平成23年11月23日(水):初稿 |
○「借主従業員の賃借建物内自殺につき責任否定判例紹介1」を続けます。 この事案要旨は、 ・土地建物の所有者である原告ら親子(共有持分2分の1ずつ)が、当該不動産を被告会社に賃貸していた ・合意解約に基づく賃貸借終了間際に被告会社の従業員が賃貸敷地内建物で自殺した ・この自殺により原告らが本件土地を売却する予定であった買主とは契約できず、別の買主との間で従来よりも安価な額でしか売却できなかった ・そこで当初予定していた売買金額と実際の売値との差額につき債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償を請求した というものです。 これに対し、判決は、被告従業員が賃貸建物内で自殺することが直ちに貸主に対する不法行為を構成するものではないとして不法行為責任を否定し、被告会社が本件賃貸借契約に基づく返還義務の付随義務として従業員が本件室内で自殺しないように配慮する義務を負わないとして原告らの請求を実質棄却しました。 心情的には原告らの請求したい気持も判りますが、なかなか難しい事案です。 裁判所の判断全文は,別コンテンツで紹介します。 ************************************** (原告らの請求の概要) (1) 主位的請求 原告らは、被告に対し、債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として、原告らそれぞれ327万5000円及びうち325万5000円に対する平成16年4月1日から、うち2万5000円に対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月3日から、各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 (2) 予備的請求 原告X2は、債務不履行に基づく損害賠償として、330万円及びうち325万5000円に対する平成16年4月1日から、うち2万5000円に対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月3日から、各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告X1は、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として、325万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成16年4月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 (主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)に対する認否) (1)請求原因(1)(当事者)は、認める。 (2)請求原因(2)(賃貸借契約)の〈1〉は、否認する。本件賃貸借契約の貸主は原告X2のみである。同〈2〉は認める。同〈3〉及び〈4〉は否認する。 (3)請求原因(3)(合意解約)は、否認する。解約申入れをしたのは、原告らではなく、本件賃貸借契約の貸主である原告X2のみである。 (4)請求原因(4)(本件自殺)は認める。 (5)請求原因(5)(債務不履行責任)は否認する。 被告が原告X2に対し、本件賃貸借契約の合意解約により、本件貸室を平成16年3月31日までに明け渡す義務を負ったことは認めるが、被告は、同日の連絡により、又は同年4月8日の鍵の引き渡しによって、本件貸室の明け渡しを終了しており、債務不履行はない。 Aは、同年3月11日付けで被告を任意退職し、制服や保険証を同月15日に返還し、退職金を同月16日受領し、同月20日までに本件貸室を退去する旨約束していたのであり、本件自殺が、信義則上被告自身の過失と同視すべきものとは解されない。 本件賃貸借契約の解約に際して、賃借人が負う債務は、専ら本件貸室の返還義務である。建物賃貸人は、賃借人の生死について、賃貸借契約上、賃借人が室内で死ぬことのないよう要求する権利は元来ないはずである。そして、解約後建物を取り壊し、その後に土地を売却する場合に代金の低下がないように、本件貸室の入居者が自殺しないように配慮すべき義務を負うものとは解されない。また、占有者の心身の状態が不安定であり、転居を求められた場合に自殺をする可能性が予見される状態であれば、配慮が必要な場合もあるが、本件においては、そのような状態ではなく、占有者の自殺防止の配慮義務があったものとは考えられない。 (6)請求原因(6)(損害)のうち、〈1〉ないし〈3〉は知らず、〈4〉及び〈5〉は否認する。買付証明書があったからといって売買契約が成立したかどうかは不明であり、また土地の価格は定価があるものではないから、本件自殺と650万円との間に相当因果関係があるとはいえない。〈6〉のうち、原告X2が、本件貸室明渡しに伴い収去すべき粗大ゴミ処理費用として5万円の支出をしたことは認め、それが原告らの損害になるとの点は否認する。 (主位的請求の請求原因その2(不法行為責任)に対する認否) (1)請求原因(1)(当事者)及び(2)(本件自殺)は認める。 (2)請求原因(3)(使用者責任)は否認する。Aは、同年3月11日付けで被告を任意退職した。 (3)請求原因(4)(損害)は否認する。 (予備的請求の請求原因に対する認否) (1)請求原因(1)(賃貸借契約)、(2)(合意解約)及び(3)(本件自殺)は認める。 (2)請求原因(4)(債務不履行責任)のうち、被告が、原告X2に対し、本件賃貸借契約の合意解約により、本件貸室を平成16年3月31日までに明け渡す義務を負うことになったことは認め、その余は否認する。被告の主張は、(主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)に対する認否)(5)のとおり (3)請求原因(5)(損害)の〈1〉は(主位的請求の請求原因その1(債務不履行責任)に対する認否)(6)の〈1〉ないし〈5〉の認否のとおりである。(5)〈2〉のうち、原告X2が、本件貸室明渡しに伴い収去すべき粗大ゴミ処理費用として5万円を支出したことは認めるが、これが損害であるとの点は否認する。 以上:2,357文字
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