平成27年 1月30日(金):初稿 |
○現在、あるビル管理会社からの依頼で借地借家法11条による賃料(地代)減額請求調停申立事件を受任しています。数年前から地主に対し、地代減額をお願いしてきたのですが、頑として応じてくれません。そこで調停前置主義により先ず調停申立から始まりました。これまでの地主の態度から、調停でまとまる可能性は低く訴訟に至る可能性が高い事案です。数次に渡り地代減額のお願いを継続しており、賃料減額請求権の訴訟物が問題になりそうな事案です。 ○関係条文は以下の通りです。 借地借家法第11条(地代等増減請求権) 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 民事調停法第24条の2(地代借賃増減請求事件の調停の前置) 借地借家法(平成3年法律第90号)第11条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第32条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。 ○賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物ないし既判力について判示した平成26年9月25日最高裁判決(判時2238号14頁)を紹介します。 事案は、以下の通りです。 ・所有者賃貸人A・賃借人B(法人)間で,昭和48年10月16日,本件建物賃貸借契約締結、期間を昭和49年1月1日から20年間とし,賃料を月額60万円 ・その後,本件賃貸借契約について,賃貸人の地位の移転及び賃料の改定が繰り返され,平成6年1月1日以降の本件賃料は月額300万円 ・Bは,平成16年3月29日,当時賃貸人Cに対し,「本件賃料を同年4月1日から月額240万円に減額する」旨の意思表示「基準時1」 ・Bは,平成17年6月8日,同年2月9日に賃貸人Cの地位を承継したDを被告として,「本件賃料が平成16年4月1日から月額240万円であること」の確認等を求める訴訟(「前件本訴」)を提起 ・Dは,平成17年7月27日,Bに対し,「本件賃料を同年8月1日から月額320万2200円に増額する」旨の意思表示「基準時2」 ・Dは,平成17年9月6日,前件本訴に対し,「本件賃料が平成17年8月1日から月額320万2200円であること」の確認等を求める反訴「前件反訴」,前件本訴と併せて提起。 ・Dは,前件訴訟が第1審に係属中の平成19年6月30日,Bに対し,「本件賃料を同年7月1日から月額360万円に増額する」旨の意思表示「本件賃料増額請求」「基準時3」 ・Bは,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認請求を前件訴訟の審理判断の対象とすることは,その訴訟手続を著しく遅滞させることとなるとして,裁判所の訴訟指揮により,Dが,前件訴訟における反訴の提起ではなく,別訴の提起によって上記確認請求を行うよう促すことを求める旨記載した上申書を裁判所に提出 ・Dは,前件訴訟において,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認請求を追加することはなかった ・前件訴訟第1審は,平成20年6月11日,前件本訴につき,「本件賃料が平成16年4月1日から月額254万5400円であること」を確認するなどの限度でBの請求を認容,Dの前件反訴についてはその請求を全部棄却判決 ・Dが控訴し,控訴審は,平成20年10月9日に口頭弁論を終結した上「前件口頭弁論終結時」,同年11月20日,Dの控訴を棄却し,上記判決は,同年12月10日に確定「前訴判決」 ・本件は,D及び平成23年4月28日にDから本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継したEが,Bに対し,本件賃料増額請求により増額された本件賃料の額の確認等を求める事案 ・本件賃料増額請求が前件口頭弁論終結時以前にされていることから,本件訴訟において本件賃料増額請求による本件賃料の増額を主張することが,前訴判決の既判力に抵触し許されないか否かが争い ・Fは,原審の口頭弁論終結後である平成25年3月21日,Bを吸収合併し,本件訴訟の訴訟手続を承継 ・一審平成23年6月27日東京地裁判決は前訴判決の既判力を問題にせずDの請求を一部認容 ・原審平成25年4月11日東京高裁判決は、前件訴訟において,Bは基準時1から前件口頭弁論終結時までの賃料額の確認を求め,Dは基準時2から前件口頭弁論終結時まで(ただし,終期については基準時3と解する余地がある。)の賃料額の確認を求めたものと解されるから,本件訴訟においてDらが,本件賃料増額請求により本件賃料が前件口頭弁論終結時以前の基準時3において増額された旨主張することは,前訴判決の既判力に抵触し許されないとしてDの請求を棄却 ・Dが上告 ○賃料増減額請求の論点を整理すると以下の通りです。 ・賃料増減額請求権は形成権、賃料増減額請求意思表示が相手方に到達した時点で直ちに実体的効力が生じ、後の裁判所の判断はその範囲を確認するもの ・賃料額の相当性・相当賃料額は、借地借家法所定事由のほか諸般の事情を考慮すべき ・賃料増減額確認請求訴訟係属中に新たな賃料増減相当事由が生じても新たな賃料増減請求意思表示がない限り、同事由による賃料増減は生じない ・賃料額の相当性・相当賃料額の判断は、直近合意賃料を基に合意時から賃料増減請求時までの経済変動を考慮すべき ○賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物 ・時点説 賃料増減請求の結果が生じた時点の賃料額相当性・相当賃料額(平成11年3月26日東京地裁判決等) ・期間説 賃料増減請求時から事実審口頭弁論終結時までの期間の賃料額相当性・相当賃料額(昭和49年12月16日大阪高裁判決等) ○平成26年9月25日最高裁判決(判時2238号14頁)は、 賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は、原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り、前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずるとして時点説を採用すること 前件本訴及び前件反訴とも,請求の趣旨において賃料額の確認を求める期間の特定はなく,前訴判決の前件本訴の請求認容部分においても同様で,前件訴訟の訴訟経過をも考慮すれば,前件訴訟につき承継前被上告人及び上告人X1が特定の期間の賃料額について確認を求めていたとみるべき特段の事情はないので、前訴判決の既判力は,基準時1及び基準時2の各賃料額に係る判断について生じているにすぎず,本件訴訟において本件賃料増額請求により基準時3において本件賃料が増額された旨を主張することは,前訴判決の既判力に抵触しないこと を明らかにしました。別コンテンツで判決全文を紹介します。 以上:2,843文字
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