平成22年 9月 3日(金):初稿 |
○「借地権付建物のみの競落は危険1」で、借地権付建物競落の場合「問題は『明らかに借地権がついていることが前提』かどうかの判断で、これを誤ると建物が利用できず、かつ、支払済み競売代金も回収できないとの、正に踏んだり蹴ったりの酷い状況になることがあり注意が必要です。」と記載しましたが、この判断を誤って正に「踏んだり蹴ったりの目にあった例」を紹介します。平成21年5月28日大阪高裁判決です(判例時報2080号28頁)。 ○事案概要は次の通りです(数字は概数)。 ・Aは、B銀行が競売申立をしたC所有甲建物を借地権付と思って競売代金1億円で競落し、代金を納付し甲建物の所有権を取得し、B銀行には競売代金の内9900万円が配当された。 ・甲建物敷地所有者Dは、競売手続中にCに対し地代不払いを理由に借地契約解除の意思表示をして甲建物を収去して敷地を明渡せとの訴えを提起し確定判決を得た。 ・Dは、甲建物の新所有者Aに対しても甲建物収去敷地明渡の訴えを提起し、Dの請求を認める判決が確定し、Aは、折角1億円も出して競落した甲建物を収去しなければならなくなった。 ・そこでAは、民法568条1項を理由に甲建物についてのCとの売買契約(※競売でも売主C・買主Aの売買に変わりない)を解除し、同条2項でCの無視力を理由にB銀行に対し配当された990万円の返還を求める訴えを提起した。 ○このAさんの訴え、一審、控訴審、最高裁のいずれでも、一貫して棄却されました。その理由は、本件の競売が「建物のために借地権が存在することを前提として売却が実施されたことが明らかである場合」に該当するとは認められず、瑕疵担保責任の規定の類推適用によって競売による売買契約を解除できる場合に当たらないと判断すると言うものです。 ○この「建物のために借地権が存在することを前提として売却が実施されたことが明らかである場合」に該当しない具体的理由は以下の通りです。 ①現況調査報告書には、「地代滞納あり。」「買受人は地主の承諾又は裁判等を要する。」と記載されていた。 ②本件競売事件の評価書では「1億5797万円」と評価されていたが、併せて30%の市場性減価を行った旨が記載されていた。 ③1回目の期間入札=1億5797万円。3回目で、売却基準価格を8847万円、買受可能価額を約7077万円と定め、Aが競落した。 ④Aは、Dらとの関係で問題があり、地代不払いで借地契約解除の通知を受けていることを聞いても、特に調査をしなかった。 ⑤Aは本件建物の売却許可決定の取消を求める等の申立をしていない。 ○借地権といえども民法上の賃借権ですから、民法612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」が適用になります。従って「買受人は地主の承諾又は裁判等を要する。」と記載は当然のことであり、借地権付建物購入を検討するときは、先ず何より先に地主の承諾を得られるかどうかの確認が重要です。この承諾は競売手続においては、通常借地人の支払能力に問題があるので、なお一層重要になります。地代が滞納している可能性が大きいからです。 ○この重要な「地主の承諾」を取ることなく、且つ、現況調査報告書に「地代滞納あり。」と記載されているにも拘わらず、事前に地主から借地権(賃借権)譲渡の承認を頂けるかどうかの確認も取らずに競落することは、通常の感覚では正気の沙汰とは言えません。Aは、所有者Cとの建物明渡交渉に際し、地主Dから地代不払いで契約解除通知を受けていることを伝えられていながら、「解除通知は関係ない。……競売物件の扱いには慣れている。」なんて豪語してを取り、Dに何ら連絡することなく代金を納付したとのことで、正にアンビリーバブルな行動でした。 ○この甲建物、30%の市場性減価で約1億6000万円ですから、入札当時時価は2億数千万円はしたものと思われ、Aとしては格安物件であり、且つ、Dは地代欲しさに賃借権譲渡承諾或いは新たな借地権設定契約に応じるだろうと安易に考えたものと思われます。しかしこのおよそ信じられない安易な行動の結果、1億円をどぶに捨てる結果となりました。借地権付建物競落は慎重の上にも慎重を期すべきです。 以上:1,756文字
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