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借主従業員の賃借建物内自殺につき責任否定判例紹介4

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平成23年11月24日(木):初稿
○「借主従業員の賃借建物内自殺につき責任否定判例紹介3」を続けます。
 判決は、「仮にAが、本件貸室で自殺したことが違法であるとしても、前記認定の諸事情を考慮すると、本件自殺と本件土地の価格低下との間の相当因果関係があると認めることは困難である。」と断定していますが、本件土地の価格低下が自殺と事実上の因果関係があることは間違いありません。しかし判決は、法律上責任を課すべき相当因果関係がないと言っているのですが、原告には到底納得できないはずです。

○自殺は、誰も居ない山奥でひっそりと行ったとしても捜索等で迷惑をかけるところ、都会の他人の建物内で行った場合は、その建物所有者に多大な迷惑、殆どの場合金銭的損害を与えるなど、多方面に渡って迷惑をかける行為であり、自殺者本人に財産がある場合は、その相続財産で責任を果たさせるべきと思います。その意味で賃借人だけでなく、相続人に対しても不法行為を理由に損害賠償請求をすべきだったような気もします。相続人は債務が大きい場合、相続放棄をすればよいだけだからです。

○しかし、賃貸借等特別な法律関係がない場合、自殺者の損害賠償責任を相続人に請求した裁判例は現時点では見当たりません。身内の自殺により精神的打撃を受けた遺族まで訴えることは、死者にむち打つことでもあり、心情的に忍びなく、提訴まで至る事例が少ないからと思われます。過去に自殺によって損害を受けた人から損害賠償請求された遺族からの相談を受けたことが数件ありますが、いずれも相続放棄を勧めました。

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5 主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)請求原因(6)(損害)について
(1)前記4のとおり、被告は、本件貸室を返還すべき義務以外に注意義務違反はないので、本件土地の売却価格の低下分の損害について責任を負うことはない。

(2)しかしながら、証拠(甲6、乙7)によれば、被告は、aに対し、平成16年4月20日、本件貸室明渡後の残物品の廃棄処分に当たり異議申立てをしないこと、aは、本件貸室の洗濯機等粗大ゴミ処理費用として同年5月10日5万円を支払ったことを認めることができ、aは原告X2の代理人であるものと認められるから(弁論の全趣旨)、原告X2は、被告が本件貸室明渡しに伴い収去すべき粗大ゴミ処理費用として5万円の支出を余儀なくされるという損害を受けたものと認められる。この費用は、建物の所有者であることにより支払うことになるものではなく、本件賃貸借契約に基づく債務不履行に基づき支払う義務が生ずるものであるから、原告X2のみが請求できるものと解される。

6 主位的請求の請求原因その2(不法行為責任)について
(1)請求原因(1)(当事者)及び(2)(本件自殺)は当事者間に争いはない。

(2)そこで、Aが本件貸室内で自殺したことが、原告らに対する違法行為と認められるか、又は損害が認められるかどうか判断する。
 Aが自殺すること自体が原告らに対する違法行為となるものではなく、本件貸室内で自殺することにより原告らの土地の価格が低下したことが損害といえるかの問題である。原告らが主張する被侵害利益は、原告らの建物持分であるが、損害として主張しているのは、本件土地の価格低下であり、土地の価格の低下について、原告らの建物の持分侵害を違法行為と考えることはできない。

 仮に、原告らの主張が、本件土地の持分を侵害されたことを違法行為と考える趣旨であるとしても、本件土地上の本件建物の一部の賃借人である被告の元従業員であるAにおいて、本件自殺時に、本件貸室の入った本件建物の敷地である本件土地が売却予定であり、本件貸室で自殺することにより、本件土地の価格が低下することまで予見可能であったものとは解されず、Aがそこで自殺することが違法行為と認めることは相当ではない。また、仮にAが、本件貸室で自殺したことが違法であるとしても、前記認定の諸事情を考慮すると、本件自殺と本件土地の価格低下との間の相当因果関係があると認めることは困難である。

(3)よって、その余を検討するまでもなく、原告らの不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

7 予備的請求について
 前記5のとおり、原告X2に対する債務不履行に基づく損害賠償は、5万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があるが、主位的請求としては2万5000円及びこれに対する遅延損害金の限度で請求している。予備的請求としては5万円及びうち2万5000円に対する遅延損害金を請求しているので、これを認容することになる。
 原告X1に対する不法行為に基づく損害賠償請求が認められないことは前記6認定のとおりである。

8 まとめ
 以上によれば、原告らの主位的請求はいずれも理由がなく(原告X2の債務不履行に基づく損害賠償として2万5000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、前記7のとおり予備的請求として認容する。)、予備的請求は、原告X2について、債務不履行に基づく損害賠償として、5万円及びうち2万5000円に対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告X1についての不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
 (裁判官 佐藤哲治)

以上:2,262文字

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