平成22年 5月21日(金):初稿 |
○瑕疵担保による損害賠償請求権と消滅時効に関する重要な最高裁判例を紹介します。平成13年11月27日第三小法廷判決(民集55巻6号1311頁、判時1769号53頁、判タ1079号195頁等)です。 事案は、昭和48年2月18日にYから土地建物を買い受けたXが、その後20年以上経過した平成6年2月に至り、買受土地の一部に道路位置指定がついており、建物改築に当たり床面積を大幅に縮小しなければならないなどの支障があることを知り、同年7月にこれは「隠れたる瑕疵」に該当するとして売主Yに対し,損害賠償請求を求めたものです。 ○瑕疵担保責任追求に関する直接の期間制限は、以下の「買主が事実を知った時から1年以内」との規定しかありません。 第570条(売主の瑕疵担保責任) 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任) 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。 3 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。 この規定だけだと「買主が事実を知った時」が売買から100年後としても売主は瑕疵担保責任を免れないことになり、消滅時効適用の有無が争われていました。 ○この事案の第1審平成9年4月25日浦和地裁判決(民集55巻6号1323頁)と控訴審平成9年12月11日東京高裁判決(民集55巻6号1330頁)は、売主の瑕疵担保責任は法律が買主の信頼保護の見地から特に売主に課した法定責任であること、時効による権利の消滅を認めると、買主に対し売買の目的物を自ら検査して瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく、公平といえないことなどを根拠に、消滅時効の抗弁を排斥してXの損害賠償請求を一部認容しました。 ○これに対し売主Yは瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効が認められないと、買主の瑕疵発見が売買から100年後であっても売主は担保責任を負わねばならなくなり、売買契約債務不履行による損害賠償請求権が10年の消滅時効にかかるところ、瑕疵担保責任も売買契約から発生・派生する請求権であり同様に10年に制限されるべきと主張して上告しました。 ○これに対し上記最高裁判決は瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用がある旨を判示して、原判決を破棄しました。その根拠は、 ①瑕疵担保による損害賠償請求権が民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかであること、 ②買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めは、法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、除斥期間の定めがあることをもって、消滅時効の規定の適用が排除されるとはいえない、 ③買主が目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないのに対し、消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、その権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって、適当といえない としています。 以上:1,538文字
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