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 第三、答弁 利息の定めのなかつたことを除き請求原因1、2の事実を認める。 第四、抗弁 一、請求原因一の1の貸金については、利息は1箇月1割の約であり、50万円につき1割を天引して45万円の交付を受けたものである。 二、被告は、原告に対し請求原因一の2の貸金5000円を弁済した。 第五、抗弁に対する原告の認否 抗弁事実をいずれも否認する。 理 由 一、請求原因一の事実は、利息の定めのなかつたことを除き当事者間に争いがない。 二、抗弁事実を認めるに足る証拠はない。 三、準消費貸借に基づき貸主が借主に対して目的物の返還を請求する場合に主張立証しなければならない要件は、従前の債務の目的物と同種、同等、同量の金銭その他の代替物を返還する合意である。従つて貸主は、準消費貸借の合意の内容を明らかにするため、目的となつた金銭その他の代替物を給付すべき旧債務を特定できるように主張しなければならない。 ところが原告は本件50万円の準消費貸借の旧債務としては、1、昭和43年11月2日の45万円と、2、同年同月7日の5000円の二口合計45万5000円の貸金債務があつたことのみ主張し、その余の4万5000円についてはこれを特定するに足る主張がない。 本件のような場合通常は右4万5000円は利息と考えられる(利息制限法3条参照)が、原告は利息の定めはなかつたと主張している(被告の利息の主張は、これを認めるに足る証拠がない)。 そうすると、原告は、右4万5000円については、基礎とされる債務の存在を主張せず、いわば被告が無因債務を準消費貸借によつて負担したことを主張していることに帰する。 従つて右4万5000円の部分については準消費貸借は効力を生じないものといわねばならない。 四、なお本件準消費貸借が商行為であることを認めるに足る主張立証がないから、遅延損害金について商事法定利率を適用することはできない。 五、以上の理由により、本訴請求は、そのうち準消費貸借によつて成立した債務45万5000円およびこれに対する約定弁済期後の昭和43年12月31日から右支払いずみまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は正当と認められるからこの限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法92条本文、仮執行の宣言につき同法196条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官 木村輝武) 以上:2,172文字
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